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333 だってルルモアさんがやってたもん


 作る魔道具は決まったから、後はどんな風に作るかだよね。


 う~ん、とりあえず冷やすとこの材料はポシェットに入ってる鋼の玉でいいかな?


 この魔道具はお料理に使う道具だからかき回すところには銅を使った方がいいんだろうけど、今は持ってないし別にずっと使うわけじゃないからとりあえずこれで作ろっと。


「後は……持つとこだけは別の物で作らないとダメだよね?」


 これもホントは木で作った方がいいと思うんだよ。


 でもそんなの無いから、とりあえず今はベニオウの実を持ってくるのに使った石の箱と干し草を使おっと。



 材料が決まったところで、さっそく魔道具を作り始め……ようと思ったんだけど、ここで一つ大事な事を思い出したんだ。


「あっ、そう言えば魔道回路図を書く道具や魔石を溶かす溶解液が無いや」


 魔道具を作るのには魔道回路図を書かないとダメでしょ?


 でも僕、イーノックカウには遊びに来たもんだから、そんなの持って来てないんだよね。


 と言うわけで魔道具作りは一度お休みして、みんなの所へ。


 そこでおしゃべりしながら、硬い方のベニオウの実を切ったのをみんなと一緒に食べてたペソラさんに声をかけたんだ。


「ペソラさん」


「えっ、ルディーン君、もうできたの?」


「ううん、まだだよ。あのね、魔道具作ろうと思ったら魔道回路図を書かないとダメでしょ? でも僕、道具とか持ってきてないんだ」


「ああそうか。ちょっと待ってね。今ギルドで常備してる道具と、リキッドの原液を出すから」


「え~、原液も使っていいの?」


「小さな魔道具を一つ作るだけなんでしょ? それくらいなら問題ないわよ」


 僕ね、回路図を書く道具は貸してもらうけど、魔石を溶かす溶解液は買おうと思ってたんだよ?


 けどペソラさんは、それくらいならギルドのを使ってもいいよって。


 だから僕はペソラさんにありがとうって言って、出してもらった道具を使う事にしたんだ。



 道具もそろったって事で、今度こそ魔道具の製作開始。


 とは言っても、そんなにすごい事するわけじゃないんだよね。


 だってこれ、魔道具って言ったって、ただ氷の魔石の魔力を鋼の棒に流してつべたくするだけの魔道具だもん。


「でも、つべたくなる場所の指定と魔力の強さを調節するとこは作んないとね」


 ホントはさ、もしこの魔道具を作るのに丁度いいくらいの大きさ氷の魔石を使うんだったら、そんな事考えなくてもいいんだよ。


 なのに僕、クラウンコッコの魔石を氷の魔石にしちゃったでしょ?


 それだと魔力が強すぎて鉄の棒を直接つべたくしちゃうと持つとこまで凍っちゃうから、まずは鋼の棒の先っぽの方だけつべたくなるようにしないと。


 あと、それだけだとまだ魔石の魔力がおっきすぎるから、魔力調節の回路図とそれに使うつまみも作んなきゃダメだよね。


 そう思いながら僕は、魔道具の形や回路図を決めていく。


「うん、これで良しっと。さぁ、作ろ」


 でね、それが全部終わったから今度は一個一個の部品を作ってく事にしたんだ。



 まずは一番大事な芯の部分から。


 僕はポシェットから鋼の玉を2個取り出すと、そのうちの一個にクリエイト魔法をかけたんだ。


 そうしてできたのは長くてひらぺったい棒、こういう形にしないと回路図が書けないからね。


 で、その棒にペソラさんから借りた道具を使って回路図を書いて行って、それが出来上がったとこで使うのがもう1個の鋼の玉だ。


 今作ってる魔道具はつべたくなるとこが直接材料の中に入っちゃうから、このまんまだと使ってるうちにせっかく書いた回路図が消えちゃうかもしれないでしょ?


 だからこの鋼の玉を使って、この芯になる部品を包み込むようにかき混ぜ棒の本体部分を作らないとダメなんだよね。


「えっと、こんな感じかな?」


 僕がクリエイト魔法で作ったのは芯になるひらぺったい棒全体の3分の2くらいを包み込んでる丸棒で、その先っぽにはちっちゃな玉がついているんだよ。


 なんでこんな形にしたのかって言うと、ひらぺったいままより丸い棒にした方がかき混ぜる時に抵抗が無くて楽だし、先っぽに棒よりちょっとだけおっきい玉を付けとけば、入れ物を傷つけにくくなるんじゃないかな? って思ったからなんだ。


「さて、次は持つとこと調節用のつまみ、それに魔石を置くとこだね」


 と言うわけで僕はまず石にクリエイト魔法をかけて持つとこを作り、そして箱に入ってた干し草でその周りを包み込むようにしたんだ。


 何でかって言うと、こうしとけば使ってるうちにかき混ぜ棒の上の方までつべたくなってきても、持つとこは干し草のおかげであんまりつべたくならないもん。


 でね、その次に持つとこの上にこれまた石で作ったつまみをくっつけると、そのつまみからちょこっとだけ出てる鋼の棒にもう一回クリエイト魔法。


 そうして作った3つの爪がついたちっちゃな台の真ん中に魔石を置く場所の魔道記号を書くと、それを鋼の棒と石のつまみのそれぞれに書いた回路図につなげたんだ。


「あとはこれを載っけてっと」


 最後に先に作っておいた氷の魔石を3つの爪で固定したら、かき混ぜるだけでいろんなものがつべたくなっちゃう魔道具の完成!


「キャリーナ姉ちゃん、きっとまだかなぁ? って思ってるよね」


 僕はできたばっかりの魔道具を掴むと、急いでみんながいるとこに向かったんだ。



 僕が魔道具を持ってみんなの所に戻ると、キャリーナ姉ちゃんが目をキラキラさせながら一番に寄ってきたんだよね。


「ルディーン。甘氷が作れる魔道具、できた?」


「うん、魔道具はできたよ。でもね、甘氷を作ろうと思ったらすっごく時間がかかっちゃうでしょ? だから僕、つべたいお菓子を作る道具を作ったんだ」


「そうなの? でも、冷たいならいいや。ルディーン、早く早く!」


 もうすぐつべたいお菓子が食べられるって事で、キャリーナ姉ちゃんはすっごく嬉しそう。


 だからさっそくつべたいお菓子を作る事にしたんだけど、そしたらそんな僕たちを見てたペソラさんが、あっ! って顔したんだ。


「しまった! ごめんなさい。ルディーン君が魔道具を作っている間に、ベニオウの果汁を先に絞っておけばよかったわね。ちょっと待ってて、すぐ絞っちゃうから」


 どうやらペソラさんは、僕がベニオウの汁を使ってお菓子を作るんだって思ったみたい。


 でも僕が今から作ろうって思ってるのは、それとはちょっと違うものなんだよね。


「ペソラさん。今から作るのは絞らなくっても大丈夫なやつだから、ボウルに赤くなってる方のベニオウの実を入れて持ってきてくれればいいよ。それをつぶして使うから」


「あら、果汁を絞らなくてもいいの? 解ったわ。持ってくるからちょっと待ってて」


 僕たちが持ってきたベニオウの実って、とっても柔らかいでしょ?


 だから実も一緒につぶして凍らしたらきっと、すっごくおいしいんじゃないかなぁって思うんだ。


 それにさ、僕はもう一個、やってみようって思ってる事があるんだよね。



 ペソラさんから赤い方のベニオウの実が入ってるボウルをもらうと僕はそれを作業台にのっけて、そこにつぶすための棒をそのまま突っ込んだんだ。


「ルディーン、ダメ! ベニオウの実の皮、まだむいてないよ!」


 そしたらキャリーナ姉ちゃんは、それを見てすっごくびっくりしちゃったみたい。


 おっきな声を出して、僕の手を持って止めようとしたんだ。


 でも僕、別に皮をむくのを忘れたわけじゃないんだよね。


「大丈夫だよ、キャリーナ姉ちゃん。僕ね、こうした方がきっとおいしいんじゃないかなぁ? って思ってるんだよ」


「そうなの? ほんとに失敗しちゃったんじゃないの?」


「うん! 僕、失敗なんかしてないよ!」


 さっき冒険者ギルドで、ルルモアさんがベニオウの実の皮をむかないで食べちゃったでしょ?


 それを見た時僕は、きっと食べた後に皮だけぺってするんだろうなぁって思ったんだ。


 なのにルルモアさんはそのまんま、残ったベニオウの実も全部食べちゃったんだもん。


 だからすっごくびっくりしたんだけど、その時に僕はある事を思い出したんだ。


 それは前の世界で見てたオヒルナンデスヨで眼鏡をかけたおじさんが出てる人たちに教えてくれてたお話で、それによると果物って皮と実の間に栄養ってのがいっぱいあるらしいんだ。


 だからね、皮をむかなくてもいい果物はなるべくそのまんま食べちゃった方がいいんだってさ。


 僕はその事をすっかり忘れちゃってたんだけど、おいしいものをいっぱい食べてるルルモアさんはその事を知ってたんじゃないかなぁ?


「おいしいものをいっぱい食べてるルルモアさんが、皮をむかないでそのまんま食べちゃったでしょ? だからきっと、このおっきいベニオウの実は皮をむかなくっても大丈夫なんだよ」


「そっか! お菓子屋さんのお姉さんも、ルルモアさんはおいしいものをいっぱい知ってるって言ってたもんね」


 そんなルルモアさんがやってたんだからきっとおいしいんだよって言ったら、キャリーナ姉ちゃんも安心してくれたみたい。


 だって僕がまたベニオウの実をつぶし始めても、今度は横でニコニコしながら見ててくれたもん。



 ベニオウの実ってね、真ん中におっきな種が入ってるんだよね。


 けどこれは当然食べられないから、つぶして実から離れたところで取り出して横のお皿へ。


 でね、その後も一生懸命つぶして行くと、ベニオウの実はドロッとした液体状になっちゃった。


 と言うわけで、ここからは僕が作った魔道具の出番だね。


「ルディーン、それがベニオウの実を冷たいお菓子にする魔道具?」


「そうだよ。これでかき混ぜたら、おいしいお菓子になるはずなんだよ」


 どうやってお菓子になってくんだろうって、身を乗り出しながらボウルの中を覗き込むキャリーナ姉ちゃん。


 そんなお姉ちゃんの前で、僕は魔道具のスイッチを入れてつぶしたベニオウの実をかき混ぜ始めたんだ。


 でもね、そしたらベニオウの実とそのお汁が凍っていってるからなのか、かき混ぜてるうちにだんだん硬くなってきて今はもう僕じゃ動かすのも大変なくらいに。


 ボウルの中のベニオウの実はもうかなりドロッとしてきてるんだけど、でも食べるのにはまだちょっと柔らかいなかな? って感じがするんだよね。


 だからまだかき混ぜなきゃダメなんだけど、でも僕、中に実や皮まで入ってるからなのかすっごく重くなっちゃってて、それをかき混ぜてるうちに疲れて手が動かなくなっちゃったんだ。


「どうしたの、ルディーン? もうできたの?」


「ううん、まだだよ。でも僕、疲れちゃった」


「ああ、それなら私が変わりますよ」


 だからその事をキャリーナ姉ちゃんに言ったんだけど、そしたらそばにいたペソラさんが私がやりますよって。


「いいの?」


「ええ。むしろ何も手伝えないのは申し訳ないなぁと思っていたので、代わらせてください」


 という事で、かき混ぜ役はペソラさんと交代。


 そしたらさ、僕と違って大人のペソラさんは硬くなってきてるベニオウの実でもすいすいと混ぜていっちゃって、そうしてるうちにかき混ぜてる時にできた表面のぐるぐるが時間が経っても崩れずに残るようになってきたんだ。


 って事は、もう十分固まったって事だよね?


「ペソラさん。もういいよ」


「そうなの? まだ柔らかい感じがするけど」


「うん。だってこれ、甘氷じゃないもん。それにこれ以上固まっちゃうと、みんなで食べられなくなっちゃうでしょ?」


 ペソラさんの言う通り、まだ完全に凍っちゃってるわけじゃないんだよ。


 でもこのくらいの方が、きっと食べた時にお口ですぐに溶けておいしいんじゃないかなぁ?


 それにね、もっと固まっちゃうと木のさじで掬えなくなっちゃうもん。


 だからこれで完成でいいって、僕は思うんだ。



「ルディーン、できたの? 食べていい?」


「うん! もう食べてもいいよ」


「やったぁ!」


 キャリーナ姉ちゃんは、いつの間にか手に持ってた木のさじで凍ったベニオウの実を掬うとそのままパクリ。


 そしたらすぐにほっぺたを抑えながら、すっごく嬉しそうな顔になったんだ。


「ん~! ルディーン、これ、すっごくおいしいよ」


「そう? じゃあ僕も!」


 と言うわけで僕も木のさじをもってパクリ。


 そしたら、思った以上においしくってびっくりしたんだ。



 実や皮を一緒に入れたからなのか、同じように凍らせたお菓子なのに甘氷やかき氷とはまた違った感じなんだよね。


 それにこれ、アイスクリームと違って全部が果物だから、甘さがお口の中に残んなくっていっくらでも食べられそう。


「これは……」


「う~ん、甘氷とは全然違うけど、凄くおいしいわね」


 おいしそうに食べてる僕とキャリーナ姉ちゃんを見て、お母さんたちも食べたくなっちゃったみたい。


 木のさじをボウルに突っ込むと、みんなしてあっという間に食べちゃったんだ。


「あ~、無くなっちゃった」


「そうがっかりするな、キャリーナ。作り方はちゃんと見てたから、次はお父さんが作ってやるよ」


「ほんと? やったぁ!」


 それを見たキャリーナ姉ちゃんはしょんぼりしちゃったんだけど、お父さんが作ってくれるって言ったもんだからすぐににっこり。


 こうして僕たちはこの後、お父さんやお兄ちゃんたちが代わる代わる作ってくれるベニオウの実のつべたいお菓子を、みんなしていっぱい食べたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君はつべたいお菓子と表現してますが、要は実と皮入りのシャーベットですね。


 味としては完熟した高級な桃に砂糖を加えて作ったものに近いんじゃないかな? でもまぁ、それよりははるかにおいしいんですけど。


 なにせこのシャーベット、ルディーン君が想像した通り、皮を入れる事で実だけの物より栄養が多いですから。この世界の生物すべてがおいしいと感じる魔力と言う栄養がw


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― 新着の感想 ―
[良い点] その日のうちに新しい魔道具を作ってしまった!? 周りも驚かないくらい日常になってしまってるんですねw 皮と果肉の間にはこの世界で栄養にも旨味にもなる魔力が蓄えられるのか。 また一つこの世…
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