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332 キャリーナ姉ちゃんはね、冷たいお菓子が大好きなんだよ


 ベニオウの実を食べちゃっても、無くなったら採りに行けばいいってお兄ちゃんたちのおかげで解ったでしょ?


 だからみんなで食べようって事になったんだけど、今はお店が開いてる時間だから、もしかすると錬金術ギルドにお客さんが来るかもしれないんだよね。


 って事はペソラさん、ここにいないとダメなんじゃないかな?


「ねぇ、ペソラさん。ロルフさんが男の人たちを呼んでベニオウの実を裏口から運んでくれたんだけど、どこにあるか解る?」


「えっと、多分調理場だと思うけど……どうして?」


「だってペソラさん、ここにいなくちゃダメでしょ? だから僕、ベニオウの実をここに持って来てあげよっかなぁって思ったんだ」


 ペソラさんが行けないんだったら、ベニオウの実をここに持ってくるしかないもん。


 だから僕が持ってきてあげようって思ったんだよ?


 でもね、そんな僕にペソラさんが、そんな事しなくてもいいよって笑ったんだ。


「ああ、それなら大丈夫ですよ。私がいなくてもギルドマスターとロルフさんがいますから」


「でも二人とも、あんなに一生懸命お話してるもん。だからさ、誰か来ても気が付かないかもしれないじゃないか!」 


「あら、二人が話し合ってるのなんてここにくるお客さんにとってはいつもの事ですもの。用事があれば声をかけてくれるし、ロルフさんはともかくギルドマスターは誰かから声をかけられても気が付かないなんて事は無いから大丈夫よ」


 ロルフさんとバーリマンさんは、ギルドのカウンターの所でずっとお話してるでしょ?


 でもそれはいつもの事だし、ここに来るお客さんはその事をちゃんと解ってるから、何かご用事があった時は気付いてくれるバーリマンさんに話しかけるそうなんだ。


 それにね、実はこの錬金術ギルドの入口のドアには魔道具が付いてて、悪もんが入ってきてお金を払わずに売ってるものを外に持ってっちゃおうとしても絶対あかないようになってるんだって。


 だからね、ここはあの二人に任せておけば大丈夫なんだよってペソラさんが言うんだ。


 そっか。だったらお客さんが来ても大丈夫だね。


 と言うわけで僕たちは、ベニオウの実が置かれてるって言う調理場へ移動する事にしたんだ。




 調理場に行くと、そこにはほんとにベニオウの実が入った箱が積んであったんだよ。


 でね、ペソラさんがそのうちのひと箱をテーブルの上に持ってきて蓋を開けると、調理場中に甘そうないいにおいが広がったんだ。


「へぇ、これがベニオウの実ですか。おいしそうな果物ですね。それにとってもいい香り」


 普通のベニオウの実をあんまり見た事が無いからなのか、ペソラさんは持ってきた実を見てもルルモアさんや商業ギルドの人みたいにびっくりしなかったんだよね。


 と言う事はさ、もしかしたらベニオウの実がとっても柔らかいって事、知らないかも?


 そう思った僕は、ペソラさんに教えてあげる事にしたんだ。


「このベニオウの実はね、普通のよりもっと柔らかいんだよ。だから気を付けないと持った時に皮がやぶれて手がべとべとになっちゃうんだ」


「そうなの? じゃあ、そ~っと持たないとダメね」


 ペソラさんはそう言うと干し草の中に手を入れて、真っ赤な実を下からすくうように持ち上げたんだ。


 でね、そ~っと指を動かして軽く掴もうとしたんだけど、そしたらあんまり力を入れてるように見えないのにベニオウの実がちょっとへこんだもんだから、びっくりした顔になっちゃった。


「これは……確かにちょっと力を入れただけで、簡単に破れてしまいそうね」


「うん。さっきも冒険者ギルドで、ルルモアさんが手をべとべとにしちゃたんだよ」


 僕はさっき冒険者ギルドであったことを、ペソラさんに教えてあげたんだよね。


 そしたらさ、だったらそのまんま食べるだけじゃなくって他の食べ方をしてもいいかもしれないねって笑ったんだ。


「他の食べ方?」


「ええ。そんなに柔らかくて果汁が多いのなら、絞ってジュースにしてもいいかもね。それに今の時期ならそのジュースを凍らせて甘氷を作ってもおいしいんじゃないかしら?」


「甘氷!? そっか、このベニオウの実はとっても甘いもん。甘氷にしたら絶対おいしいよ!」


 ペソラさんのお話を聞いて、真っ先に大騒ぎしだしたのがキャリーナ姉ちゃん。


 そう言えばお姉ちゃん、クラウンコッコのバーベキューの時も僕に甘氷を作ってって言ってたよね?


「キャリーナ姉ちゃん、甘氷好きなの?」


「うん! 冷たくておいしいもん。ルディーンが作るお菓子も好きだけど、甘氷も大好き」


 そっか。じゃあ、とっても甘いベニオウの実で甘氷を作ったらすっごく喜ぶだろうなぁ。


 でもさ、甘氷って作るのにすっごく時間がかかるんだよね。


「キャリーナちゃん。期待を持たせてしまって悪いんだけど、氷を作るのにはかなり時間がかかっちゃうのよ。だから今日はちょっと無理なんじゃないかなぁ?」


「そっか。そう言えばルディーンもすぐに作れないよって言ってたっけ……」


 それはペソラさんも解ってたみたいで、キャリーナ姉ちゃんにごめんねしたんだ。


 それにお姉ちゃんも前に僕が言った事を覚えてたみたいで、ペソラさんに言われてすぐに作れないって事を思い出したみたい。


 でもね、よっぽど食べたかったのか、キャリーナ姉ちゃんはしょんぼりしちゃった。


「そんな顔しないで。このベニオウの実はそのままでも美味しいんでしょ? 今切り分けるから、一緒に食べましょ」


「うん……」


 だからね、それを見たペソラさんは一緒にベニオウの実を食べよってキャリーナ姉ちゃんに言ったんだけど、お姉ちゃんはやっぱりしょんぼりしたまんま。


 キャリーナ姉ちゃん、ペソラさんのお話を聞いてすっごく食べたいって思ったんじゃないかな?


 そんなお姉ちゃんの顔を見た僕は、何とか作れないかなぁ? って思ったんだよね。


「う~ん。甘氷は無理だけど、つべたいお菓子なら何とかならないかなぁ?」


「えっ、ルディーン。ベニオウの実で冷たいお菓子、作れるの!?」


 だからつい口から出ちゃったんだけど、そしたらキャリーナ姉ちゃんが目をキラキラさせて作れる? って僕に聞いてきたんだ。


 そんなの見たら、やっぱり無理だよなんて言えないでしょ?


「ちょっと待ってね。持ってるので何か作れないか、考えてみるから」


「やった! 頑張ってね、ルディーン」


 僕がなんかできないか考えるよって言ったら、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんはもう絶対大丈夫だって思ったみたい。


 両手を上げて大喜びしながら、僕に頑張ってねって言ってくれたんだ。



「つべたいお菓子をすぐに作ろうと思ったら、魔石もちょっとおっきなのを使わないとダメだよね?」


 時間をかけてもいいんだったら、あんまりおっきな魔石はいらないんだよ?


 でも今回はすぐに作りたいから、ちょっと多めの魔力が出せる魔石がいるんだよね。


「今持ってるので一番おっきいのはこれだから、クラウンコッコの魔石を使おっと」


 実は僕、この頃ちっちゃな革袋にいろんな大きさの魔石を何個か入れて持ち歩いてるんだよね。


 何でそんなのを持ってるかって言うと、それはちょっと前からもうすぐ12レベルになれるなぁって思ってたからなんだ。



 賢者や神官、それに魔法使いみたいな魔導士系のジョブはね、12レベルになると触媒魔法っていうものが使えるようになるんだよね。


 とは言っても使える魔法はジョブごとに違うんだよ?


 でも共通してるのは、何かしらのアイテムを消費して魔法を使うって事。


 そしてドラゴン&マジック・オンラインだと、これらの魔法は宝石や希少金属、それに魔力を含んだアイテムなんかを触媒にして発動する魔法だったんだ。


 でもね、どうやらこの世界だとそんなの使わなくったって、魔石でも触媒魔法が使えるみたいなんだよね。


 だけどさ、僕はこないだ幻獣をやっつけて12レベルになったばっかりでしょ?


 ステータス画面には使えるレベルにならないと魔法の説明は載っからないし、村に置いてある魔法のご本にだってそんな高レベルの人が使う魔法なんて載ってるわけないんだよね。


 なのに何で僕がその事を知ってたのかって言うと、それは一般魔法の中にも触媒魔法があったからなんだ。


 と言うかこの触媒を使う一般魔法、今までも何度かお家で使ってるんだよね。


 僕がお砂糖やお塩を作る時によく使ってる創造魔法、実はあれも触媒魔法の一種なんだ。


 あれって魔石を消費して他のものを創造する魔法でしょ?


 魔導士のジョブが12レベルから使えるようになるそれぞれの固有魔法もあれとおんなじで、触媒を魔法に使う魔力に変える事でホントだったら自分の力だけじゃどうにもできないようなすごい魔法も使えちゃうんだってさ。


 まぁそうは言っても、12レベルになってすぐに使えるのなんてそんなにすごくないんだけどね。



「これを氷の魔石にしてっと」


 僕はまず、取り出したクラウンコッコの魔石を氷の魔石に変えると、それをどう使おっかなぁ? って考えたんだ。


「う~ん。アイスクリームの時みたいに入れ物がつべたくなるようにすると、その外っ側も作んないとダメだしなぁ」


 あのやり方だと確かに入れたものはすぐにつべたくなるんだよ?


 でも入れ物をつべたくすると、それを持った時に中のものと一緒に持ってる手も凍っちゃうから、その外っ側にもう一個入れ物を作んないんとダメなんだよね。


 だけどそんなのを作る材料なんてないし、それにもし作れてもすっごくおっきくなっちゃうから邪魔でしょ?


 だから今回は別の形にしないとダメなんだよね。


「どうしよっかなぁ……あっ、そうだ! 入れ物がダメなら、かき混ぜる方をつべたくすればいいじゃないか!」


 かき混ぜる棒の方がつべたくなるんだったら、持つとこだけを工夫すればいいだけだもん。


 それにこれなら、材料を入れる入れ物は何でもいいでしょ? 絶対この方が便利だよね。


 だけど……。


「棒をつべたくするだけだったら、もっとちっちゃい魔石でもよかったなぁ」


 最初に作っちゃった氷の魔石を見て、僕は魔道具の方を先に考えときゃよかったなぁって思ったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 本編に出てくる甘氷と言うお菓子。これは前にも書いたような気がしますが一応もう一度説明すると、果汁などの甘い液体を凍らせたアイスキャンディーの一種です。


 ルディーン君がアイスクリームやかき氷を作ったおかげでグランリルではいろいろな冷たいお菓子がありますが、この世界全体では暑い時期の凍ったお菓子と言うと、ほとんどの人がこれを思い浮かべるくらいメジャーな食べ物だったりします。


 でもまぁこれも魔道具が無いと作れないので、手軽には食べられない比較的高級なお菓子なんですけどね。(普段は昔の日本同様、井戸で冷やした果物などが夏の定番のおやつです)


 さて、先延ばしになっていた12レベルで覚える魔法ですが、変なところで情報解禁ですw


 因みに触媒を使うとどんな魔法が使えるようになるのかは今までにも何度か出てきているので、読者様の中にはもう解っている人もいる事でしょう。


 でもこの魔法、ほんとに本編で使う機会が来るのだろうか? 少なくとも、ルディーン君の家族やその周りの人に使う事だけは絶対ないだろうなぁ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] また道具を作ってる! これは特許になるのかならないのか。 Lv12の魔法の情報が出た! 触媒か、なんかのゲームで回復魔法使うのに聖別された粉か水必要とかあったな。 触媒が魔石でいいってなる…
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