331 そっか、それなら簡単に登れるね
「へぇ、森へ行ってきたんですか?」
「うん。それでね、ルディーンがおっきなベニオウの実がなる木を見つけてくれたから、みんなでとってきたんだよ」
キャリーナ姉ちゃんは楽しそうに、今日森であったことをペソラさんに教えてあげてるんだ。
でね、それを聞いてるペソラさんも、にこにこしながらお姉ちゃんのお話を聞いてくれてたんだよね。
「凄く甘いベニオウの実かぁ。あれって街で売ってるのもすごく高いから、私はあまり食べた事ないのよ。だからそれより甘いと言われても、想像もできないなぁ」
「そうなの? でもペソラさんの分も持ってきたからだいじょうぶだよ。食べたらすぐわかるもん」
その流れで採ってきたベニオウの実がおっきいだけじゃなくってその上とっても甘いんだよって話になったんだけど、ペソラさんは普通のもあんまり食べた事が無いからそう言われてもよく解んないんだって。
だからそれを聞いたキャリーナ姉ちゃんは、ペソラさんの分も採ってきたから後で食べれば解るよって笑ってたんだけど、でもそこまで言ったところでふと何かに気が付いたみたいで、急にお兄ちゃんたちの方を見て頭をこてんって倒したんだ。
「あれ? そう言えば、お兄ちゃんたちはなんでここにいるの? お外で箱を見てるって言ってなかった?」
「ああそれなら、そこのお爺さんが人を呼んで、このギルドの裏口から中に運んでくれたんだよ」
「そうそう。だから俺たちも、ルディーンと一緒に中に入ってこれたんだぞ」
どうやらキャリーナ姉ちゃんは、お外でベニオウの実を見張ってるはずのお兄ちゃんたちが何でここにいるのか不思議に思ったらしいんだよね。
でもお兄ちゃんたちからベニオウの実が今どこにあるのかを聞いたお姉ちゃんは、そんな事もうどうでもよくなったみたいで、
「ペソラさん。ベニオウの実、もうこの中にあるんだって!」
今度はペソラさんの方を見てニコニコしながら、おいしいからすぐに食べた方がいいよって。
でもね、そんなキャリーナ姉ちゃんにペソラさんは、僕たちもいるのに自分だけ食べるわけにはいかないんだよって言うんだ。
「ああ、それなら大丈夫。もし足らなくなるようだったら後でもう一度僕とディック兄ちゃんがルディーンと一緒に採りに行くから、みんなで食べればいいよ」
だけど、そこでテオドル兄ちゃんがこんな事言いだしたもんだから、僕たちはみんなびっくりしちゃったんだよ。
「テオドル兄ちゃん。後で採りに行くって、お昼ご飯食べた後は狩りに行くんじゃなかったの?」
「その事なんだけど、さっきディック兄ちゃんと外で待ってる時にちょっと話してたんだ」
「ああ。この森だと、正直言って狩りをしても面白くなさそうなんだよなぁ」
でもさ、ベニオウの実を採ってお昼ご飯を食べた後はみんなで狩りに行きたいって、お兄ちゃんたちは言ってたでしょ?
なのにそんな事言いだしたもんだから、狩りはいいの? って聞いたんだけど、そしたらあんまりおもしろくなさそうだからいいんだよって。
「森の中を歩いてる時も思ってたんだけど、ここの森にいる獲物はちょっと弱すぎるんだよね」
「その上、俺が見たところそれはどうやら森の奥の方にいる魔物でもあまり変わらないみたいなんだ」
ディック兄ちゃんはね、僕が干し草を作ったり石の箱を作ったりしてる時に上から見てたんだって。
何でかって言うと、もしどっかから魔物が出て来て僕の方に来たら、すぐに上からあぶないよって教えられるようにって思ってたかららしいんだよ。
でもね、何度か森の中から魔物が出て来て僕の方に近づいて来そうになったらしいんだけど、それがみんな僕を見つけると違う方へ行っちゃったんだってさ。
「魔物ってのはどうやらある程度相手の強さが解るみたいでな、自分より強そうだと思うとさっさと逃げてしまうようなんだ」
ディック兄ちゃんはね、それでもちょっとくらい強いだけなら、こっちが気付いてない時は襲ってくることだってあるんだよって教えてくれたんだ。
でも僕が干し草とかを作るのに一生懸命になってぜんぜん気が付いてなかったのに、ここの魔物はみんなそのまま帰っちゃったでしょ?
だからそれを見たお兄ちゃんは、ああここの魔物は森の奥の方でもあんまり強くないんだろうなぁって思ったんだってさ。
「そんな所に俺たちだけならともかく、お父さんやお母さんも一緒に行って狩りなんかしたら簡単すぎてつまらないんじゃないかって思ったんだよ」
「そうそう。それにルディーンがいるんだから獲物を追跡する楽しみもないだろ? それなら他の事をした方がましだって、ディック兄ちゃんと話してたって訳」
そう言えばお父さんも、イーノックカウの森の魔物はうちの村の周りにある平原の動物とあんまり変わらないくらい弱っちいんだよって言ってたもんね。
そんなとこで僕たちみんなで狩りしたって、なんか弱い者いじめみたいで楽しくないか。
「そっか。だからもういっぺんベニオウの実を採りに行ってもいいって言うんだね?」
「ああ、そういう事さ」
でね、そうなるとやる事がなくなっちゃうでしょ?
だからテオドル兄ちゃんは、無くなっちゃったらまた後で採りに行けばいいから、みんなでベニオウの実を食べてもいいよって言ってくれたんだって。
それを聞いた僕は、ならみんなで食べても大丈夫だよねって思ったんだけど、
「あれ? ねぇ、テオドル兄ちゃん。ルディーンが作った階段、もうこわしちゃったよ? なのに、どうやってとるの?」
それを聞いたキャリーナ姉ちゃんが、階段を壊しちゃったからもう採れないじゃないかって言いだしたんだ。
そう言えばルルモアさんも、木に登る便利な魔道具なんかないからベニオウの実を採るのは専門の人が居ないとダメなんだよって言ってたっけ。
って事はさ、今のまんまだとキャリーナ姉ちゃんの言う通りベニオウの実を採る事ができないよね?
「もしかして、もう一回ルディーンに階段を作ってもらうの?」
「いや、そんな事しなくても大丈夫だよ」
でもさっき、テオドル兄ちゃんは僕と一緒に行くって言ってでしょ?
だからキャリーナ姉ちゃんは、さっきみたいに階段を作るの? って聞いたんだけど、そしたらお兄ちゃんは笑いながら、そんな大きなものを作らなくてもいいんだよってお姉ちゃんの頭をなでたんだ。
「これもさっきディック兄ちゃんと話してたんだけどさ、僕たちだけならあんな階段を作らなくてもルディーンがいれば登れるんだよ」
「僕がいたら?」
「ああ。俺やテオドルじゃあ、あの木を登るのは流石に無理だ。でもさっきルディーンが階段を作る時、土台として最初に細い石の柱を立てただろ? あれなら俺たちでも簡単に登れるんじゃないかって話になったんだ」
そっか。ベニオウの木が登れないのは幹が太いからだけど、階段の柱だったら細くて丸いもん。
あれだったら、僕だって簡単に上まで登れちゃうよね。
「なぁ、ルディーン。あの柱だったら、木の横に残してきた箱を作った残りの石材だけでも作れるだろ?」
「うん。それにね、登り棒を作るだけなら階段と違って一回クリエイト魔法を使うだけでできちゃうから、階段を作るより楽ちんなんだ」
「登り棒……か。なるほど、ルディーンはうまい事言うなぁ。そう、登るための棒を作ればいいんだよ」
「解ったよ、テオドル兄ちゃん。じゃあ、簡単に登れる棒を作ればいいんだね」
階段はとってもおっきいから何度もクリエイト魔法を使わないと作れないけど、登っても倒れない棒を作るだけだったら、あっという間にできちゃうもん。
それにね、棒で登るだけでいいんなら前の世界の小学校ってとこにあった登り棒みたいのを作ればいいだけでしょ?
そんなんでいいのなら、思い浮かべるのも簡単だよね。
でもさ、僕とキャリーナ姉ちゃんは二人してどうやって登ったらいいのかなぁ? って考えても全然思いつかなかったんだよ?
なのにこんなに簡単に思いついちゃうなんて、お兄ちゃんたちはホントすごいなぁ。
「まぁ、階段の時と違って上からつるして下す袋とロープは用意しないといけないけど、それくらいなら簡単に手に入るだろ?」
「うん! 前にお父さんと露天に行った時に売ってたもん。それだったらここから門に行くまでに買えるよ」
「ほんと? じゃあ、食べちゃってもだいじょうぶ?」
「キャリーナ姉ちゃんが全部食べて無くなっちゃっても、採ってくるからへっちゃらだよ!」
僕たちが採ってきてあげるから大丈夫だよって言うと、キャリーナ姉ちゃんは大喜び。
「やったぁ! ペソラさん、みんなで食べてもだいじょうぶだって」
ペソラさんに食べてもいいんだってって、笑顔でそう言ったんだよ。
でもそのペソラさんはと言うと、どうやら僕たちの話についてこれてなかったみたいで、
「えっと、それでは皆さんも一緒に、その実を食べるのですね?」
そう言いながら、頭をこてんって倒してたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
実を採るためにどうやって登ったらいいんだろう? って思っていたベニオウの木ですが、ルディーン君さえいれば実は案外簡単に登れるんですよね。だってハンスお父さんも言っていた通り、ベニオウの木は太すぎて登れないだけなのですから。
だからこそ、ルディーン君が作った階段のための柱なら何の問題もなく登れますよね? なにせ、木の根を傷つけないようにと意識して細く作ってあるのですから。
その上お兄ちゃんズの話を聞いて、ルディーン君は前世にあった登り棒みたいなものを作るつもりなのだからもっと簡単に登れる事でしょう。
でもそう考えると本当に魔法使いさえいれば、どんなに太くて大きなベニオウに木を見つけたとしても登れるって事だよなぁ。まぁそれが解ったところで、その魔法使いを見つけるのが難しい以上、ルルモアさんに教えてあげてもあまり意味が無いんですけどねw




