329 そっか、お兄ちゃん頭いい!
色々お話したけど、僕たちじゃベニオウの実を採りに行ってくれる人を探すお手伝いはできないでしょ?
だからお話はこれくらいにして、そろそろ錬金術ギルドに行こうって事になったんだ。
「本当に貰っちゃっていいの?」
「うん。お土産に持ってきたんだからいいよ!」
でもね、さっきルルモアさんもおいしいって食べてのに、このままバイバイしちゃうのはかわいそうでしょ?
だからちょこっとだけ、ベニオウの実をあげる事にしたんだ。
「ひと箱に硬いのと完熟したのを3つずつ入れて置くから、この3箱をルルモアさんとニールンドさん、それにギルマスの爺さんとで1箱ずつ分けてくれ」
「そんなに!? ありがとうございます」
でね、冒険者ギルドではルルモアさんだけじゃなく、買取のとこにいるニールンドさんやギルドマスターのお爺さんにもお世話になってるからって、二人の分も合わせて3箱あげる事にしたんだ。
「二人とも喜ぶと思いますよ」
「そうだといいですけどね。それじゃあ、俺たちはこれで」
こうして僕たちは今度こそ冒険者ギルドを出て、錬金術ギルドに向かう事にしたんだ。
冒険者ギルドを出た僕たちは、ベニオウの実の入った石の箱をフロートボードに載っけて街の中を歩いてたんだよね。
「へぇ、そんな話をしてたのか」
「うん。だからベニオウの実を採る人と、採った実を運んでくれる魔法使いさんかマジックバッグを持ってる人を探さなきゃいけないからって、ルルモアさんはすっごく困ってたんだ」
それでその時僕は、お外で箱の見張りをしてくれてたお兄ちゃんたちに、中でどんなお話をしてたのかを教えてあげてたんだ。
でもね、そしたらその話を聞いたテオドル兄ちゃんが急に、あれ? って顔になっちゃったもんだから、僕はどうしたの? って聞いてみたんだよ。
「なぜ魔法使いやマジックバッグなんて高価な魔道具が必要なのかと思ってね」
「え~だって、真っ赤になったベニオウの実はとっても柔らかいでしょ? だから普通に持って帰ってこれないじゃないか」
でもそしたらテオドル兄ちゃんは、何で持って帰るためにそんなのがいるの? って逆に聞いてきたんだ、
だから僕、普通の入れ物に入れて持って帰ってきたら全部壊れちゃうじゃないかって教えてあげたんだけど、そしたらお兄ちゃんに、ため息をつきながら、何で気が付かないかなぁ? って言われちゃった。
「気付かないって、何に?」
「あのなぁ、ルディーン。今この箱はどうやって運んでる?」
「フロートボートに載っけて運んでるよ?」
「そうだろ? だったら同じように運んでくればいいだけじゃないか」
あれ? そのフロートボードが使える魔法使いさんがあんまり居ないから、探すのが大変なんだよってさっき話したよね?
なのにテオドル兄ちゃんは何言ってるんだろう?
そう思った僕は、頭をこてんって倒したんだ。
「はぁ。なぁ、ルディーン。俺たちが乗ってきた馬車、お尻が痛くならないようにってお前が魔道具を作ってくれたんだよな?」
「うん。そうだよ」
「なら聞くが、それは何の魔法が使える魔道具なんだ?」
「あっ!」
そっか。フロートボードって魔道具でも使えるんだっけ。
テオドル兄ちゃんに言われて僕、その事に初めて気が付いたんだ。
「テオドル兄ちゃん、頭いい!」
「いやいや。それにしてもルディーンはともかく、お父さんたちまで気が付かないとはなぁ」
だからテオドル兄ちゃんすごいや! って僕思ったんだけど、でもお兄ちゃんは何で誰も気が付かないかなぁ? ってあきれちゃった。
あっ、でもそうだ! 早くこの事をルルモアさんに教えてあげないと。
きっとルルモアさんは今も困ってるよね?
それに気が付いた僕は、すぐにこの事を教えてあげなきゃって思って走りだそうとしたんだよ?
けど、テオドル兄ちゃんに行っちゃダメって止められちゃった。
「何で止めるの? ルルモアさん困ってるんだよ。早く教えてあげないと!」
「どうせまた行く事になるんだから、その時でいいだろ? それにこの箱を浮かべてる魔法、お前がいなくなったら消えるんじゃないか?」
だから何で止めるのさ! って怒ったんだけど、そしたらテオドル兄ちゃんに、僕がいなくなったらフロートボードの魔法が切れちゃうんじゃないの? って聞かれたんだ。
そう言えばこの魔法は魔道具じゃなくって僕が直接かけてるものだから、僕がここからいなくなっちゃうと切れちゃうんだよね。
「それにもうすぐ錬金術ギルドにつくんだろ? ならそっちを先に済ませてから行けばいいじゃないか」
「そっか。うん、解ったよ、テオドル兄ちゃん」
あとでちゃんとルルモアさんに教えに行かなくっちゃ。
そう思いながら僕は、お兄ちゃんと手をつないでまた歩きだしたんだ。
カランカラン。
いつもの赤い扉をうんしょって開けると、これまたいつものベルの音。
「こんにちわ!」
「おおルディーン君、いらっしゃい。今日は親御さんだけじゃなく、お姉さんたちも一緒か。めずらしいのぉ」
その音を聞きながら中に入ると、カウンターには僕が初めてここに来た時とおんなじように、ロルフさんがおっきな本を広げて座ってたんだ。
「ロルフさん。あのね、森の奥でおいしい果物が採れたから、お土産に持ってきたんだよ」
「ほう、森でとな? それはうれしいが、はて、イーノックカウの森の奥にわざわざ見せに来るような珍しい果物などあったかのぉ?」
ロルフさんはずっとイーノックカウに住んでるでしょ?
それにお金持ちだから、高い果物だって多分いっぱい知ってるんじゃないかなぁ?
だから僕が森の奥から採ってきたんだよって言ったのを聞いて、何を持ってきたんだろうって思ったみたい。
「えっとね、森の奥で採ってきたけど、珍しいのじゃないよ。あっ、でも商業ギルドの人やルルモアさんはそれ見てびっくりしてた!」
「珍しくないのに驚くもの? 何やら問答のような話じゃのぉ。して、それはどこにあるのかな?」
「中に持ってきていいか解んなかったから、外に置いてあるんだ。だからちょっと来て」
僕は早く見せたくって、カウンターまで走ってくとこっちこっちって、ロルフさんの袖を引っ張ったんだよね。
そしたらロルフさんはちょっと困った顔で笑うと、どっこいしょって椅子から立ち上がって僕について来てくれたんだ。
「息子が、どうもすみません」
「いやいや。謝ってもらわずとも、わしもルディーン君のお土産が早く見たいから大丈夫じゃ。して、ルディーン君。それはなんという果物なのじゃ?」
「ベニオウって言う実だよ。僕も森の中で食べたけど、すっごくおいしいんだ」
「ほう、ベニオウの実か。それはまた、高価なものを」
持ってきたのがベニオウの実だって解って、ロルフさんはとっても嬉しそう。
って事はきっと、お母さんと一緒でロルフさんもベニオウの実が大好物なのかも。
だったらさ、あんなにおっきなベニオウの実を見たら、もっと喜んでくれるよね?
そう思ってうれしくなった僕は、早く早くってロルフさんの手を引っ張って錬金術ギルドの外につれてったんだ。
「おや? この子たちは?」
「僕のお兄ちゃんたちだよ」
そしたら外にいたお兄ちゃんたちを見て、ロルフさんはびっくり。
それにお兄ちゃんたちも僕がロルフさんの手を引っ張って出てきたもんだから、慌ててこんにちはの挨拶を始めちゃったんだ。
でもね、僕はそんな事より早くベニオウの実を見て欲しかったんだよね。
「ディック兄ちゃん。蓋開けて。ロルフさんに見せてあげるんだ」
「おっ? ああ、いいぞ」
だからディック兄ちゃんに頼んで、箱に乗ってる石の蓋を取ってもらったんだ。
「すごいでしょ。僕が見つけたんだよ」
「はて? 確かにベニオウの実によく似ておるが……それにしては大きさがまるで違うのぉ。これはもしや、ベニオウと同じ系統の別品種なのじゃろうか?」
「ううん、違うよ。鑑定解析で見たらちゃんとベニオウの実って出たもん。でもね、森の奥で魔力をいっぱい吸ったからこんなにおっきくなって、すっごくおいしくなったんだってさ」
ロルフさんはこのベニオウの実が普通のよりおっきかったもんだから、違う果物なんじゃないの? って聞いてきたんだよね。
だから僕、ちゃんと鑑定解析で調べたからベニオウの実だよって教えてあげたんだけど、
「まっ……魔力を多く吸ったら大きくなったじゃと!?」
そしたら何でか知らないけど、おめめをすっごくおっきく開いてびっくりした顔になっちゃった。
何でかなぁ?
読んで頂いてありがとうございます。
冒険者ギルドでは魔法使いかマジックバッグが必要だと話されてましたけど、当然フロートボードの魔道具でも代用は効きます。
ではルディーン君たちならともかく、なぜルルモアさんまでその事に気が付かなかったのかと言うと、フロートボードの魔法陣が一般的ではないからなんですよね。
前に本編で触れていますが、魔法陣はそれを刻んだ魔法使いの力量によってその効果が変わります。おまけに魔法陣で発動した魔法はその魔法使いが実際に唱えた魔法より威力が減衰するんですよ。
ですから石材などの重い物を運ぶ魔法であるフロートボードの魔道具に実用的な効果が発揮させるには、かなり高レベルな魔法使いが魔石に魔法陣を刻まなければならなくなってしまいます。
でもそうなると普通の魔法使いを雇うよりはるかに高くついてしまうので、フロートボードの魔道具が作られる事が殆ど無いと言うわけです。




