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328 領主様が一番いいそうなんだけど……


「それでは、心当たりをあたってみますね」


「よろしくお願いします」


 僕たちが持って帰ってきたベニオウの実だったらきっと欲しがる人が居るよねって事で、商業ギルドの人はルルモアさんに採ってきてくれる人を探してくださいってお願いして帰って行っちゃった。


「それじゃあ。俺たちもこれで」


 と言うわけで、僕たちも錬金術ギルドに行こうってお父さんがルルモアさんにサヨナラしようとしたんだよ?


「ちょっと待ってください。詳しい場所やなっていた木の様子を教えずにいなくなられても困ります」


 でも、ルルモアさんに行っちゃダメって止められちゃったんだ。



「ここですか? う~ん、流石にかなり森の奥地ですね」


 冒険者ギルドに置いてあった森の地図でお父さんがベニオウの木が生えてる場所を教えてあげたんだけど、そしたらルルモアさんはちょっと困った顔に。


「ああ。でも行って戻ってくるだけなら、それほど時間のかからない距離だぞ?」


「はははっ、それはカールフェルトさんたちだから言えることですよ」


 僕たちは朝イーノックカウを出てさっき帰ってきたとこだけど、時間はまだお昼の鐘が鳴ってからちょっとしたくらいなんだ。


 けどそれは僕が魔法でベニオウの実を探して、そこまで一直線に向かったからなんだよね。


 でもね、それができたのは僕たちがイーノックカウの森に棲んでる魔物たちよりずっと強いからなんだよってルルモアさんは言うんだ。


 だってさ、この場所がもしこないだの幻獣みたいなのがいっぱいいる場所だったら、僕たちだってまわりに気をつけながらゆっくり進まないとダメでしょ?


 だからもしそんな感じで森の中を進んでたとしたら、もしかすると夜になっても帰ってこれなかったかもしれないんだってさ。


「正直言ってこの場所だと、結構腕の立つ冒険者じゃないと実を採って日帰りで帰ってくることは難しいでしょうね」


「そうか? 採取専門の連中ならともかく、貴族が囲ってるような冒険者に依頼するんだろ? なら到達するのに苦労するような場所じゃないと思うんだが」


「そうですね。でもそれは、行って帰ってくると言うだけならです」


 ルルモアさんはね、行く事はできてもそこでベニオウの木から実を採ってくるとなるとかなり難しいんじゃないかなぁ? って言うんだ。


「このベニオウの木は、実がなってる枝がかなり高い位置にあるんですよね? そうなると狩りに特化した冒険者じゃ実を採る事ができないと思うんです」


「ああ、なるほど。という事は、足手まといになる採取専門の冒険者を護衛しながら行かないとダメって事か」


「その通りなんですよねぇ」


 採取専門の人はね、魔物どころか狼とかのちょっと強めの動物にだってやられちゃうかもしれないんだって。


 でも狩り専門の冒険者さんたちが自分でベニオウの実を採れないんだったら、そう言う人を守りながらつれて行かなきゃダメだし、それに現地についても採ってる間は魔物が近づかないようにずっと周りを見張ってなきゃいけないんだよね。


 そうなると、ただ強くて狩りがうまいだけじゃダメでしょ?


 だからね、ちゃんとそういう事ができる冒険者さんを雇ってる人を探さないとダメなんだってさ。


「その上この実に興味を持って、採りに行くためのお金を出してもいいと考える人じゃないといけないのよ。だから探すのは結構大変かもしれないわね」


「心当たりはないのか?」


「う~ん、真っ先に思いつくのは領主様なんだけどなぁ」


 このイーノックカウの領主様は、おいしいものに目が無いんだって。


 たとえば遠くの街においしいお料理を出す店があったとするでしょ?


 そしたらお金を出すからイーノックカウにもお店を出してって頼みに行っちゃうくらい、領主様はおいしいものが好きらしいんだよね。


 だからこの実の話をしたら、絶対に採りに行くって言うと思うんだけど、


「でも領主様だと、動くのは騎士や兵士になるから……」


「ああ、それだと商業ギルドの分を採ってきてほしいとは頼めないな」


 でもね、領主様は冒険者さんなんて雇ってないから、もし採りに行くとしたら採取の人の護衛はこの街の騎士様や兵士さんになっちゃうでしょ?


 だからもしそうなったら、お父さんの言う通り商業ギルドの分も採ってきてなんて絶対頼めないんだ。


「せめて、狩り専門の冒険者でも採りに行けるような場所になっていたらなぁ。ってそう言えば、カールフェルトさんたちはどうやって採ったんですか? 高い所になっている実を採る技術なんて、持ってないでしょ?」


「ああ。それはルディーンが採りやすいように足場を作ってくれたんですよ」


 お父さんはルルモアさんに、僕がクリエイト魔法で階段と足場を作ったから家族みんなで採る事ができたんだよって教えてあげたんだよね。


「魔法で足場を? なるほど、確かに魔法使いなら材料があればそれくらいできそうね」


 それを聞いたルルモアさんはちょっとだけ考えるような仕草をしたんだけど、でもすぐにしょんぼりしちゃったんだ。


「魔法使いなら狩り専門の冒険者とでも行けるかも? って思ったけど、やっぱりだめね。森の中まで行ってくれるような魔法使いを見つけるなんて、護衛に特化した高ランク冒険者を探すより難しいわ」


「あっでも、ベニオウの実を採りに行くとなると、やはり魔法使いはいると思うぞ」


「なぜです?」


「だってこのベニオウの実、ルディーンの魔法が無かったら、ここに運んでくるまでにほとんどすべてダメになってたんじゃないか?」


 お父さんに言われて、ルルモアさんはそっか! って顔したんだよね。


 まだ赤くなってないやつなら大丈夫だけど、真っ赤になっちゃってるベニオウの実はちょっと強めに持っただけで弾けちゃうんだもん。


 そんなのを街まで運ぼうと思ったら、フロートボードの魔法が無いと多分無理なんじゃないかなぁ?


「確かにそうね、でもそうなると、やはり領主様が第一候補って事になるか」


「なるほど、領主様なら魔法使いくらい専属で雇ってるだろうからなぁ」


「魔法使いもそうなんだけど、それより確実に運べる方法を領主様は持っているのよね」


「確実な方法?」


「マジックバッグよ。あれに入れて運べば、どんな柔らかいものでも持って帰る事ができるわ」


 マジックバッグって中は特別な空間になってるから、一度入れちゃうと袋をどんなに叩いたって中のものが壊れる事は絶対にないんだって。


 でね、領主様はそのマジックバッグを持ってるらしいんだ。


「領主様のマジックバッグは前にブレードスワロー狩りの時に貸したものと違ってかなりの量がはいるから、今回カールフェルトさんたちが持ってきた量の2~3倍を採ってきても簡単に入れる事ができるでしょうね」


「だがな、もしそんな貴重な魔道具を使うとなると、ますます商業ギルドの分まで採ってきてほしいなんて頼めなくなるんじゃないか?」


「うっ!」


 マジックバッグは貴族様やすっごいお金持ちじゃないと持ってない、とっても大事な魔道具なんだよ。


 その魔道具を森の中まで持って行って、もし失くしちゃったら大変だよね?


 だからもしマジックバッグを使ってまで領主様がベニオウの実を採ってきたいって思ったのなら、そんなの売ってくれないんじゃないの? ってお父さんは言うんだ。


 そしてそれはルルモアさんも同じ意見みたいで、


「やっぱり領主様はダメかぁ」


「商業ギルドの依頼を考えると、別の人を探した方が賢いだろうな」


 机にぐで~って倒れこんじゃって、すっごくしょんぼりしちゃったんだよね。


「まぁまぁ。商業ギルドの人も言ってたけど、この実を欲しがる人は他にもいるだろうから探せば見つかるって」


「そりゃあ、いるだろうけど……あ~あ、ルディーン君がこの町に住んでたらよかったのに」


「えっ、僕?」


 だからきっと見つかるよってお父さんが慰めてたんだけど、でもそしたらルルモアさんの口から急に僕の名前が出てきたもんだからびっくりしちゃった。


「だって、ルディーン君なら一人でも簡単に採りに行けるでしょ? 実力的には何の問題もないし、木の横に石材を置いておけば足場だって作れる。それに採った実を運んでくるのだって、魔法を使えば簡単にできるじゃない」


「ダメだよ! だって僕、一人で森に入っちゃダメってお父さんたちに言われてるもん」


 ルルモアさんはね、僕なら簡単に採ってこれるでしょ? って言うんだ。


 でも僕は一人で森に入っちゃダメだから、もしここに住んでたってやっぱり採りにいけないんだよね。


「ん? いや、イーノックカウの森なら問題ないぞ。正直言ってこの森にいる動物や魔物程度なら、うちの村にある森の外の平原にいる動物たちと大差ないからな」


 ところがここでお父さんがイーノックカウの森なら大丈夫だよって言いだしたもんだから、僕はすっごくびっくりしたんだよ。


「えっ!? いいの?」


「ああ。うちの村の周りにいるのは平原にいる動物はな、魔物にこそなっていないが多少は魔力溜まりの影響を受けて他の場所にいるのより強くなってるんだ。毎日一人で平原の魔物を狩ってくるお前なら、この森に棲んでる魔物程度ならかなり奥まで行かない限り大丈夫だろ」


 うちの村の森は危ないけど、イーノックカウの森の魔物は弱いでしょ?


 だから僕、一度お父さんやお母さんに、一人で狩りに行ってもいい? って聞くつもりだったんだよね。


 でもその前にお父さんからいいよって言われたもんだから、ほんとにびっくりしちゃったんだ。


「でもまぁ、だからと言ってこの街にルディーンが住む事は無いから、ルルモアさんの期待に添える事は無いんだけどな」


 だけど僕一人でこの町に住む事なんて絶対ないでしょ?


 だからお父さんは、やっぱり僕一人で森に入る事なんてないから、ベニオウの実を採りには行けないねって。


 でね、それを聞いたルルモアさんはと言うと、


「そうだと思いましたよ。私も……」


 少しでも期待した私がばかでしたって言いながら、もっとぐで~ってなっちゃったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 念願の一人での森の立ち入りがハンスお父さんから許可されました!


 まぁそれでもハードルがまるでない訳ではないので、すぐに行けるわけではないんですけど。


 ただルディーン君はジャンプの魔法でいつでもイーノックカウに来ることができるので、一人で森へと狩りに出かける日もそう遠くないでしょうねw


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― 新着の感想 ―
[一言] ルディーン君、将来では街に住みたいと思う事があるかもしれないけれど、現時点ではまったくそんな気配無いんですね。 村の若者が都会に憧れて街に出る…なんていうパターンにはあてはまらない、という事…
[良い点] 場所も教えてもらった 獲り方も、運搬時の注意点も ただ一つ、取りに行ってくれる人が見つからない。 [一言] どんな風に解決するのか ギルド同士の案件だし、お土産配らないとだし 途中で切り上…
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