325 欲しいって言われても困っちゃうよね
商業ギルドの人たちが知ってるベニオウの木はみんな森の入口近くにあるやつだから、魔力が薄いせいでどの木もあんまり実がついてないんだ。
それなのに僕たちがすっごくいっぱいベニオウの実を、石の箱に入れて持って帰ってきちゃったでしょ?
だからギルドの人は、どうやってこんなにいっぱい採ってきたの? ってお父さんに聞いたんだよね。
でも聞かれたお父さんは、なんでギルドの人がそんな事を聞いてきたのか解んないみたいなんだ。
だってさ、僕は魔法で調べたから知ってるけど、お父さんは入り口の近くにあるベニオウの木にはほんのちょびっとしか実がついてないなんて知らないんだもん。
そりゃあお父さんだって、入口の方にある木にはあんまりいっぱい実がなってないって考えてると思うよ?
でもお父さんが見た事があるベニオウの木は、僕が見つけた実がいっぱいなってるのだけでしょ?
だからいくら少ないからって、まさか1本の木に2~3個しか実がなってないなんて思っても無かったんだよね。
それにベニオウの木って、すっごく高い所に実がなってるでしょ?
それを採るには森ん中に登るための道具を持ってかないとダメだから、値段が高いのはそのせいでもあるんだろうなぁ? なんて思ってるんだもん。
だから商業ギルドの人がなんでそんな事を聞いてきたのか、全然解んなかったみたいなんだ。
、
「どうやってと言われても、普通になってる実を家族総出で採ってきただけだが?」
「家族総出って、それにしてもこの量は異常でしょう!」
だからちょっと困ったような顔をして、でもちゃんとみんなで採ったって教えてあげたんだよ?
でもね、その説明を聞いても商業ギルドの人は全然納得しないみたい。
そりゃそうだよね。だって1本の木にほんのちょっとしかなって無いんだから、みんなで採ったからってこんなにいっぱい採れるはずないんだもん。
だけどお父さんはそんなこと知らないから、興奮してる商業ギルドの人を見てもっと困った顔になっちゃたんだ。
「違うよ、お父さん。商業ギルドの人はきっと、いっぱい採るのが大変なベニオウの実を、何でこんなに採ってこれたの? って聞いてるんだと思うよ」
「採るのが大変? って、ああそう言えば俺たちはルディーンのおかげで簡単に採れたけど、普通は木に登るのでさえ大変だろうからなぁ。家族総出で採ったと言われても、そりゃあ信じられないか」
だから僕、お父さんにベニオウの実はいっぱい採るのは大変なんだよ教えてあげたんだけど、そしたら今度は木に登るのが大変だからびっくりしてるのかって思っちゃったみたい。
あれ? ちゃんと教えてあげたはずなのに、なんで解んないんだろう?
そう思った僕は、もういっぺん教えてあげようとしたんだけど、お父さんはその前に商業ギルドの人にこう話しだしたんだ。
「えっと……やり方は秘密なんだが、俺たちには家族みんなで高い所に登る方法があってな、そのおかげでこれだけの数を短時間で採る事ができたと言うわけだ」
「高い所に? ああ、確かにそんな方法があれば採るのは楽でしょうね。でも、そもそも1本の木に数個しか実をつけないベニオウの木に簡単に登れたからと言って、これだけの数が揃えられるはずないでしょ!」
でもね、それを聞いた商業ギルドの人は、すっごく興奮しながらベニオウの木には実があんまりならない事を教えてくれたんだ。
そしたらやっとお父さんは、自分が勘違いしてた事に気が付いたみたい。
もう! さっき僕が教えてあげたのにちゃんと聞いてないからでしょ!
お父さん、大人なのにホントこまっちゃうなぁ。
「なるほど。ベニオウの実は採るのが大変なだけじゃなく、普通はそれほど多くの実をつけないと言うわけか」
「ええ、そうです。しかしあなた方はこの箱すべてにベニオウの実が入っているような事を言っていましたよね? だから私はどうやって採ってきたのかと尋ねたと言うわけなんですよ」
さっきはすっごく興奮してたけど、お父さんが勘違いしてたって解ったもんだから商業ギルドの人はちゃんとごめんなさいしてくれたんだ。
だから仲直りしてお話の続きをする事になったんだけど、
「それにしても、すごいですね。この箱の数からすると200個以上あるんじゃないですか?」
そしたら商業ギルドの人がこんな事を言ったもんだから、お父さんはびっくりしちゃったんだよね。
だってさ、そりゃあ家族みんなで採ってきたけどそれはお土産にするためだから、少し多めには採ってきたけどそんなにいっぱいは無いはずないんだよね。
だからお父さんはそう教えてあげたんだけど、商業ギルドの人は箱の数からするとそれくらいないとおかしいって言うんだ。
「この大きさだとひと箱に15個、いや、実が崩れないように何か柔らかい物を間に詰めていると考えても12個ほど入るはずですよね? それが20箱以上あるのですから、やっぱり200個以上あるんじゃないですか?」
「ん? ああ、そう言う事か。いやいや、ひと箱には6個ずつしか入ってないからそんなにはないですよ」
でもね、さっきと違ってどうやら今度は商業ギルドの人が勘違いしたみたいなんだよね。
確かに箱の数は20以上あるけど、僕たちがとってきたベニオウの実はすっごくおっきいでしょ?
だからこの箱の中には、そんなにいっぱい入らないもん。
でもそれを聞いた商業ギルドの人は、いくらなんでもそれは無いでしょう? って言うんだよ。
だからね、お父さんはギルドの人がちゃんと解るように、一番上の箱にかぶせてあった蓋を取って見せてあげたんだ。
「ほら、6つしか入って無いだろ?」
「えっ!?」
ところが、商業ギルドの人は箱の中を見てすっごくびっくりしちゃったんだ。
そりゃそうだよね。だってこんなおっきなベニオウの実なんて、商業ギルドの人たちだって見た事ないはずだもん。
でもそのおかげで、これが入口近くの木になってるのを採ってきたものじゃないって解ったみたいで、
「こっ、このベニオウの実は! これは一体どこで採れたものなんですか!?」
「どこって、この森の中だが……」
今度はお父さんに、この実がなっている木はどこにあるの? って聞いてきたんだよね。
でもその勢いがすごかったもんだから、お父さんはその迫力に押されてつい、この森だよって答えちゃったんだ。
けどそしたらギルドの人は、そうじゃないですよって。
「それは解ってます。この森のどこにこんな大きなベニオウの実がなってる木が生えているのか、それを聞いているんですよ!」
「ああ、そうか。ちょっと待て。おい、ルディーン。教えちゃっていいか?」
「僕? うん、別にいいよ。また探せばいいし」
そう言われたお父さんは教えていい? って僕に聞いてきたんだよね。
でも次いつ採りに行くか解らないし、別のとこを探そうと思ったらいつでも魔法で見つけられるんだからこんなの秘密にするほどの事でもないでしょ?
だからいいよって答えたら、お父さんは解ったって言って商業ギルドの人にベニオウの木が生えてた大体の場所を教えてあげたんだ。
「そんな奥地なんですか?」
でもね、それを聞いた商業ギルドの人はちょっと困った顔になっちゃったんだ。
だから僕、何でだろう? って思って聞いてみたんだよ?
そしたら商業ギルドの人は、そんな所までベニオウの実を採りにいける人が居ないんだって僕に教えてくれたんだ。
「何で? そりゃ、採取の人は無理かもしれないけど、冒険者ギルドに頼めば行ってくれる人、いるんじゃないの?」
「それがねぇ、坊や。そんな奥地まで行けるような力を持った冒険者は、その殆どが誰かに雇われて専属になっているんだ」
僕たちが行った場所ってすっごく森の奥の方でしょ?
だからそこまで安全に行くことができる人たちだと、Cランク以上の冒険者パーティーじゃないと無理なんだって。
でもね、イーノックカウの森にはあんまり強い魔物がいないから、冒険者さんたちは普通、それくらいの強さになっちゃうと別の場所に移動しちゃうそうなんだ。
だからね、Cランク以上の冒険者さんたちはこの街にあんまり居ないらしいんだよね。
「もともと高ランク向けの依頼が少ない土地柄だからね。そこで一定の収入を得ようと思ったら、専属になるのが一番なんだよ。なにせ依頼が無くても一定のお金が入ってくるからね」
専属契約をするとお給料って形で決まったお金がもらえるようになるから、わざわざ別の場所で危険な事しなくっても良くなるでしょ?
だから家族がいる冒険者は、そう言う話があるとすぐに契約を結んじゃうらしい。
「まぁ少ないと言うだけで専属になっていないパーティーが全くいないと言うわけではないんだけど、そう言う人たちは例え指名してもやりがいのある依頼しか受けてくれないんだ」
それでも中には専属になってない人もいるそうなんだよ?
でもそう言う人たちはやりたくない仕事をしたくないから専属になって無いんだって。
「森の奥に行って強い魔物の素材を採ってきてほしいと言うのならともかく、流石にベニオウの実を採ってきてほしいと言っても彼らは絶対受けてくれないだろうね」
そんな訳で、ちょっとしかいないって言うCランク以上の冒険者さんたちに採って来てってお願いする事はできないんだよなぁって、商業ギルドの人はしょんぼりしちゃったんだ。
でもね、商業ギルドの人もこんなおっきいベニオウの実なんか初めて見るでしょ?
だから冒険者さんたちに採りに行って貰えないって解っても、やっぱりあきらめきれなかったみたいで、
「あのぉ、すみません。これを売ってもらう訳には?」
「だめだよ! これ、お土産だもん」
僕たちの持ってきたベニオウの実を売ってほしいって言いだしたんだよね。
でもこれはロルフさんたちにお土産に持ってくやつだもん。
だから僕、すぐにダメだよ! って言ったんだ。
そしたら商業ギルドの人は、やっぱりですかってしょんぼり。
「流石に無理ですよね」
「ああ。事情があって、俺たちももう一度採りに行くって訳には行かないからなぁ」
これがもしまだ階段がそのまんまだったら、ここにあるのを商業ギルドの人に売ってまた採りに行けばいいんだけど、もう壊しちゃったからそんな事もできないんだよね。
でも商業ギルドの人、しょんぼりしちゃっててかわいそうでしょ?
だから僕、ちょっとだけなら売ってあげてもいいよってお母さんに話したんだよね。
でもそしたら、
「商業ギルドは商品にするために買い取りたいと言ってるんだから、少しだけ売っても意味が無いのよ」
って言われちゃった。
でもなぁ、しょんぼりしちゃってるのを見ると、やっぱり何とかしてあげたくなっちゃうんだよね。
そしてどうやら、それはお父さんもおんなじだったみたい。
「さっきはどうせ無理だって言う話だったが、念のため一度冒険者ギルドに行ってみたらどうだ? 俺たちが一緒に行ってこの実を見せれば、ギルドが冒険者と専属契約を結んでいる人に頼んでくれるかもしれないし」
こんなおっきなベニオウの実は他にないでしょ?
だからもしかすると、冒険者さんたちを雇ってる人が欲しがるかもしれないから、もしそんな人が居たら商業ギルドの分も一緒に採ってきてもらったら? ってお父さんは言うんだよね。
そしてそれを聞いた商業ギルドの人は大喜び。
「いいんですか?」
「どのみち、今から街に戻るつもりだったんだ。冒険者ギルドは門のすぐ近くにあるんだから、少しくらい寄り道しても大した時間にはならないだろう」
こうして僕たちはロルフさんたちのいる錬金術ギルドに行く前に、ちょっとだけ冒険者ギルドに寄ることになったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
投稿前の加筆修正中、8割がた終わったところで誤ってページを閉じてしまって再度初めからやり直すことになり、大いにへこんでいる今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうかw
さて、ベニオウの実はただでさえかなりの高級品なのに、こんな大きなものを目の前にしたら商業ギルドとしては取り扱いたいと考えるのは当たり前ですよね。
それに買い手の方だって他の人が見た事もないようなものとなれば、なんとしても手に入れて周りに自慢したくなることでしょう。
特に貴族などは、社交シーズンのパーティーなどでこれを出すことができればかなりの武器になります。
なので、ハンスお父さんが考えた事は間違ってはいないんですよ。
ただ、採る事はできても運ぶ事はできるんだろうか? 冒険者ギルドんはルディーン君の様にフロートボードの魔法が使える人、一人もいないんだけどw




