323 残しとくと危ないんだよ
同じ木になってるんだから、硬い実も真っ赤になってる実も多分体にいいってのは変わんないと思うんだ。
だから絶対持ってかないとダメって訳じゃないけど、真っ赤になってるベニオウの実、とってもおいしいもん。
持って帰ったらロルフさんたちだって嬉しいに決まってるよね。
「でも、どうやって持ってこうかなぁ?」
こういう果物を運ぶ時って前の世界だとビニールってので作った緩衝材ってのでくるんでたよね?
僕が知ってるので似たような事が出来そうなのはブルーフロッグの背中の皮を煮たやつくらいだけど、近くにいるブルーフロッグを狩ったって煮る道具が無いから今ここで作る事はできないんだ。
だから僕、他に何か無かったかなぁ? ってちょっと考えてみたんだけど、代わりになりそうなものが何にも思いつかないんだよなぁ。
こんな風にちょっとの間考えてたんだけど、いい考えが浮かばなかった僕は何かない? ってお父さんに聞いてみる事にしたんだ。
「お父さん。こういう柔らかいのって、運ぶ時はいつもどうしてるの?」
「えっと……すまん、俺にはちょっと解らん。シーラ、お前ならこういう果物を昔からよく食べてたし、もしかしたら知ってるんじゃないか?」
「えっ? ええ、一応は知ってるわよ。ただねぇ」
お母さんが教えてくれた方法は、柔らかい布で作った袋に一個ずつ入れて、それをひもで吊るして運ぶって言う方法なんだ。
でもね、ここには柔らかい布なんかないでしょ?
それにもしあって袋が作れたとしても、この方法だと一人で二個ずつしか運べないんだよね。
だってひもに吊るしてある袋をいっぺんにたくさん持ったら、歩いてる時にぶつかって潰れちゃうもん。
だからこの方法だと、真っ赤になったベニオウの実を運ぶのは難しそうなんだ。
「そうだ! 卵を街に売りに行く時にやってるやり方は?」
「なるほど、あれか」
だから他になんかないかなぁ? って考えてると、レーア姉ちゃんがいい方法を思いついたんだよね。
グランリルの森にはクラウンコッコがいっぱいいるでしょ?
そのクラウンコッコは卵をいっぱい産むけど、それが無精卵だとひなが孵らないからってそこらに置いてっちゃうんだ。
そのおかげで森に行くとたまにその卵を見つけることができるんだ。
でね、クラウンコッコは魔物でしょ? だからその卵は普通の卵よりおいしいんだよね。
だからイーノックカウの商業ギルドから、もし街に来る時にある程度の数がとれるような事があったら売ってほしいって頼まれてるんだって。
レーア姉ちゃんが思いついたのは、そのうちの村からクラウンコッコの卵をイーノックカウに売りに行く時のやり方らしいんだ。
「ねぇ、お母さん。卵を街に売りに行く時は、どうやってるの?」
「それはね、箱の中に干し草を入れて、その草の中に卵を埋めるようにして運んでるのよ」
そっか、干し草を使えば馬車が揺れたって、卵が割れちゃわないもんね。
それにこの方法なら、真っ赤なベニオウの実も、潰れずに持って帰れるかもしれない!
そう思った僕は、どうやったらいいのか考える事にしたんだ。
干し草は近くに生えてる草にドライの魔法をかければすぐにできちゃうけど、でもここには木箱なんか無いよね。
そりゃあ木だったら周りにいっぱい生えてるけど、それを切る道具が無いから階段を石で作ったんだし……。
って、そうか! 階段を壊して、それを材料にして石の箱を作ればいいじゃないか!
そう思った僕は早速みんなにそのお話をしてみたんだよ?
「え~。この階段、壊しちゃうの?」
でもそしたら、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんがそんなのダメだよって。
何でかって言うとね、これがあればいつ来てもベニオウの実が採れるでしょ?
だけど壊しちゃったら、次来た時に採れなくなっちゃうってお姉ちゃんは思ったみたいなんだ。
「キャリーナの気持ちも解るけど、この階段はそのままにすべきじゃないと思うぞ」
でもそんなキャリーナ姉ちゃんに、お父さんは階段は残しておかない方がいいと思うよって言ったんだよね。
「え~、何で? せっかく作ったのに、なんでこわすの?」
「それはな、これをそのままにすると、危険な目に合う人が出てくるかもしれないからなんだ」
お父さんはね、この階段をそのままにしておくと、多分無理をしてでもなんとか採りに来ようと思う人が出てくるから無くさなきゃいけないんだよってキャリーナ姉ちゃんに教えてくれたんだ。
イーノックカウの冒険者ギルドにいる採取専門の人たちは、普通の動物にだって襲われたら怪我しちゃうかもしれないくらい弱いんだって。
でもベニオウの実は森の入口になってる普通のでもとっても高く売れるのに、この木になってるのだとおっきくてすっごく甘いから多分もっと高く売れるでしょ?
だからそんな人たちでもこんな階段を残して置いたら、きっと危ないって解ってても採りに来ちゃうんじゃないかなぁ? ってお父さんは言うんだ。
「それにだ。ルディーン、今は俺たち家族しか居ないから大丈夫だけど、ここに大人が大勢登ったら少し危ないんじゃないか?」
「大人の人がいっぱい? えっとねぇ……うん、多分壊れちゃうと思うよ」
この階段を支えてる柱って、ベニオウの木の根っこを傷つけないようにって思って作ったから結構細いんだよね。
だから僕たちだけで登るならいいけど、ここの実を採りに大人の人がいっぱい来たら壊れちゃうんじゃないかなぁ?
だって木の柱と違って、石の柱は固いから折れやすいもん。
それなのに大人の人がいっぱい登ってきて、さっきまでのお兄ちゃんやお姉ちゃんたちみたいにうろうろしてベニオウの実を採ったりしたら、柱が折れてこの床ごと落っこちちゃうかもしれないんだよね。
「まぁ俺やシーラならこの程度の高さから落ちても何とか怪我をせずに済むだろうけど、イーノックカウの冒険者たちだとまず間違いなく大怪我だろうな」
「そっか。冒険者さんたちがケガをしちゃうかもしれないんだね……」
お父さんのお話を聞いて、キャリーナ姉ちゃんも登った人が怪我をするかもしれないなら壊しちゃわないとダメかもって思い始めたみたい。
だからそれを見たお母さんが、他にもこの階段を残しておくと危ない理由があるんだよって教えてくれたんだ。
「ここから降りようと思ったら、どうしてもこの階段を使わないとダメでしょ?」
「うん」
「じゃあさ、イーノックカウの冒険者さんたちがここに登ってベニオウに実を採ってる時に、その人たちが倒せないような魔物がこの階段を登ってきたらどうなると思う?」
「あっ!」
このベニオウの木がある場所って、この森の中でも結構深いとこにあるでしょ? だから動物しかいない入り口付近と違って魔物がいっぱい居るんだ。
まぁ魔物って言ってもその殆どが一角ウサギ程度の強さだし、そりゃあ中にはちょっと強いのもいるけど、それでも僕らからしたら全然弱っちいんだよね。
だけどさ、そんな弱っちい魔物でもイーノックカウの冒険者さんたちにとっては、やっつけるのが大変な相手なんだって。
そんな冒険者さんたちでもこれが普通に森の中で出会ったのなら逃げる事もできるし、もし人数がいるなら取り囲んで狩る事もできるかもしれないんだよ。
けど、ここはベニオウの実を採るためだけに作った狭い床しかないでしょ?
だからもし上にいる時に魔物が階段を登ってきたら、きっと大変な事になっちゃうんじゃないかなぁ? ってお母さんは言うんだ。
「そっか。じゃあやっぱり、この階段はこわしちゃわないとダメなんだね」
「ええ、そうよ。それにね、ベニオウの実がここで採れることはもう解ってるんだから、後はこの木に登る方法があればいいんでしょ? 今は思いつかないけど、こんな階段を作らなくたって他に何かいい方法があるかもしれないじゃない」
お母さんの言う通り今日はわざわざ階段を作って登ってきたけど、もしかしたらもっと簡単に登れる方法があるかもしれないよね。
それにもしそんなのが無かったとしても、その時は何かないかなぁ? って考えればいいだけだもん。
次来るまでにはかなり時間があるんだし、みんなで考えたらきっとなんかいい考えが浮かぶよ!
「僕もなんかいい方法が無いか考えるから、キャリーナ姉ちゃんも一緒に考えよ!」
「うん。私もいっぱい考えるね」
「あらあら。考えるのはいいけど、その前にギルドで採取専門の人たちがどうやって採っているのかを聞くのが先じゃないかしら?」
「そっか。森の入口のを採ってる人、いるもんね」
森の入口なら木のはしごとかを持っていってるかもしれないし、いつも採りに行くからって木の枝からなわを垂らしてあったりするのかもしれない。
でももしかしたら木に登るための魔道具とかがあるかもしれないもん!
そう考えた僕は、そんな魔道具がほんとにあったらいいねって、キャリーナ姉ちゃんと二人して笑いながらお話したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
折角作った階段ですが解体します。
採ったベニオウの実をここで食べるだけならたとえこのまま放置したとしても、こんな森の奥ですから多分誰にも気づかれる事なく朽ちていくだけでしょう。
でも採れた実を持って帰るとなると、後々この階段が騒動の火種になるのは目に見えていますからね。
しかし、今回もベニオウの実を持って帰るところまで行けなかったかぁ。
まぁ流石に次回は街に戻ると思いますけどね。
とは言っても実はある事を考えているので、それも絶対とは言えないんだけどw




