317 欲張りさんはね、後で食べられなくなっちゃうんだよ
お兄ちゃんやお姉ちゃんたちがイーノックカウでお留守番してる時に何をしてかのかを聞いてるうちに、ベニオウの実はみんなのお腹の中へ。
このベニオウの実なんだけど、まず最初は全員で1個ずつ食べたんだよ。
でもそうすると、12個買ったんだから5個余っちゃうでしょ?
だからそれをどうしよっかって話になって、そのうちの3個を僕とお兄ちゃんお姉ちゃんたちの5人で分けて食べる事になったんだ。
じゃあ、後の2個をお父さんとお母さんの二人で一個ずつ食べたのかって言うとそうじゃないんだよね。
だって1個は残しておかなかったら、森ん中でベニオウの実を探すことができなくなっちゃうもん。
と言うわけで、残りの1個をお父さんとお母さんの二人で……分けずに、お母さん一人で食べちゃった。
だからね。僕はお母さんに、
「お父さんがかわいそうじゃないか!」
って怒ったんだけど、そしたらね、お父さんが食べてもいいよって言ってくれたんだって。
それを聞いた僕は、お父さんにほんと? って聞いたんだけど、そしたら、
「ルディーンが魔法で探すのなら、森の中で間違いなく採れるだろ? なら今食べなくてもいいじゃないか」
だってさ。
「そっか。森ん中に行けばいっぱいあるもんね」
「ああ、そうだろ? それにな、果物や木の実って言うものは採れたてが一番うまいんだぞ。それなのに、こんなとこでいっぱい食べてたら、後で食べられなくなるじゃないか」
そう言って笑うお父さんと、しまったって顔するお母さん。
そう言えばお母さんはおっきなベニオウの実を二つも食べてるもん。
あんなに食べたら、後で採れたてのおいしいのがあっても食べられなくなっちゃうかもしれないね。
「やられたわ。まさか、ハンスがそんな事を企んでたなんて」
「はははっ、まさかそんなはずないだろう。あれはルディーンが俺の事を可哀そうだって言ってくれたから、そう答えただけさ」
ぷりぷり怒ってるお母さんに、にこにこしながらそう話すお父さん。
そんな二人を先頭に、僕たちはまた森の中に入ってきたんだ。
と言うわけで僕はさっそく手に持ったベニオウの実を鑑定解析。
その結果を思い浮かべながら探索魔法を使ってみたんだけど、そしたらちゃんとベニオウの実がなってる場所が解ったんだよね。
「やった! ちゃんとベニオウの実があるとこが解るよ」
「ほんと? ルディーン」
「ほんとだよ、キャリーナ姉ちゃん」
でね、それを教えてあげたらキャリーナ姉ちゃんは大喜び。
早く採りに行こうよって、お母さんに言ったんだ。
「いや、それはやめておいた方がいい」
ところが、お父さんがそれに反対したもんだから、僕とキャリーナ姉ちゃんはびっくりしちゃったんだ。
だから何で!? ってお姉ちゃんは怒ったんだけど、そしたらそれを採っちゃうと困る人が居るんだよって、お父さんが僕たちに教えてくれたんだ。
「ポイズンフロッグの時もそうだったが、ルディーンの魔法はそこにさえあれば必ず見つけてしまう。でも、もしそれを全部採ってしまったらどうなると思う?」
「ほかの人がこまっちゃう?」
「そう。その通りだよ、キャリーナ」
僕ね、ベニオウの実がほんとに見つけられるかどうか早く知りたくって、森の入口からそんなに離れてないとこで魔法を使っちゃったんだよね。
でもね、だからってこの辺りのを僕たちがみんな採っちゃうと、イーノックカウで採取を専門にしてるGランクの冒険者さんたちが困っちゃうんだって。
「それにな、さっき商業ギルドで買った値段を考えると、採取をしている人たちにとってベニオウの実は本当に大事な収入源になってると思うんだ。だからこそ森の奥に入れない人たちに、この辺りの物はとっておいてあげた方がいいとお父さんは思うぞ」
お父さんはね、僕に見つかったベニオウの実はそれほど多くないんじゃないか? って聞いてきたんだよ。
だからもういっぺん調べてみたんだけど、そしたらほんとに1か所に2個か3個ずつしかなって無かったもんだから、僕はびっくりしてお父さんになんで解ったの? って聞いてみたんだ。
そしたらね、いくら傷みやすいからって言ってもいっぱい採れるんならあんなに高くなるはずないから、そうなんじゃないかって思ったんだって。
でね、お父さんはその話をキャリーナ姉ちゃんにして、そう言うのはいっつも採りに来てる人たちに残しておいてあげようねって笑ったんだ。
キャリーナ姉ちゃんもお父さんの意見に頷いてくれたもんだから、僕たちはもっと森の奥の方へ行くことに。
「ねぇ、お父さん。どれくらい奥に行った方がいい? やっぱりさっき行ったとこまで?」
「そうだなぁ。1か所にあまり実が多くなってないとなると、やっぱり誰も採りに行かないところまで行った方がいいんじゃないか?」
僕は最初、朝行ったとこらへんでいいのかなぁ? って思ったんだよ?
けど、あんまり採れないんだったらもっと奥の方へ行った方がいいよってお父さんは言うんだ。
なんでかって言うとね、奥に行けば行くほど採る人が少なくなるから、1か所にいっぱいなってるかもしれないからなんだって。
「一つの実が大きくなるまでにどれくらいかかるか解らないけど、熟して落ちるのよりは人の手で採られる方が早いだろうからなぁ。そう考えると、もう少し奥の方へ行けば一か所の実を採るだけで俺たち全員が食べられるくらいなっているところも出てくるんじゃないか?」
「そっか。じゃあ、もっと奥の方まで行こうね」
と言うわけで、僕たちはどんどん森の奥の方まで進んでったんだよ。
でもね、ちょっと調子に乗ってたみたい。
「ねぇ、ハンス。流石に奥に来すぎよ。この辺りって確か、ギルドマスターがポイズンフロッグを狩ってほしいって頼んできた範囲より奥じゃないの」
「おっと、確かにそうだな」
僕たちがポイズンフロッグをやっつけて回ってたからなのか、この辺りにはあんまり魔物がいなくなってるんだよね。
でもそのせいでずんずん進めちゃったもんだから、気付かないうちにこんな奥まで来ちゃったみたいなんだ。
「ルディーン、流石にこの辺りまでは採取専門の人たちも来れないだろうから、そろそろ魔法で探してもいいぞ」
「うん! じゃあやってみるね」
お父さんがいいよって言ってくれたから、僕はさっそく探索魔法でベニオウの実を探してみる事にしたんだ。
でもね。
「あれ?」
「どうしたんだ、ルディーン? もしかして、この辺りには無いのか?」
「ううん。ちゃんとあったよ。でも、ちょっと変なんだ」
森の入口んとこにあったベニオウの実は1か所にちょっとずつしかなかったでしょ?
なのに魔法で帰ってきた反応からすると、この辺りのはみんなすっごい数、なってるみたいなんだよね。
だからお父さんにその事を教えてあげたんだけど、そしたらそんなに不思議な事か? って逆に聞き返されちゃった。
「さっきも言ったろ。この辺りまでは採取専門の冒険者は来ないんだから、ここにあるベニオウの実は熟して落ちない限り減らないんだ」
「そっか。じゃあ別におかしくないんだね」
森の入口んとこだとほんとにちょっとずつしかなかったもんだから、いくら多いって言っても僕、そんなにいっぱいなってるなんて思ってなかったんだよね。
でももしかしたら森の入口んとこにあるベニオウの実だって、誰も採らなかったらこれくらいなってるのかもしれないもん。
それだったら反応が返ってきたくらいいっぱいあっても、全然おかしくないか。
「それで、ルディーン。その見つかったベニオウの実はどの辺りにあるんだ?」
「えっとね……あっ、ここってこないだ幻獣がいたとこだ」
どうせ行くなら、一番いっぱいあるとこに行くのがいいよね?
だから見つかった中で一番反応が多かったとこを探してみたんだけど、そしたらなんとそこは幻獣を最初に見つけたとこのすぐ近くだったんだ。
「ねぇ、お父さん。もしかして幻獣も甘いものが好きで、ベニオウの実を食べてたのかなぁ?」
「いやいや、幻獣には口が無いから食べるのは無理じゃないか?」
だから僕、幻獣もベニオウの実が大好きないのかなぁ? って思ったんだけど、お父さんは食べるわけないから偶然だろ? だって。
でもそう言えば、違う世界から来る魔獣と幻獣の違いはお口があるかどうかだって言ってたよね。
だったら、お口が無い幻獣が食べるわけないか。
「まぁそれはともかくとしてだ、一度行ったことがある場所なら解りやすくていいな。それじゃあ行くぞ」
「うん! 美味しいのがいっぱい採れるといいね」
一度行ったことがあるとこなら、いっつも森を歩いてるお父さんが迷うはずないもん。
だからそう言うお父さんを先頭にして、僕たちはベニオウの実がいっぱいなってるって言うその場所へと向かったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ベニオウの実ですが、こんな場所まで来なくても当然採れます。まぁ、森の入口でも採れるのですから当たり前ですよね。
ただ、実を言うとこんな奥地まで来れば貴重な薬草や香草、それに入口付近では採れない珍しい果物とかもたくさんあったりするんですよね。
でも、そんなものがある事なんてルディーン君たちは当然知りません。なので、後になってルルモアさんやアマンダさんから「せっかくそこまで行ったのなら、探してくれればよかったのに」なんて言われてしまうのは、また別のお話w




