316 お兄ちゃんたちは冒険者ギルドにいたんだってさ
「そう言えば、ディック兄ちゃんたちは何してたの?」
お姉ちゃんたちがペソラさんと一緒にいろんなとこへ行って遊んでたのは解ったよ。
でもお姉ちゃんたちが女の子だけで遊んでたって言うのなら、お兄ちゃんたちは別のとこに行ってたって事だよね?
そう思った僕は、ディック兄ちゃんに何やってたの? って聞いてみたんだ。
「最初の日は武器屋とか防具屋とかを周ってたんだけどなぁ」
「いくらイーノックカウが大きな街だからと言っても、そんなものが売ってる所は少ないから、すぐに見て回る場所がなくなっちゃったんだよね」
お兄ちゃんたちはね、初めのうちは何か珍しい武器とかないかなぁ? って装備を売ってるお店とかを見て回ってたんだって。
でもそう言うのを売ってるとこなんか、そんなにいっぱいないでしょ?
だからすぐにやる事がなくなっちゃったんだってさ。
「でな、どうせ暇だし、簡単な依頼でもないかなぁ? って思ったから、二人して冒険者ギルドに行ったんだよ」
「でも、森にはポイズンフロッグが出てただろ? だから奥は危ないって事で、碌な装備も持ってない僕たちがやれるような依頼は、全部他の人たちがもう受けていたんだよ」
いくらポイズンフロッグがいるから森ん中に入れないって言っても、冒険者の人たちだって何かはやらないとダメでしょ?
だから普段はやる人が少なくって余ってる森の外でできるお仕事とか、街ん中でできるお仕事とかは全部ほかの冒険者さんたちに取られちゃってたそうなんだ。
「そんなわけで、またやる事がなくなったんだけど、そしたら受付にいたお姉さんが声をかけてくれたんだ」
「受け付けにいたお姉さんって、もしかしてルルモアさん?」
「いや、別の人だよ。それでさ、きっとその人からは僕たちが冒険者になりたてに見えたんだろうね。だからやる事がないなら訓練でもしてみたらって言われたんだ」
受け付けのお姉さんはね、受ける依頼が無くってがっかりしてたお兄ちゃんたちを見て、ギルドの地下に狩りの練習ができる場所があるんだよって教えてくれたんだってさ。
それにね、そのお姉さんから簡単な武器の使い方なら教えてくれる人が居るんだよって教えてもらったもんだから、お兄ちゃんたちはお願いしますって頼んだそうなんだよ。
けど、
「訓練場にいた人たちの方がなぁ……」
「うん。みんな僕たちより、弱い人ばっかりだったんだよ」
その地下の訓練場で武器の使い方を教えてるって人たちより、お兄ちゃんたちの方が強かったんだってさ。
お兄ちゃんたちは僕よりずっと大きいけど、この街の冒険者さんたちからしたらまだ子供に見えるでしょ?
受付のお姉さんは、そんなお兄ちゃんたちの事を見て冒険者になったばっかりだって思ってたみたいなんだ。
だから初心者用の人に教えてあげてねって頼んでくれたそうなんだけど、お兄ちゃんたちは受付のお姉さんが思ってるよりずっと強いでしょ?
そんな訳で、その人だけじゃなくって地下で武器の使い方を教えてるって人たちみんなから、
「自分たちじゃ何ともならないからもっと強い人を呼ぶね」
って言われたんだってさ。
「と言うわけで、最初に教えてくれるはずだった人と一緒に受付に行ったんだけど、そしたらそこにルルモアさんがいてさ」
「そうそう。さっきの受付のお姉さんに、僕たちはグランリルの村から来たんだよって教えて、代わりの人を連れて来てくれるって言ってくれたんだ」
ルルモアさんはお兄ちゃんたちの事、知ってるでしょ?
だからもっと強い人じゃないとダメだよって、お兄ちゃんたちの相手をしてくれた受付のお姉さんに話したそうなんだよ。
そしたらお姉さんもお兄ちゃんたちに教えてくれるはずだった人も、びっくりしちゃったんだってさ。
でね、それじゃあ教えられる人なんて、このギルドにはいないんじゃないかなぁ? って受付のお姉さんたちは、誰かを呼びに行ったルルモアさんが登ってった階段を見ながらそう言ってたそうなんだけど、
「そしたら、ギルドマスターをルルモアさんが連れてきたもんだから、ほんとびっくりしたよ」
「でもそんな僕たちを見たルルモアさんは、君たちに教えられる人なんてギルドマスターしかいないに決まってるじゃないのって笑ってたんだ」
普通だったらさ、ギルドマスターのお爺さんが冒険者さんを直接鍛えるなんて事、無いんだって。
だからお兄ちゃんたちだけじゃなくって、受付のお姉さんや地下にいた教えてくれるはずだった人もびっくりしてたみたい。
でもギルドマスターのお爺さんはね、僕やお父さんたちに無理言って狩りに出てもらってるんだから、お兄ちゃんたちの面倒を見てあげるのは当然だよって言ったそうなんだ。
「へぇ、あのギルマスがねぇ」
「でも、それならいい経験になったでしょうね」
その話を聞いたお父さんとお母さんは、お兄ちゃんたちに良かったねって言ったんだよ。
なんでかって言うと、ギルドマスターのお爺さんはもう現役は引退してるけど、それでもお父さんより強いんだってさ。
それにね、ずっと長い間冒険者をやってたから、いろんなことを知ってるそうなんだ。
だからそんなギルドマスターのお爺さんに教えて欲しいなぁって思ってる人は、すっごくいっぱいいるんだってさ。
でもね、
「確かに貴重な体験なのかもしれないけど……あまりにきつくて、正直死ぬかと思ったよ」
「あれは絶対、狩りの訓練じゃないよね」
お兄ちゃんたちは村でやってるような狩りの練習がしたいって思ってたみたいなんだ。
でもね、それと違ってギルドマスターのお爺さんは冒険者として生き残るための訓練をするつもりだったみたい。
だから訓練場では、お兄ちゃんたちが受けられるぎりぎりの攻撃をいっぱいしてきたんだってさ。
「ほんとは逃げ出したかったけど、先に頼んだのは俺たちだしなぁ」
「そうそう。それにギルドマスターも熱心に教えてくれたから、結局最後まで付き合う事になったんだよね」
けどそのおかげで、最後の方ではお兄ちゃんたちがいつもは使わない盾での防御のやり方や、槍とか斧とかを使っての戦い方まで教えてもらえたんだって。
「え~、お兄ちゃんたち、いいなぁ」
「そう言うけどな、ルディーン。お前はそんなもの、使う事ないだろ?」
「僕たちはいろいろな武器や防具の知識が必要かもしれないけど、ルディーンには魔法があるからなぁ」
それを聞いた僕は、ディック兄ちゃんにそんなのの使い方を教えてもらえていいなぁって言ったんだよ?
でも、いらないだろ? ってお兄ちゃんたちから逆に言われちゃった。
僕は魔法で遠くから狩りをするよね?
これってお姉ちゃんたちやお母さんみたいに、遠くから弓で攻撃するのとおんなじだからそんな技術はいらないよって、ディック兄ちゃんは言うんだ。
でね、横で聞いてたレーア姉ちゃんも、
「私たちもその話を聞いてたけど、いらないよねって話してたのよ」
「うん。弓を使ってると盾なんて持ってられないもんね。それにヤリとかオノなんか、重くて私じゃ持てないもん」
って笑ったんだよ。
でもそっか。
そう言えば僕も遠くから魔法で魔物をやっつけるから、ディック兄ちゃんたちの言う通り、盾の使い方なんて知らなくても大丈夫なんだよね。
それに、いざとなったらプロテクションとか、ストーンウォールみたいな防御魔法もあるし。
だけど僕だって、いろんなカッコいい武器は使ってみたいんだよ。
「そうかもしれないけどさ。やっぱり僕だって槍とかを持って、えいやー! ってやってみたかったなぁ」
「いやいや、ルディーンはキャリーナよりもっと小さいんだから、流石に無理だろ」
「そうよね。もし本当に槍や斧が使ってみたいと言うのなら、少なくともレーアくらいまで大きくなってからの方がいいわね」
でもね、お母さんは、僕はまだ小さいからもっと大きくなってからねって言うんだ。
そしてお父さんも、僕が大きくなって槍とか斧を使ってみたいって思う事があったら、その時はちゃんと教えてあげるねって約束してくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
お兄ちゃんズは冒険者ギルドで普段の狩りでは使わない武器の扱い方や、盾を使った防御の技術をギルドマスターから直々に手ほどきを受けていました。
でもこれって、実は結構すごい事なんですよ? なにせ基礎的なものと違って、そう言う技術は自分の命を守る物なので、それを教えるという事は同時にその技術の弱点も相手に教えるって事ですからね。
だから本来は親くらいからしか教えてもらえる事は無いからなんです。
それを知っているからこそ、お父さんお母さんはいい経験ができたねって言ったわけです。




