305 幻獣には魔法の方が効くって知らなかったみたい
あんまりあっけなく幻獣が死んじゃったもんだから、お父さんは今でも遠くの方でボーっとしてる。
それに僕も、まさかロックランス一発で死んじゃうなんて思わなかったから、おんなじようにそんなお父さんをぼーっと見てたんだよ。
でもね、お母さんは直接戦わなかったからなのか、一番早く立ち直ったみたいで、
「えっと、思ってたのより弱い幻獣だったのかしら?」
こんな事言いながら、僕の手を引っ張ってお父さんがいるとこまで連れてったんだ。
「ハンス、いつまで呆けてるの? ほらルディーンも、シャキッとしなさい」
でもね、僕もお父さんもまだ何が起こったのかよく解んなくってぼーっとしてたもんだから、お母さんに怒られちゃった。
「あっああ、そうだな。とりあえず幻獣討伐は終わったようだし、戦利品が落ちてないか探してみるか」
だからお父さんは慌ててさっき幻獣が紫の霧になっちゃったとこに行って、何か落ちてないか周りをきょろきょろ。
そしたら、何かを見つけたみたいで、
「何だ、これ? 透明なお皿か?」
丸くて透明なお皿みたいなのを拾って、僕たちのとこに持ってきたんだ。
「確かにお皿に見えるわね。でもこれ、下が丸いから物を入れてもすぐにこぼれちゃいそうよ」
「確かになぁ。それにこれ、やけに柔らかいんだぞ」
幻獣が落としたものが、よく解んないものだったでしょ?
だから、お父さんとお母さんはそれを裏返したり引っ張ったりしながら、ホント何に使うんだろう? ってお話を始めちゃったんだよね。
でもね僕、実はこれが何なのかは知ってたんだ。
けど、お父さんたちにそれを教えてあげる事はできないんだよ。
なんでかって言うと、僕もそれが何に使うものなのか知らないから。
あれはね、フライングアイの角膜って言うアイテムなんだ。
このアイテムはフライングアイ系の魔物ならどんなのでも落とすアイテムで、ドラゴン&マジック・オンラインの頃は強いのはよく落とすけど、弱いのは殆ど落とさなかったんだよね。
でも、さっきやっつけた幻獣はロックランス1発で死んじゃったでしょ?
それなのにこれを落としたって事は多分、今回は運が良かったんじゃないかなぁ。
で、肝心の使い道なんだけど、これって何かの生産系職業でよく使う素材だったみたい。
そこまで解ってるのになんでみたいってつけたかと言うと、僕はあんまり生産をやってなかったから、これが何になるのか解んないからなんだ。
ただ、さっきも言った通り高レベルになるといっぱい落とすのに、それでも値段が下がらずにずっと売れてたんだよね。
って事はだよ、これって多分いろんな使い方ができるんじゃないかなぁ?
だったらちゃんと持って帰れば、きっとギルドマスターのお爺さんやルルモアさんがこれの使い方を教えてくれると思うんだよね。
「ねぇねぇ。それが何なのかなんて、見てても解んないんだから帰ろうよ。みんな、心配してるよ」
「おお、そうだな。特にルルモアさんはルディーンの事を気にしてたから、早く無事な顔を見せてやらないとな」
と言うわけで僕たちは、戦利品の角膜を持ってイーノックカウの冒険者ギルドに帰ってったんだ。
「おかえりなさい。幻獣は無事退治できた? ルディーン君は、ケガなんかしてないわよね?」
ルルモアさんは、やっぱり心配してくれてたみたい。
僕たちが冒険者ギルドに入って行ったら、カウンターから飛び出して来て、そう言いながら僕の体をペタペタと触りだしたんだ。
「大丈夫だよ。僕、どっこもケガしてないもん」
だからね、僕は元気だよって教えてあげたら、ルルモアさんはやっと僕から離れてお父さんたちの方を見たんだ。
「それでカールフェルトさん。幻獣は?」
「倒しましたよ。いや、俺からすると倒されましたよって言った方がいいのかな?」
「えっ、それはどういう事です?」
お父さんが変な言い方したもんだから、ルルモアさんは頭をこてんって倒しながら、どういう事? って聞いたんだよね。
でもその話はここじゃできないからって、みんなしてギルドマスターのお部屋に行くことになったんだ。
「なるほど。では幻獣には魔法が有効だったのだな?」
「ええ。俺も最初に一撃入れたけど、それでひるんだ様子は見せなかった。なのに、ルディーンの魔法は一発で紫の煙にしてしまったからびっくりしたよ」
ギルドマスターのお爺さんは、幻獣が魔法でもやっつけられることを知らなかったみたい。
でね、お父さんが魔法の武器で叩いてもあんまり効かなかったのに、僕の魔法だとすぐにやっつけられたって聞いたもんだからびっくりしちゃったんだ。
「前にルルモアから聞いた事があるが、ルディーン君は使う魔法と言うと確かマジックミサイルか。それ一発で倒せたのか?」
「いや、いつものとは違う魔法だったぞ。おい、ルディーン。あれって何て名前だったっけ? 地面から石のトゲが出てくるやつ」
「幻獣をやっつけたやつ? ロックランスだよ」
お父さんが何だっけ? って聞いてきたから魔法の名前を教えてあげたんだけど、そしたら今度はそれを聞いたルルモアさんがびっくりして僕に声をかけてきたんだ。
「ルディーン君、ロックランスが使えるの!?」
「うん、使えるよ。でもね、あの魔法を狩りで使ったのは初めてなんだ。だって皮におっきな穴が開いちゃうし、変なとこに刺さったらお肉も食べられなくなっちゃうもんね」
ロックランスって下から石の槍が出て攻撃するから、使うとお腹に刺さっちゃうでしょ?
でも、それだと刺さった場所によってはお肉が臭くて食べられなくなっちゃうかもしれないんだって。
だから僕、お父さんにあの魔法は絶対魔物を狩る時に使っちゃダメだよって帰ってくるときに言われちゃった。
「はぁ。あっさり言ってるけど、それって結構すごい事なのよ」
「そうなのか? ルルモア」
「はい。ロックランスは帝都にいる魔法師団でも使えるものはあまりいないようです」
ロックランスって何レベルで覚える魔法なのかは解んないけど、そう言えば僕もブラウンボアをやっつけて一気にレベルアップするまで使えなかったっけ。
でも、確かあの時は10レベルだったはずだから、それ以下で使えるようになるのは間違いないよね? なのに、あんまり居ないの?
そう思った僕はルルモアさんにその事を聞いてみたんだけど、そしたら当たり前じゃないのって笑われちゃった。
「攻撃系の魔法はね、ただ発動するだけじゃ小石を投げる程度の威力しか出ないのよ。だからきちんと魔法の威力が出ると確認されているレベルになるまでは誰も覚えようとしないから、高レベルの魔法ほど使える人は少ないわ」
魔法って呪文の発音を覚えるのが大変でしょ? だから、レベルが上がってもすぐに使えるようになるわけじゃないんだって。
それに、同じようなレベルだと飛んでる魔物に当たらないロックランスよりフレイム・ボルトとかの方がいいから、使える人はあんまり居ないんだってさ。
「けど、フレイム・ボルトよりロックランスの方が威力は上らしいのよね。だからお金に余裕がある人や、魔法の発音がうまい人は習得してるそうよ」
「そっか。でも、もしとっても強い魔物が帝都を襲ってきたら困るでしょ? なら、強い魔法も覚えないとダメなんじゃないの?」
「そうよね。だから魔法師団の中でも攻撃魔力の数値が高い人なんかは、特別に帝国がお金を出して覚えさせているらしいわよ」
もしお金がなくって強い魔法が使えなかったら、なんかあった時に困っちゃうもんね。
だから帝都にいる魔法が使える兵隊さんはみんなステータスの数値を見る事ができる鑑定士さんにみてもらって、優秀な人は国がお金を出して魔法を覚えさせてくれるんだってさ。
と、ここでギルドマスターのお爺さんが何かに気付いたみたいで、ルルモアさんに声をかけたんだ。
「ん? 待て、確かグランリルには魔法使いはいないのではなかったか?」
「ええ、いませんよ」
「という事は、もしやこの子は……」
「ええ。多分誰にも習わずに、自分一人でロックランスを使えるようになったのだと思います」
それを聞いてギルドマスターのお爺さんはすっごくびっくりした顔になっちゃった。
でね、それを見たルルモアさんはと言うと、
「何を言っているんですか、ギルドマスター。だから私もさっきルディーン君に、凄い事なのよと言ったじゃないですか」
って言いながらお口に手をあてて、楽しそうに笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
この世界の兵士のレベルは全体的に低いですが、流石に帝都にいる精鋭や魔法師団のように特別な人たちはそこそこ強いです。
でも魔法使いは金持ちや貴族ばかりなので、兵士のように魔物を演習で狩ってレベル上げをするような事がほとんどないんですよね。
だから帝都の魔法師団とはいえ、ロックランスを使えるほど高レベルになるまでには結構時間がかかってしまいます。
と言うわけで、実はルルモアさんが話してたお金の問題だけじゃなく、年齢のせいで発音を身に着けるのに苦労して使えないなんて人も案外多かったりw




