304 幻獣をやっつけろ!
森ん中に入った僕たちは、前に幻獣を見つけた場所の方へ向かったんだよ。
でね、結構奥まで来て、そろそろ前にいた場所まで魔法で調べれる範囲に入ったかな? って思った僕は、
「お父さん、ちょっと待って。一度魔法を使ってみるから」
そう言うと、そっちの方に探索魔法を使ってみたんだ。
「あれ? いなくなってる」
でもね、いろんな魔物や動物の反応は帰ってくるんだけど、前に見た幻獣の反応が返ってこなかったんだよね。
「いなくなったって、幻獣がか?」
「うん。前いたとこにはいないみたい」
もしかしたら魔法の範囲のギリギリ外にいるのかもしれないけど、とりあえず前いたとこやそれよりこっち側にはいないみたいなんだよね。
だからその事をお父さんに教えてあげたんだけど、そしたらね、近くにいないんだったらもっと近づいてから探してみようって事になったんだ。
「この辺りまでくればいいだろう。ルディーン、もう一度探してみてくれるか」
「うん!」
近づきすぎてもし見つかったらダメだから流石に前にいたとこまでは行かなかったけど、かなり近くまで来たもんだからお父さんに言われて僕は、もういっぺん魔法で周りを調べてみたんだよ。
そしたらね、探してる幻獣の魔力反応は前いたとこと全然別なとこから帰ってきたんだ。
「お父さん。あっちの方にいるよ」
「あっちって、昨日の場所とは全然方向が違うじゃないか」
だから僕、幻獣がいる方向を指さして教えてあげたんだけど、それを聞いたお父さんはびっくり。
「これは、ルディーンを連れてこなかったら多分見つけることができなかったわね」
「ああ。当初の予定通り置いて来ていたら、今日中に討伐する事はできなかっただろうな」
でね、お父さんたちはやっぱり僕がいてくれてよかったって、二人して褒めてくれたんだ。
無事に幻獣が見つかって、ひと安心。
僕たちはとりあえずその場所へと向かって行ったんだよね。
「いたわ」
そしたら、お母さんが遠くの方にいる幻獣を一番最初に見つけて、僕たちに教えてくれたんだ。
「確かに、昨日見たあいつだな」
幻獣を見てそう言ったお父さんは、そこから目を離すと今度はゆっくりと周りを見渡し始めたんだよね。
なんでそんな事してるのかって言うと、今いる場所の地形を確認するため。
「風下があっちだから、近づくためには……」
でね、どうやって幻獣をやっつけるのかをお母さんとお話をして、作戦をパパッて決めちゃったんだ。
と言うわけで、いよいよ幻獣をやっつけるぞって事になったんだけど、その前に僕、聞いときたい事があったんだ。
「ねぇ、お父さん。幻獣って魔物や動物みたいにやっつけた後素材を取るの?」
「素材? なんでそんなこと聞くんだ?」
「あのね、あれをやっつけるのに僕も魔法を撃つことになってるでしょ? だけど魔物とおんなじように素材を取るんだったら、穴を開けちゃいけないとこがあるんじゃないかなぁ? って思ったんだ」
魔物相手だったら頭とか狙ってやっつければいいでしょ?
でも、あの幻獣って真ん丸な体に羽が生えてるだけなんだもん。
だから、どこ狙ったらいいのか解んなくて聞いてみたんだけど、そしたらお父さんからびっくりする答えが返ってきたんだ。
「それなら大丈夫。幻獣ってのはな、倒すと何故か紫の霧になって消えちまうって話だ」
「ただ全部が霧になる訳じゃないらしくて、体の一部が残る事があるらしいのよ。だから一応、倒したらその周りの確認だけはしないといけないらしいわ」
なんと、幻獣ってやっつけたらいなくなっちゃうんだって。
それにその後に素材が残ってる事があるなんて、何かゲームの中みたいだよね。
「聞いた話によると、幻獣ってのはこの世界に来るときに体のすべてを持ってきてないんじゃないかって言われてるんだぞ」
でもゲームと違って、なんでそんな事になるのかが解ってるみたい。
お父さんが教えてくれたんだけど、違う世界から来るのに魔獣はちゃんと体ごと来てるけど、幻獣は魔力だけでこっちに来てるんじゃないかって偉い学者さんが言ってるんだって。
「魔力だけなら体が通らないような小さな穴でも通る事ができるだろ? だからあれは幻獣の本体が、いた場所からこっちの世界を見るために送って来てるんじゃないかって話だ」
「そっか。だから、おめめしかないんだね」
手も足も、それにお口だってないもん。
あんな動物がいるはずないけど、それが生き物じゃないって言うんなら解るよね。
「ああ。偵察だけなら、目玉だけで十分だからな」
と言うわけで、幻獣のどこに魔法を当ててもいいんだって。
でもね、それを聞いた僕はもう一個聞いてみたい事ができたんだよね。
「お父さん。じゃあさ、マジックミサイルじゃないのを使ってもいい?」
「ん、どういう事だ?」
僕はね、いつもは皮やお肉に傷がついちゃうから他の魔法は使わないで、いっつもマジックミサイルを使ってるんだよってお父さんに教えてあげたんだ。
でも、幻獣は素材を取らないんでしょ?
だったらさ、もっと強い魔法を使ってもいい? って聞いてみたんだ。
「強い魔法か。それは近くにいる俺を巻き込んだりはしないんだな?」
「うん。一匹にしか効かない魔法だから大丈夫だよ」
範囲魔法だと巻き込んじゃうかもしれないし、火の魔法や電撃の魔法だとお父さんが怪我しちゃうかもしれないけど、そうじゃなかったら多分大丈夫なんじゃないかな?
「あっ、でも初めて使うから、お父さんも一回叩いたらちょっと離れてね」
「ああ、それは大丈夫だ。俺も初めて戦う相手だからな。流石に切りかかってすぐその場で足を止めての殴り合いをする度胸はない」
お父さんもね、最初から一発叩いたら離れて、相手を見ながらまた飛び込んで一発叩くって言う戦い方をするつもりだったんだって。
だから僕はそんな心配しないで、幻獣がお父さんの方を見てから魔法を撃つんだよって言われたんだ。
お父さんが予定の場所に行くまでの間、僕はどんな魔法を使おうかなぁ? って考えてたんだ。
ここは森ん中だから、火の攻撃魔法フレイム・ボルトは火事になっちゃうかもしれないから当然使っちゃダメでしょ?
それに僕が使える水の攻撃魔法は、範囲魔法のウォーター・スプラッシュだけだからやっぱりダメ。
それにまだ電撃とかのすっごく強い魔法は使えないから、残ってるのは4つの基礎属性のうちの二つ、風と土の魔法だよね?
と言うわけで、もういっぺん遠くの幻獣を見て考えてみたんだ。
風系統のウィンドカッターってゲームの時は敵1体の周りにちっちゃな竜巻を作って攻撃する魔法だったけど、この世界だともしかしたら近くにいるお父さんを巻き込んじゃうかもしれないよね。
って事は、土魔法しかないか。
土魔法ロックランスは地面から石の槍が飛び出して相手を攻撃する魔法だから見た目はちょっと地味なんだけど、でもこれならお父さんにケガさせる事は絶対ないもんね。
「よし。ロックランスでやっつけるぞ!」
僕が使う魔法を決めて、ふんすっと気合を入れてると、
「ルディーン、お父さんが配置についたみたいよ」
お父さんの準備ができたから始まるよって、お母さんが教えてくれたんだ。
だからいつでも魔法が撃てるようにって、僕は体の中に魔力を循環させる。
そして、
「おらぁ!」
わざと幻獣の注意を引くように、おっきな声を出しながらお父さんが切りかかったんだ。
でね、予定通りお父さんが一回叩いてすぐに後ろに飛びのいてくれたから、僕はすぐに準備しといた魔法の呪文を唱える。
「ロックランス!」
そしたらすぐに魔法が発動して、下から土の槍が飛び出して幻獣をブスリ。
でね、それを見た僕は、またお父さんが切りかかったらもういっぺん魔法を撃つぞって魔力を循環させようとしたんだけど……。
シュウッ。
幻獣がその一発であっけなく紫の霧になっちゃったもんだから、それを見て僕たちはびっくりしちゃったんだ。
えっと……もしかして、これでもう終わり?
読んで頂いてありがとうございます。
多分皆さんが想像していた通り、幻獣はルディーン君の魔法一発でやられてしまいました。
上級職である賢者であり、レベル差もあるルディーン君が魔力耐性を持たない幻獣を魔法で攻撃したのだから当たり前ですよね。
因みにルディーン君は気が付きませんでしたが、実はこの幻獣、鑑定解析で調べる事ができたんですよ。
そしてそうする事により、この魔物の名前がフライングアイ・パピィであるとか、高い物理耐性を持つが魔法には弱いと言う情報が手に入るはずでした。
まぁ、すでに倒してしまったので後の祭りなんですけどね。
なにせこの幻獣は倒すと霧になってしまうので、他の魔物のように死体を鑑定解析で調べる事はできませんからw




