300 ほんとはね、みんな鍛冶屋さんに教えてもらうんだってさ
自分たちがこの皮は使えるとこなんかないよって言ったのに僕が何かしようとしてるもんだから、お父さんもニールンドさんもなんで解んないかなぁ? って顔してこっちを見てるんだ。
う~ん、教えてあげてもいいんだけど、でも今から何するのかを話してもし失敗しちゃったら恥ずかしいでしょ?
だからとりあえず、思った通りやってみる事にしたんだ。
と言うわけで、まずは道具作り。
僕は腰のポシェットに手を突っ込むと、いつも入れてる鋼の玉を何個か取り出したんだ。
「何だ、ルディーン。鉄で何か作るのか?」
「うん。この皮を切る道具を作るんだよ」
僕が鋼の玉の使い方を教えてあげたんだけど、そしたらお父さんは変な顔したんだよね。
だから何でだろう? って思ったんだけど、お父さんが言った次の言葉でその理由が解ったんだ。
「ルディーン。わざわざ作らなくても、解体用の小さなナイフを持ってるだろ? ポイズンフロッグの皮じゃないんだから、これならそれでも切れるんじゃないか?」
グランリルにいる人たちってみんな、いっつも解体用のちっちゃなナイフをポシェットに入れて持ってるんだよね。
お父さんは僕のポシェットにもそれが入ってるのを知ってるから、ブルーフロッグの背中の皮を切る道具を作るって聞いて変な顔になっちゃったみたい。
でもね、僕が今から作ろうとしてるのはただのナイフじゃないんだ。
「ナイフを作るんじゃないよ。ちゃんと皮を切る道具を作るって言ったじゃないか!」
「皮を切るのに、ナイフじゃないのか?」
だから違うよって教えてあげたんだけど、お父さんはよく解んないみたい。
でも、どうやって教えてあげたらいいのかなんて僕にも解んないから、とりあえず作って見せてあげる事にしたんだ。
「じゃあ作るね」
僕はそう言うと、何個かの鋼の玉を材料にしてクリエイト魔法を使ったんだよね。
そしたら、
「えっ!?」
それを見てたお父さんじゃなくって、なんでかニールンドさんがびっくりしてこんな声を出したんだ。
でも、その声で僕もびっくりしちゃったもんだから、クリエイト魔法は失敗。
鋼の玉は僕が思ってた形になる前の、へんてこな形で固まっちゃったんだ。
「ニールンドさん、どうしたの? 僕、びっくりしてクリエイト魔法、失敗しちゃったじゃないか!」
「えっ? あっ、ごめんなさい。だって、ルディーン君がいきなりクリエイト魔法を……と言うか、なぜ金属のクリエイト魔法が使えるのよ」
どうやらニールンドさんは、僕がクリエイト魔法で鋼の玉の形を変え始めたもんだからびっくりして声が出ちゃったみたい。
でもさ、なんでびっくりしたんだろう?
「さっきドライを使ったから、僕が魔法を使えるって知ってるよね?」
「ええ。それ以前に、ルルモアから聞いてるわ」
「だったらなんでびっくりしたの? ルルモアさんに見せた時はびっくりしなかったのに」
僕ね、ルルモアさんの前でもクリエイト魔法を使った事があるんだよね。
でもその時はすごいねって褒めてもらったけど、全然びっくりしなかったんだよ?
なのにニールンドさんは、なんでびっくりしたの? って聞いてみたんだけど、そしたら、
「ルルモアは冒険者の相手をするのが仕事だもの。クリエイト魔法がどれだけ難しい魔法かなんて知ってるはずないじゃない」
って言われちゃった。
でね、じゃあ何でニールンドさんはびっくりしたのかって言うと、冒険者ギルドで素材の買取や販売を担当してるから、魔道具を作る魔法使いさんの知り合いが多いからなんだってさ。
「クリエイト魔法はね、発動自体は魔法が使える人ならだれでもできるけど、作り変える物の性質がよく解ってないとうまく働かないそうなのよ」
これは僕も知ってる。
だって、前にロルフさんたちが教えてくれたし、石でかまどを作ろうと思った時も何度か失敗したもんね。
だからそう言ったんだけど、そしたらニールンドさんはびっくりする事を言い出したんだ。
「あら、知ってたの? って、そうか。グランリルなら鍛冶屋もあるだろうし、そこでやり方を教えてもらったのね」
金属のクリエイト魔法が使える人はね、みんな鍛冶屋さんや武器職人さんのとこに通って、鍛冶のやり方を教えてもらうんだって。
「普通の魔法使いは大人になってから覚えるから、クリエイト魔法がまともに使えるようになるまでに早い人でも1年以上、遅い人だと3年くらいかかるって聞いてたけど……」
どうやらニールンドさんは僕が村の鍛冶屋さんに教えてもらったんだろうって思ってるみたいで、うんうん頷きながら、やっぱり小さいころからやった方が覚えるのも早いって事なんでしょうね、なんて言ってるんだ。
でも、それを聞いてびっくりしたのは、横で話を聞いてたお母さんだ。
「ルディーン、いつの間にそんな危ない事してたの!」
僕、お家でもまだ一人じゃ火を使ったお料理をしちゃいけないって言われてるでしょ?
なのに鍛冶屋さんに行ってたなんて聞いたもんだから、お母さんは怒っちゃたんだ。
「そんな事、僕、やってないよ!」
でもね、鍛冶屋さんなんか教えてもらうどころか、お家ん中に入れてもらえたことも無いんだよね。
だから慌てて違うよって言ったんだけど、そしたらそれを聞いたお父さんも僕がそんなことやってないんじゃないかなぁ? ってお母さんに言ってくれたんだ。
「シーラ。ルディーンは朝のお手伝いに始まって、昼間もいろいろと村の仕事をしてるんだぞ? そんな暇があるはずないだろ。何より、こんな小さな子を鍜治場に入れると思うか?」
「そう言えばそうね」
鍛冶屋さんって真っ赤になってる鉄をいっつもトンテンカン、トンテンカンって叩いてて危ないから、子供は絶対入っちゃダメって言われてるんだよね。
だから僕が教えてって言いに行っても入れてくれるはずないよってお父さんが言ったもんだから、お母さんは僕にごめんねって謝ってくれたんだ。
「それじゃあルディーン君は、初めから金属のクリエイト魔法が使えたって言うんですか?」
でも今度はそれを聞いたニールンドさんが、びっくりした顔してこう聞いてきたんだよね。
そしたら、
「そう言えば、気付いたら使えるようになってたよなぁ」
「ええ。そう言えばもっと小さいころから、銅で(魔道具の)風車を作ってキャリーナと一緒に遊んでたわよね」
なんてお父さんとお母さんが言ったもんだから、何か一人で納得しちゃったみたい。
「なるほど。まだ何の先入観もない内に金属に触れていたわけですか。ならそれが原因かもしれないですね」
でもね、ほんとはそれってすごい事なんだよって僕たちに教えてくれたんだ。
「魔法使いは元々、結構高収入なんですよ。でも、その中でも金属のクリエイト魔法が使える人は特にお金が稼げるんです」
鍛冶屋さんや武器職人さんたちがいれば剣とかの武器や鍬みたいな農具は作れるよね?
でも、細かいものとか複雑なものは作れないから、そうゆうのが欲しい時はすっごく腕のいい彫金師さんに頼まないといけないんだって。
でもそんな人はあんまり居ないからとっても忙しいし、何処の街にもいるわけじゃないから、そんな時はみんなクリエイト魔法が使える魔法使いさんに頼むんだってさ。
「貴族様や大商会って重要な手紙を出す時は普通、中が見られていない事を確認するために自分や店の紋章を象った封蝋ってので留めるんです。だからもしそれに使う封蝋印が欠けたりした時は急いで作り直さないといけないんだけど、彫金師に頼むとかなり時間がかかってしまうでしょ? でも、クリエイト魔法が使える魔法使いに頼めば短期間で仕上がるって事で重宝されてるそうですよ」
それにね、そう言うお仕事をしててもし貴族様に気に入って貰えたら、専属の魔法使いとして雇ってもらえる事もあるそうなんだよね。
だから多くの魔法使いさんは、もし余裕ができたら鍛冶屋さんにお金を払って教えてもらうんだ! って思ってるんだってさ。
「ルディーン君もこんな小さい内から金属のクリエイト魔法が使えるなら、いつかは貴族様の目に留まるかもしれないわね」
そしたら一生安泰よって笑うニールンドさん。
でもね、僕は貴族様に仕える気なんてないんだ。
「僕は村で狩人やるんだもん。だからそんなお仕事、絶対しないよ。お父さんやお母さんと、ず~っと一緒にいるんだ!」
だから貴族様が聞いて来ても、僕がクリエイト魔法が使える事はないしょにしてねって言ったら、
「解ったわ。じゃあ、この話は内緒ね」
ニールンドさんはそう言って僕の頭をなでながら、にっこり笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
おかしい? ブルーフロッグの皮を使ってモノづくりをする回だったはずなのに、なぜかクリエイト魔法の話になってしまった。
金属のクリエイト魔法が実はとても儲かると言う設定は前から考えていて、どこかでこの話をしようとは思っていたのですが、まさかこのタイミングで書くことになるとは。
本当は前に金属製の試験管をルディーン君が作った時にロルフさんが話してた魔法使いを出して、その時に実は儲かるんだよってばらすはずだったんだけどなぁ。
おかげで彼の出番が無くなってしまったw




