294 ルディーン、久しぶりにこの世界の新たな秘密を知る
森の奥まで行くって事で、その日の狩りはこれでおしまい。
そして次の日の朝、僕とお父さん、お母さんの3人は街の門が開くのを待って森へ出かけたんだ。
「とりあえず、今日はこの川の上流に向かって探索するか」
「そうね。この川の近くにある池や沼も今日中に見て回れば、後が楽になるもの」
森の中にはちっちゃな水場がいっぱいあるんだよね。
でね、地図を見ると川以外のとこだと一個一個が結構離れてるから、そっちを先にすると大変なんだって。
だから今日はまず、水場が固まってる川周辺を見て回る事になったんだ。
ところが、
「う~ん、ギルドマスターが印した場所で、一番遠いのはここだよな?」
「ええ。この地図には、この先の事は書かれてないわね」
ギルドマスターのお爺さんがここまでなら行って帰れるだろうなぁって思ってた場所まで、どうやらお昼前に来れちゃったみたいなんだよね。
「さてはギルドマスターの爺さん。俺たちがポイズンフロッグを狩るスピードを読み間違えてるな」
「そうみたいね。まぁ流石に今のペースで狩れるとは思ってないでしょうから、仕方が無いと言えば仕方無いけど」
僕たち、ここに来るまでに結構な数のポイズンフロッグを見つけてやっつけてるんだよ。
でもね、やっつけたって言ってもやってるのは僕がスリープで眠らせたポイズンフロッグを、マジックバッグを持ったお父さんが順番に狩っては袋に入れて回ってるだけだもん。
だから殆ど時間がかかんなくって、どっちかって言うと途中で休憩しながらおやつを食べてた時間の方が長いくらいなんだ。
「どうする? 時間もまだ早いし、もっと上流まで調べに行くか?」
「そうね。これから別の場所に移動するとかえって時間がかかってしまうし、せっかくここまで来たんだから、もう少し先に進みましょう。ルディーンもいいわね?」
「うん、いいよ。もっと奥にいるポイズンフロッグも一緒にやっつけちゃお!」
と言うわけで、僕たちは冒険者ギルドで貸してもらった地図に書かれてるとこより、もっと奥まで進むことになったんだ。
「あれ? なんか変なのがいる」
地図に印が無いとこのポイズンフロッグを探すって言っても、僕の魔法を使ってるから今までとあんまり変わんないペースで先に進んでったんだ。
でもね、そんな風に森の奥の方に進んでったら、僕の探索魔法に変な反応があったんだよね。
「どうしたの? ルディーン」
「あのねぇ。なんか、変なのがいるんだ」
「変なの? と言うと、ルディーンが知らない魔物って事か?」
「ううん。僕が知らない魔物はこの森ん中にいっぱいいるもん。そんなのだったら、変なのって言わないよ」
僕の探索魔法って、一度出会ってないとそれがどんな動物や魔物なのかまでは解んないんだよね。
でもそんな知らない相手だって、返ってきた魔力の反応を見ればそれが動物なのか魔物なのかくらいは解るんだよ。
でもね、今僕の探索魔法に引っかかって返ってきた魔力はそのどっちでもなかったもんだから、僕は変なのがいるって言ったんだ。
「知らない反応ねぇ。それってどんな感じだ? 強いのか?」
「ううん。この森の中で言うと強いと思うけど、大体ブラックボアとおんなじくらいか、それよりちょっと弱いくらいだと思う。だからお父さんとお母さんがいれば全然怖くないと思うよ」
この変なのが何なのかは解んないけど、一応他の魔物とかとおんなじで強さは大体解るんだ。
だから僕、お父さんたちなら簡単にやっつけられると思うよって教えてあげたんだけど、
「動物でも魔物でもないけど、強さはブラックボアほどあるって事か。それはもしかすると、かなり厄介な相手かもしれないぞ」
そしたらお父さんがちょっと怖い顔になってこんな事言いだしたもんだから、僕はびっくりしちゃたんだよね。
「ええ。確かめてみない事には何とも言えないけど、最悪の場合、領主様に動いてもらわないといけなくなるわ」
その上、横で聞いてたお母さんまでこんな風に言いだしたもんだから、僕は急に怖くなっちゃったんだ。
「なんで? だって、ブラックボアくらいの強さなんだよ? お父さんやお母さんなら簡単にやっつけられるんじゃないの?」
「ああ、それが魔物ならな。だが魔物でも動物でもないんだろ? ならばそいつは多分、魔獣か幻獣なんじゃないか? って思うんだ」
「そうね。そしてもしそれが幻獣だった場合、今の私たちではどうしようもないって事になるわ」
魔獣や幻獣って確か、勇者様のお話に出てくる魔王や魔人たちと一緒にこの世界に来たすっごく怖い魔物の事だよね?
でも村の図書館にいるおじさんが、そう言うのはすっごく遠くにいるから僕たちにはあんまり関係ないって言ってたもん。
なのに、何でそんなのがこんなとこにいるの?
そう思った僕は、お父さんに聞いてみたんだよね。
「お父さん。魔獣とかって、すっごく遠いとこにいるんでしょ? こいつ、そんな遠いとこから来たの?」
「いや。そいつが本当にルディーンが言う通りの強さだとすると、多分魔力溜まりの活性化で小さな穴が開いたって事だろう」
そしたら遠くからここまで来たんじゃなく、魔獣とかがいる世界とつながる穴が開いてそこから来たんだよって、教えてくれたんだ。
魔力溜まりってね、活性化すると周りの魔物が強くなるだけじゃなくって、その力でダンジョンができちゃったりする事があるそうなんだ。
でね、そのダンジョンを調べてみると昔からそこにあったみたいに古かったりするもんだから、きっと別んとこから来てるんだろうって考えられてるんだって。
だから昔魔王がこの世界に来ちゃったのも、世界で一番おっきな魔力溜まりが活性化したことで魔王の住んでるお城の形をしたダンジョンがこの世界に移動したんじゃないかって言われてるんだよって、お父さんは僕に教えてくれたんだ。
でも、魔力溜まりが活性化したからって言って、それが全部ダンジョンになっちゃうわけじゃないそうなんだ。
ダンジョンができちゃうのはとっても強い力を持った魔力溜まりが、すっごく活性化した時だけなんだってさ。
「魔力溜まりの活性化は普通、漏れ出す魔力によって周辺の魔物たちが強化されたり普段とは違う属性に変質したりするだけなんだが、穴が開いたという事は今回のは予想以上に強い活性化だったのだろう。だが、この森の魔力溜まりそのものがそれほど強くないという事で、ダンジョンではなく小さな魔獣か幻獣がこちらに来てしまったと言うわけだ」
「そっか。じゃあ、他にもこんなのがいるわけじゃないんだね」
それを聞いてちょっと一安心。
でもね、そのおかげで一つ解んない事ができちゃったんだよ。
「ねぇ、お父さん。だったらなんで、お父さんやお母さんがやっつけられないの? だって1匹しかいないんでしょ?」
さっきのお話を聞いて、お父さんたちじゃやっつけられないのは僕の探知範囲より遠いとこにもっと強いのがいっぱい居るからなんだって僕、思ってたんだよね。
でもさ、これ1匹しかいないんでしょ? だったらこんな弱っちいの、お父さんたちなら簡単にやっつけられそうなのに。
「ああ。確かにその程度の強さであれば、俺もシーラも負ける事は無いだろう。だがそれがもし幻獣だったとしたら、勝つこともできないんだ」
「そうよ、ルディーン。幻獣はね、普通の武器では傷つける事ができないの」
違うとこから来たのって魔獣と幻獣ってのの二種類いるでしょ?
おんなじとこから来たはずなのに何で二種類に分かれてるのかって言うと、それは魔獣がこの世界の魔物とおんなじように普通にやっつけられるのに対して、幻獣ってのの方は特殊な武器じゃないと攻撃しても全然効かないからなんだって。
「たとえ幻獣であっても、その攻撃を盾や武器で防ぐことができる。だがな、こちらがいくら攻撃しても全く通じないんだよ」
「そんな! じゃあ、どんなに弱っちくてもやっつけられないじゃないか!」
「ええ、普通ならそうよ。でもね、ルディーン。そんな幻獣たちも、特別な武器を使えば倒すことができるの」
魔力溜まりがあるとこだと、いつ活性化して幻獣てのが出てくるか解んないでしょ?
だからそう言うとこには必ず特別な武器が置いてあって、普段は偉い人がそれを管理してるんだって。
でね、グランリルの村もアトルナジア帝国からそんな武器を貸してもらって、村長さんちで預かってるんだよってお父さんは僕に教えてくれたんだ。
「そっか! だからさっき、もし幻獣だったら、領主様にお願いしないとダメって言ったんだね」
「ああ、そうだ」
でね、お父さんはそうだよって頷くと、続けて僕にこう言ったんだよ。
「皇帝陛下からお借りしている特別な魔法の武器じゃなければ、幻獣を倒すどころか傷つける事さえできないからな」
読んで頂いてありがとうございます。
この世界にはルディーン君たちがいる世界と魔王たちがいた裏世界があります。そしてその裏世界とは、このように魔力溜まりを介してたまにつながってしまう事があるんですよね。
だから魔力溜まりがある領地には普通、1本で金貨数千枚以上する魔法の武器が領主に貸し与えられています。
ですが、なぜかグランリルでは村長宅にこの武器があるんですよね。それも金貨10数万枚するほど強力なのが。
これは何故かと言うと、グランリルの森にある魔力溜まりが比較的強いため、もし穴が開いた時は複数の魔獣や幻獣が現れる可能性があるのと、何よりあの村が帝国直轄領で領主=皇帝陛下なので、帝都にいる陛下に変わって村長がそんな高価なものを管理していると言うわけです。
それにいくら村長の家と言っても、そこはグランリルの村の中。並大抵の領主の館よりも、そのような武器が奪われる可能性は低いです。
まぁそれ以前に、皇帝陛下のものに手を出す者もいないんですけどね。そんな事をすればこの世界で最大級の国全体を敵に回すことになるのですからw




