２９２　僕たちは簡単だけど、みんなは大変なんだって

　商業ギルドに近くの水場が安全になったよって教えてから、僕たちはもう一回森の中へ。

　いつもだったら３匹狩ったポイズンフロッグを街まで持って帰らないとダメなんだよ？

　けど今日はマジックバッグを貸してもらってるから、このまま夕方まで狩りを続けるつもりなんだよね。

「しかし、思った以上に拡散してしまってるんだなぁ」

　さっき一度狩って魔力の反応を覚えたから、今はもうポイズンフロッグを魔法で探すことができるようになってるんだよね。

　だから今魔法で解る範囲にいるポイズンフロッグの場所をお父さんに教えてあげたんだけど、そしたら本当にいろんなとこに居るんだねってびっくりしちゃったんだ。

「さっきの水場にもかなり多くいたもの。冒険者たちが狩らなかったせいで、ブルーフロッグが想像以上に増えてしまっているみたいね」

「ああ、そうだな。多分ブルーフロッグが卵から孵る時期とポイズンフロッグの出現が重なったのが、こんな広範囲に広がってしまった原因だろう」

　ブルーフロッグって結構大きな動物なんだよね。

　だからそんなのが増えちゃったら、小さな水場にみんなで住んでられないでしょ？

　それに体が大きい分食べる物もいっぱいいるから、数が増えすぎるといくつかの群れに分かれちゃうんだって。

　お父さんはね、その時にポイズンフロッグも分かれた群れについてっちゃったから、こんな風にいろんなとこにいるんじゃないかな？　って言うんだよね。

「だがまぁ面倒になってはいるが、出現がもっと早い時期じゃなかったのは不幸中の幸いだな」

「そうね。産卵期前にポイズンフロッグが出ていたら、大変な事になっていたでしょうし」

　そのせいで僕たちはいろんなとこに行ってポイズンフロッグを狩らないといけなくなっちゃったんだけど、お父さんとお母さんはそれでもまだこの時期でよかったって言うんだよ。

　だから僕、何で？　って聞いたんだけど、そしたら、

「産卵期前だったら、この程度では済まなかったからな」

　だって。

　ポイズンフロッグって今は魔力溜まりの影響で魔物になっちゃってるけど、元はブルーフロッグだったんだよね。

　だからポイズンフロッグとブルーフロッグの間でも子供ができるし、その時はブルーフロッグが産んだ卵からでもポイズンフロッグが生まれちゃう事だってあるんだってさ。

「たとえばだ、同じ魔物同士で子供を作れば生まれてくるのはその魔物だ。だけど、元になっている動物と魔物が子供を作った場合、そのどちらが生まれてくるかは解らないんだ」

　思ったよりいっぱい居たって言っても、今この森にいるポイズンフロッグだけだったらすぐに増えるなんて事は無いんだよね。

　だってみんなバラバラになってるから、ポイズンフロッグ同士でつがいになる可能性は低いもん。

　でもブルーフロッグはいっぱいいるでしょ？　だからそのブルーフロッグと子供を作っちゃったら、すっごく増えちゃうかもしれないんだって。

「でもさ、どっちになるか解んないんでしょ？　だったら増えないかもしれないじゃないか」

「それがなぁ、今回の場合は、まず間違いなく大発生してたはずなんだ」

「ええ。ブルーフロッグって一度にかなり多くの卵を産むのよ。だからイーノックカウの冒険者がいくら狩っても絶滅しないんだけど、今回の場合、それが最大の問題なのよね」

　さっき動物と魔物が子供を作るとどっちが生まれてくるか解んないって言ってたけど、それは１匹だけを産む魔物の場合なんだって。

　でもブルーフロッグは一度にいっぱい卵を産むから、絶対ポイズンフロッグが生まれてきちゃうんだよって、お父さんたちは言うんだ。

「そっか。今でもみんな困ってるのに、もしいっぱい生まれてきてたら、もっと困っちゃうね」

「そうだろう？　だからな、ルディーン。きちんとすべてのポイズンフロッグを見つけ出して、退治しないとな」

「うん！　僕頑張って探すね」

　と言うわけで、僕たちは魔法で見つけたポイズンフロッグをどんどん狩って行ったんだ。

　でね、それで解った事があるんだけど、実はポイズンフロッグってそんなに強い魔物じゃないみたいなんだよね。

「ねぇ、お父さん。ポイズンフロッグって、強い冒険者さんじゃないと倒せないんじゃなかったの？」

「いや、本来はそうなんだ。けど、今回はなぁ」

　僕、あんまり簡単に狩れるもんだから、もっと強いんじゃないの？　って聞いてみたんだけど、そしたらお父さんは頭をかきながら苦笑い。

「ええ。本当だったら、私たちもこんなに簡単に狩れるはずが無いのよね」

　でね、お母さんもそう言いながら、目の前の光景を見てため息をついたんだよね。

　そんなお母さんが見てる先には、全部寝ちゃってるブルーフロッグとポイズンフロッグの群れが。

「ルディーンが全部眠らせてしまうからなぁ。これじゃあ、強い弱いは関係ないだろう？」

「そうよね。おかげで私、借りてきた弓を一度も射ってないのよねぇ」

　魔法で探すようになってすぐに解ったんだけど、どうやらポイズンフロッグって一角ウサギよりちょっと強い程度の魔物みたい。

　だからね、ほんとだったら低ランクの冒険者さんでもやっつけられるはずなんだよね。

　けど、ポイズンフロッグは毒を持ってるでしょ？

　強力な方の毒は攻撃をかわしたり盾で受けたりしたら何とかなるけど、麻痺の方は周りにばらまくから防ぎきるのが大変なんだって。

　だからそんなに強くないのに高ランクの冒険者さん向けの魔物だって言われてんだよって、お父さんが教えてくれたんだ。

「本当なら俺たちもシーラが遠くから弓で狙撃して倒すはずだったろ？　いくらそれほど強くないと言っても、１発の弓で魔物を倒そうと思ったらそれなりの威力がいるから、低ランクの冒険者では無理なんだ」

「そっか。そう言えばルルモアさんも、お母さんが来てくれてとっても喜んでたもんね」

　弓でやっつけられなかったら、近づいてきたポイズンフロッグに毒を吐かれちゃうもん。

　僕みたいにキュア・ポイズンが使えるんならいいけど、そうじゃなかったら毒消しを持ってくか、毒の耐性が上がるマジックアイテムを使わないとダメだもんね。

　それじゃあ、高ランクの冒険者さんじゃないとやっつけられないのも当たり前か。

「しかし、魔法と言うのは本当に便利なものなんだなぁ」

「ええ。魔物まで眠らせてしまうんですもの」

　お父さんとお母さんは、寝ちゃってるポイズンフロッグをやっつけながらこんな風に言うんだよ。

　でもね、そんな二人に僕は違うよって教えてあげたんだ。

「それは、このポイズンフロッグがあんまり強く無い魔物だからだよ」

「そうなのか？」

「うん。多分、ブラックボアとかだと寝ない方が多いんじゃないかな？」

　相手が弱ければ弱いほど、弱体系の魔法は効きやすいんだよね。

　だからそんなに強くなかったポイズンフロッグに、僕のスリープがすっごく効いたのは当たり前なんだ。

　それにね、これはステータス画面の中にある魔物のページを見て解ったんだけど、実はこのポイズンフロッグって魔物、睡眠耐性がすっごく低いみたいなんだよね。

　だからもしブラックボアくらい強かったとしても、多分スリープで寝ちゃったんじゃないかなぁ？

「そうなのか。この魔法があれば、狩りがかなり楽になると思ったんだがなぁ」

「村の近くの森だとあんまり効かないと思うから、今みたいに遠くからマジックミサイルを撃つ方がいいと思うよ」

「残念。楽ができるのは、このポイズンフロッグ狩りの間だけか」

「あら、それでも大助かりよ。この調子ならかなり早く終わりそうだもの」

「確かにな」

　お父さんとお母さんはニコニコしながら、二人して僕のおかげだよねっていっぱい褒めてくれたんだ。