290 貸してくれたのは、とってもいい弓なんだって
ルルモアさんから森に行くためのメダルをもらった僕たちは、さっそく街の外へ。
僕はそのまんま森に向かうんだって思ってたんだけど、
「ちょっと待って。初めての弓だし、狩りに行く前に少し試し打ちがしたいわ」
お母さんが借りた弓でいきなり遠くの的に当てる自信が無いから、どこかで練習をしたいって言いだしたんだよね。
でも、こんなとこで弓を射ったりしたら危ないでしょ?
だから僕たちは森へと続く道にかかってる橋を渡ってから、商業ギルドの天幕がある森の入口とは別の方に向かったんだ。
「この辺りなら大丈夫かしら?」
森を大回りするみたいにして歩いてたから、当然周りには他の人が誰もいない。
それにこの先には橋が無いから、川を渡って街の方から人が来る心配もないんだよね。
だから、ここでなら矢が狙ったとこに飛んでかなくっても誰かが怪我をする事もないよねって事で、借りてきた弓の試し打ちをする事になったんだ。
でも、
「ところで、肝心の的はどうするんだ?」
「そうねぇ」
この近くには何にもないから、的になるようなものが無いんだよね。
そりゃあ森に生えてる木ならあるよ? けど、そっちに向かって試し打ちをするわけにはいかないんだ。
なんでかって言うと、とっても危ないから。
お母さんが冒険者ギルドで借りてきたロングボウはね、普通のより強力だからとっても遠くまで矢が届いちゃうんだって。
人が居るとこだと試し打ちできないからってわざわざここまで来たのに、もし森に向かって射った矢が狙った木に当たらずにそのまま森の奥に飛んで誰かに当たったら大変でしょ?
だから、お父さんとお母さんは、どうしよっか? って考えこんじゃったんだ。
でも、そんな心配しなくてもいいんじゃないかなぁ?
「だったらさ、お母さんが試し打ちする方の森ん中に誰かいないか、僕が魔法で調べればいいんじゃないの?」
「なるほど、その手があったか」
だってこの先に人かいるかどうかなんて、魔法で調べればすぐに解るもん。
そりゃあ僕が初めてこの魔法を使った頃は、まだ400メートルくらい先までしか解んなかったよ。
けど今はレベルが上がったし、レンジャーのサブジョブまでついたおかげで、一方行だけに絞ればお母さんが持ってる弓でも届かないくらい遠くまで調べる事ができるようになってるんだよね。
だから僕、お母さんにどの木を的にするのか教えてもらって、その先に人がいないかどうかを調べてみたんだ。
そしたら、その先には小さな動物や鳥の反応はあったけど、どうやら人はいないみたい。
「大丈夫、僕の魔法でわかる範囲には誰もいないよ」
「そう。なら安心して試し打ちができるわね」
そう言うと、お母さんが背中から弓を降ろして、さっそく試し打ちを始めたんだ。
試し打ちの的にしてる木はとっても遠くにあるのに、お母さんの射った矢は一本も外れないもんだから、僕はもうびっくり。
「お父さん。お母さんの矢、あんなに遠くにある木なのに全部当たってるよ」
「ああ、初めて扱う弓だと言うのに、シーラの腕は流石だなぁ」
だから、それを僕とお父さんがすごいねって言いながら見てたんだけど、
「動かない的だもの。これくらい、うちの村ならできる人は結構いると思うわよ」
お母さんは、こんなのそんなに驚くような事じゃないよって笑うんだ。
それにね、貸してもらった弓もすごいんだって。
「変な癖のない、いい弓ね」
強力な弓って威力を出すために特別な素材を使って作るでしょ? だからそう言うのの中には使いにくいものが結構あるそうなんだよね。
でもギルドで貸してもらった弓は、とっても強いのに何度か矢を射ってもぶれずにちゃんと思ったとこに飛んで行ってくれるんだって。
だからお母さんは、自分の腕がいいからだけじゃないんだよって僕たちに教えてくれたんだ。
「ねぇ、ルディーン。周りのブルーフロッグは魔法で寝かせてくれるのよね?」
「うん。ブルーフロッグは魔物じゃなくって動物だって言ってたもん。なら大丈夫だと思うよ」
「そう。流石に長距離から急所を狙おうと思ったらもう少し練習が必要だけど、それならかなり近づくことができるだろうし、試し打ちはこれくらいで、もう十分だわ」
お母さんはそう言うと、弓の癖はもう大体解ったから、さっそくポイズンフロッグ退治に向かいましょうだって。
と言うわけで、僕たちはいよいよ森に乗り込むことになったんだ。
「えっと、確かこっちでよかったのよね?」
さっき大回りした道を戻って、みんなが入る森の入口へ。
そこから最初に向かったのは、ルルモアさんに教えてもらった水場なんだよね。
なんでそこに最初に行く事にしたのかって言うと、絶対にポイズンフロッグがいるって解ってる場所で、そこが森の入口から一番近いからなんだって。
でもね、その水場がなかなか見つからないから困っちゃったんだよね。
「水場は足を取られるし、そもそもブルーフロッグは弱すぎて俺は若いころでも狩らなかったから、この辺りにはあまり来た事が無いんだよなぁ」
「私も武器が弓だったから、どちらかと言うとより高く売れる鳥を主に狩っていたのよねぇ」
グランリルの村の近くにある森だったらどこに何があるかよく解ってるけど、イーノックカウの森はとっても広いからお父さんもお母さんもあんまり知らないとこが多いんだって。
それに僕の探知魔法だって一度あってないと返ってきた反応がその動物や魔物のものなのかが解んないから、こういう初めての獲物を探してる時は役に立たないんだよね。
「あっ、見て。なんか光ってるよ。あそこにお水があるんじゃない?」
そうして森ん中をうろうろしてたら、先の方になんか光ってるとこがあったんだ。
森の中って、周りの木でお日様の光が遮られちゃうからちょっと暗いでしょ?
だからそんな森ん中で明るいとこがあったら、そこには木が生えてないって事なんだよね。
その上光ってるって言うのなら、そこには川か池があるって事なんだ。
「おお。よく見つけたなルディーン。まず間違いなく、あそこが目的の水場だ」
「そうね。それじゃあここからは、慎重に進みましょう」
水場があるって事は、そこにブルーフロッグやポイズンフロッグがいるって事。
最初に僕が魔法をかけてブルーフロッグを眠らせちゃうって作戦だけど、その魔法をかける前に気付かれちゃったら大変だから、ここからはそおっと近づくことにしたんだ。
「確認できたか?」
「ええ。どうやら3匹ほどいるみたいね」
気づかれないように見えるとこまで近づくと、一番目がいいお母さんがどこにポイズンフロッグがいるか探したんだよ。
そしたらいっぱいいるブルーフロッグの中に、3匹混じってるのが解ったんだって。
「どうだ、やれそうか?」
「ええ。適度に離れてくれてるおかげで、ブルーフロッグに邪魔さえされなければ近づかれるまでに全部狩れるはずよ」
でね、その3匹も固まってるわけじゃなかったから、近いのから一匹づつ射ってけば、全部狩れるって。
「よし。それじゃあ、始めるか。ルディーン。念のため、眠らせる魔法を撃った後は俺の後ろに隠れるんだぞ。もし寝てないのがいたら、今のお前の装備じゃ危ないからな」
「うん、わかった!」
と言うわけで、狩りを開始。
僕は体の中に魔力を循環させると、見えてるブルーフロッグが全部入るように範囲を指定して、力のある言葉を放つ。
「<スリープ>」
そしたらね、ゲコゲコ鳴いてたブルーフロッグたちが一斉に静かになったんだよね。
「良かった。ちゃんと寝てくれたみたい」
だから僕、ほっとしたんだけど、
「ルディーン、何をぼーっとしてるんだ。早く俺の後ろへ」
そしたらお父さんに怒られちゃった。
そっか。もし起きてるのがいたら危ないもん! 早くお父さんの後ろに隠れないと。
そう思った僕は、慌ててお父さんの後ろへ行こうとしたんだけど、
「どうやら、その必要はないみたいよ」
そしたらお母さんが、大丈夫だよって言うんだ。
その上、構えてた弓まで下ろしちゃってるんだよね。
「ねぇ、ルディーン。もしかしてあれ、ポイズンフロッグまで寝てるんじゃない?」
そう言われて水場の方を見てみると、そこにはブルーフロッグたちと一緒にすやすや眠っちゃってる3匹のポイズンフロッグが。
そう言えば、魔法を使ったら鳴き声が全然しなくなったっけ。
ポイズンフロッグはブルーフロッグが魔物に変異したものだから、当然ゲコゲコ鳴くよね?
それも一緒に聞こえなくなってるんだから寝ちゃってるのは当たり前なんだけど、僕は魔物のポイズンフロッグまで一緒に寝ちゃうなんて全然思ってなかったから、それを見て本当にびっくりしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
冒険者ギルドがわざわざ狙撃用のロングボウを用意してくれたのに、ルディーン君がそれをあっさり意味のないものにしてしまいましたw
まぁ周りどころか本人さえ自覚してませんけど、彼は賢者と言う上級ジョブであり、レベルも11とこのイーノックカウの森の適正レベルよりかなり高いのですから、こうなるのはある意味当たり前なんですけどね。




