289 思ってたより、いっぱい居たそうなんだよ
「それではこちらにどうぞ」
ルルモアさんにそう言われて、僕たちはギルドマスターの前に座る事になったんだ。
「せっかく家族でイーノックカウまで遊びに来ていると言うのに、我々の依頼を受けてくれてありがとう。情けない話だが、この街の冒険者では対処できなかったから、正直助かったよ」
「いやいや俺たちも前の騒ぎの時、このギルドがどれだけ大変だったのかを見てるからなぁ。あの状況を体験してたら、この街の冒険者たちがポイズンフロッグ相手にしり込みするのも仕方がないと思うぞ」
依頼を受けてくれてありがとうって言うお爺さんギルドマスターに、お父さんはみんなが困ってるみたいだから仕方ないよって笑いながら言ったんだよね。
ギルドマスターのお爺さんは街の人たちから早くポイズンフロッグをやっつけてよって毎日言われてたけど、どうしようもなかったもんだからとっても困ってたんだって。
だからそれを聞いてにっこり笑いながら、本当にありがとうって、もういっぺんお父さんとお母さんに頭を下げたんだ。
「それではルルモア。早速例のものを」
「はい。すぐにお持ちします」
ギルドマスターのお爺さんに何か持って来てって言われたルルモアさんは、一度お部屋を出てくと布に撒かれたすっごく長いものと小さな袋を持って帰ってきたんだ。
「こちらは騎士団からお借りしてきたロングボウです。貴重な素材を使って作られているので、これならシーラさんが使っても弦が切れたり、折れて使えなくなったりする事は無いと思いますよ」
その布に中にあったのは、とってもきれいな真っ白いおっきな弓だったんだ。
ルルモアさんが言うには、この街の冒険者が持ってる弓をお母さんくらいのレベルの人が使うと、その力に耐えられなくって折れちゃう事があるそうなんだ。
でも、この弓は魔物の素材とか魔力溜まりのある森にだけ生える特別な植物を材料に使ってるから大丈夫なんだってさ。
「それからルディーン君が魔法でどうにかすると言うお話でしたが、流石に防具無しで魔物の討伐に向かわせるわけにもいきませんので、急遽女性の射手用防具を取り寄せました。ただ、こちらは先ほどの弓と違って騎士や兵士が使っているものではなく、この街の狩人が使うようなものなので気休め程度ですが」
「いえいえ、それでもあると無いとでは大違いですから、お気遣いありがとうございます」
ルルモアさんが持ってきたもう一個の袋は、前に僕たちがブレードスワローを狩りに行く時に僕たちが貸してもらったのとおんなじマジックバッグだったんだ。
でね、その中にはお母さんの防具だけじゃなくって、お父さんと僕の防具も入ってたんだよね。
「僕のもあるの?」
「ええ。でも流石に子供用の防具はないから、革製の丈夫なベストと、足首に巻く針金入りのなめし皮くらいだけどね」
だけど、僕が着るようなちっちゃい防具なんてないでしょ? だからルルモアさんが渡してくれたのは、お父さんやお母さんのと違ってちょっと丈夫な服って感じのだったんだ。
「いやいや。足の防具があるだけでも上等ですよ。流石に隠れているゴブリンやコボルトを見逃すようなへまはしませんが、小さな蛇や毒虫をすべて見つける事なんてできませんから」
でも、お父さんはそれでもありがたいって言うんだよ。
だって僕たち、イーノックカウには遊びに来ただけでしょ? だから今履いてるのは、軽くて柔らかい革製の靴なんだもん。
でもこんなのだけだったら、森ん中で蛇とかに噛まれちゃうかもしれないでしょ? 僕は治癒魔法が使えるから噛まれてもへっちゃらだけど、痛いのは嫌だからやっぱり丈夫なのを着けてく方がいいんだ。
「俺のは標準的な革鎧か。まぁ、今回は強力な魔物を狩る訳じゃないし、この方が軽くていいかな?」
「はい。ポイズンフロッグの生息範囲が当初こちらが想定していたのより広いようなので、このような装備をご用意しました」
最後にお父さんの鎧だけど、ルルモアさんから渡されたのは軽くて丈夫な革製の鎧なんだ。
村だとブラウンボアとかの強い魔物を狩る事もあるからって、お父さんはいろんなところに金属が使ってある丈夫な鎧をいっつも使ってるけど、今回はいろんなところにいるポイズンフロッグを狩って回んないとダメでしょ?
だからそう言う重くて防御力高めの鎧よりも、今回はこっちの軽い鎧の方がいいんだって。
「それとな、こちらから一つ謝らないといけない事があるんだ」
「謝らないといけない事?」
僕たちが防具を着け終わると、それを見たギルドマスターがお父さんにごめんなさいしてきたんだよね。
だからどうしたの? って聞いたんだけど、そしたらルルモアさんが理由を教えてくれたんだ。
「はい。先日はこの街の滞在期間を6日間に伸ばしてほしいと申し上げましたが、先ほどもお話ししたように、ポイズンフロッグの生息域がこちらが当初想定したものより広範囲にわたっているようでして。ですから申し訳ありませんが、もう少し滞在期間を延ばしていただきたいのです」
こないだ話した時は、今日中には無理でも明日の午前中くらいで全部のポイズンフロッグをやっつけられるって思ってたんだって。
でもね、もういっぺん調べてみたら、冒険者ギルドが思ってたよりもっといっぱいポイズンフロッグがいるらしいんだよね。
「なるほど。やっぱりですか」
「では、カールフェルトさんはこの事態をすでに想定していたと?」
「ええ。昨日食事をした店で、おかみの話を聞いた時からね」
お父さんはセルニアさんに、昨日お昼ご飯で食べたお店のおばさんから聞いた話を教えてあげたんだ。
「もし一日で回りきれる程度の範囲にしかポイズンフロッグがいないのなら森の入口近くで露店を開いているような連中はともかく、いつも薬草やハーブを採りに森へ向かっているような連中まで行くのを渋るはずないですからね」
いっつも行ってる人なら、森のどこが危ないのかなんて知ってるはずだよね?
だったらもしポイズンフロッグがあんまり居ないんだったら、そんな人たちはそこを避けて採りに行ってるはずだってお父さんは言うんだよね。
「そりゃあ一部の薬草は採れる場所が限定されるだろうから、ポイズンフロッグのせいで不足するようになったと聞いても納得はできる。だが多くの場所で採取できるはずのハーブが、それをふんだんに使っている飯屋が開店休業に追い込まれるほど不足してるとなると話は別だ。そんなのは、かなり広い範囲で被害が出そうな状況でもなければありえないからな」
「なるほど。ハーブが足りないと言う話からだけでも、そのような想定ができるんですね」
冒険者ギルドでは、単純にポイズンフロッグが怖いからみんな行かなくなったんだって思ってたそうなんだよ。
でもお父さんは、森をよく知っている人にとってはそんな時こそ大きく稼げるチャンスなのに、そんな人たちまで行かなくなってるのはポイズンフロッグがいっぱい居て、何処で襲われるか解んないって思ってるからなんじゃないかな? って考えたんだって。
いっつもグランリルの森で狩りしてるお父さんは、そんなに広い範囲にいるって言うのなら1日や2日でやっつけられるはずないって考えてたんだよって、ルルモアさんに話したんだ。
「と言うわけで、滞在日数が伸びるのも当然想定しているから、別に謝ってもらう必要もない。子供たちにも、多分数日かかるって話してあるしな」
「そう言ってもらえると助かります」
そう言えばお父さん、キャリーナ姉ちゃんにそんなこと言ってたっけ。
そっか。ルルモアさんから教えてもらわなくてもポイズンフロッグがいっぱい居るって解ってたから、お父さんはお姉ちゃんに何日かお留守番してねって言ったんだね。
お店のおばさんとちょっとお話しただけでそこまで考えるなんて、お父さんはすごいや!
「ただ予想以上に広範囲に広がっているため、すべてを狩るのはかなり難しいでしょう。ですから、もしあまりに長期間かかってしまうようなら、森の入口付近の水場にいるブルーフロッグの群れに交じっているポイズンフロッグだけでもすべて退治していただけるとありがたいです」
「それに関しては多分大丈夫だ。なにせルディーンは魔物を見つける名人だからな」
お父さんは、そうだよな? って笑いながら僕の頭をなでてくれたんだよ。
「うん! 僕が全部のポイズンフロッグを見つけるから、きっとお父さんとお母さんが全部やっつけてくれるよ!」
だから僕、えっへん! って胸を張ってそう答えたんだけど、そしたらそれを聞いたギルドマスターのお爺さんが、がっはっはって大笑い。
「これは頼もしいな。期待してるぞ、ルディーン君」
「うん! 任せて」
と言うわけで、僕たちはちゃんと全部のポイズンフロッグをやっつけてくるよって、ギルドマスターのお爺さんとルルモアさんに約束したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ポイズンフロッグは思った以上に多く生息しているようです。
おまけにかなり広範囲に広がってしまっているようなので、もしルディーン君の探索魔法が無かったら大変な事になっていたでしょうね。
少なくとも別の街から高ランクの冒険者を連れてこなければならなかったでしょうから、もしかすると年単位でいろいろの物資が不足する事になっていたかもしれません。実はそれくらい大変な事態なんですよね。
はっ! 待てよ。これほどの凄い効果があるという事は、もしやルディーン君の探索魔法はチート能力!?
いやいや、探索魔法は魔力操作の実力がある程度あって、なおかつルディーン君からきちんとしたやり方を教えてもらえるのならだれでも覚えられるスキルですってw




