288 せっかくみんなで来てるんだもん、お留守番は嫌だよね
イーノックカウに来て5日目。
今日はルルモアさんから冒険者ギルドに来てねって言われてる日だから、お父さんお母さんと一緒に朝から3人でお出かけのはずだったんだけど……。
「ねぇ、お母さん。私は行っちゃダメなの?」
「キャリーナは森へ入る装備を持ってないでしょ?」
「それはルディーンだって一緒じゃない!」
でもね、みんなで朝ご飯を食べてる時に、キャリーナ姉ちゃんが私も一緒に行きたいって急に言いだしちゃったんだ。
「おんなじなのに、ルディーンだけずるい」
「困ったわねぇ」
キャリーナ姉ちゃんが言う通り、僕も森へ入る装備は持ってないんだよね。
でも探索魔法が使える僕が行かないと、お父さんたちだけだったらポイズンフロッグがどこにいるか解んないから一緒に行かなきゃダメなんだ。
「キャリーナ。ルディーンが魔物を探せる魔法を使えるのは、お前もよく知ってるよな? だから特別に連れて行くんだって事くらい解るだろ?」
「そうだけど……」
実はね、キャリーナ姉ちゃんも前に僕が使ってる探索魔法を覚えようとしたことがあるんだよ。
けど、お姉ちゃんは僕みたいに周りの魔力をうまく動かせなかったもんだから、探索魔法を覚える事ができなかったんだ。
「私も使えたらよかったのに……」
「お姉ちゃんだって、もっと魔法が上手になったらきっと使えるようになるよ」
けどあの時覚えられなかったのは、キャリーナ姉ちゃんがまだそんなに魔力操作に慣れてなかったからなんじゃないかなぁ?
お姉ちゃんはもう治癒魔法が使えるようになってるし、いっぱい魔法を使ってレベルが上がればきっと魔力操作だってうまくなると思うんだよね。
だから僕、お姉ちゃんだって頑張れば使えるようになるよって言ったんだけど、
「でも、今使えなきゃ森に連れてってもらえないもん」
今使えなかったら意味ないでしょって、しょんぼりしちゃったんだ。
「せっかくみんなでの出かけなのに……」
「ごめんね。キャリーナの気持ちも解るけど、今回の魔物退治は遠くからの狙撃だからあまり大勢で行くわけにはいかないのよ」
キャリーナ姉ちゃんは、せっかくイーノックカウにみんなで遊びに来たのに、お父さんたちと一緒に行けないのがつまんないみたい。
でも、みんなで一緒に行ったらポイズンフロッグに気付かれちゃうかもしれないでしょ? だからお母さんは付いてきちゃだめって言うんだ。
「それに、森での狩りならグランリルでもできるでしょ? でも街で遊ぶのはこのイーノックカウでしかできないんだから、今日はお兄ちゃんお姉ちゃんたちと遊びに行きなさい」
「うん……」
お母さんが一生懸命お話してくれたおかげで、キャリーナ姉ちゃんはいいよって言ってくれたんだよね。
でも、まだしょんぼりしたまんまだったから、
「そうだなぁ、流石にポイズンフロッグ狩りには連れていけないけど、それが終わったら少しだけみんなで森に狩りをしに行くか」
お父さんがポイズンフロッグ狩りが終わった後なら狩りに連れてってあげるってキャリーナ姉ちゃんに言ったんだよね。
そしたら、それを聞いたお姉ちゃんは大喜び。
「約束だからね」
「ああ、約束だ。でもポイズンフロッグをすべて駆除するのは流石に一日では辛いと思うんだ。だから数日お兄ちゃんたちとお留守番だけど、大丈夫か?」
「うん! 約束したから、ちゃんとお留守番してるよ」
と言うわけで、キャリーナ姉ちゃんはみんなと一緒にイーノックカウの街を見て回りながらお留守番する事になったんだ。
「じゃあ、そろそろ行くか」
朝ご飯を食べ終わってからちょっと休憩した後、みんなで宿屋の外へ。
そこでお兄ちゃんたちとお別れした後に、僕とお父さんお母さんの3人は冒険者ギルドへ向かったんだ。
でね、宿屋さんから冒険者ギルドまではそんなに離れてないもんだからすぐについたんだけど、そしたら中に人がすっごくいっぱい居て僕、びっくりしちゃったんだよね。
でもさ、僕はこんな時間に来たことが無かったから知らなかったけど、朝の冒険者ギルドはいつもこんななんだよってお父さんは言うんだ。
なんでかって言うと朝のうちに新しい依頼が張り出されるから、ちょっとでもいい依頼を取らなきゃって冒険者さんたちがみんな来るからなんだってさ。
「だがな、この街のギルドはこれでもまだマシな方なんだぞ。なにせここにいるのはパーティーの中でもリーダーや副リーダーをやってる奴だけだからな」
冒険者さんたちって、いっぱい居るとこだと20人くらいで組んでるパーティーもあるんだって。
でもそんな人たちが、ここにみんなして依頼を見にきたら大変でしょ?
だからこのイーノックカウの冒険者さんたちはみんなで来るんじゃなくって、どの依頼を受けるかを決める人だけが来てるんだってさ。
でも他の街だとね、みんなで来ちゃうとこもあるんだよってお父さんは言うんだ。
だからそんな街の冒険者ギルドの朝は、もっと大騒ぎになっちゃうんだってさ。
「そっか。でもなんで、ここはみんなで来ないの?」
「ああ、それはギルドマスターの爺さんの指示だ」
イーノックカウのギルドマスターって、とっても大きくてすっごい筋肉のお爺さんなんだよ。
でね、前はイーノックカウの冒険者ギルドも他の街とおんなじようにパーティーみんなで来てたらしいんだけど、毎朝みんなして大騒ぎするもんだからお爺さんギルドマスターが怒っちゃって、これからは依頼を決める人だけで来なさいって言ったんだってさ。
ギルドマスターのお爺さん、とっても怖いもん。
あのお爺さんにこうしなさいって言われたら、冒険者さんたちだって言うこと聞いちゃうよね。
「いらっしゃい。思ったより早かったんですね」
お父さんと冒険者さんたちを見ながら入り口でこんな話をしてたら、そんな僕たちに気が付いた冒険者ギルドの人が呼んでくれたみたいでルルモアさんの方からこっちに来てくれたんだ。
「おはようございます、ルルモアさん」
「おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」
そんなルルモアさんに、お母さんがご挨拶。
「それではこちらへどうぞ。朝のギルドは騒がしいですから、こんな所では詳しいお話もできませんから」
でね、僕とお父さんもその後におはようございますしてから、ルルモアさんに連れられてギルドの奥に入ってったんだ。
「おお、来たか」
そしたらそこに、ギルドマスターのお爺さんがいたもんだからびっくり。
でもギルドマスターのお爺さんがね、このお部屋でルルモアさんと一緒に僕たちが来るのを待ってたんだよって言ったもんだから、僕はほっとしたんだ。
だってギルドマスターのお爺さんは入ってきた僕たちを見て笑ってたけど、お声は怒ってるみたいにすっごく大きかったんだもん。
それにさっきお父さんと、
「ギルドマスターのお爺さんって、怒るとすっごく怖そうだよね」
って話してたもんだから、そんなギルドマスターの大きな声を聞いて僕、もしかして怒られちゃうのかも? って思ったからなんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
キャリーナ姉ちゃんはルディーン君より年上ですが、それでもまだ11歳。折角お父さんお母さんと遠くの街までお出かけして来てるのに、一番下の弟だけが一緒にお出かけするって言われたら、そりゃあ私も行きたいって言いだしても仕方ないですよね。
ただ、今回の場合はどうしても連れて行くわけにはいかないのでかわいそうですがお留守番です。
まぁ、お姉ちゃんたちと知らない街を見て回るのもそれはそれで楽しいですから、きっと楽しい思い出になるんでしょうけどね。




