281 普通はみんな、神殿でお祈りするんだって
神様の罰は怖いねってお話をした後は、ビシュナ様達3体の神像の近くまで移動したんだ。
そしたらあんまりおっきいもんだから僕やお兄ちゃん、お姉ちゃんたちはびっくりして、しばらくの間みんなして、ほえ~って言いながら神様たちを見上げてたんだんだよね。
けど、お父さんが、
「いつまでもこうして見てるわけにもいかないし、そろそろ行くか」
って言ったもんだから、僕はてっきりみんなでビシュナ様の像にお祈りしてる人たちの列に並ぶんだって思ってたんだ。
ところが、お父さんはその列を無視して違う方へ行こうとしたもんだから、僕はびっくりしちゃった。
「あれ? ねぇ、お父さん。僕たちは神様にお祈りしなくていいの?」
「ああ。俺たちは大聖堂でお祈りするつもりだから、ここでお祈りしなくてもいいんだ」
このイーノックカウ大神殿にはいろんなとこにお祈りする場所があるから、今ここで列に並ばなくてもいいんだって。
それにね、お母さんも僕たちはここでお祈りしなくてもいいんだよって言うんだ。
「ルディーン。あの人たちはね、イーノックカウに住んでいて毎日お祈りに来てる人たちなのよ」
おっきな神様の像の前でみんながお祈りしてるけど でもあれって奥の神殿とか大聖堂だともっといっぱいの人がお祈りしてて時間がかかっちゃうでしょ?
だから、毎日来てる人はここでお祈りして帰るようにしてるそうなんだ。
なんでかって言うとね、そうしないといっぱい時間がかかってお仕事とかに間に合わなくなっちゃうかもしれないし、それにいっつも来てる人まで神殿や大聖堂に行っちゃうと遠くから来てる人がお祈りできなくって困っちゃうかもしれないからなんだってさ。
「そっか。じゃあ僕たちは神殿でお祈りするの?」
「いや、今日はみんなで来てるからな。さっきも言ったように、奮発して大聖堂でお祈りをしようと思ってる」
このイーノックカウ大神殿はね、ビシュナ様とイドラ様、それにラクシュナ様が祭られてる大きな神殿が3つと、もっと位の低い神様が祭られてるちっちゃな神殿が何個かあるんだって。
でね、その神殿はビシュナ様たちのおっきな神殿もその他の神様のちっちゃな神殿も、全部タダでお祈りができるそうなんだ。
でもここにはもう一つ、ビシュナ様を祭った建物があるんだよって、お父さんは言うんだ。
それがイーノックカウ大聖堂。
そこは特別の場所だから入るだけでもお金がいるし、そこでお祈りしようと思ったらそれにもいっぱいお金がいるんだってさ。
「大聖堂、楽しみだね」
「やっぱり、キラキラとかしてるのかなぁ?」
でね、入るのにはお金がいるけど、その分だけ大聖堂は他の神殿よりすっごく豪華で見る価値があるんだよってお父さんが言ったもんだから、レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんはどんなとこなんだろう? って大騒ぎ。
それに僕やお兄ちゃんたちも、特別な場所なんだからきっとすごいとこなんだろうねってわくわくしながら大聖堂に向かったんだ。
おっきな3体の像を越えてイーノックカウ大神殿のお庭を奥に進んでくと、そこには中央神殿ってとこがあるんだよね。
でもさ、神殿て言ってもお祈りをするとこじゃないんだよ? 実はここ、イーノックカウ大神殿の案内所みたいなとこなんだ。
だからここに入ると冒険者ギルドみたいにカウンターが並んでて、そこには治癒魔法でお怪我やご病気を治してもらうための受付や、冒険者ギルドがやってもらってるみたいに神官さんたちを一時的に貸し出してくださいってお願いする受付、それに特別な儀式をしてもらえるようにお願いする受付とかがいっぱいあって、神官さんたちが並んでる人たちの相手をしてたんだよね。
「おっ、どうやら大聖堂の受付はあそこのカウンターみたいだな」
僕はそんな神官さんたちを忙しそうだなぁって思いながら見てたんだけど、そしたらお父さんが一つのカウンターを見つけて指さしながらそう言ったんだよね。
だから僕、そっちの方を見てみたんだ。
そしたらそこには他のとこよりもちょっと豪華なカウンターがあって、その上には大聖堂受付って書いてある看板がぶら下がってたんだけど……
「お母さん。あんまり人、並んでないよ」
でもそのカウンターの前には、ほとんど人がいなかったんだ。
でも大聖堂って、このイーノックカウ大神殿の中で一番大事で、すっごく豪華なとこなんでしょ?
そんなとこなら人がいっぱい居るはずなのにって思った僕は、なんで? ってお母さんに聞いたんだけど、そしたらここは大聖堂でお祈りをする人が申し込むところだからよって教えてくれたんだ。
「中に入るだけなら入口でお金を払えばいいし、それに大聖堂でお祈りをするための料金もそんなに安くないもの。だから、それほど多くの人は並ばないと思うわよ」
「そんなにいっぱい、お金がいるの?」
「いっぱいって程じゃないけど、人数が多いと、ちょっと躊躇するかもしれないわね」
大聖堂って、入るのに銀貨が1枚いるそうなんだ。
だからうちの家族だと、それだけで銀貨7枚いるでしょ? それだけでも結構するのに、お祈りするにはなんと、それとは別に一人銀貨が5枚もいるんだってさ。
「じゃあみんなで、4200セントもいるの!?」
前の世界で言うと、みんなでお祈りするのに大体4万2千円くらいかかるって事だよね?
まさかそんなにするなんて思ってなかったから、僕、びっくりしちゃったんだ。
でも、お父さんは別の事にびっくりしたみたい。
「ルディーン。お前、そんなに早く計算できたのか?」
お父さんも計算ができない訳じゃないけど、そんなに早くは答えが出せないんだって。
なのに僕が話を聞いてる途中で急にこんなこと言ったでしょ? だから、びっくりしちゃったみたい。
でもね、
「あら。ルディーンならそれくらいできてもおかしくはないでしょ?」
お母さんはそう言ってニコニコしてるだけなんだ。
だからなんでだろう? って思ったんだけど、そしたらディック兄ちゃんが、お母さんも僕とおんなじで計算が得意だからなんだよって教えてくれたんだ。
「まぁ、言われてみれば確かに、ルディーンならそれくらいの計算ができてもおかしくないか」
「そうよ。この子は文字だって、すらすらと読めるのよ? 私でもできるこの程度の計算なら、できたからと言っても驚くほどじゃないでしょ」
そう言ってコロコロ笑うお母さん。
村だとあんまりも字を読んだり書いたりすることが無いでしょ? だから中にはほとんど文字が読めない人もいるんだよね。
そりゃあお父さんやお母さんは街に出てくることがあるから、簡単な文字なら読むことも書くこともできるよ?
でも僕みたいに村の図書室から本を借りてきて読んだりするほど、すらすらと読むことができないんだ。
だからかなぁ? そんな話をしてたお母さんは、僕の頭をなでながら急にこんなことを言い出したんだよね。
「ルディーンはその他にもいろいろできる事があるし、将来はうちの中で一番出世するでしょうね」
「確かになぁ。俺としてはやっぱり狩人になってほしいと思うけど、将来は帝都にある学校とか言うのに行ってお貴族様に仕える偉い騎士とかになっているかもな」
おまけにお父さんまでこんなこと、言いだしたんだもん。
だから僕、びっくりして言ったんだ。
「偉い騎士様なんかにならないよ! だって僕、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちといっしょがいいもん。だから街の学校なんて行かないよ!」
「そうか。じゃあ、ルディーンはお父さんと同じ、狩人になるんだな?」
「うん! 僕、村で一番のすっごい狩人になるんだ!」
そう言うと、お父さんはすっごく嬉しそうな顔になって、僕の頭をがしがしと力を入れてなでてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
前回がまじめな話になったと思ったら、今回は親馬鹿の話になってしまったw
因みにルディーン君は大聖堂でのお祈りの金額に驚いてましたが、この家族が稼いでるお金を考えるとハンスお父さんが言う通り、せっかく家族で来たんだからこの程度けちる必要はないと考えてもおかしくはないですよね。
そして何より、ルディーン君の収入を考えたら(苦笑
まぁ、どれだけ自分が稼いでるのかなんて知らないからこそ、金貨1枚にも満たないこの金額でルディーン君は驚いてるんですけどね。




