280 神様の罰はとっても怖いんだよ
前回の更新ですが、私の予約ミスで火曜日更新になっていたために、月曜日の夜に慌てて更新しました。
ですので、もし前話をまだ読んでいないようでしたら、まずはそちらからお楽しみ頂けると幸いです。
ビシュナ様の像って3体の神様の像の中で一番小さいでしょ?
それにキャリーナ姉ちゃんが、お父さんとお母さんと一緒にお出かけしてるみたいなんて言ったもんだから、僕も何となくそんな風に思っちゃったんだよね。
だから遠くに見えるビシュナ様の像がそんなに威厳があるように思えなかったんだけど、でもみんなで神様の像の方に歩いて行ったら、それが間違ってた事が解ったんだ。
「わぁ、見て見て、みんなお祈りしてるよ」
「本当ね。それにやっぱり、ビシュナ様の像の前で祈っている人が一番多いのね」
3体の像の前には人がいっぱい居て、キャリーナ姉ちゃんの言う通りみんなお祈りしてたんだ。
でね、その中でもビシュナ様の像の前は横に並びきれないからって、お祈りするための列ができてたんだもん。びっくりだよね。
僕ね、それを見て、やっぱりビシュナ様ってすごいんだなぁって思ったんだ。
だってさ、近づいてみると神様の像は本当におっきくって、一番小さいビシュナ様の像でもお父さんの3倍くらいの高さがあるんだよ。
その横にあるイドラ様の像なんてその倍くらいあるから当然横幅もとっても広いんだけど、ビシュナ様の像はちっちゃくても両手を少し広げてるから、そのイドラ様とおんなじだけの幅があるんだよね。
だから大人の人が一度にいっぱいお祈りできるのに、その後ろに行列ができてるんだもん。
ここってまだ神殿の中じゃないのに、こんなにいっぱいの人がお祈りしてるなんてほんとにすごいよね。
「う~ん」
「どうしたの? ディック兄ちゃん」
僕がそんな風にびっくりしてたら、横にいたディック兄ちゃんがなんでか急に唸りだしたんだ。
だからどうしたの? って聞いてみたんだけど、
「俺もルディーンたちと同じでここに来た事は無かったし、だから当然この像を見るのは今日が初めてなんだ。けど、なぜかビシュナ様のお顔をどこかで見た事がある気がするんだよなぁ」
グランリルの村にもお爺さん司祭様がいる簡易神殿はあるけど、そこには聖印とそれを祭ってある祭壇があるだけでビシュナ様の像なんて飾って無いんだよね。
だからここで初めてビシュナ様のお顔を見たはずなのに、ディック兄ちゃんはどっかで見た事があるって言うんだ。
「兄ちゃんも? そっか僕だけじゃなかったんだ」
でね、そしたら今度はテオドル兄ちゃんまでビシュナ様のお顔を見た事があるって言いだしたんだよね。
これには僕もお姉ちゃんたちもびっくり。
だって僕たちはそんなこと、全然思ってなかったんだもん。
「まぁ、ディックたちなら見た事があるだろうなぁ」
でもね、そんなお兄ちゃんたちに、お父さんはそう言って笑ったんだよ?
だから僕、何でお兄ちゃんたちはビシュナ様のお顔を見た事があるの? って聞いてみたんだ。
そしたら、
「それはな、この国の、と言うかすべての国の金貨にはビシュナ様のお姿が刻印されてるからなんだ」
お父さんは笑いながら、そう僕たちに教えてくれたんだ。
「ちょっと待ってろ。確か1枚くらいは……おお、あったあった」
お父さんはそう言いながら、腰のポーチから1枚のコインを取り出したんだよね。
「高い買い物する場合、普段はギルドカードで支払いするから金貨なんかめったに使わないんだが、一応1枚くらいはいつも持っているようにしてるんだ」
そんでね、お父さんはそのコインを自分の手のひらにのっけて、僕たちにもよく見えるようにしてくれたんだ。
「ほら、あの中央の像とこの金貨に刻印されている女性は同じ顔をしてるだろ? こんな風にすべての国の金貨は表情や顔の向きは違えども、必ず創造神ビシュナ様のお姿をかたどる事が義務付けられているんだよ」
なんでそんな事が決まってるのかって言うと、昔、ビシュナ様がこの世界にお姿を現した時にそうしなさいねって偉い人たちに向かって言ったからなんだって。
でね、金貨を1枚作るのにどれくらいの金を使うかもその時一緒に決めたもんだから、国によって厚さや大きさ、それに形が違ってても金貨一枚の価値は全部の国がおんなじになってるそうなんだ。
「でもさ、どっかの王様がずるして、金の量を減らしなさいって言ったらどうするの?」
そんなお話を聞いてたら、キャリーナ姉ちゃんがお父さんにそう聞いたんだよね。
「その時は、その国に重い天罰が下るだろうな」
そしたらお父さんは、ちょっと怖い顔になってそう言ったんだ。
神様はね、お空の上から僕たちをいっつも見てるんだって。
だからそんな事したら、すぐに解っちゃうんだってお父さんは言うんだよ。
「実際、このアトルナジア帝国も豊穣の女神ラクシュナ様の聖地に侵攻する計画を立てた、ただそれだけで重い天罰を食らった過去があってな、そのせいで危うく一度滅びそうになったんだ。みんなそれを知ってるから、どの国の王様も神様を怒らせるような事は決してしないんだよ」
「そう言えばお父さん、前にそんなこと教えてくれたね」
僕たちの国は昔、周りの国と戦争ばっかりしてたんだって。
そのおかげでとっても大きな国になったそうなんだけど、でもそんな頃に聖公国ウインダリアって国の首都、聖都アルテニアに攻めてこうとした事があったんだってさ。
でもね、そこは豊穣の女神様の聖地って言われてるとこだったもんだから、そしたらラクシュナ様がすっごく怒っちゃったんだよね。
ラクシュナ様ってみんなに大地の恵みを与えてくれる女神様でしょ? だから怒らせた帝国は麦とかお芋、それにお野菜とかが採れなくなっちゃったそうなんだ。
でね、それが3年も続いたもんだから、アトルナジア帝国の人たちはみんな食べるものが無くなっちったんだよね。
だからその時の皇帝様がラクシュナ様とウィンダリアにごめんなさいして、おっきな神殿を作る事で許してもらったんだってさ。
「そしてそれと同時に、どんな悪党だろうと金貨の偽造だけは決してしない。それはそうだろう? 憲兵の目はごまかせても、神様の目はごまかせないからな。攻め込んだのではなく、攻め込もうとしただけで帝国がそんな目にあったんだ。実際に悪さをしたらどれほどの恐ろしい罰が下るか解らないのだから、流石に恐ろしくて誰もやろうとはしないだろう」
「すっごく怖い目にあわされちゃいそうだもんね」
その他にも神様が決めた事は何個かあって、それは絶対やっちゃダメなんだよって世界中の国がそう決めてるんだって。
でも、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんが、
「だったらさ、泥棒とかも神様がやっちゃだめって言ってくれたらいいのに」
って言ったんだよね。
だから僕も、ほんとにそうだよねって思ったんだけど、それに関しては難しいだろうってお父さんは言うんだ。
だからなんで? って聞いたんだけど、
「どんな国にだって貧困はあるし、孤児だっている。もし神様が泥棒はダメだと決めたとして、その子たちが腹を空かせてつい、盗みを働いたらどうなる?」
「神様に怒られちゃうね」
「そうだ。でも孤児になったり貧困に陥ってしまうのは、その本人の責任とは限らないんだ。確かに盗みは悪い事ではあるが、それをしなければならないような状況にさせた者が罰せられないのに、その本人だけ罰するなんて事は流石に神様もしないだろうさ」
悪い事をして捕まったら、その人はその罰として働かないとダメなんだって。
でもそうする事でその人を許してあげればいいんだから、神様に罰を与えてもらわなくってもいいんだよってお父さんは言うんだ。
「それじゃあさ、戦争はなんでダメって言わないの? いっぱい人が死んじゃうんだよ」
神様が泥棒とかをしちゃダメって言わないのは解ったよ。
でも、なんで人がいっぱい死んじゃう戦争をしちゃだめって、何で言わないの? って、レーア姉ちゃんが聞いたんだよね。
「それは生きるために必要だからかな」
そしたらお父さんは、ちょっと困った顔してそう言ったんだ。
レーア姉ちゃんは、人と人との戦争の事を言ったんだよね。
でもお父さんは人も動物も、そして魔物だって神様からするとおんなじだって言うんだ。
「人と人との戦争ってのは、言ってしまえばただの縄張り争いだ。そしてこれは人だけじゃなく、動物や魔物だって当然やってる事なんだよ」
動物は自分の群れを守るために縄張りを持つし、その縄張りを守るために命がけで戦う事もあるんだ。
それに負けちゃって食べるものが無くて死んじゃう動物だっているけど、でももしその戦いを神様がやっちゃだめって言ったらもっと食べるものが足りなくなって、最後にはみんな死んじゃうかもしれないんだって。
「人と人との争いはただ愚かなだけだが、自然界の争いは必要なものなんだ。だから神様はそれを禁じてないんだと、お父さんは思うよ」
お父さんはそう言いながら、レーア姉ちゃんの頭をなでたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
なんかまじめな話になってしまった。
神様がほんとにいて、その力が実際に行使される世界だと子供がこんなことを疑問に思うのは当たり前ですよね。それだけにこの世界の大人たちは、いつこんな質問が来てもいいように考えているのかもしれません。
まぁ、過去に自分の親からそう聞かされたのをそのまま話してるだけかもしれませんがw




