278 魔道オーブンってそんな風にできてるんだね
ザラメ付きはちみつパンケーキはみんなに大好評だったよ。
けど、僕はやっぱりちゃんとオーブンで焼いたのが食べたかったんだよね。
「これ、大きな型に生地を入れたのをオーブンで焼いて作ったら、多分もっとおいしいのができると思うんだけどなぁ」
「あら、それは今度試行錯誤してきちんと完成させるから、私としてはその時に食べてもらえたら嬉しいかな」
僕のつぶやきに、にっこり笑いながらそう答えてくれるアマンダさん。
パンケーキみたいに焼いたのはちょっと焦げちゃったけど、オーブンで焼く時ははちみつを入れる量とかオーブンの温度とかをいろいろ試してちゃんとしたお菓子にするつもりなんだって。
「だからルディーン君。このお菓子が完成したら、うちの店で売り出してもいいかな?」
「うん。アマンダさんがちゃんとおいしいのを作ってくれるんでしょ? だったらいいよ」
と言うわけでこのザラメを底に敷いたはちみつ入りのスポンジケーキは、さっき僕が教えた普通のと一緒にこのお菓子屋さんで売られることになったんだ。
「いいなぁ、オーブン」
スポンジケーキを作って、僕はやっぱりオーブンがあるといろいろ作れていいなぁって思ったんだよね。
だからついこう言っちゃったんだけど、
「ルディーンは魔道具が作れるんだから、オーブンも作れるんじゃないの?」
そしたらキャリーナ姉ちゃんがこう聞いてきたんだ。
でもね、それはちょっと無理なんじゃないかなぁ?
「ダメだよ。だって僕、オーブンの作り方なんて知らないもん」
「そっかぁ」
魔道コンロなら見ただけで、どうやれば作れるか解るよ? でもオーブンは解んないんだよね。
グランリルの村にはパンを焼く石窯があるけど、あれは中で薪を燃やしてその火で焼いてるんだよね。
だけどお菓子を作ろうと思ったら、あんなやり方だとうまく焼けないんじゃないかなぁって僕、思うんだ。
「えっと、ルディーン君。あなた魔道具まで作れたの?」
そんな事考えてたら、僕たちの話を聞いたルルモアさんが不思議そうな顔して聞いてきたんだよね。
だから僕、作れるよって言ったんだけど、
「魔道具って作るのがものすごく難しいって聞いてるんだけど……まぁ、ルディーン君は魔法まで使えるくらいだし、簡単なものなら作れてもおかしくないかもね」
そしたらルルモアさんはこう言って僕の頭をなでた後、魔道オーブンの構造なら知ってるけど聞きたい? って聞いてきたもんだから、僕、びっくりしたんだ。
だからなんでそんなこと知ってるの? って聞いたんだけど、
「なんで? って、多分それくらいの事はアマンダさんでも知ってると思うわよ」
そしたらね、そんなの知ってるのが当たり前でしょ? みたいに言われちゃったんだ。
だから僕、アマンダさんにそうなの? って聞いてみたんだよ。
「ええ。作り方までは解らないけど、魔道オーブンの仕組みなら私も知ってるわ」
そしたらアマンダさんは、料理人なら大体知ってるんじゃないかなぁ? だって。
なんでかって言うと、魔道オーブンが売り出されたときに、これがどんな魔道具なのかを商業ギルドが宣伝したからなんだってさ。
「今は魔道オーブンなんてものが開発されたからお菓子作りも簡単になったけど、石窯しかなかった頃はとても苦労したそうなのよね」
うちの村にもある石窯は中で薪を燃やして焼くから、お料理を入れる場所ごとで温度がすっごく違うんだよね。
でもそんなのだと、クッキーとかは焼けないでしょ? だから最初は釜の中がおんなじ温度になる薪オーブンが開発されたんだってさ。
「そのころのオーブンはね、料理を作るところと薪を燃やすところを別にして、薪を燃やした熱を管を使って料理するかまどに送り込んで焼くって言う方式だったのよ」
この方法だと火が直接当たんないから、石窯よりはオーブンの中の全体の温度がおんなじくらいになったんだって。
だけど、このやり方でもやっぱり空気が入ってくるとこが一番熱くなっちゃうんだよね。
だからこのオーブンでおんなじ料理をいっぱい作んないとダメな時は、その空気が入ってくるとこの近くには入れる事ができなかったんだって。
「でも魔道オーブンの登場で、その状況が一変したのよ」
アマンダさんが聞いた話だと、魔道オーブンって大きな箱の中に鉄でできたお料理するかまどが入ってるそうなんだ。
でね、そのお料理するかまどの回りをぐるっと一周するように魔道具を使って熱い風を吹き入れる事で、かまどの中全体がおんなじように熱くなるようにしてあるんだってさ。
「うちの店は細かい温度調節がしたいから火の魔石を使っているけど、こういう構造だから熱源は薪を使って、熱い風を送るところだけに魔道具を使ってる魔道オーブンを使ってるところもあるのよ」
「へぇ、そうなのか」
そう言えば火の魔石はとっても高いけど、風を送るだけなら無属性の魔石で羽を回す魔道具を作ればいいからそんなに高くならないもんね。
「私が知ってるのはこれくらいだけど、参考になったかしら?」
「うん!」
今はまだどうやって作ったらいいのかまでは解んないけど、魔道オーブンの中がどうなってるのかが解ったから、お家に帰っていろいろやってみれば多分大丈夫だと思うんだ。
それに僕は火の魔石も風の魔石も作れるもん。
きっとアマンダさんが言ってたのより、もっと簡単にオーブンの中の空気を温められると思うんだよね。
だから僕、お家に帰ったらいろいろやってみなきゃって思ってたんだけど、そしたらキャリーナ姉ちゃんが不思議そうな顔して聞いてきたんだ。
「ねぇ、ルディーン。私は何言ってるのかよく解んなかったけど、大丈夫? これでもうお家にオーブン、作れるの?」
「う~ん、やってみないと解んない。でも、多分大丈夫だよ」
「そっか。ならお家でも、もっといろんなお菓子が食べられるようになるね」
最初は不安そうだったけど、僕が作れるよって言ったらキャリーナお姉ちゃんはこう言いながらうれしそうに笑ったんだ。
「ルディーンが魔道オーブンを作ってくれるのなら、うちでもいろいろなお料理が作れるようになるわね」
さっきまで何にも言ってなかったけど、実はお母さんもお家に魔道オーブンがあったらいいなぁって思ってたんだって。
だから僕とキャリーナ姉ちゃんの話を聞いて大喜び。
「おお、何やら盛り上がっているようだね」
でね、そんな風にみんなで楽しくお話してた所にオーナーさんが帰ってきたんだ。
「あら、おかえりなさいオーナー。早かったですね」
ほんとはね、特許って登録する人が行かないとダメなんだって。
でもどうしても他の人が申請しないとダメって時もあるでしょ?
だからそんな時は、商業ギルドでいろんな書類とかを作んなきゃいけないそうなんだ。
だからアマンダさんは、オーナーさんが帰ってくるのはきっと遅くなるんだろうなぁって思ってたのに、すぐ帰ってきちゃったからびっくりしたみたい。
「ああ。今回は私が代理で登録を申し込んだから、受理されるまでには当然かなりの時間がかかるかと思ったのだが……」
そんなアマンダさんに、オーナーさんもそう思ってたんだよって言ったんだけど、
「受付で申請してみたら、『ルディーン・カールフェルトさんの登録ですか? はい、解りました。申請書類を通しておきますね』と言ってすぐに受け取ってもらえたから、私は一瞬何が起こったのかと思ったよ」
オーナーさんは、あんまりあっさりと通ったもんだからびっくりしたんだって。
「ああ、それは多分ルディーン君の事がすでに商業ギルドに登録済みだからだと思いますよ」
でもね、ここでルルモアさんが僕が商業ギルドに登録してあるからじゃないかなぁって言うんだよね。
「ああ、そう言えば前にハンスが、魔道具を売るために商業ギルドにルディーンの名前で作り方を登録したと言ってましたわ」
「お父さんが? そっか、僕知らなかった。でも、ルルモアさん。なんで商業ギルドに登録ってのがされてるとすぐに通るの?」
「ちょっと言い方が悪かったわね。正確に言うとこの場合は、既に別の特許を取っているからすぐに受け取ってもらえたと言った方がいいわね」
僕はお店をやってないでしょ? なのに商業ギルドがすぐに特許を受け取ってくれたって事は、何か他の特許をもう取ってるんだろうなぁってルルモアさんは思ってたんだって。
でね、いっぺんでも特許を取った事がある人は、もういろんな事が商業ギルドに登録されてるから次からは簡単に受け付けてくれるそうなんだ。
「なるほど。そう言う理由だったんですか」
「はい。ただ、申請が簡略化されるだけで、その後の審査は普通に行われるんですけどね」
こういうのを考えたんだって言いに行っても、その内容が本当なのかとか、まだ誰もその特許を取って無いのかなんて商業ギルドの人だってすぐには解んないでしょ?
だから受け付けはすぐしてくれるけど、今日言いに行ったのが特許が取れるかどうかはまだ解んないんだってさ。
「でも、多分そんなに時間はかからず申請は通るでしょうね。領主がいろいろな街から有名店を集めて回ってるこのイーノックカウでも、卵の白身を泡立てたものを使ってる料理を出してる店は一軒もなかったもの」
私はね、この街にある有名店には今年開いた店も含めて全部、一度は食べに行ったことがあるから絶対間違いないわよって、ルルモアさんは笑いながら僕たちにそう言ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
長かったお菓子屋編はこれで終わりです。
いやぁ、ほんとになんでこんなに長くなったんだろう? 書き始める前は、みんなでおいしいお菓子を食べてこのお店でオーブンの情報を得る、ただそれだけのお話だったはずなのに。




