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274 このお店って、こういうお菓子もあったんだね


「へぇ、これがルディーン君手作りのパンケーキってお菓子なのね」


「ううん。生地は僕が作ったけど、これはアマンダさんが焼いたんだよ」


「ですがルディーン君に焼き方をきちんと教わりましたから、彼が村で作ってるのと変わらないものに仕上がってると思いますわ」


 僕が焼いたのを食べた後、残った生地を僕がやったみたいにアマンダさんが焼いてくれたんだよね。


 でね、それを持って僕たちはみんなのとこへ帰ってきたんだ。


「それじゃあ早速」


 そのパンケーキをみんなの前に置いたら、ルルモアさんが真っ先にフォークとナイフで一口大に切ってパクリ。


 そしたらびっくりした顔になって、アマンダさんを見たんだよ。


「これ、さっきのとはまるで違うものじゃない。ほんとに同じ材料を使ってるの?」


「ええ。ただ、商業ギルドから頂いた粉の量は、大幅に減らしてあるんですけどね」


 ルルモアさんはね、ちょっとはおいしくなってるだろうけど、材料がおんなじならそんなに味は変わらないんだろうなぁって思ってたんだって。


 でも食べてみたら硬さだけじゃなくって味も全然違ったもんだから、びっくりしちゃったんだって。


「アマンダさんが作ったのも十分柔らかいと思ってたけど、これを食べるとあれがいかに硬かったのかが解るわね。それにあのパンのお菓子にあった苦みもまったく無くなってるし」


「ええ。どうやらあの苦みは商業ギルドから貰った粉が原因だったようで」


 アマンダさんは僕のパンケーキを自分のとどう違うのか、ちゃんとルルモアさんに説明してったんだ。


 そしたらね、それを聞いてたルルモアさんがこんなことを言い出したんだよね。


「まぁ。生地をあまり練らない方が、この手のお菓子は柔らかく仕上がるのね。ならさ、この店のオーブンで焼いてるお菓子も、同じなんじゃない?」


「ええ。私も、そう思いますわ」


 そしたらアマンダさんもそう思うよって言ったんだけど、それを聞いてた僕は何のことか全く解んなかったんだ。


 だから、何のこと? って聞いてみたんだけど、


「そっか。ルディーンはパンケーキ作りに行ってたから食べてないんだっけ」


 そしたらアマンダさんたちじゃなくって、なんでかレーア姉ちゃんがお返事してくれたんだよ。


「僕がいないうちに、なんか食べたの?」


「うん。ルルモアさんがね、このお菓子屋さんにもパンケーキみたいなお菓子があるんだよって教えてくれたから、それをさっきね」


 レーア姉ちゃんが言ってるパンケーキと同じようなのってのは、型に生地を入れてオーブンで焼いて作るお菓子なんだって。


 それを僕がいない間に、みんなで食べたそうなんだ。


「小さいパンみたいなのの上に、お砂糖がかかってるお菓子なんだよ」


「えー、お姉ちゃんたち、そんなの食べたんだ。いいなぁ」


「ああそれなら、私が今から持ってきますよ」


 それを聞いて僕がいいなぁって言ったら、アマンダさんが持ってきてくれるって、お店の方へ。


 でね、ちょっとしたらバスケットにそのお菓子を入れて持ってきたくれたんだ。


「お店には3種類残ってたから、全種類持ってきたわ」


「わぁ、ケーキのお菓子だ」


 アマンダさんが持ってきたお菓子は浅くて四角い金型で焼かれた片手で持てるくらいの大きさのお菓子で、見た目は前の世界にあったフィナンシェってお菓子みたいな感じ。


 でね、さっきレーア姉ちゃんが言ってた溶けたお砂糖がかかったのの他にも、ジャムを乗っけて焼いたのと薄切りにした緑色のナッツがのっかってるのがあったんだ。


「ルディーン君にはこのお砂糖かジャムの味がおすすめかな? こっちのナッツの方はあまり甘くないし」


 そう言いながらアマンダさんはその二つをお皿にのっけて、僕の前においてくれたんだよね。


 だから早速、ジャムの方をパクリ。


「あれ? 思ったより柔らかくないね」


 でもね、僕がフィナンシェっぽいって思ってたからなのか、そのお菓子がちょっと硬く感じたんだ。


 それを聞いたアマンダさんは、ちょっと苦笑い。


「そうよね。ルディーン君が作ったパンケーキに比べたらちょっと硬すぎるわ。でもね、普通のパンよりは柔らかいのよ、それ」


「そう言えばそっか」


 アマンダさんはね、このお店のオリジナルだから詳しいレシピは教えられないけど、このお菓子も多分さっきルルモアさんが言った通り、ふるった粉を入れてからあまり練らなかったらもっと柔らかくなるんじゃないかな? って言うんだよね。


 だから僕、


「うん。せっかく卵をいっぱいかき混ぜたのに、粉を入れた後にかき混ぜすぎちゃったらねばーってなっちゃって膨らまなくなるもんね」


 って、つい言っちゃったんだ。


 ところが、それを聞いたアマンダさんは大慌て。


 そりゃそうだよね。だってさっき、詳しいレシピは教えられないよって言ったばっかりだもん。


 それなのに僕が作り方をしゃべっちゃったもんだから、困っちゃったんだ。


 でもね、そんなアマンダさんよりもっと大興奮だったのがレーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんの二人。


「ルディーン。このお菓子、お家でも作れるの?」


「作れるなら、今度作って! お家でいっぱい食べたいもん!」


 パンケーキとおんなじような味だけど、こっちは手に持って簡単に食べられるもんだから、二人ともお家でも食べたいって言うんだよね。


 だけど……。


「無理だよ。だって僕んち、オーブンがないもん」


 そう。このお菓子ってオーブンが無いと作れないんだよね。


 だから生地は作れても、このお菓子を作る事は出来ないんだ。


 でもね、それを聞いてびっくりしたのがアマンダさん。


「ルディーン君。オーブンが無いから作れないって事は、もしかして君はこのお菓子の生地なら作れるって言うの?」


「うん。いっぱい練らないとこんな風に硬くなんないからおんなじのは無理だけど、柔らかいのならできるよ」


 アマンダさんが作れるの? って聞いてきたもんだから、うん! 作れるよってお返事したんだけど、そしたら僕、ちょっとこっち来てってまた厨房に引っ張ってかれちゃったんだ。


 実はさっきのお菓子ってアマンダさんが考えたものなんだって。


 それをちょっと食べただけで僕が作り方が解ったよって言ったでしょ? だからそれがほんとなのか、確かめてみたいんだって。


「ルディーン君。悪いんだけど、本当に同じものが作れるのかどうか、私に見せてもらえないかな?」


「うん、いいけど……僕、道具が無いと卵をかき混ぜられないよ?」


 でもさ、僕んちなら魔道泡だて器があるから簡単に作れるけど、ここだと僕じゃ卵を泡立てる事ができないんだよね。


 だからそう言ったんだけど、


「ああそうか。じゃあ、横で見ながら私に作り方を指示してもらえるかな? そうすれば同じかどうか解るもの」


 そしたらアマンダさんが、作るのは私がやるから僕が思いついた作り方を教えてって言うんだよね。


 だから僕、それならいいよってお返事したんだ。




 さっきは僕、フィナンシェみたいだって思ったんだけど、その作り方なんて知らないんだよね。


 だからアマンダさんには、僕が知ってるお菓子の作り方を教えたんだ。


 そのお菓子って言うのは、スポンジケーキ。


 卵の白身をいっぱいかき混ぜて泡立てないとダメだからアマンダさんはとっても大変そうだったし、溶かしたバターもないから思ったのとちょっと違うもんができちゃったけど、ちゃんとお水じゃなくって牛乳を入れたもんだからそこそこおいしくできたって思うんだよね。


「まさか、こんなものが出来上がるなんて……」


 でもね、それを型に入れて焼いたのを食べたアマンダさんは、何でかしょんぼりしちゃったんだよ。


 だから僕、どうしたの? って聞いたんだけど、そしたらアマンダさんは、


「これはもう、全く別のお菓子ですもの。この店で出すわけにはいかないわ」


 だって。


 そう言えばフィナンシェとスポンジケーキって、似てるけど違うお菓子だもん。


 って事は僕、さっき作り方が解るよって言ったけど、解って無かったって事だよね?


「ごめんなさい」


「どうしてルディーン君が謝るの?」


「だって僕、さっき作り方が解るって言ったのに、別のができちゃったんでしょ? だったらうそついたって事だもん。お母さんが言ってたよ。うそをついたらちゃんと謝んないとダメだって。だからごめんなさい」


 うそは悪い事だもんね。


 だから僕、ごめんなさいって謝ったんだけど、そしたらアマンダさんがもっとしょんぼりしちゃったんだ。


 なんでかなぁ?


 読んで頂いてありがとうございます。


 プロである自分が考えたお菓子より、ルディーン君がその場で考えた(とアマンダさんが思っている)お菓子の方がはるかにおいしかったのですから、がっくり来てしまうのは仕方ないですよね。


 その上ルディーン君は、バターが入ってないからあんまりおいしくできなかったなぁなんて思ってるし。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界にまた一つお菓子が加わった! お姉ちゃん達が欲望に正直で子供らしくていいですねw
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