273 アマンダさんと僕のパンケーキは全然違うんだよ
パンケーキの生地は寝かさなくてもいいんだよって僕が教えてあげたから、アマンダさんは出来上がった生地をそのまま焼いてくれる事にしたんだ。
「う~ん。やはりあの粉が少なすぎたようですね。少々ふくらみが足らないようです」
でも、焼きあがったパンケーキはあんまり膨らまなくって、ちょっと硬かったんだよね。
「そうですねぇ、この硬さからすると、これくらい加えればいいかな?」
その焼きあがったパンケーキを味見したアマンダさんは生地にベーキングパウダーもどきをもうちょっと足して、それをよくかき混ぜてからもう一度挑戦。
「こんな感じかな。それではルディーン君。試食してもらえる?」
「うん、いいよ」
新しく焼いたパンケーキはアマンダさんが納得できる程度の柔らかさにちゃんとなったみたいで、それを切り分けてからお皿にのっけて、僕に出してくれたんだ。
と言うわけで、そのパンケーキをパクリ。
そしたら、やっぱりさっきお店で食べた時と同じで、あんまりおいしくなかった。
「うむ、よくできているではないか」
「ありがとうございます、オーナー」
でもね、僕と一緒に試食したオーナーさんは、それを食べてニコニコしてるんだよね。
アマンダさんが作ったのしか食べた事ないからなんだろうけど、オーナーさんからしたらこれでも十分においしいみたい。
だからおいしいよって褒めてくれたんだけど、アマンダさんはそんなオーナーさんにお礼を言った後、僕の顔を見てちょっと困ったような顔をして笑ったんだ。
「ですが、ルディーン君はお気に召さなかったようですわね」
「うん。あんまりおいしくない」
「やはりそうですか」
ほんとだったら、せっかく作ってくれたのにこんなこと言っちゃダメなんだよ?
でもアマンダさんはさっき、ちゃんとした作り方を教えてねって言ってたもん。
だから僕、これじゃダメなんだよって教えてあげたんだ。
「それではルディーン君。私が今作ったパンのお菓子の問題点が解ったのなら、教えて頂戴」
「えっとね、全部!」
「全部って……そんなに問題だらけなの?」
僕が思った事を話したら、アマンダさんはしょぼんとしちゃった。
でも悪いとこばっかりだったから、僕じゃここが悪いんだよってうまく教えてあげられないんだよね。
「うん。でもね、なんて言えばいいか解んないから、僕が作るのを見てて」
だから、どう違うのかアマンダさんに解ってもらうために、僕はいつもみたいに作って見せる事にしたんだ。
と言うわけでバトンタッチ。まずは生地作りだ。
「あのね、このお菓子を膨らませる粉は、最後じゃなくって最初に入れるんだよ」
そう言うと僕はまず、小麦粉にいっつも入れてるのとおんなじくらいのベーキングパウダーもどきを入れたんだ。
でも、その量を見たアマンダさんはびっくり。
「えっ? そんなに少しだと、生地は膨らまないわよ」
「大丈夫だよ。だって僕、いっつもこれくらいしか入れてないもん」
アマンダさんがさっき入れてたのよりかなり少なかったからびっくりしちゃったかもしれないけど、ベーキングパウダーもどきってこれくらいちょびっとでも十分に膨らむんだよね。
だから作業をそのまま続ける。
「アマンダさん。これ、おっきすぎて僕だとできないから、この粉ふるって」
「えっ? ああそうか。ルディーン君にはこの粉ふるい器は大きすぎるわね」
ここにある粉をふるうやつって、お店で使うのだからとっても大きいんだよ。
僕、お家で使ってるやつでも大変だからお母さんにやってもらってるのに、こんな大きなのを使えるはずないからアマンダさんにやってもらう事にしたんだ。
「こうやって混ぜてからふるうと、膨らむ粉と小麦粉がちゃんと混ざるでしょ? だから最初に入れた方がいいんだ」
「なるほど。でも本当に、あれだけの量で膨らむのかしら?」
僕が教えてあげたから何で最初に混ぜるのかは解ってくれたみたいなんだけど、それでもアマンダさんはちょっと不満そう。
自分はいっぱい入れてるのに僕がちょびっとしか入れなかったから、膨らまないんじゃないかってまだ疑ってるみたいなんだよね。
でもそんなのは出来上がったのを見れば解る事だから、僕はアマンダさんが粉をふるってくれてる間に他の作業に移る事にしたんだ。
「お砂糖はもう粉になってるから、そのまま混ぜちゃえばいいね」
卵をよーくかき混ぜて溶いた後、それに牛乳とお砂糖を入れてまたかき混ぜる。
でね、それがちゃんと混ざったところで、アマンダさんがふるってくれた粉をその中に入れたんだ。
「アマンダさんはさっき、これをいっぱいかき混ぜてたでしょ? でも、あんまりかき混ぜちゃダメなんだよ」
「えっ? でもパンを作る時は……」
「だってこれ、パンじゃないもん。あんなにかき混ぜたら膨らまなくなっちゃうんだよ」
これを聞いたアマンダさんは、またまたびっくり!
でも、こうするんだよねって思ってたのが全然違ったんだもん。当たり前だよね。
でね、僕がそれをある程度かき混ぜただけで、まだ粉が残ってるのにその作業をやめちゃったもんだから、それを見たアマンダさんはもっとびっくりしちゃったんだ。
「ちょっと、ルディーン君。まだ粉が溶けきってないわよ?」
「そうだけど、これ以上混ぜちゃうと膨らまなくなっちゃうもん。それにアマンダさんがちゃんとふるってくれたでしょ? だから、ちょっと置いとけばちゃんと溶けてくれるから大丈夫だよ」
アマンダさんはプロの料理人さんだから、こんな粉が残ってる生地はやっぱり嫌みたい。
だからちょっと困った顔してるけど、それでも全部溶けるまで混ぜちゃったらおいしく焼けないから、ここは我慢してもらわないとダメなんだよね。
これで生地は完成したから、僕は焼く作業に移ろうとしたんだよね。
でもアマンダさんは、それは僕じゃ無理なんじゃない? って言うんだよ。
「自分の家では焼いているそうだけど、この調理場のだと魔道コンロの位置が高いからルディーン君じゃ難しいでしょ? だから私が代わりに焼いてあげるわね」
「ダメだよ。だってさっきの、焼き方も僕のと違ってたもん」
「ええっ、焼き方も!?」
実はさっきアマンダさんが作ったのって、焼き方にもちょっとダメなとこがあったんだよね。
だからここも僕がちゃんとやって見せてあげないといけないんだ。
と言うわけで、僕が焼けるように乗っかる台を持ってきてもらって調理開始。
僕はいつもみたいに、一度温めたフライパンを濡れた布にのっけてちょっと冷やした後、魔道コンロを弱火にしてその上にちょっと高い所から生地を落としたんだ。
「ここまでは私がやったのと同じよね?」
商業ギルドから貰ったレシピには、焼く前にちゃんとフライパンをこうするんだよって書いてあったんだって。
それに高い位置から生地を落とすと真ん丸になるのも書いてあったそうだから、ここまでは僕もアマンダさんもやり方はおんなじ。
でも、ここからが全然違ったんだよね。
「そろそろいいかな?」
ぺちゃん。
ちょと焼けてきた生地に泡ができてそれが何個か割れたのを見た僕は、そのパンケーキをフライ返してひっくり返す。
「えっ、もう? まだ焼けてないじゃない」
「だってこれくらいでひっくり返さないと膨らまないもん」
商業ギルドが持ってきたレシピには、焼けた生地に穴が開いてきたらひっくり返すって書いてあったんだって。
でもね、僕が泡がはじけたらすぐにひっくり返しちゃったもんだから、まだ早いって思ったみたいなんだ。
だけどね、ここで完全に穴が開くまで焼いちゃうと、パンケーキはあんまり膨らまないんだよね。
レシピを書いた人はきっと、こんな風に泡がはじけて穴が開くのを見たからそう書いたんだと思うんだ。
でもね、それくらいの時だと空いた穴がすぐにふさがっちゃうもんだから、アマンダさんはもうちょっとして完全に穴が開くまで待ってからひっくり返してたんだってさ。
「ほら、だんだん膨らんできたでしょ?」
「本当にあの粉を少ししか入れてないはずなのに、ちゃんと厚みが出てきてるわね」
そのままちょっと待ってたら、生地が膨らんでぺったんこだったパンケーキがふっくらとしてきたんだ。
でもそれを見たアマンダさんは、ちょっとびっくりしてるみたい。
って事は、やっぱりあれだけのベーキングパウダーじゃ膨らまないって思ってたんだね。
「そろそろいいんじゃないかなぁ?」
うちでは魔道ホットプレートで焼いてるからわざわざ確認しなくっても大丈夫だけど、ここだと魔道コンロを使ってるからちゃんと焼けてるかどうか解んないんだよね。
だから僕は、近くにあった鉄串をパンケーキの真ん中に刺して確認。
そしたら生地がついてこなかったから、これで完成だ!
「焼けたから、食べてみて」
「おお。これがオリジナルのパンの菓子ですか」
焼きあがったパンケーキをお皿に乗っけると、オーナーさんが大興奮。
切り分けたパンケーキを誰よりも先にフォークで刺して、パクリ。
「おお! 確かにこれは完全に別物だ」
「それ程違いますか?」
一口食べてニッコニコになったオーナーさんを見たアマンダさんは、続いて僕のパンケーキをパクリ。
「……うん。確かにこれは、まるで違うお菓子のようですね」
そしたら全然違うねって納得したみたい。
「あのね、膨らます粉はいっぱい入れると苦くなっちゃうんだって。だからちょびっとしか入れちゃダメなんだよ。それにね、小麦粉っていっぱいかき混ぜるとねばーってしちゃうでしょ? そしたらこの粉を入れてもあんまり膨らまなくなっちゃうから、ちょっとしか混ぜちゃダメなんだ」
「なるほど。見たところその他にもいくつか問題点があったようだし、確かに生地から焼き方まで全部だめだったんですね」
さっきまではおいしいって思ってた自分のパンケーキが僕が作ったのとは全然違ってたんだって解ったアマンダさんは、ちょっとしょんぼり。
でもね、オーナーさんがこう言って励ましてくれたんだ。
「確かにそうだが、こうして作り方を見せてもらったんだ。君ならもう、同じものを作れるんじゃないか?」
「ええ。ここまでしっかりと作り方を教えて頂けたのですから、少し練習すれば完璧なものが作れるようになると思います」
でね、それを聞いたアマンダさんは、オーナーさんにそう言いながらにっこり笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
アマンダさんがやってしまった間違った焼き方ですが、実は私も昔、同じ間違った作り方をしてたんですよね。だってホットケーキミックスには、本当に穴が開いたらひっくり返すと書いてあったのですから。
そんなやり方でも焼いているうちにちゃんと真ん中が膨らんでくるし、まぁこういうものなんだろうってずっと思ってたんですよ。
でもテレビで、こういう間違った作り方をしてる人が多いと聞かされてびっくり! それからはちゃんとぷつぷつと泡がはじけ始めたところでひっくり返すようになったのでおいしいホットケーキが焼けるようになりました。
ただ、これだとまだ生地が柔らかいので、たまにひっくり返すのを失敗するんですけどねw




