270 何でお菓子屋さんにいるの?
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「わぁ、いろんなお菓子があるね!」
お菓子屋さんに入ると、すぐにカウンターがあって、その前にはいろんなお菓子が入ったかごや木の入れ物、それに大きなガラス瓶とかが並んでたんだ。
「お母さんが言ってたクッキーってのはあれ?」
「あら、よく解ったわね。そうよ、あの辺りに並んでるのがクッキーね」
でね、そのお菓子がいっぱいならんでる中に、いろんなクッキーが並んでるとこがあったんだよね。
だから僕は、真っ先にその場所へ走って行ったんだけど、
「あれ? もしかしてルディーン君?」
そしたら後ろから急に名前を呼ばれたもんだから、びっくり。
誰だろう? ってそっちを見たら、そこには冒険者ギルドの受付をしてるエルフのお姉さんのルルモアさんが、びっくりした顔で僕の方を見てたんだ。
「あっ、ルルモアさんだ!」
「えっ? あら、本当にルルモアさんだわ。こんにちは、お買い物ですか?」
「こんにちは、カールフェルトさん。ええ、そうですよ。この店は私のお気に入りですから」
にっこり笑いながら挨拶する、お母さんとルルモアさん。
それを見ながら、そっか、ルルモアさんもここでお菓子を買ってるんだねって思ってたら、
「という事は、昔食べさせてもらっていたクッキーは、やはりこの店のものなんですね?」
お母さんがこんなこと言いだしたもんだから、僕はまたびっくりする事になっちゃったんだ。
せっかく会ったんだし、みんなでお菓子を食べようって事になって、僕たちはお菓子屋さんの中にある喫茶コーナーへ。
喫茶コーナーって言ってもこのお菓子屋さんはちょっと高いもんを売ってるお店だからなのか一組ずつゆったりと過ごせるよう個室になってて、そこではお茶だけじゃなくこのお店で売ってるお菓子を注文すれば一緒に食べられるようになってるんだよ。
だから僕やお姉ちゃんたちは、カウンターに並んでたお菓子から好きなのを選んできて、それを頼んだんだ。
「この店って、あの頃からあるんですね」
「ええ。この店は結構前からやっていて、魔道オーブンが開発されて窯の温度調節が簡単になったからって、ここのオーナーがお菓子屋さんを開いたのよね」
お母さんはルルモアさんと昔のお話で盛り上がってる。
でも、ルルモアさんってそんな昔から冒険者ギルドにいたんだね。
そう言えばエルフの人ってすっごく長生きだって言うし、ルルモアさんってもしかしたらお爺さん司祭様よりももっと年上だったりして。
「それを知ってるって事は、もしかして開店当初から?」
「ええ。新しいお店が開くと聞いて来てみたら、とってもおいしいお菓子が並んでたんですもの。一発で気にいっちゃったわ」
お母さんたちが二人してそんな話をしてると、ちょっと太った男の人がお菓子がのったトレイをもって僕たちのテーブルにやってきたんだ。
「ルルモア様、いつもご贔屓にして頂いてありがとうございます」
「あら。オーナー。今日は店に来てたのね」
「ええ。実は商業ギルドから新しいお菓子のレシピの試作をいくつか頼まれたもので」
この男の人はね、このお菓子屋さんのオーナーさんなんだって。
でね、今日は商業ギルドのお菓子を初めて作るから来てたらしいんだけど、どうせなら開店当初から来てくれてるルルモアさんにも食べて感想を言ってほしいんだってさ。
「あら、それってうまく行けば新商品になるかもしれないんでしょ? そんなのをもらってもいいの?」
「ええ。ルルモアさんは昔からのお得意様ですし、いろいろなお店を食べ歩いて口も肥えていらっしゃいますから」
そう言ってオーナーさんがテーブルに置いたのは、木のコップの中にいっぱい入った棒状の焼き菓子。
「この菓子はいろいろなものを付けて食べてもおいしいのですが、まずはそのまま食べて頂いて、その感想を頂けるとありがたいです」
「えっと、今日は知り合いといっしょなんだけど、この子たちもいいかしら?」
「ええ、もちろん。色々な方から意見を聞いた方がこちらも助かりますから」
今日出す新作のお菓子って、実は結構偉い人から試作を頼まれたものも入ってるんだって。
でね、そのいくつかはその偉い人がいろんな人に出すことになるから、その前にお菓子職人じゃない人たちからも意見が聞きたかったんだってさ。
「それでは遠慮なく頂くわね」
と言うわけで、まずはルルモアさんがパクリ。そしてそのままポリポリポリと一本をあっと言う間に食べちゃったんだ。
「屋台で売ってるのによく似た食感だけど、こっちの方が香ばしくておいしいわね。それにハーブが入ってるのかな? それが塩味にあってとてもおいしいわ」
「ありがとうございます」
ルルモアさんの感想にお礼を言うオーナーさん。
それを見た僕たちは、どんな味なんだろう? って、さっそくそのお菓子に手を伸ばして食べてみたんだけど、
「あれ?」
「これって……」
みんなしてあれ? って顔になっちゃったんだ。
だってこれ、僕たちがいっつも食べてるのとおんなじ奴だったんだもん。
「どうしたんですか? カールフェルトさん」
「何かおかしな所がありましたでしょうか?」
そんな僕たちを見たルルモアさんとオーナーさんは、何かあったのかな? って心配そうにそう聞いてきたんだよね。
「いえ、別におかしな所があった訳ではないのですが……」
「お母さん。これって、ルディーンが作ってくれたお菓子とおんなじだよね」
だからお母さんはそんな事ないよって言ったんだけど、そこでキャリーナ姉ちゃんがこんな事言いだしたもんだから、ルルモアさんたちはびっくりしちゃったんだ。
「ルディーン君が作ったお菓子と同じって、それってどういう事なの?」
でね、ルルモアさんが慌ててそう聞いてきたもんだから、前に村でパンを焼く時、一緒にこのお菓子とおんなじのを焼いてあげたらおいしくって持ち運びに便利だからって、それからはみんな食べるようになったんだよって教えてあげたんだよね。
そしたらオーナーさんが急に怖い顔になっちゃって、僕にこう聞いてきたんだ。
「ルディーン君と言ったかな? もしよければ、そのレシピを、作り方を教えてはもらえないだろうか?」
「作り方?」
「ええ、ルディーン君。もしよかったら教えてくれないかな?」
それにルルモアさんまでこう言って来たもんだから僕は村で作ってる通り教えてあげたんだけど、そしたらオーナーさんはものすごくびっくりした顔になっちゃった。
「まさか、オーナー。もしかして今ルディーン君が言ったのって」
「ええ。商業ギルドから教えられたレシピ、そのものです」
このレシピって、商業ギルドでも開発者の名前は教えてもらえなかったんだって。
でも偉い人が広めるレシピだからって、オーナーさんはきっとどこかの貴族様んちの料理人さんが作ったからなんだろうなぁって思ってたそうなんだよね。
「この手のものは公表されるまでは開発者を伏せる事がよくあるのです。そうする事によって、他の貴族にレシピが漏れたとしても相手がより上位者である可能性を考えて盗作するのを躊躇しますから」
「なるほど。それがこんな小さな子が考えたお菓子だったと言われたら、驚くのも無理はないわね」
でも作ったのが僕だったもんだから、オーナーさんはびっくりしたんだってさ。
と言うわけで僕が作ったお菓子だってのは解ったみたいなんだけど、
「でも、ルディーンが作ったこの焼き菓子が、何で商業ギルドに?」
今度はお母さんが、なんでそんなお菓子を商業ギルドが教えてくれたんだろう? って言いだしたんだ。
「そう言えばそうですわね。ルディーン君。心当たりはあるの?」
「えっとねぇ、前に錬金術ギルドでロルフさんたちにこのお菓子をあげた事あるんだ。その時はみんな、おいしいおいしいって食べてたから僕、作り方を教えてあげたんだよ。だからロルフさんかバーリマンさんが教えたんじゃないかなぁ?」
ロルフさんはお金持ちでしょ? あの時もお酒と一緒に食べたらおいしいんじゃないかなぁって言ってたもん。
だからきっと、パーティーとかする時にみんなに出すからって教えたんじゃないかなぁって、僕はルルモアさんに話したんだよね。
「なるほど、錬金術ギルドのお二方ですか」
「その話を聞けば納得です」
そしたら二人ともうんうんと頷いて納得したんだよね。
そっか。じゃあやっぱり、商業ギルドが言ってる偉い人って、ロルフさんの事だったんだね。
読んで頂いてありがとうございます。
前からロルフさんが言っていたルディーン君レシピ集、やっと動き出しました。
と言うか、ロルフさんたちが秘匿していたのに、しょっぱなからルディーン君が作ったんだってばれてるんですよね。
まぁ、商業ギルドから依頼されて試作するほどの店なので、貴族が秘匿している情報を漏らす事は無いでしょうし、もう一人もルルモアさんだから問題は無いんですけどね。




