268 おかしな鐘の音と、おいしくなかったお菓子
メリークリスマス! 聖夜に鐘がつきものですね。
ただ物語の中で鳴ってる鐘は、除夜の鐘のような音ですがw
周りに響いてるおっきな音。
お母さんはこれが鐘の音だよって言うんだけど、僕はホントなの? って思ったんだ。
「えー、だってこれ、ゴォーンって鳴ってるよ。鐘だったらカンカンとか、カランカランとか、ガランガランて鳴るんじゃないの?」
だって、聞こえてくる音がどうしても鐘の音だって思えなかったんだもん。
だから僕は、お母さんにそう聞いたんだよ。
そしたらお母さんも、前からそう思ってたんだって。
「鐘ってゆすると中にあるものがあたって音が鳴るでしょ? だから普通に考えたらこんな音が鳴るはずないのよね」
鐘って村でやってるみたいに木槌で叩くんじゃなかったら、普通はゆすって使うんだよね。
そうすると鐘の中にぶら下がってるのがあたって音が鳴るんだけど、そしたら金属同士があたるからどうしても甲高い音になっちゃうはずなんだ。
でもこの時間を教えてくれる音はすっごく低い音だから、お母さんも普通の鐘じゃこんな音しないよねって笑うんだよ。
「それにね、これは鐘と言っても魔道具らしいの。だからこんな風に変な音の鐘になってしまっているのかもしれないわね」
「へぇ、これって魔道具なんだ」
この時間を教えてくれる魔道具はイーノックカウだけじゃなくって、僕たちが住んでるアトルナジア帝国の大きな街にはみんな置いてあるんだって。
でね、全部の街の魔道具は帝都の時間に合わせてあるから、どんなに遠くに行っても帝国内ならおんなじ時間に鐘が鳴るんだよって、お母さんは教えてくれたんだ。
「そっか。そんな魔道具だったら作るのも大変だろし、うちの村にまでつけられないよね」
「ええ、そうね。そしてその魔道具が無かったら帝国の決めた正確な時間なんてわからないでしょ? だからうちの村ではお昼に鐘を鳴らさないのよ」
僕たちはお日様が大体どれくらいのとこにあるのかを見て、今がお昼くらいかな? って思うんだよ。
でも、お日様の位置って、季節によって高くなったり低くなったりするから、いっつもおんなじって訳じゃないんだ。
でもそうなると、そんな魔道具でもなかったら毎日おんなじ時間に鐘を鳴らす事なんてできるはずないでしょ?
だから、うちの村では鐘を鳴らさないんだよってお母さんは笑いながらそう言ったんだよね。
でね、このお母さんのお話を聞いた僕もお姉ちゃんたちも、それじゃあグランリルの村ではお昼の鐘を鳴らせないねって納得したんだ。
そんな話をしながら歩いてるうちに、僕たちはいろんな食べ物屋さんの屋台が並んでるところに着いたんだよね。
「お母さん、いっぱい人がいるね」
「そうね。どの屋台にも、人がたくさん並んでるわ」
そこにはさっきお昼の鐘が鳴ったからなのか、いっぱい人がいて、どの屋台にも人が並んでたんだ。
でも、みんなが並んでるのはやっぱりお肉やお魚の串焼きみたいな手で持って食べられるおかずを売ってる屋台や、スープとパンのセットを売ってるお店ばっかりなんだよね。
「あっ、あそこ! あそこのお店、お菓子売ってるよ!」
「ほんとだ! 今ならだぁれも並んでないよ。お母さん、早く行こ!」
だからなのか、レーア姉ちゃんが見つけたお菓子を売ってるお店の前には誰も並んでなかったんだ。
きっとああ言うお菓子の屋台は、ご飯を食べ終わった人とか今とは違う時間にみんなが買いに来るんだろうね。
でね、その屋台を見たキャリーナ姉ちゃんは、誰も並んでないから今の内だ! って、お母さんの手を引っ張ったんだよ。
「はいはい。それじゃあ、あのお店に行きましょうか」
でも、もともと僕たちはお菓子のお店に行くつもりだったから、そんなお姉ちゃんに抵抗することなく、お母さんは僕と一緒にその屋台に向かったんだよね。
「へぇ。この屋台、焼き菓子が売ってるのね」
その屋台なんだけど、お母さんが言う通り小麦粉を水で溶いて焼いたのかな? ひらぺったい焼き菓子の上にお砂糖が乗ってるのを売ってるお店だったんだ。
「いらっしゃいませ。いくつお求めですか?」
「そうねぇ。他の店のも食べたいだろうし、一人1枚ずつでいい?」
「うん、いいよ!」
と言うわけでお母さんは屋台のおじさんに4枚くださいって言ってお金を払ったんだけど、そしたらおじさんはそのお菓子をおっきな葉っぱを丸めて作ったみたいな入れもんに入れてお母さんに渡してくれたんだ。
「へぇ、そんなのに入れてくれるの?」
でも僕、そんなの初めて見たから、びっくりしちゃったんだよね。
「ああ、そう言えばルディーンはこういう屋台で何かを食べるの、初めてだったわね。こういう屋台では買う人は、普通入れ物を持って来ないでしょ? だからこんな風に、葉っぱや薄く削った木で作った器に入れてくれるのよ」
「そっか。みんなお仕事してるんだから、入れもんなんて持ってきてないもんね」
こういうのだったら、食べた後は捨てちゃえばいいもん。
わざわざみんなが入れもんを持ってくるより、絶対いいよね。
「お母さん、そんなのいいから、早く食べよ」
「はいはい。それじゃあ頂きましょう」
僕と違って入れもんなんかに興味がないキャリーナ姉ちゃんが早くお菓子を頂戴って言うもんだから、お母さんはニコニコしながら焼き菓子をその葉っぱの入れ物の中から一枚取り出して、お姉ちゃんに渡したんだ。
「いただきまぁ~す」
でね、受け取ったキャリーナ姉ちゃんは、大きなお口を開けてパクリ。
そのままもぐもぐと口を動かしてたんだけど、
「とっても甘いんだけど、パサパサしてあんまりおいしくないね」
って言いながら、ちょっとがっかりした顔になっちゃったんだ。
だから僕たちもお母さんから貰って一口食べたんだけど、キャリーナ姉ちゃんが言う通り上にかかってるお砂糖はとってもお甘いんだけど、焼き菓子自体がちょっとパサパサしてるんだよね。
「う~ん。これだったら、前にルディーンが作ってくれた焼き菓子の方がおいしいわね」
「うん。あっちはお砂糖じゃなくってお塩がかかってるだけだったけど、カリカリしておいしかった」
お母さんとレーア姉ちゃんも、この焼き菓子はあんまりおいしくないって思ったみたい。
でも僕、このお菓子が何なのか、なんとなく解ったんだよね。
「あっ、これってもしかして前にロルフさんが言ってた、兵隊さんが食べてるやつなのかも」
お母さんたちが言ってる焼き菓子って言うのは多分、僕がパンを焼くときについでに焼いてもらった小麦粉を油で練って焼いたやつの事だと思うんだ。
でね、前にそれを錬金術ギルドでみんなに食べてもらった事があったんだけど、これってその時にロルフさんが言ってた兵隊さんが持ち歩いてる小麦粉の固焼きってやつなんじゃないかな?
「兵隊さんが食べるやつ?」
「うん。僕が作ったのと違ってあんまりおいしくないけど、安く作れるんだよってロルフさんが言ってたんだ」
「なるほど。確かに、お砂糖を使ってる割には安かったものね」
お母さんは、確かに僕が作ったのよりはおいしくないかもしれないけど、これってお砂糖が乗ってて甘いから、普段お菓子を食べない人には評判がいいんじゃないかなぁ? って言うんだよ。
でも、それを聞いたキャリーナ姉ちゃんが、
「ねぇ、お母さん。じゃあ、イーノックカウのお菓子って、みんなこんなのばっかりなの?」
って言って、しょんぼりしちゃったんだ。
でもね、そんな事は無いって僕は思うんだよね。
「大丈夫だよ。ストールさんも焼き菓子にはお砂糖を使ってるのやバターを使ってるのがあるって言ってたもん」
「お母さん。ルディーンが言ってるのって、ほんと?」
だって、僕が焼き菓子を持ってった時に、そう言ってたもんね。
だからバーリマンさんたちが言ってた事を教えてあげたんだけど、キャリーナ姉ちゃんは僕が言っただけじゃまだ不安だったみたいで、お母さんに聞いたんだ。
「ええ、そうね。ここのはこんな味だったけど、私も前にクッキーって言うおいしいお菓子を食べた事、あるわよ」
「そっか。じゃあ、おいしいお菓子、食べに行こ!」
そしたら、ちゃんとおいしいお菓子も売ってるって言われたもんだから一安心。
今度はそのおいしいお菓子を買いに行こうねって、キャリーナ姉ちゃんは元気に歩き出したんだ。
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