267 街の人はみんな、おんなじ時間にお昼ご飯を食べるんだって
「楽しかった。また来ようね」
昨日とは違う髪飾りや僕が作る予定のペンダントトップに付ける真鍮の鎖を何本か買って、キャリーナ姉ちゃんはとっても嬉しそう。
「そうね。この街まで来るのは大変だけど、私もまた来たいなぁ」
「ルディーンの作った馬車は今までのよりかなり荷物が重くなっても馬に負担がかからないみたいだし、たまにはこんな風に家族で来るものいいかもしれないわね」
そして、同じようにお母さんやレーア姉ちゃんもニコニコだ。
だって二人ともキャリーナ姉ちゃんといっしょで、いつも着けてるポシェットの中には買ったばっかりのアクセサリーが入ってるんだもん。
小物雑貨屋さんの中では僕に、お家に帰ったらいろいろ作ってねって言ってたんだよ? だからきっと何にも買わないんだろうなぁて思ってたんだけど、結局3人とも中でお買い物をしたんだよね。
でね、小物雑貨屋さんの中はもう十分見たし、お買い物も済んだから僕たちはそのままお外に出たんだよ。
そしたらレーア姉ちゃんが、
「ところでお母さん。これからどうするの?」
って、お母さんに聞いたんだ。
そう言えば、宿屋さんを出る時はこの雑貨屋さんに来るよってお話しかしてなかったっけ。
だからなのか、お母さんはちょっとだけ考えてから、僕たちにこう聞いてきたんだよね。
「そうねぇ、雑貨屋さんにかなり長居しちゃったし、みんなそろそろお腹がすいて来てるんじゃない?」
「うん。僕、お腹すいた!」
宿屋さんでは朝ご飯をいっぱい食べたけど、小物雑貨屋さんまで歩いてきたり、お店の中をくるくると見て回ったりしたからちょっとお腹がすいてるんだよね。
だから僕、元気よくそう答えたんだけど、
「あら、朝あんなにいっぱい食べたのに。やっぱりルディーンは男の子ね」
そしたらお母さんはニコニコしながら、それじゃあご飯を食べに行こって言ったんだよ。
でも、それに反対したのがキャリーナ姉ちゃん。
「えー、せっかくイーノックカウに来たんだもん。ご飯じゃなくって、お菓子食べようよ」
お肉やお魚は村でも食べられるけど、イーノックカウにしか売って無いお菓子はこの街まで来ないと食べられないでしょ? だからお姉ちゃんはそっちがいいって言うんだ。
そしてその意見に、レーア姉ちゃんも大賛成みたい。
「グランリルの村でもルディーンが作ってくれるからいろんなお菓子が食べられるけど、たまには別のお菓子も食べたいもん。それにルディーンだって食べたら、また別のお菓子を思いつくかもしれないよ」
せっかくイーノックカウまで来たんだから、お菓子の方がいいって二人して大合唱。
そんなお姉ちゃんたちに、お母さんはちょっとだけ困った顔をして僕に聞いてきたんだよ。
「ルディーン。レーアとキャリーナはこう言ってるけど、お菓子でもいい?」
「うん。僕もイーノックカウの菓子、食べてみたいもん。だからいいよ」
前にお父さんに連れてきてもらった時、お家に帰ったらお菓子食べてこなかったの? って言われて、そう言えば食べてないやってちょっとがっかりした事があるんだよね。
だから僕も、ご飯の代わりにこの街のお菓子を食べてもいいよって思ったんだ。
お菓子が売ってるとこって、焼いたお肉の串とか小麦粉を焼いたクレープみたいなものでいろんな具を巻いたものみたいに、すぐに食べられるものばっかりが売ってる屋台があるとことおんなじ場所にあるんだって。
だからみんなでそこに向かって歩いて行ったんだけど、そしたら先の方からいっぱいいい匂いがしてきたんだ。
「お母さん。お肉とかお魚を焼いてるいい匂いがするよ」
「そうね。街の人たちも、ちょうどお昼ご飯を買いに来る時間なのかもしれないわね」
僕たちの村のご飯って、その日のお仕事によってお昼は食べたり食べ無かったりするんだよ。
でも街の人たちはいっつもおんなじお仕事しかしないから、毎日みんなおんなじ時間にお昼ご飯を食べるんだって。
「ねぇ、お母さん。イーノックカウの人はなんでみんな、お昼ご飯を食べる時間が解るの?」
「それはね、その時間になると鐘が鳴るからなのよ」
イーノックカウって、決まった時間になると街の真ん中にある大きな鐘を鳴らして、みんなに今この時間ですよって教えてくれるそうなんだよね。
でね、お昼ご飯を食べる時間もその鐘がなる時間の中に入ってるから、みんなちゃんとおんなじ時間にお昼ご飯が食べられるんだってさ。
「すごいね。でもさ、じゃあ何でうちの村だとかね、鳴らさないの?」
「はいはいっ! お母さん、私わかっちゃった」
そんな風に鐘が鳴ったらとっても便利だよね? だから僕、何でうちの村ではやんないの? って聞いたんだけど、そしたらお母さんが答える前にキャリーナ姉ちゃんが解ったよって手を挙げたんだよ。
だから、どうしてだと思うの? って聞いたんだけど、そしたら、
「グランリルの村で鐘と言ったら、森への出口んとこについてるやつだからでしょ?」
キャリーナ姉ちゃんは胸を張ってそう答えたんだ。
そっか。確かに村にある鐘って言ったら、みんなあれを思い浮かべるはずだもん。
でもあれって何か大変な事が起こった時に鳴らすもんだよね? だから、そんなにしょっちゅう鳴らしちゃったらみんなこまっちゃうんだ。
だからうちの村では鳴らさないんだろうなぁって、僕もそれがきっと当たりだと思ったんだけど、
「確かにあの鐘をしょっちゅう鳴らしたらみんなが混乱するかもしれないけど、それなら別のを使えばいいじゃないの」
レーア姉ちゃんが、なら違う音の鐘を使えばいいでしょって。
でね、そんな僕たちの話を聞いて、お母さんもレーア姉ちゃんが言ってる事があってるんだよって教えてくれたんだ。
「レーアの言う通り、グランリルの村で時を告げる鐘を鳴らさないのは、非常時用の鐘と間違えるからじゃないわ。そもそも、鐘の音自体が大きく違うから、間違えようがないもの」
「そうなの?」
「ええ。森側の出口の鐘は、木づちで叩くからカンカンカンって甲高い音がするでしょ? それと違って、この街の鐘は……」
ゴォーン、ゴォーン、ゴォーン。
その時、どこからかこんな、お腹がびりびりするような大きな音が聞こえてきたんだよね。
イーノックカウにいると毎日何度かこんな音がするんだけど、これって何の音なんだろう? って僕、前から思ってたんだよ。
でもロルフさんたちに聞いたら、そんな事も知らないの? って思われちゃうかもしれないもん。
そしたら恥ずかしいでしょ? だから聞けなかったんだ。
だけど今日はお母さんが一緒でしょ?
お母さんならそんな風に思うわけないもん! だから僕、聞くにはちょうどいいやって思ったんだけど、
「ああ、ちょうどいいタイミングね。ほらこれよ。これが時を告げる鐘の音なの」
そしたらなんと、これがさっきまでお母さんが話してた、いろんな時間を教えてくれる鐘の音だったんだ。
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