266 大人の人用だもん、高いのは当たり前だよね
「ねぇ、ルディーン。お母さんにもアクセサリーをプレゼントしてくれるって話はどうなったのかな?」
お姉ちゃんたちと話してたさっきまでと違って今は近くに店員さんがいるから、お母さんは作るんじゃなくってプレゼントするって言い方で聞いてきたんだよね。
だから僕、さっきお母さんが欲しがってたテーブルの上に置いてあるのを見てみたんだよ。
そしたらそこには、お姉ちゃんたちが見てたのよりもっと丁寧に作られてるアクセサリーが並んでたんだ。
レーア姉ちゃんが欲しいって言ってたペンダントトップってやつもあったから比べてみるとよく解るけど、お姉ちゃんの欲しがってたのは銅の板がいろんな形や柄にデザインされてたり、きれいに磨いた石に金具を付けてぶら下げられるようになってたりするだけだったんだよね。
でも、今見てるのは大人の人が着けるやつだからなのか、もっと凝ったデザインのものばっかりが並んでたんだよ。
例えば、石がついてないやつでも何個かの輪っかが絡まりあうような形だったり、ハート形の中に小さなお馬さんの絵が掘られたメダルがぶら下げられたりしてるんだもん。すごいよね。
でも石がついてるのはもっとすごくって、二重のハートの輪っかにきらきらした小さな石がびっしりと付いてたり、それとは逆でハート形に削ったキラキラした石に銀色や金色の金具がついてるのとかがあったんだ。
「わぁ! すごいね、これ」
「ほんと、きれい」
レーア姉ちゃんやキャリーナ姉ちゃんも、大人用のアクセサリーを見て目をキラキラさせてる。
そりゃそうだよね。お姉ちゃんたちは僕より大きいけどまだ子供だもん。
そんなお姉ちゃんたちが買うもんと違って、お母さんみたいな大人の人が買うやつなんだからきれいでキラキラなのは当たり前なんだ。
「確かにきれいよね。それに値段からすると、こっちは本物の金や銀を使ってるみたいね」
「そうなの!?」
おまけにお母さんがそんなこと言ったもんだから、お姉ちゃんたちはテーブルの上に乗ってるアクセサリーに釘付けになっちゃった。
そっか。じゃあこれはお姉ちゃんたちが買ってたのと違って高いんだね? そう思った僕は、横に書いてあるお値段を見てみたんだよ。
そしたら2500セントって書いてあったもんだから、びっくりしちゃった。
って事は銀貨25枚もするって事だよね? お姉ちゃんたちが作ってって言ってたのは100セントもしなかったのになぁ。
こんなにちっちゃくても、大人の人が着けるアクセサリーはやっぱり高いんだね。
僕がそう思ってると、お母さんはもっとびっくりする事を言ったんだよ。
「あら、ルディーンは値段を見てびっくりしたみたいね。でもこれ、見た目の割にはかなり安いのよ。多分使っている石が安いものだからなんだろうけど、これがもし本物の宝石を使っていたら、こんな小さな石でも桁が二つ上がるでしょうね」
「そんなにするの!?」
それって、金貨25枚もするって事だよね? こんな小さい石なのに?
前にロルフさんたちから宝石はとっても高いんだよって聞いたことあるけど、それはきっと魔道具に使えるくらい大きいからだって僕、思ってたんだ。
だから、こんなに小さな石でもそんなにするなんて思ってなかったよ。
「ねぇ、お母さん。じゃあこれは宝石じゃないの?」
「そうねぇ。これは透明だし、水晶のかけらを使ってるんだと思うわよ」
レーア姉ちゃんに聞かれたお母さんが教えてくれたんだけど、水晶は一応宝石ではあるんだけどある程度の大きさがないと価値が無いんだって。
「水晶って、削って玉にしたり色々な置物にしたりするでしょ? だから、多分これはその時に出たかけらを使ってるんじゃないかしら?」
「そうか。だからこんなに小さいキラキラが、いっぱい付いてるのがあるんだね」
「そうね。こう言うデザインなら、本来捨てるはずの削ったものでもアクセサリーに使えるもの」
そう言いながら、またテーブルの上を見てお母さんとレーア姉ちゃんはうっとり。
でも僕は、そんなお母さんたちの話を聞いててちょっと困っちゃったんだ。
「ルディーン、どうしたの?」
そんな僕にキャリーナ姉ちゃんは気付いたみたいで、こう声をかけてきてくれたんだよね。
だから僕、理由を教えてあげたんだよ。
「あのね。お母さんはさっき、こういうのが欲しいって言ったでしょ? でも僕、水晶なんて持ってないから作れないんだ」
土台になる金や銀は多分どっかで買えるだろうし、それがもしダメだったとしても、その時はもったいないけどお金を材料にすれば手に入るんだよね。
でもさ、水晶を削ってできたかけらなんてお店で売ってないし、水晶の玉や置物を作ってる人なんて僕知らないから手に入れようがないんだ。
それに水晶の塊だったら売ってるかもしれないけど、そんなの高くて買えるはずないもん。
だから僕、お母さんが欲しいって言ってるのを作れないんだ。
「あら、ルディーンはそんな事を考えてたの? ごめんなさいね、無理な事を言って」
僕を抱っこしたままだったからキャリーナ姉ちゃんとのお話も聞こえてみたいで、お母さんは水晶なんて付いて無くてもいいよって言ってくれたんだよ。
だけどさ、僕はせっかく作るんだったらキラキラが付いてるのをあげたいって思うんだ。
でも、水晶の代わりになるものなんてあるのかなぁ?
そう思った僕は、何か無いかな? って思いながら周りをきょろきょろと見渡したんだよね。
そしたら大人の人が着けるアクセサリーの中に、ちょっと変わった形の石が付いてる指輪があったんだ。
「ねぇ、お母さん。あれ何? あれも水晶?」
「どれの事? ああ、あれは多分ガラスよ。色がついてるもの」
ロルフさんのお家の窓にも使ってあるから、僕もガラスは知ってるんだよね。
でも、ガラスって透明なだけじゃなくって色も付けられるんだなぁ。
「それに、見てごらん。水晶を使ったものより高いでしょ? ガラスはかなり高温にできる魔道具の炉を使わないと作れないから、どうしても値段が高くなってしまうそうなの。だけど、それでも宝石のように透明でいろいろな色のものが作れるからいいわよね」
「ピカピカして、本物の宝石みたい」
「それに赤いのや青いのとかがあって、とってもきれい」
水晶より高いから欲しいなんて言わないけど、見るだけだったらいいよねってお姉ちゃんたちはガラスでできたアクセサリーをニコニコしながら眺めてたんだ。
だけど僕はこの時、何かが頭の隅っこに引っかかったんだよね。
あれ? 赤とか青とか、そんな宝石みたいなのがどっかにいっぱいあった気がするんだけど?
そう思ったから僕は、頑張って思い出そうとしたんだよ。
そして気が付いたんだ。
「そう言えば僕、初めて見た時に宝石みたいだって思ったっけ」
他ではあんまり見た事がない透明なガラス瓶に入った、いろいろな色をしたきれいな小石たち。
それがお店の魔法の明かりに照らされてキラキラ光ってたのを、今でもはっきりと覚えてるんだよね。
だってあれを見て僕、ここってやっぱりおしゃれな小物雑貨屋さんみたいだって思ったんだもん。
「なにが宝石みたいだったの?」
「ないしょ」
お母さんは水晶なんか付いてなくてもいいって言ってたけど、あれなら水晶どころかガラスの代わりにだってなるよね。
だから僕は、お家に帰ったらお母さんに作ってあげようって決めたんだ。
赤や青い色をした、属性魔石が付いたアクセサリーを。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君は簡単に手に入るからと気楽に考えていますが、魔石は一角ウサギから獲れる無属性で米粒大の物でも銀貨40枚で冒険者ギルドに売れます。
この時点ですでに水晶の付いたアクセサリーの値段を超えているのに、ルディーン君はそれをさらに属性魔石に変換する気満々です。
と言うかそんな小さな魔石を使うつもりなんて当然ありませんから、さらに高額に。
出来上がったペンダントトップは、いったいどれくらいの値段になるんでしょうね?w




