262 石鹸型ポーションはいろんな事に使えるんだって
「でもまさか石鹸をポーションにするなんて、流石に思いもしなかったわ」
みんなでいっぱい喜んだ後、バーリマンさんがこんな事を言いだしたんだ。
「うむ。ポーションとは本来、飲んだり傷口にかけたりして使うのが普通じゃからのぉ」
普通のポーションってみんな液体でしょ? だから僕が作ったお肌つるつるポーションや髪の毛つやつやポーションみたいにクリーム状になってるのでさえ今までは無かったそうなんだ。
それなのに今度は石鹸のポーションができちゃったでしょ? だからロルフさんたちは、ほんとにびっくりしてるんだってさ。
「それにこの石鹸型ポーションですが、材料にセリアナの実の油を使用したからなのか、普通のものよりかなり香りがいいですわね」
「確かに市販されておる石鹸に比べると、甘い香りがしておるのぉ」
実は僕たちが使ってる石鹸って、あんまり匂いがしないんだよね。
何でかって言うと、それは使ってる油が錬金術で臭いを消した動物の脂だったり、元々あんまり臭いがしないハチの巣から獲れる蜜蝋だったりするからなんだって。
でも今回使ったのはとっても甘い香りがするセリアナの実の油でしょ?
それを石鹸にする時に、温める事で薬効成分が変質しちゃったりしないようにバーリマンさんがクリエイト魔法を使って作ったもんだから、セリアナの実の香りもそのまんま残っちゃったんだ。
そのおかげで、こんなにいい香りの石鹸ができたってわけ。
「香りの付いた石鹸と言うのは聞いた事がありませんから、たとえ肌がきれいになる効果が無かったとしても、これだけでもかなりの商品価値があるでしょうね」
「いやいや、ギルマスよ。それ以前に注目すべき事があるじゃろう」
甘い香りの石鹸は、売りだしたらきっとみんな買うよねってバーリマンさんは思ってるみたいだけど、その話を聞いてたロルフさんはそれよりも大事な事があるんじゃないの? って言ったんだ。
「注目するべき事ですか?」
「うむ。ルディーン君が考え出した、この石鹸型ポーションそのものじゃよ」
僕は石鹸の形のポーションなんてただ珍しいだけなんじゃないの? って思ってたんだけど、ロルフさんからするとそうじゃないみたい。
なんでかって言うと、石鹸をポーションにする事で今までとは違った使い方ができるようになるからなんだってさ。
「例えば、カモミールを混ぜ込んだ石鹸を使ってポーションを作ったとしたらどうじゃ? あれには精神を安定させる効果があるからのぉ。政務で疲れておる者たちならば、ただ風呂で体を洗うだけで日々の精神的な疲れが癒えるのじゃから、これほどありがたい事はあるまい?」
「確かにそうですわね。それにカルダモンを混ぜてみても良いかもしれません。あれを使ったポーションは体力を回復させる効果がありますから、湯につかり、その石鹸で体を洗えばよりその効果を実感する事でしょう」
石鹸のポーションは普通のに比べて一度に使う量が少ないから一気に効く訳じゃないんだよね。
でも、毎日使えばその効果はかなり出るだろうし、何より普通のポーションと違って石鹸のポーションは毎日使ったってそんなに早く無くなっちゃったりしないから、ちょっとくらい高くったってみんな買うんじゃないかってロルフさんたちは言うんだ。
「少し考えただけでこれほどの使い道があるのじゃ。多くの者が本格的に研究を始めれば、かなり有用な技術となるじゃろう」
「はい。この石鹸型ポーションの情報は、多くの錬金術師に広めるべきですわね」
よく解んないけど、石鹸型ポーションはみんなに教えてあげないとダメなんだって。
だからロルフさんとバーリマンさんは、僕にこれをみんなに広めてもいい? って聞いてきたんだよね。
「みんなに教えるの? うん、いいよ。だって、教えたらたくさんの人が喜ぶんでしょ?」
「うむ。その通りじゃ」
「ありがとう、ルディーン君。それではロルフさん、さっそく次の技術大全に載せられるよう、私はこれから詳細をまとめて羊皮紙に記載する事に致しますわ」
「それと、ギルマスでも作れるようになったのじゃから、肌用ポーションの記載も忘れぬようにな」
「おお、そうでした。ふふふっ、これを発表したら世の中がひっくり返りますよ」
そう言って笑いながら頷き合うロルフさんとバーリマンさん。
でも何でか、二人の感じがちょっと物語に出てくる悪もんみたいなんだ。
えっと、石鹸型ポーションもお肌つるつるポーションも、みんなに作り方を教えたら喜んでくれるんだよね?
なのになんで、こんな風になっちゃってるんだろう?
バーリマンさんが奥のお部屋までお仕事をしに行っちゃったもんだから、僕とロルフさん、それにお母さんはお店の方に移動する事になったんだ。
だって、そろそろお姉ちゃんたちが帰ってくる頃だもんね。
でね、ストールさんはそんな僕たちのためにって、新しいお茶を入れに行ってくれたんだ。
そしてそのお茶を飲んで、僕たちがふぅって一息ついてたら、
カランカラン。
「ただいま帰りました」
「「ただいま!」」
赤い扉を開けて、ペソラさんとお姉ちゃんたちが帰ってきた。
「あら、おかえりなさい。二人とも、その表情からすると、とても楽しかったみたいね」
「うん! とっても楽しかった!」
「あのね、お母さん。ペソラさんがつれてってくれたお店、とってもかわいかったんだよ」
レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんは、そう言いながら買って来たものを僕とお母さんに見せてくれたんだよね。
「へぇ、キャリーナは木彫りの髪飾りを買ったのね。レーアは……あら、これって」
「このペンダント、すっごくきれいでしょ? でも、とっても安かったんだよ」
キャリーナ姉ちゃんの髪飾りはお花と葉っぱの形に掘られた可愛いものだったんだけど、レーア姉ちゃんの方は金色の鎖の先に緑っぽい石がついてる、ちょっと高そうなペンダントだったんだ。
だからそれを見たお母さんは、こんな高そうなものを買って来たの? って顔したんだけど、レーア姉ちゃんはニコニコしながらすっごく安かったんだよって言うんだよね。
でもね、それを聞いたお母さんは、このペンダントにしてはすごく安かったって思ったみたい。
だからちょっと怖い顔になって怒ろうとしたんだけど、そしたらペソラさんが慌てて本当に安いんですよって教えてくれたんだ。
「これは一見かなり高そうに見えますけど、材料自体はとても安いものを使っているので、あまりお金がない女の子たちでも気軽に買えるからとすごい人気なんですよ」
「そうなのですか?」
レーア姉ちゃんのペンダントって、鎖が金で作ったみたいにピカピカしてるんだよね。
でもこれ、真鍮ってので作られてるからそんなに高くないんだって。
「このペンダントに使われている鎖は、細工師見習いが練習のために作っているものだからよく見るといびつなものも入ってるんです。でも、そのおかげで商業ギルドに安く卸されているそうなんですよ。それにペンダントトップに使われている石も河原に落ちてる色のきれいな石を宝石を磨く職人の見習いが練習で磨いたものだから、本当に安く買えるんです」
「あら、確かにこれ、普通の石だわ。それにこの鎖も」
ペソラさんに言われてもういっぺんよくペンダントを見てみたら、本当に言われた通りだったもんだからお母さんも納得。
「でも、これなら私でも十分身に着けられそうね。安いのならお土産にちょうどいいし、明日にでも買いに行こうかしら」
おまけにこんな事言いながらペソラさんにそのペンダントが売ってるお店を聞いたもんだから、僕たちは明日、そのお店に行く事になっちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
魔道具に技術大全集があるのですから、当然錬金術にも技術大全集があります。
今回、作中でバーリマンさんが載せようと話していたのは錬金術の技術大全集の方なのですが、そちらに載った場合も当たり前ですが魔道具と同等のお金が振り込まれるようになります。
それも石鹸型ポーションとお肌つるつるポーションの二つを。
おまけに石鹸型お肌つるつるポーションは販売されるので、その特許料も入ってくるんですよね。
ルディーン君の知らないところで、またも多額のお金がたまっていく。
そろそろ中級貴族くらいの年収になってるんじゃなかろうか?w




