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261 やったぁ! できたぁ!


 セリアナの実とは別に薬草とかの魔力を注ぐことができる物を用意して、その二つを混ぜて使えばポーションが作れるって解ったんだよね。


 だけど変なのを混ぜると、もしかしたらお肌をつるつるにできなくなっちゃうかもしれないんだって。


「なんで? さっきバーリマンさんがやったらちゃんとお肌がつるつるになるって出たよね? なのに何か混ぜたらつるつるにならなくなっちゃうの?」


「うむ。それにはのぉ、ポーションの性質が関わっておるのじゃ」


 ロルフさんが言うには、ポーションって注いだ魔力が一番多い成分の効果がやっぱり一番強く出るんだって。


 でね、今回の場合で言うと混ぜた薬草にちょっとでもお肌を傷つける効果が入ってたら、セリアナの実の成分が消されちゃうかもしれないんだってさ。


「例えばヒーリングポーション。これに使われる薬草の多くは細胞を活性化させて傷を治しておるのじゃが、その際傷ついた細胞を除去して新たに作り変えてるのじゃよ」


 お怪我を治すときって、傷を綺麗にするために壊れた細胞を一度無くしちゃってから治すらしいんだけど、その壊れた細胞をなくすって効果がセリアナの実のお肌をつるつるにする効果を消しちゃうかもしれないんだって。


「ルディーン君が作った肌用ポーションは、ある意味奇跡的にすべてのバランスが取れておったのじゃ。普通なら10もの薬効があれば、そのどれかが他のものを阻害してもおかしくはないのじゃから」


 お肌つるつるポーションだって、使った後に洗うと垢がいっぱい出るんだよね。


 って事は他のヒーリングポーションと同じように悪くなった細胞を無くしちゃってるんだけど、その効果がある薬効とお肌をつるつるにする薬効がおんなじくらいの魔力を持ってるからちゃんと効いてるんだよってロルフさんは言うんだ。


「しかし、他のものを混ぜるとなるとそのような奇跡はまず起こらぬ。それにのぉ。何かを混ぜるにしても、すでに3つの薬効が含まれておるのじゃから、わしらでも新たに加えることができるのはせいぜい2つまでじゃ。となると、加えるものはそれ相応の魔力量を内応できるものでなくてはならぬ。じゃから、肌をきれいにするのを阻害するものが少しでも含まれているものは使えぬと言うわけじゃ」


 セリアナの実の効果はそのまんまで魔力だけを注げる、そんなのを見つけないとダメなんだって。


 でもね、それってとっても大変な事みたいなんだよ。


「そっか。じゃあロルフさん。どんなのだったら一番いいの?」


「そうじゃのぉ」


 僕がそう聞くと、ロルフさんは白いあごのお髭をなでながらちょっと考えて、


「属性や薬効がないにもかかわらず、多くの魔力を内包しても崩壊しない、そんなものがあれば一番なんじゃが」


 って僕に教えてくれたんだ。


 でもね、そんなものは多分無いんじゃないかなぁ? ってロルフさんは言うんだ。


 なんでかって言うと、魔力を注げるものには必ず何かの薬効があるからなんだって。


「魔力を注ぐと言うのは何かに水を注ぐのと同じようなものなのじゃ。例えば、器に注げば水はその中にたまるじゃろ? ではテーブルの上に注いだらどうじゃ?」


「みんな、だーって流れちゃうね」


「うむ。その通りじゃな。魔力を注ぐと言う行為はこれと同じで、入れ物が無ければすべて流れ出てしまう。そしてその器となるものが薬効であり、火や水などの属性なのじゃよ」


 そっか。だったら属性も薬効も全くないのに魔力がいっぱい入るものなんか、ある訳ないよね。


 だから魔力を注いでもあんまり効果が出なかったり、お肌を傷つける効果が全くないものを探さなきゃいけないんだってさ。


「それとのぉ。これはあくまでそんなものがあればの話じゃが、セリアナの実から取れる薬効と同じように肌を綺麗にする成分を含む薬草が見つかり、その成分が多くの魔力を内包できるのであればそれが一番の理想じゃな」


 でもね、もしそんなのがあったら、それだけでお肌つるつるポーションができちゃうよね?


 だからこれは冗談だよって、ロルフさんは笑ったんだ。



 属性が無くってお薬としての効果もあんまりないのに、魔力を多く注げるものかぁ。


 でもそんなのって、ほんとにあるの? 


 そう考えながら頭をこてんって倒してたんだけど……あれ? 何か僕、そんなのを知ってる気がするんだけど?


 それって一体何だろう? 前の世界の記憶の中のものだっけ? ううん、前の世界には魔力なんてなかったから、そんなはずないよね。


 なら、僕の周りにあるもんって事かぁ。



 ■



「あら? ルディーン様がまた、何かを思いついたようですわね」


 何か良いものはなかったかとわしがギルマスと話し合っておると、ルディーン君がまた何やら考え込んでおるとライラが教えてくれたのじゃ。


「うむ。という事は、何か心当たりがあるという事なのじゃろう」


「そうですわね。ルディーン君の発想は私たちには無いものですし、彼の考えがまとまるのを待ってみませんか? 私たちが話し合って何かいい薬草を思い出したとしても、どうせそれが手元になければそれを取り寄せるまで研究は止まってしまうのですから」


「確かに。そう長い間ルディーン君をわしらに付き合わせるわけにはいかぬからのぉ。彼が何かを思いついたと言うのであれば、今日の所はそれを聞いて終わるのも良かろうて」


 こうしてわしらはライラにお茶を入れてもらい、カールフェルトさんと共にそれを飲みながらルディーン君の考えがまとまるのを待つことにしたのじゃった。



 ■



 僕の周りにあるものかぁ。


 って言うと、お菓子? ううん、そんなのがポーションになる訳ないよね。


 じゃあ何だろう? ロルフさんは魔力がいっぱい入って属性が無いのがいいって言ってたよね?


 あと僕の周りにあるもので魔力がいっぱい入れられる属性が無いものかぁ……無属性のもの……って、そっか! それって無属性の魔石じゃないか。


 あっ、でも魔石って石だからセリアナの実の油に入れても混ざんないよね? じゃあ無理か。


 僕はそう思って、ちょっとがっかり。


 でね、じゃあ他に何かないかなぁ? って僕、う~んって考えたんだけど、そんな時にあるものが目に入って、その瞬間に思いついちゃったんだよね。


 その目に入ったものって言うのは、この錬金術ギルドの壁についてる、魔道ランプ。


「そっか! 魔道リキッドなら混ぜられるじゃないか!」


 魔道リキッドは溶かした魔石にお水を混ぜたもんだから当然いっぱい魔力を含んでるし、魔道具の燃料に使ってるんだからうちの村のお水みたいにすぐ魔力が無くなっちゃうなんて事もない。


 だからうちの村のお水の代わりにすれば、お母さんたちがいっつも使ってるお水で溶いたお肌つるつるポーションみたいな使い方ができるはずだよね。


「なるほど、魔道リキッドか!」


「確かに魔道リキッドなら余計な薬効はありませんし、変な属性もついてはおりませんね」


 僕がいい事を思いついたって喜んでたら、ロルフさんとバーリマンさんがいつの間にか隣にいたんだよね。


 でね、どうやらさっき僕が言った魔道リキッドなら混ぜられるってのを聞いて、そっか! って感心してるみたい。


「うむ。これが飲むタイプのポーションであれば支障があるかもしれぬが、幸い肌用ポーションはクリーム状じゃから塗って使う。そう考えれば、魔道リキッドを使うと言うのも一つの手じゃな。ただ」


 でもね、ロルフさんは一つだけ問題があるって言うんだ。


「魔道リキッドは制作過程で溶解液を使っておるのがのぉ。元々が魔石しか溶かさぬ薬剤じゃし、最後に水で薄めておるから肌に塗ったところで問題はないと思うが」


「確かに、あの溶解液は誤って肌についても何も起きませんから私も大丈夫だとは思いますが、やはりポーションに使うとなると、最後に洗い流すよう周知させる必要はありそうですわね」


 魔道リキッドって、魔石を溶かして作るよね? ロルフさんたちは、その時に使う溶解液が心配なんだって。


 バーリマンさんが言う通り、あの溶解液は魔道リキッドを作ってる時に手に付いたって何にも起こんないんだよ?


 でも、塗ってからずっとそのまんまにしてたらどうなるかなんて誰にも解んないから、そこが心配だってロルフさんは言うんだ。


「ああそれなら、うちの村で使っているみたいに、お風呂で使うポーションという事にしたらどうでしょうか?」


 そしたら、それを聞いてたお母さんが村でやってるみたいにお風呂で使えばいいんじゃないの? って聞いたんだけど、そしたらそれじゃダメなんだって。


「グランリルの村はかなり裕福じゃし、水も豊富じゃから皆普通に風呂に入っておる。じゃがのぉ、地域によっては水があまりなかったり、領地全体の土壌が痩せておって領主でさえ貧乏ゆえに風呂を沸かす薪を買えないようなところも多いのじゃよ」


 お金がないとこならポーション自体を買わないからいいかもしれないけど、お水が少ないとこは鉱山とかがあってお金持ちかもしれないでしょ?


 だからお風呂で使うんだよって言っても、洗い流す必要が無かったらそのままにしちゃう人が出てくるかもしれないんだって。



 お肌つるつるポーションって、塗るとすぐに吸収されてサラサラになっちゃうんだよね。


 だから最初に洗わないとダメだよって言われても、忘れちゃう人はきっと出てくると思うんだ。


 でも洗わないでずっと使ってて、もしなんかあったらダメだからちゃんと洗うようにしたいってロルフさんは考えてるみたい。


「せめて必ず最後に水で流さねばならぬ、何か理由があればよいのじゃが」


 最後に洗い流すようにする方法かぁ。


 今のまんまだと別にそのままでもいいって思うから、お水で流さないんだよね? だったらさ、絶対最後にお水で流すのってどんな時だろう?

 

 そう思った僕は、いい事を思いついたんだ。


「ねぇ、ロルフさん。僕知ってるよ! 石鹸って油で作るんだよね? だったらセリアナの油で石鹸を作ればいいんじゃないの?」


 石鹸で体を洗った時は最後に絶対に洗い流すよね? だから僕、お肌つるつるポーションはセリアナの油から作るんだから、それで石鹸を作ればいいって思いついたんだ。


「なるほど、確かに石鹸であれば使った後に必ず水で洗い流さねばならぬな」


「そうですわね。幸い、石鹸を作る材料はそろっていますから、一度実験をしてみましょう」


 この時バーリマンさんに聞いて初めて知ったんだけど、僕がベーキングパウダーもどきって呼んでる粉があるでしょ? 石鹸ってあれと油で作れるんだって。


 ただね、普通の方法だと石鹸はあっためて作るそうなんだけど、でもそうするとセリアナの実の油の成分がおかしくなっちゃうから、別のやり方をしなくちゃダメらしいんだ。


 じゃあその方法が何かって言うと、それはクリエイト魔法。


 だけど最初っからクリエイト魔法だけで作るのは石鹸をいっつも作ってる人じゃないと無理だよってバーリマンさんが言うもんだから、途中までは普通に作る事になったんだよね。


 と言うわけでまずは魔道リキッドを温めて、そこにベーキングパウダーを入れて溶かしていったんだ。


 そしたら最初はぷつぷつと泡が立ってたんだけど、しばらくしたらそれがあんまり出なくなってきたもんだから、


 「それでは、行きますね」


 それを見たバーリマンさんは、そう言ってセリアナの油とそのベーキングパウダーもどきを溶かした魔道リキッドにクリエイト魔法をかけて石鹸にしちゃった。


「すごい! ほんとに石鹸になっちゃった」


 それを見て僕、すっごくびっくりしたんだ。


 だってほんとに、あっという間にできちゃったんだもん。


 そっか、僕がいっつもお風呂とかで使ってる石鹸は、こうやって作ってたんだね。


「それではギルマスよ。最後の仕上げを頼めるかの?」


 でもね、当然これで終わりじゃないんだよ。だって今は、お肌つるつるポーションを作ってる途中なんだもん。


 と言うわけで、バーリマンさんはできたばっかりの石鹸に解析をかけてその中から3つの成分を探し出すと、それに魔力を注いでいったんだ。


 そして、


「うん、ちゃんとお肌がつるつるになるって出てるよ」


 ロルフさんに頼まれて僕が鑑定解析をかけてみたら、効果はお水で溶いたのとあんまり変わんないけど、ちゃんとその石鹸はお肌つるつるポーションになってたんだ。


「おお、ついにルディーン君以外でも、肌用ポーションを作り出すことができたのじゃな」


「はい。この方法であれば私一人でも作り出すことができます」


 今度こそほんとに成功したんだって、それを聞いたみんなは大喜び!


「やったぁ! やったぁ!」


 そして僕も、大声で叫びながらぴょんぴょん飛び跳ねて大喜びしたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 とうとう、バーリマンさんがお肌つるつるポーションの製作に成功しました。


 と言うかこれ、薬用石鹸自体がこの世界で初めて作られた瞬間でもあったりします。


 流石に今までは誰も、石鹸をポーションにしようなんて考えもしなかったですからね。


 因みにですが前回、次で終わらせると宣言したおかげで途中で切る事ができず、結果文字数がいつもの倍近くになってしまったw


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― 新着の感想 ―
[良い点] ルディーン君以外の手で完成した! [一言] 石鹸の形になるとは思いませんでした。 使うであろう人達の水事情まで考慮していたのですね。 今回はここまでとして残された課題は髪の毛ですね。
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