259 成功したけど失敗なんだってさ
なんで錬金術のレベルがこんなに上がってたのかが解ってすっきり。
だから僕、一人でニコニコしてたんだよ。
「おお、ルディーン君。考え事はもういいのかな?」
そしたらロルフさんにこんなこと言われちゃった。
「うん! なんでかなぁ? ってのが解ったからもういいんだよ。でも、ロルフさんは何で僕がずっとなんか考えてたって解ったの?」
「ふぉっふぉっふぉ。それは秘密じゃ」
あごの白いお髭をなでながら笑うロルフさん。
そんなロルフさんを見たバーリマンさんはクスって笑った後、
「それでルディーン君は、なぜそんなに考え込んでいたの?」
って聞いてきたんだよね。
だから僕、錬金術のレベルがすっごく上がってたからびっくりしたんだって教えてあげたんだ。
「でね、お母さんやヒルダ姉ちゃん、それに村の人たちがいっつもお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーションを作ってって言うでしょ? それを作ってるからいっぱい上がったんだって僕、やっと気が付いたんだ」
「そうなの。良かったわね」
そしたらバーリマンさんは偉いわねって、僕の頭をなでながらほめてくれたんだ。
「ところでさっきの話に戻るけど、ルディーン君。失敗しても構わないから、一度先ほどの3つの成分を鑑定解析で調べながら抽出してみてもらえないかしら?」
ちゃんと鑑定解析の使い方が解った今の僕ならもしかしたら成功するかもしれないでしょ? ってバーリマンさんからもう一回お願いされたんだよね。
僕、さっきは無理だって言っちゃったでしょ? でも今はもしかしたらできちゃうかも? って思ってるんだ。
だって錬金術のレベルがすっごく上がってるんだもん。だったら、まだ錬金術を始めたころとおんなじな訳ないもんね。
「うん! やってみるよ」
「そう。やってくれるのね、ありがとう」
バーリマンさんはお礼を言いながら、僕にセリアナの実の果肉が入った木の入れ物と取り出した成分を入れるお皿3枚を渡してくれた。
だから僕はまず、セリアナの実の油を鑑定解析で調べてみて、その中から3つの薬効成分を探し出したんだよね。
でもね、いっくら錬金術のレベルが上がったからって言っても、3ついっぺんに抽出できるはずないでしょ?
だからもういっぺん鑑定解析をかけなおして、その3つの中で一番量の多いのを指定すると、
「じゃあ、やるね」
僕はバーリマンさんにそう言いながら、その成分めがけて抽出を使ってみたんだ。
ぽとん。
そしたら横に置いてあったお皿に、数滴分の何かが移動したんだよ。
「おお、とりあえず一つの成分の抽出には成功したようじゃな」
「そうですわね!」
それを見たロルフさんとバーリマンさんが大興奮! でもまだ終わってないから、僕はまた別の成分を鑑定解析で指定する。
でね、それを繰り返すことで僕は3つの成分を抽出する事に成功したんだ。
「できちゃった……」
前にやった時は絶対無理だって思ったのになぁ。
そりゃあさ、あの時はもっと錬金術のレベルが上がったらできるんじゃないかって思ったよ?
でも、レベルが上がってからやってみたらものすごく簡単にできちゃったもんだから、僕はすっごくびっくりしたんだ。
だけどロルフさんとバーリマンさんは、僕と違ってあんまりびっくりしてないみたいなんだよね。
「一度やってみてと言ってはみましたが、まさか3種類とも抽出に成功するとは思いませんでしたわ」
「そうじゃのぉ。われらでは抽出どころか自力で解析する事すらできぬのと言うのに」
だってこんなこと言いながら、二人ともニコニコしてるんだもん。
だからなんでびっくりしてないの? って聞いてみたんだよね。
そしたら、
「ルディーン君は鑑定解析で3つの薬効成分をしっかりと捉えておったじゃろう? ならば後は錬金の技術がそれを抽出するところまで上達しておるかどうかにかかっておるんじゃよ」
「その点で言うと、私たちが作れない肌と髪の毛のポーションを日常的に作っているルディーン君なら、もしかしたらそれだけの力量をすでに身に着けているかも? って、私もロルフさんも期待していたのよ」
だってさ。
そっか、じゃあロルフさんたちは、初めっからできてもおかしくないって思ってたんだね。
「成分の抽出ができた事ですし、これをセリアナの油に混ぜたものを私たちがポーションにできるか、一度挑戦してみましょう」
「うむ、そうじゃな」
さっきは魔力を注ぐ成分が足んなかったからポーションにならなかったんだよね。
だからこの3つを油に足したら、今度こそちゃんとポーションになるかもしれないんだって。
と言うわけで、さっそくバーリマンさんが挑戦……したんだけど、
「あと少しなのですが、これでもまだ油の量に対して薬効成分が足りていないようです」
「うむ。それではルディーン君。すまぬが、もう一度抽出を頼めるかな?」
「うん、いいよ」
どうやらさっきのだとちょびっとすぎて足んなかったみたい。
だから僕はもういっぺん別の油から3つの成分を抽出して、バーリマンさんの前にある油に混ぜてあげたんだ。
でね、その混ぜた油に魔力を注いでみて、今度はちゃんとポーションになってるかどうか調べたバーリマンさんは、
「成功ですわ。どうやらセリアナの実3個分の成分を混ぜれば、ポーションとして成立するだけの魔力量が注げるようですわね」
こう言ってにっこり。
どうやら今度こそ、ちゃんとポーションが出来上がったみたいなんだよね。
「これこれ、わしらの目的はセリアナの実の油をポーションとして成立させることではなかろう? して、それに肌を蘇らせる効果はあったのか?」
でもね、ロルフさんはポーションになったかどうかよりちゃんと効果が出るのかが大事なんだよって言うんだ。
「えっとですね……はい。ルディーン君の作ったポーションよりはかなり劣りますが、これでも肌を修正する力があるようです」
だからバーリマンさんは慌てて調べたんだけど、どうやらちゃんと効果があったみたい。
でね、それを聞いたロルフさんは、今日一番うれしそうに笑ったんだ。
そりゃそうだよね。だって今まで僕にしか作れなかったお肌をつるつるにするポーションをバーリマンさんも作れたんだもん。
「やったぁ!」
だから僕もうれしくなっちゃって、両手を上げながらぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだんだ。
でもね、
「あの、旦那さま。一つよろしいでしょうか?」
そんな喜んでる僕たちに、ストールさんが恐る恐るって感じで声をかけてきたんだよね。
だからどうしたの? ってロルフさんが聞いたんだけど、そしたらそれじゃダメなんじゃないかな? ってストールさんは言うんだよ。
「ライラよ。どうしてそう思うのじゃ? ギルマスは見事成功して見せたではないか」
だからそんなストールさんになんでダメなの? ってロルフさんが聞いたんだけど、そしたらストールさんは、
「はい。確かにギルドマスター様は、ルディーン様が抽出した薬剤を混ぜた油をポーションにするのに成功いたしました」
ロルフさんに向かってそう言ってから、今度は僕の方を見たんだよね。
だからなんだろう? って、僕は頭をこてんって倒したんだ。
「先ほどまでの工程を見ていて思ったのですが……わたくしが思いますに、先ほどセリアナの実の油に混ぜた薬剤はルディーン様にしか抽出できないのではないですか?」
「あっ!」
そしたらストールさんは僕にしか取り出せないなら、やっぱり僕にしか作れないのとおんなじじゃないの? って聞いたんだよね。
それを聞いたロルフさんとバーリマンさんは、しょぼんとしちゃった。
と言うわけで、バーリマンさんやロルフさんが作れるお肌つるつるポーションは、また最初からやり直しになっちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ブックマークが1200人を突破! その上、総合ポイントも4600ptを超えました! 本当にありがとうございます。
もしこの話が気に入ってもらえたのなら、お気に入り登録や評価を入れていただけると嬉しいです。
感想やレヴュー共々続きを書く原動力になるので、よろしくお願いします。




