255 お水で溶いただけじゃ終わりじゃなかったんだよ
「あー、ルディーン君。そんなに喜んでいるところを悪いんじゃが、まだ検証は終わっておらんぞ」
僕が飛び跳ねて喜んでたら、ロルフさんがこんなことを言って来たんだ。
「なんで? 鑑定解析したらちゃんと弱いポーションになってたよ。だったら成功でしょ?」
「うむ。確かに先ほどの実験は成功した。じゃがのぉ、検証せねばならぬことがほかにもあるんじゃよ」
ロルフさんが言うには、村でやってるお母さんがやるだけじゃダメなんだって。
なんでかって言うと、僕の村の人はいっつも森に行ってるから、もしかするとそれも関係してるかもしれないからなんだってさ。
「それにのぉ、グランリルの村でもこの調合をしておるのは女性だけと言う話じゃろ? ならば男女の違いで結果が変わる事がないかも調べねばならん」
って事で、今度はロルフさんがやってみる事になったんだ。
だって僕がやるとうちの村人ってのがお母さんとおんなじだし、バーリマンさんがやると女の人ってのがおんなじだからね。
「ではやってみるぞ」
そう言って、さっきお母さんがやった時みたいにロルフさんはお肌つるつるポーションとうちの村のお水を混ぜたんだ。
「うむ。これでよかろう。それではルディーン君、すまぬがこれも鑑定解析しておくれ」
「はーい!」
これがちゃんと弱いポーションになってたら、今度こそ成功って事だよね?
そう思った僕は気合を入れてロルフさんがポーションを混ぜたお水を鑑定解析で調べたんだ。
「やった! 今度こそ、これで成功なんだね?」
「という事は、これもポーションとしての効果を持っているという事じゃな。ならばこれで確定じゃ」
ロルフさんが言う通り、調べてみたらお母さんが混ぜた時と全くおんなじ結果が出たんだよ。
だから今度こそ、水に入ってた魔力のせいでポーションと混ぜても効果が出てた理由が解ったんだ。
「さて、原因も解った事じゃし、次の検証に移る事にするかのぉ」
「ええ、そうですわね」
ちょっとの間僕が喜んでるのをロルフさんもバーリマンさんもニコニコしながら見てたんだけど、何でか急にこんなことを言い出したんだよね。
「えー、お水に魔力があったからってさっき解ったんでしょ? なのに、なんで?」
「確かにポーションを水で薄めても効果がある理由は先ほど判明した。じゃがのぉ、これは本来の目的の前準備の実験でしかないのじゃよ」
「そうよ、ルディーン君。元々水で溶いたポーションが欲しかったのは君しか作れない二つのポーションの廉価版を作るためで、それを調べるために必要なものを手に入れるのが目的だったのですもの」
そう言えばそんなこと、言ってたっけ。
僕、お肌つるつるポーションをお水に混ぜる事ばっかり考えてたから、その事すっかり忘れてたよ。
「廉価版、ですか?」
でもね、お母さんはその話を聞くのが初めてだったもんだからびっくりしちゃった。
だからそんなお母さんに、バーリマンさんがなんでこのお水に混ぜて弱くなったお肌つるつるポーションが欲しかったのかを教えてくれたんだ。
「ルディーン君がこの錬金術ギルドに持ち込んだ二つのポーション、実はまだルディーン君しか作成に成功していないのです」
「えっ、そうなんですか? うちの村ではルディーンしか作れませんけど、私てっきりこのイーノックカウでは多くの方が作れるものとばかり思っていました」
うちの村って、ただでさえ魔法を使えるのが僕とキャリーナ姉ちゃん、それにお爺さん司祭様だけなんだもん。
錬金術なんて使えるのは僕しかいないし、だから他の人がポーションを作れなくたって誰も不思議に思わないんだよね。
でもさ、まさか錬金術のギルドがあるこのイーノックカウでも誰も作れないなんてお母さんは全然思ってなかったんだよね。
「この二つのポーション、実は普通のものより多くの薬効に魔力を注がなければならないのです。しかしそれをなすには特別のスキルが必要でして。それを持つ錬金術師が、今のところルディーン君しかいないのですよ」
「うむ。それにのぉ、多くの薬効に魔力を注ぐのは魔力操作がかなりうまくなくてはできないのじゃよ。その点ルディーン君は幼いころからその操作を繰り返したおかげか、かなりの腕前になっておる。これもこの二つのポーションが彼にしか作れぬ理由の一つなんじゃ」
「なるほど、そういう理由なんですね」
そんなお母さんだけど、、ロルフさんたち二人から何で僕しか作れないのかを聞いて納得したみたい。
でもね、その代わり別の解んない事ができちゃったみたいなんだ。
「でも一つ解らない事があります。そのルディーンしか作れないと言うポーションの廉価版を作るのに、なぜ水で溶くと言う工程が必要なんでしょう? 元々のポーションをルディーンしか作れないのであれば、水で溶いたところで同じなのではと私は思うのですが?」
「ふぉっふぉっふぉ。他に良い呼び方が見当たらないために廉価版と言っているのを聞いて、勘違いさせてしまったようじゃ。じゃが流石に劣化版ではちと聞こえが悪いからのぉ」
お母さんがなんでお水で溶く必要があったのって聞いたんだけど、そしたらロルフさんが白いあごのおひげをなでながらおかしそうに笑ってそう言ったんだよね。
でね、それを聞いたバーリマンさんもにっこり笑いながら、何でポーションをお水で溶いたのかをお母さんに教えてくれたんだ。
「この肌用ポーションには10の薬効に魔力が注がれています。ですが普通の錬金術師では1つか2つ、腕の立つ者でも最高で5つの薬効にまでしか魔力を注ぐことができないのです」
「そうなのですか?」
「はい。それが原因でルディーン君しかこのポーションを作成できないのですが、しかしこの水で溶いて効果が薄くなったポーションを調べれば、もっと少ない薬効に魔力を注ぐだけで効果は低くなるもののちゃんと肌がきれいになるポーションが生まれる可能性があるのですわ」
バーリマンさんは、もともとのお肌つるつるポーションとお水で溶いたのを比べれば、中に入ってる内でどの薬効がまだ効いてて、どれが効いてないのかが解るんだって。
そしたらどの薬効に魔力を注いだら効果が出るのかが解るんだってさ。
「ただ私たちの解析だけでは詳しい事が解りません。ですが、ルディーン君は解析よりもさらに詳しく薬効を調べる事ができる鑑定解析のスキルが使えますでしょ? だから彼にそのスキルでこの二つを調べてもらえば、効果は低くともポーションとして役に立つものを他の錬金術師が作れるようになるかもしれないのです」
調べてみて、効いてる薬効が5つより少なかったら他の錬金術師さんでも作れるでしょ? それにもし、もっと少なかったらもっと多くの人が作れるようになるもん。
だからこれは絶対に調べないとダメなんだって。
「ルディーン君が作ったもののように劇的に効果がある物は作れないでしょう。ですが少しでも肌が若返ったり、そこまでの効果が無くとも肌の老化を遅らせたりシミやそばかすが取れるポーションができるだけでもどれだけの人たちが喜ぶか。同じ女性ならカールフェルトさんにもわかりますわよね?」
「はい。ルディーンが肌用ポーションを作ったと知った時、うちの村でもかなりの騒動になりましたもの。そんなものができると知れば、ほぼすべての女性が飛びつく事でしょうね」
効果が低くてもいいから、多くの人が作れてみんなが使えるお肌つるつるポーション。
それを絶対に作んなきゃダメだよねって、お母さんとバーリマンさんは二人して見つめ合いながら、大きく頷いたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
皆さんはもうお忘れかもしれませんが、もともとロルフさんたちはルディーン君しか作れない二つのポーションを危険視してたんですよね。
だから効果が劣ってもいいから、何とかしてそれに似たポーションを作ろうと考えていました。そうすればルディーン君に危険が及ぶ可能性がぐっと下がりますからね。
と言うわけでこの水で溶いたポーションは、それを作るための実験用に二人は欲していたと言うわけです。




