254 ちゃんと実験しないとダメなんだってさ
「ただいまぁ! お水持ってきたよ」
錬金術ギルドに付いた馬車から降りた僕は、そのまま扉を開けて中に入ったんだ。
「おお、ルディーン君。意外と早かったのぉ」
そしたら、いつもみたいにカウンターに座ってたロルフさんが、僕の顔を見てニッコリ笑いながら迎えてくれた。
「そうかなぁ? お水汲むのも時間かかったし、ロルフさんちからここまで来るのも結構かかったよ?」
「その時間は織り込み済みじゃよ。それも含めて、わしが思っておったよりルディーン君が帰ってくるのが早かったと言うわけじゃ」
ロルフさんはね、僕が帰ってくるのはまだまだ先だと思ってたんだって。
なんでかって言うと、僕が急にロルフさんちに行っても、馬車がすぐに用意できないと思ってたからなんだってさ。
でもね、それを聞いたストールさんが怒っちゃった。
「旦那さま。別宅ではいつルディーン様がお越しになられても良いよう、常に準備をしております。ですから、馬車の手配に時間がかかるなどという事はございません」
「これは失言じゃった。ライラよ、許してくれ」
だからロルフさんは、ストールさんにごめんなさいしたんだよ。
もう! ロルフさん、お爺さんなのにダメだなぁ。
でもこんな風にロルフさんが失敗しても、ストールさんがちゃんと叱ってくれるから安心だよね。
「さて、それではルディーン君も帰ってきたことだし、さっそく実験を再開するとするかのぉ」
「うん! お母さんやバーリマンさんも、きっと待ってるもんね」
僕とロルフさん、それにストールさんの3人は、カウンターの奥にある扉から奥に入ってったんだけど、そしたら入ってすぐのギルドにお客さんが来た時に使うお部屋でお母さんとバーリマンさんが二人してお茶を飲みながらおしゃべりしてたんだ。
「おかえりなさい。ルディーン君」
「あら、ルディーン。早かったのね。お水はちゃんと汲んで来れた?」
「うん! でもね、お家に帰ったらヒルダ姉ちゃんとスティナちゃんがいたんだ」
僕はお家に帰ったらヒルダ姉ちゃんたちがいた事や、村の川だとお水を汲む時に誰かに見られちゃうからって、お姉ちゃんに代わりに汲んできた貰ったって話したんだよね。
そしたらお母さん、びっくりしちゃったんだ。
「あら、ルディーンは村の中で水を汲むつもりだったの?」
「えー、だって村に流れてる川のお水を汲んで来てって言ってたじゃないか」
「そうだけど、村の中で汲もうとしたら誰かいるに決まってるでしょ? でも村の外に出れば誰もいないし、少し行けばかまどを作る石を取るところとかがあるんだからそこで汲めばいいじゃないの」
僕、お母さんにそう言われてそっかぁって思ったんだ。
だって川が流れてきてる森の方の入口にいる人、いっつも見張り台の上から森の方見てるもん。
だからこっそり出てけば気が付かれる事、無かったんだっけ。
うちの村って周りが木の塀に囲まれてるから、中に入るのには街道側の入口か、森の方へ行く入り口から出入りしないといけないんだよ。
でね、そのうちの街道の方には村に来る行商の人や村の人のお客さん、それに巡回してくれてる兵隊さんなんかが来るから、その人たちの乗ってくる馬を世話する人がいっつもいるんだよね。
それと違って森の方からは誰も来ないから、そんな人はいないんだよ。
でもね、もし森の方で何かあった時はそれにすぐ気が付けるようにって、塀より高い所に見張り台が作ってあるんだ。
そこにはいっつも誰かいて、例えば森からケガした人が帰ってきたり魔物に追っかけられてる人がいたりしたら、そこについてる鐘をたたいて村の中にいる人たちに教えるって事になってるんだ。
「それで、そのヒルダさんと言う方にはどのように説明したの? ルディーン君がご家族と一緒にイーノックカウに遊びに来られていることは、村の誰もが知ってるのでしょう?」
「あのね、ちゃんとジャンプって魔法で飛んできたんだよって教えてあげたんだ」
「ええっ!?」
僕が言ってる事を聞いて、バーリマンさんがどう説明したのかって聞いてきたんだよね。
だから僕、ヒルダ姉ちゃんたちにはジャンプって魔法で帰ってきたんだよって話したって言ったら、びっくりしちゃったんだ。
でもね、それを見たお母さんが笑いながら大丈夫ですよって。
「ルディーンが言うヒルダと言うのは、嫁に行ったうちの一番上の娘なんですよ。あれは年の離れた弟をとてもかわいがってますから、その話を聞いても誰にも言わないと思いますよ」
「うん! ヒルダ姉ちゃんもスティナちゃんも、絶対ないしょにしてくれるって約束してくれたよ」
「そうなのですか? お二人がそう言うのなら大丈夫だと思いますが」
お母さんがちゃんと説明したから、バーリマンさんも一応納得してくれたみたい。
でも、これからは気を付けるんですよって言われちゃった。
「さて、話は終わったかな? それでは早速実験を始めようではないか」
僕が村でのことをお話してたからずっと待っててくれたみたいだけど、それが終わったのを見たロルフさんが早く実験しようって言いだしたんだよね。
だから僕たちは、みんなしてさっき実験してた奥の部屋へと移動したんだ。
「それではルディーン君。汲んできた水をもらえるかな?」
「うん!」
僕が村の川のお水が入ってる陶器のビンを渡すと、ロルフさんはその中からちょっとだけ木の入れ物にお水を入れて解析で調べたんだ。
「うむ。この水にはそれほど多くはないが、確かに魔力が含まれておるようじゃのぉ」
「そうなの? じゃあ、やっぱりうちの村のお水だから肌つるつるポーションに混ぜても使えたんだね」
ロルフさんたちはお水に魔力が入ってるのが原因じゃないかな? って言ってたもん。
で、調べたらほんとに入ってたんだから、やっぱりそうだったんだって僕、思ったんだ。
「いやいや、そう早まるでない。今はあくまで村の水に魔力が含まれておる事が解ったと言うだけじゃ」
でもね、ロルフさんはまだ解んないよだって。
「えー、でもロルフさんはお水に魔力が入ってるからじゃないかなぁ? って言ったじゃないか」
「うむ。わしもそれが原因だとは思っておるよ。じゃが検証をしてみなければ、それが事実かどうかは解らぬのじゃよ」
思ってた通りお水には魔力が入ってたけど、まだお肌つるつるポーションと混ぜてみないとほんとにこれが原因なのか解んないってロルフさんは言うんだ。
「ギルマスも言っておったじゃろう。もしかするとグランリルの村の周り自体に魔力が漂っておるのかもしれぬと」
それ以外でもお風呂に使ってる材料が原因だったり、僕たちの村の土が原因でお風呂に入った時にそれが混ざるから効果が出てるなんて事も絶対ないなんて言えないでしょ? ってロルフさんは言うんだよね。
だからお水に魔力が入ってるのが解ったからって、それだけで決めつけちゃダメなんだってさ。
「じゃからのぅ、もしかするとここで村と同じようにやってみても、成功せぬかもしれぬ。じゃからカールフェルトさん。すまぬがいつも村でやっておるように、ポーションを水に溶いてもらえるかな?」
「解りました」
と言うわけで、お母さんがいつも村のお風呂でやってるみたいに、汲んできたお水とお肌つるつるポーションを混ぜたんだよ。
「ふむ。見た目はこの街の水を混ぜた時と全く変わらぬのぉ。ではルディーン君。すまぬが、鑑定解析で調べてもらえるかな?」
「うん、やってみるね」
でね、ロルフさんに頼まれた僕は、さっそく鑑定解析でお母さんが混ぜたお水を調べてみたんだ。
「やった! ちゃんと水で効果が薄まったお肌つるつるポーションだって出てるよ」
そしたら弱くなってるけどちゃんと効果が出るポーションだよって出てきたもんだから、僕は今度こそ成功だって両手を挙げて大喜びしたんだ。
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