253 村からだけど、ロルフさんたちに頼まれて来たんだよ
ヒルダ姉ちゃんやスティナちゃんとお別れの挨拶をして僕がジャンプの魔法を使うと、そこはもうロルフさんのお家にあるいつものお部屋。
と言うわけで、僕はさっそくお部屋のすみっこに置いてあるハンドベルを持って、それをカランカランって鳴らしたんだ。
コンコンコンコン。
でね、しばらくしたらこのお部屋のドアを誰かがノックしたんだ。
僕、最初にこの部屋にジャンプした時はこのノックの音にどうしたらいいのか解んなくって、慌てちゃったんだよね。
でも今はちゃんと何したらいいのか解ってるから、僕は、
「は~い!」
って元気よくお返事したんだよ。
そしたら、失礼しますって言いながら、ストールさんがドアを開けてお部屋に入ってきたんだ。
「いらっしゃいませ、ルディーン様。今日はいつもより遅い来訪ですわね。旦那様にご用事ですか?」
「こんにちは、ストールさん。ううん。僕、ロルフさんに頼まれてきたんだよ」
ストールさんはいつもみたいににっこりと笑いながら、ロルフさんに会いに来たの? って聞いたもんだから、僕は違うよって教えてあげたんだ。
でもストールさんはなんでか、僕の言ったことを聞いて変な顔になっちゃったんだよね。
「旦那様に頼まれて、ですか?」
「うん。あっ、ロルフさんだけじゃなくて、バーリマンさんにも頼まれたんだった」
お水を汲んで来てって言ってたの、ロルフさんだけじゃないもんね。
だから僕、ちゃんとバーリマンさんにも頼まれたんだよって教えてあげたんだ。
でもね、それを聞いたストールさんはさっきよりもっと変な顔をして、ちょっと考えこんじゃった。
ストールさん、どうしちゃったんだろう?
ロルフさんたちに頼まれたんだよってことしか言ってないよね? なのに、何であんな顔してるんだろう?
僕はそんな事を考えたんだけど、でもなんだか一生懸命考えてるみたいだから邪魔しちゃだめだよね。
だからちょっとの間、黙ってストールさんを見てたんだ。
「ああ、なるほど。そういう事なのですね」
そしたら何かに気が付いたみたいで、ストールさんは難しい顔からいつものニコニコした顔になったんだよ。
「ストールさん、何が解ったの?」
「お恥ずかしい話ですが、わたくし、ルディーン様がグランリルの村から来たという固定観念にとらわれておりまして、そのせいで旦那様や錬金術ギルドのギルドマスター様から頼まれて足を運ばれたという言葉の意味を間違えて捉えていたのでございます」
ストールさん、さっきはロルフさんやバーリマンさんが村にいる僕を呼んだのなら、なんで自分がそれを知らなかったのか解らなくって考えこんじゃったんだってさ。
「旦那様がもしルディーン様に手紙を差し上げて来訪を願ったとしたら、わたくしどもに連絡がないはずがありません。ですが、それが私の耳に入っていないという事は、この館の誰かがその連絡を受け取ったものの、私への報告を怠ったのではないかと考えてしまったのですわ」
「ちがうよ! ロルフさんにお水を汲んで来てって言われたの、ちょっと前だもん! それに僕の方がきっと早いから、このお家に来たらストールさんに頼んで馬車で錬金術ギルドまで送ってもらってねって言われたんだよ」
「ええ。ですが、ルディーン様がお持ちになられている陶器のビンを見て、わたくしが勘違いしている事に気が付いたのです」
あのね、陶器の入れ物って壺とかならどこでも作ってるけど、ビンの形をしてるのは作るのが難しいから珍しいんだって。
でも、だったらそんな陶器のビンを僕が村から持ってくるはずないよね?
って事は、この街に来た僕がロルフさんから何かを頼まれたんだって、ストールさんは気が付いたんだってさ。
「それで、旦那様からその陶器のビンにお水を汲んでくるようにと頼まれたのですか?」
「うん。お肌つるつるポーションの実験で、うちの村に流れてる川のお水がいるんだって。だからストールさん。錬金術ギルドまで連れてって」
「解りました。では、今から馬車の手配をいたしますから、ルディーン様はこの部屋でしばしおくつろぎ下さい」
僕が馬車で送ってってって頼んだから、ストールさんはいいよって言って部屋の外に出てっちゃった。
でね、その代わりに別のメイドさんが入ってきて、僕にお茶と甘いお菓子を出してくれたんだ。
だからそれを食べながら待ってたんだけど、そしたらそれから30分くらいした頃かなぁ? 準備ができたよってストールさんがお部屋まで呼びに来たんだよ。
だから僕、玄関に止めてあった馬車にストールさんと一緒に乗り込んで、ロルフさんのお家を出発したんだ。
いつものように馬車に乗ったまま門を通って、イーノックカウに入ったんだ。
だからこのまま進めば、もうちょっとしたらロルフさんたちが待ってる錬金術ギルドに付くはずなんだんだけど、でもその前に僕、ストールさんに言わないといけない事があるんだ。
「ねぇ、ストールさん」
「何でしょうか、ルディーン様」
「前にお願いして、ロルフさんもいいよって言ったのに、なんでまた僕の事ルディーン様って呼んでるの?」
「……お気づきになられてしまいましたか」
そう言って困ったように笑うストールさん。
どうやら僕が何も言わなかったら、これからもずっとルディーン様って呼ぶつもりだったみたい。
「ロルフさんもバーリマンさんも僕の事、ルディーン君って呼んでるよ? なのに何でストールさんはルディーン様って呼びたいの?」
「それはですね、ルディーン様が旦那様の大切なお客様だからなのです」
ストールさんはね、ロルフさんちのメイド長だから、来たお客さんの事はとっても大事にしたいんだって。
だから僕の事をルディーン君って呼ぶのが嫌なんだってさ。
「旦那様がおっしゃる通り、ルディーン様がご自分の事を君付けで呼ぶことを希望されていると、わたくしも存じております。しかし同時に敬称というものはやはりきちんとするべきだとも、わたくしは考えているのです」
ストールさんからすると、お客さんなのに僕の事をルディーン君って呼ぶのはとっても失礼な事だって思うんだって。
だから僕がそう呼んでって言っても、できたら様って呼びたいそうなんだ。
「そっか。じゃあ、いいよ」
「よろしいのですか?」
「うん。だってそうしないと、ストールさんがやな気持ちになっちゃうんでしょ? そんなの、僕もやだもん」
「ありがとうございます、ルディーン様」
僕の事ルディーン君って呼ばなくっていいよって言ったら、ストールさんはすっごくホッとした顔になったんだよね。
そっか。そんなに嬉しかったんだね。
ルディーン様って言われると何となくこちょばゆいけど、ストールさんがそんなに嬉しいなら僕、特別にルディーン様って呼ばせてあげる事にしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
最後に出てきた「こちょばゆい」ですが、意味としてはくすぐったいと言うのが一番近いのかな?
これって「こそばい」とか「こそばゆい」など、地方によって言い方が違うそうなんですが、なんとなく「こちょばゆい」と言うのがルディーン君は一番あってそうなので、この言い方をチョイスしました。
まぁ、本編には関係ない、どうでもい話ですけどねw




