250 見つかっちゃった
錬金術ギルドのお部屋の中でジャンプの魔法を使うと、僕は一瞬でいつものお家の裏にある小屋の中に移動した。
ここは僕んちの裏だから外に出ても誰かに見られる心配はないけど、お外に出る時はちゃんと周りに気を付けなきゃね。
僕はそう思いながら小屋の戸を開けて、外に出たんだけど、
「あっ! ルディーンにいちゃ!」
とてとてとて、ぎゅっ。
そこには何故かスティナちゃんがいて、僕に気が付くと歩いてきて足にしがみついてきたんだ。
「ルディーンにいちゃ、かえってきたの? スティナとあそぼ」
「えっと、スティナちゃん。何でここにいるの?」
今の僕んちは、みんなでイーノックカウに行ったから誰もいないんだよね。
だからスティナちゃん一人で遊びに来るはずないんだけど。
そう思った聞いたんだけど、そしたら、
「あのね、おうち、あっついでしょ? だからおかあさんがおばあちゃんちいこって」
どうやらヒルダ姉ちゃんがスティナちゃんに、僕んちに行こうねって言ったみたい。
って事は、ヒルダ姉ちゃんもうちに来てるって事かな? そう思って聞いてみたんだけど、そしたらこっちだよって言いながら、スティナちゃんが僕の手を引っ張ったんだ。
でね、連れてかれたのは僕んちの台所にある入口。
「そっか。クーラー、まだうちにしかないもんね」
前からヒルダ姉ちゃんに作ってって言われてるんだけど、お父さんがダメって言うからまだ作ってないんだよね。
ヒルダ姉ちゃんちに付けると他のお家にも付けなきゃいけなくなるし、そうなるとまた魔道リキッドを使う量が増えちゃうからダメなんだってさ。
「おかあさん! ルディーンにいちゃ、かえってきた!」
「えっ? そんなはずないじゃない」
スティナちゃんは入り口のドアをうんしょって開けると、中に向かって僕が帰ってきたよって大きな声で言ったんだ。
そしたら中から、ヒルダ姉ちゃんの声がして、
「あら? ほんとにルディーンがいるわ。でも何で?」
開いた扉からヒルダ姉ちゃんが顔を出すと、スティナちゃんの後ろにいる僕を見つけてそう言ったんだよね。
「えっと、それじゃあルディーンは、そのじゃんぷ? とかって言う魔法を使って、一瞬でイーノックカウからうちまで帰ってきたって言うのね?」
「うん。でもね、この魔法は知られちゃうと悪もんが来るかもしれないから、みんなには秘密なんだよ」
ヒルダ姉ちゃんにどうして一人でいるのかってのを聞かれた僕は、仕方ないからジャンプの魔法の事を教えてあげたんだ。
でもね、ロルフさんがこの魔法は秘密にしなきゃだめって言ってたから、お姉ちゃんとスティナちゃんにも内緒にしてねって頼んだんだよ。
そしたらヒルダ姉ちゃんは、ちょっと難しい顔してからそうだねって頷いてくれたんだ。
「確かに便利な魔法だけど、そんなのがあるって知られたら欲しがる人が多そうだもの。ルディーンはまだ小さいから、攫っていこうって思う人が出てきてもおかしくはないわ」
「ルディーンにいちゃ、いなくなっちゃうの?」
「この魔法の事がほかの人に知られちゃうと、もしかしたらそうなるかもしれないのよ。だからスティナ、この話は秘密よ。お父さんにも言っちゃダメ」
「おとうさんにも? うん! スティナ、ルディーンにいちゃがいなくなっちゃうのやだから、ちゃんとないしょにするよ」
でね、スティナちゃんもヒルダ姉ちゃんのお話を聞いて、お口の前に指でバッテンを作って内緒にしてくれるって約束してくれたんだ。
「ところでヒルダ姉ちゃん。何でここにいるの? 僕んち誰もいないってお母さん、ちゃんと言ったよね?」
「だって昼間はかなり暑くなってきてるもの。煮炊きするのが大変なのよ。でも、ここに来れば涼しいでしょ?」
僕、多分涼みに来てるんだろうって思ったけど、もし何かご用事があったら困るから一応聞いてみたんだよね。
そしたらやっぱり暑いから来たんだって。
「あっ、一応言っておくけど、お母さんには留守中、この台所を使わせてもらうって言ってあるわよ。ここならスティナも暑さで体調を崩すこともないだろうしね」
毎日のご飯を作ってると火を使うから台所がとっても暑くなるよね? だからヒルダ姉ちゃんはいつも、スティナちゃんが僕んちに遊びに来てる時にお料理してたんだって。
でも僕たちがイーノックカウに行っちゃったもんだから、お料理してる時もスティナちゃんが一緒にいる事になるでしょ?
そしたら暑くてかわいそうだから、僕んちの台所を使わせてねってお母さんに頼んだんだってさ。
「そっか。あんまり暑くてお熱が出たら困っちゃうもんね」
「そういう事よ。それにここに来ればルディーンが作った雲のお菓子を作る魔道具や、パンケーキを作る魔道具もあるでしょ? だからスティナのおやつにも困らないのよね」
どうやらヒルダ姉ちゃん、ご飯の準備だけじゃなくってスティナちゃんのおやつもここで作ってるみたい。
そう言われて気が付いたけど、確かに台所に仕舞っておいたはずの雲のお菓子の魔道具や、かき氷を削る道具とかが出てるんだよね。
でも、スティナちゃんが食べたいって言うんなら別にいいか。
「ところ、ルディーン。どうやって帰ってきたのかは解ったけど、どうして一人で帰ってきたの? 何かあった?」
「あっ、そうだ! お水汲んで来なきゃ」
帰ってきたらスティナちゃんがいたもんだからびっくりして忘れてたけど、川の水を汲んですぐに帰らなきゃいけないんだっけ。
それを思い出した僕は、ヒルダ姉ちゃんに帰ってきた理由を教えてあげたんだよ。
でもね、そしたらヒルダ姉ちゃんがとっても不思議そうな顔をしたんだ。
「この村の川の水を? なんでそんなものがいるのよ。イーノックカウの近くにも、大きな川が流れてるわよね?」
「あのね。ヒルダ姉ちゃんもお風呂でお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーションをお水と混ぜて使ってるでしょ?」
「ええ、使ってるわよ。それがどうかしたの?」
「それがなんでか、イーノックカウのお水と混ぜるとこの村のお風呂と違ってお薬の効果が無くなっちゃうんだって。だから何でそうなるのか知りたいから、村に流れてる川のお水を汲んで来てって頼まれたんだよ」
その話を聞いたヒルダ姉ちゃんはびっくり。
でも、すぐに違う事に気が付いて僕に聞いてきたんだ。
「川の水を汲んでくるはいいけど、ルディーン、あなた魔法で帰って来れる事を秘密にしてるんでしょ? どうやって川まで水を汲みに行くつもりなのよ?」
「あのね、だから僕、一生懸命隠れながら川まで行くつもりだったんだ」
僕はまだ小さいからいろんなとこに隠れられるし、お家から川まではそんなに遠くないから頑張れば行けると思うんだよねってヒルダ姉ちゃんに話したんだよ。
でもお姉ちゃんは、そんなの無理だって言うんだ。
「あのねぇ、ルディーン。その方法で川までは行けると思うわよ。でも川に行ったら隠れるところなんてないじゃない。それにこの時間だと、洗濯とか水汲みで近所の人たちが来るかもしれないじゃないの? その時はどうするつもりだったの?」
「あっ、そっか!」
川でお水を汲もうと思ったら、みんながお洗濯してるとこに降りてかないとダメだもんね。
でもあそこは周りから丸見えだから、隠れるとこなんてどこにも無いんだった。
「どうしよう? ヒルダ姉ちゃん」
「まぁ、いいわ。水は私が汲んできてあげる。だからルディーンはその間、スティナの相手をお願いね」
「うん! ありがとう、ヒルダ姉ちゃん」
僕が行ってもきっと誰かに見つかっちゃうからって、ヒルダ姉ちゃんが代わりにお水を汲んで来てくれることになったんだ。
それにね、
「ルディーンにいちゃ、スティナとあそぶの? やった!」
スティナちゃんもその間僕と遊べるって聞いて、両手を大きく上げながら飛び跳ねて喜んでくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
このところずっと研究の話ばかりだったので、ちょっと息抜きのほのぼの回挿入。と言うわけで、久しぶりにこの物語のメインヒロインw スティナちゃん登場です。
たまには、ただの日常話も入れないとつまらないですからね。




