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241 ポップコーンの弾ける音って、思ったより大きくてびっくりするよね


 バーリマンさんまで食べたいって言いだしたもんだからお母さんとのお話は一度やめて、とうもろこしのお菓子を作るために僕たちはみんなで錬金術ギルドの中にある台所に移動する事になったんだ。


 でもね。


「えぇ~、私は一緒に行っちゃダメなんですか?」


 バーリマンさんが、ペソラさんは一緒に来ちゃだめって言うんだよ。


「それはそうでしょ。扉の向こうの休憩室ならともかく、奥の厨房へ行ってお菓子作りを始めてしまったらたとえドアベルが鳴っても気が付かないもの」


 このギルドって錬金術に使う物が売ってるでしょ? だから午前中は午後からのお仕事に必要なものを買いに来る錬金術師さんが結構いるんだって。


「午後からならめったに人が来ないからいいけど、流石にこの時間は誰かが店番をしていないと」


「それはそうですけど……」


 せっかく珍しいお菓子が食べられるって喜んでたのに、台所に来ちゃダメって言われてペソラさんはしょんぼりしちゃったんだ。


「大丈夫だよ。僕が思ってる通りだったらいっぱいできるはずだもん。そしたら僕がお店まで持ってきてあげるね」


「ホント? ありがとう、ルディーン君」


 でもそんなペソラさんを見た僕はちょっと可哀そうになったもんだから、作ったお菓子を持ってきてあげるって約束したんだ。



 と言うわけで、お店にはペソラさん一人を残して今度こそみんなでギルドの奥へ。


「ルディーン君。調理場を貸すのはいいけど、何か足りない調味料とかは無いの?」


「えっとね、お塩があった方がおいしいと思うよ」


 バターの味だけでも美味しいと思うんだけど、お塩をかけた方がもっとおいしいと思うんだ。


 それにね、他にもかけた方がおいしいものがあるんだけど、そっちはまず普通のを作ってからかな。


「塩? って事は、今度のお菓子は甘くないって事?」


 バーリマンさん、お菓子と聞いて甘いものを想像してたみたい。


 だからびっくりしてるんだけど、その話を聞いてもっとびっくりしたのがキャリーナ姉ちゃんなんだよね。


「ルディーン。お菓子なのに甘くないの?」


「うん。これから作るのはあんまり甘くないよ。でもこれがちゃんとできたら、お家に帰ってから甘いのも作るつもりなんだ」


「そっか、甘くないのか……」


 どうやらキャリーナ姉ちゃんも甘いお菓子を期待してたみたいでしょんぼり。


 そんなお姉ちゃんを見て、お母さんが僕に、


「ルディーン。お家に帰ってから作るって事は、今から作ろうと思ったら作れるの?」


 って聞いてきたんだよね。だから僕、材料があればできるよって答えたんだ。


 そしたら、


「ルディーン君。お家に帰ってから作るとなると私もペソラも食べられなくなってしまうわ。塩だけじゃなく、ここにある調味料なら何を使ってもいいから、その甘くしたお菓子も作ってくれない?」


 バーリマンさんが、私も甘いのが食べたいから作ってって。


 そっか。お家で作ったら僕やお姉ちゃんたちは食べられるけど、バーリマンさんたちは食べられないもんね。


「うん、いいよ。じゃあ、普通のがおいしくできたら、甘いのも作るね」


 と言うわけで、結局甘いのも作る事になったんだ。



 このお菓子を作るには、買って来たとうもろこしのまんまじゃダメなんだよね。


「ドライ」


 だから僕は、買って来たとうもろこしに魔法をかけたんだ。


 そしたらあっという間に水分が抜けて、乾いたとうもろこしになっちゃった。


「ルディーン、何してんの! そんな事したら、甘いお汁がなくなっちゃうじゃない!」


 ところが、それを見たキャリーナ姉ちゃんが怒り出しちゃったんだ。


「だって、こうしないとお菓子が作れないもん」


 このお菓子は、使うとうもろこしの粒がある程度乾いてないと皮が破れるだけで弾けてくれないんだよね。


 だから僕、お姉ちゃんに乾かさないとダメなんだよって教えてあげたんだけど、


「そっか。乾かさないとできないのかぁ」


 そしたら、そう言って僕にごめんねって謝ってくれたんだ。



 キャリーナ姉ちゃんが謝ってくれたから、僕は笑いながらいいよって言ってお菓子作りに戻る。


 とうもろこしが乾いたから今度は粒を芯から取らないとダメなんだけど、でもこれって結構簡単なんだよね。 


 干したとうもろこしって粒が硬くなってるから、両手で持ってひねるとちょっとずつ緩んでくんだ。


 なんでそんな事を知ってるのかって言うと、これも前の世界で見てたオヒルナンデスヨでやってたから。


 あの番組では皮の硬いとうもろこしを畑で作るところから始めて、それを収穫してお菓子にするところまでかなり長い間かけてやったんだよね。


 だから僕、このとうもろこしがお菓子になる事を知ってたんだけど、でもその一回しかやってないからなかなか思い出せなかったんだ。


「結構きれいに取れるのね」


「でもゴミもいっぱい出るから、お菓子にする時にお掃除をちゃんとしないとダメなんだよ」


 ちょっとの間とうもろこしをひねってたら、そのうち粒がぼろぼろと取れるようになったんだよね。


 だから僕は全部の粒を芯から外して、それを目の粗いふるいにかけるとゴミが全部下に落ちて中にはきれいな粒だけが残ったんだ。


「一本だけなのに、結構な量の粒が取れるのね」


 この皮が硬いとうもろこし、粒が小さいからなのか普通のよりちょっと細いんだよね。


 だからお母さんは、こんなにいっぱい粒が取れるって思わなかったみたい。


 でも粒が小さい分中に入ってる水分も少ないからなのか、乾燥させてもあんまり縮まなかったんだもんだから、ふるいの中にあるとうもろこしの粒は思った以上に多かったんだ。


 それにね。


「粒は小さいけどとうもろこしの長さはおんなじだもん。粒の数だけだったら普通のより多いのは当たり前だよ」


 細いから粒の数が少なそうに思えるけど、一個一個の大きさが小さいから横並びの数はあんまり変わんないし、縦の数なんか普通のとついてるとこの長さはおんなじくらいだから普通のよりかなり多いんだ。


 それなのにあんまり縮まなかったもんだから、僕が思ってたのよりずっと多くの粒がこのとうもろこしから取れちゃった。


「なるほど。普通のよりも甘くて1本からこれだけの粒が取れるなら、この品種を粉挽き用に栽培するのも解るわ」


 でね、僕の話を聞いたお母さんは、感心したみたいにうんうんって頷きながらそう言ってんだよね。


 そっか。普通のとうもろこしって乾燥させたらかなり縮んじゃうもん。


 もしかすると、乾燥させた後だったらこっちのとうもろこしの方が多くなっちゃうのかも。



 乾燥させたとうもろこしの種も用意できたから、これで準備はできた。


 と言うわけで、いよいよ調理開始だね。


「バーリマンさん、フライパンどこ?」


「ああ、今日のはフライパンで作るのね。今出してあげるわ。あと、蒸らすための蓋はいる?」


「うん! 蓋がないと、このお菓子は作れないんだよ」


 まずはバーリマンさんに出してもらったフライパンに一度とうもろこしの粒を入れてみて、一度にどれくらい入れたらいいのかを確かめる。


 でね、とうもろこしの粒をフライパンに一度に入れる分ずつ、小さな器に分けてから僕はお母さんに頼んだんだ。


「お母さん、フライパンをあっためて、このバターを溶かして」


 ここのお台所には魔道コンロがあるから僕にだってできるんだけど、大人が使う高さに置いてあるから台を持ってこないとダメだし、お母さんからも一人で火を使っちゃだめって言われてるから頼むことにしたんだ。


「ええ、いいわよ」


 お母さんはそう言うと、いつもお家でしてるみたいにフライパンを火にかけ、その中にバターをいれて溶かしてく。


 でね、中のバターが溶けていい匂いがしてきたところで、


「お母さん。その中にこのとうもろこしを入れて蓋してから、こうやってちょっとずつ動かして」


 僕はお母さんにさっき分けたとうもろこしが入った器を渡しながら、手でこう動かすんだよって教えてあげたんだ。


 そしたらお母さんは、僕がやったみたいにゆっくりとフライパンを動かし始めたんだよね。


 でも僕はそこで、大事な事を言い忘れてた事に気が付いたんだ。


「あっ、お母さん! もうちょっとしたらおっきな音がするけど、びっくりしないでね」


「大きな音?」


 そう言ってお母さんがこっちの方を見ようとしたところで、


 ポン!


 何かがはじけるような音がフライパンからしたんだ。


 僕が教えてあげるのが遅かったもんだから、その音にみんなびっくり。


 ポン! ポンポンポンポンポンポン!!


 その上、続けて何度も音がするもんだから、お姉ちゃんたちは慌てて耳をふさいでしゃがみこんじゃった。


「ルディーン、これって大丈夫なの?」


「うん。この音がしなくなるまでフライパンをゆすってて」


 でもお母さんは僕がびっくりしないでって言ったのを聞いたからなのか、最初のポン! って音の時は一瞬びくってしたけど、その後はちゃんと音がしなくなるまでフライパンを振り続けてくれたんだ。



 もうちょっとすると音がしなくなったから、お母さんにフライパンを火から離してもらって、とりあえず隣のテーブルの上に置いてもらう。


「バーリマンさん。お塩ちょうだい」


 このお菓子って、お塩をかけるなら温かい内じゃないとダメだから僕、バーリマンさんにそう言ったんだけど、


「えっ? ええ、いいわよ」


 どうやらバーリマンさんもさっきの音にはびっくりしてたみたいで、僕が声をかけたらびくってしたんだよね。


 でも、キャリーナ姉ちゃんたちなら解るけど、大人のバーリマンさんがびっくりするほどおっきな音だったかなぁ?  


 そう思いながら僕はバーリマンさんからお塩が入ってるツボを受け取って、フライパンの蓋を……。


「ルディーン。危ないよ!」


 取ろうとしたんだけど、キャリーナ姉ちゃんに止められちゃった。


「危なくないよ。だってもう音してないもん」


「だってさっきまであんな音、してたんだよ? ふたを開けたら中から熱いのが飛び出してくるかもしれないじゃない。ルディーンはちっちゃいんだから、開けちゃだめ」


 でね、僕が危なくないよって言ってもキャリーナ姉ちゃんは全然聞いてくれないんだもん。


 その上、レーア姉ちゃんまでダメって言いだしたもんだから、僕はお母さんに代わりにやってって頼むことにしたんだ。


「お母さん。蓋を取って、中のお菓子にパラパラってお塩をかけて」


「大丈夫? 本当に飛び出してきたりしない?」


 でも、お母さんまでこんな事を言うんだよね。


「もう! 大丈夫だって言ってるでしょ。あったかいうちにお塩をかけないとおいしくないから、お母さんがやんないならやっぱり僕がやるよ」


「いえ、私がやるから大丈夫よ」


 お母さんはそう言うと、恐る恐るって感じでフライパンの蓋を取ったんだ。


 そしたらお台所いっぱいにバターと、とうもろこしの甘い香りが広がったんだ。


「わぁ、おいしそうなにおいがする」


 さっきまでホントに大丈夫なのかなぁ? って顔してたキャリーナ姉ちゃんは、その香りに大興奮。


 そして蓋を取ったお母さんはと言うと、言われた通り塩をぱらぱらとかけた後、僕にこう聞いてきたんだ。


「ねぇ、ルディーン。なんか白くて丸いものになってるんだけど、これで完成なの?」


 そう言って僕に見せてくれたフライパンの中身は、とうもろこしが見事に破裂して白くて丸っこいものに変わってた。


「うん! これはとうもろこしの粒がはじけてできるお菓子で、ポップコーンって言うんだ。おいしいから食べてみてよ」


「おいしいの? 私食べる!」


 僕のおいしいって言葉にキャリーナ姉ちゃんが反応して手を伸ばそうとしたんだけど、それを見たお母さんが慌てて止めたんだ。


「このままだとフライパンが熱くてやけどするから、ちょっと待って。バーリマンさん。すみませんが、何か適当な器を貸してもらえませんか?」


「ええ、いいですよ」


 と言うわけで、フライパンから別の入れ物に移されたポップコーンが僕たちの前に出されると、キャリーナ姉ちゃんはさっそく一口。


「これ、ルディーンは甘いお菓子じゃないって言ってたけど、甘くておいしいよ」


 そしたらお姉ちゃんは、ほっぺたに手を当てながらうれしそうにこう言ったんだよ。


 でも、それを聞いた僕はびっくりしたんだ。だってこれ、お塩の味のポップコーンだもん。


 だから僕も一つ食べてみたんだけど、そしたら思ってたのよりずっと甘くてびっくり。


「確かに甘いわ。とうもろこしが普通のよりずっと甘いから、お塩とバターだけでもこんなに甘いのね」


「でも、ルディーンはこれがうまくできたら甘いのも作るって言ってたわよね?」


 続けてお母さんとレーア姉ちゃんが手を伸ばしたんだけど、それを食べたレーア姉ちゃんがこんな事を言ったもんだから、みんなの目が僕に向いたんだ。


「えっとね。このポップコーンは、はちみつや前に村で作ったプリンに入れた茶色いお砂糖を焦がしたやつをあったかいうちにかけてやると、甘い味になるんだよ」


 だから僕、慌てて甘いポップコーンの作り方を教えてあげたんだよ。


 そしたら一緒にポップコーンを食べてたバーリマンさんが、テーブルから離れてさっきお塩を出した棚んとこまで行くと、中から小さなツボを取り出してお母さんにこう言ったんだよね。


「カールフェルトさん。ここにはちみつはありますが、もう一つの方が私にはよく解りません。あなたは作れますか?」


「ええ。砂糖と水があれば作れますわ」


「そうですか。では早速取り掛かりましょう」


 その後、お母さんとバーリマンさんが手分けをしてカラメルとポップコーンを作ったもんだから、僕たちは一度に3種類のポップコーンを食べる事が出来たんだ。


 読んで頂いてありがとうございます


 少し短めな時の2話分くらいの長編になってしまったw


 分けても良かったんですが、でも流石にポップコーンでそこまで引っ張るのはどうかと思ったので、最後まで書き上げた次第です。


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