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239 僕、嘘つきじゃないもん!


 イーノックカウに着いて2日目。


「お父さんたちは、どこに行くの?」


「そうだなぁ、せっかくディックたちを連れてきたんだし、武器や防具の店を回ろうかな」


 朝ご飯を食べた僕たちは、お父さんとお兄ちゃんたち、それとお母さんとお姉ちゃんたちに僕を入れた二組に分かれて街を見て回る事になったんだ。


 最初はね、僕もお父さんたちと一緒に行くはずだったんだよ。


 でも、お姉ちゃんたちが、


「お店を見て回ったら、またルディーンが何か美味しいお菓子を思いつくかもしれないでしょ」


「うん。だから、ルディーンは私たちといっしょに市場へ行くの」


 そう言ってお母さんたちの方に入れられちゃったんだ。


 でも僕、まだおっきな武器は持てないし、すぐに大きくなっちゃうから防具を見てもしょうがないんだよね。


 それにお姉ちゃんたちが言う通り、市場を回ったら美味しいものが見つかるかもしれないもん。


 だから、こっちの組に入って良かったのかもしれないね。



 村と違ってイーノックカウは人が多いから僕はお母さんと、キャリーナ姉ちゃんはレーア姉ちゃんと手をつないでお出かけ。


 でね、若葉の風亭を出てちょっと歩いたら、いっぱいお店が出てる露店街へ出たんだ。


 そこは街の人がご飯の材料に使う物を売ってる場所らしくって、お肉やお野菜、それに果物とかの食材がいっぱいならんでたんだよね。


「わぁ、いっぱいお店が並んでる」


「そうね。今日はここで買い物することはないだろうけど、見てるだけで楽しいわ」


 すぐ食べられるものと違って、まだしばらくこの町にいる僕たちがここに並んでるものを買う事はたぶんないと思う。


 でも村ではあまり見た事がないものが売られてるのを見るだけでも十分楽しいよね。


 そんなわけで、僕たちは露店街の中をぶらぶら。


 あの果物がおいしそうだとか、見た事がないお野菜があるよとか言いながらお散歩を楽しんだんだ。


「ねぇ、ルディーン。何かお菓子に使えそうなもの、あった?」


 そうやって1時間くらいふらふらとしてたら、キャリーナ姉ちゃんがそう聞いてきたんだよね。


「そう言えばいろんな果物とかもあったし、ルディーンなら何か美味しい物を作れそうなの、見つけてるんじゃないの?」


 おまけにレーア姉ちゃんまで一緒になって僕にそう言ってきたんだ。


 でもね、今日はみんなとのお出かけが楽しくって、そんな事考えながら見てなかったんだよね。


 だからそう言うと、


「そっかぁ」


 って二人ともがっかりしちゃった。


「ほらほら二人とも、予定より長くイーノックカウにいる事になったんだし、ルディーンもそのうち何かを見つけるかもしれないでしょ? それに今日何かを見つけても、すぐにお菓子を作れるわけじゃないんだから、そんな顔しないの」


 そんなお姉ちゃんたちを見て、お母さんは笑いながら慰めてる。


 でも確かにお母さんの言う通りで、宿屋さんのお部屋にはお料理をするところがないから、何かを思いついてもすぐには作れないんだよね。


 お母さんにそれを言われてお姉ちゃんたちも気が付いたみたいで、


「そうだね。お菓子は帰ってから作るんだから、今日見つけても仕方ないか」


「ルディーン。帰るまでに、ちゃんと見つけてね」


 二人とも僕にそう言うと、また周りをきょろきょろと眺め始めたんだ。


 でね、しばらくしたらキャリーナ姉ちゃんが何か見つけたみたいで、レーア姉ちゃんとつないでたおててを放すと近くにあった露店に走ってっちゃった。


「お母さん、とうもろこしが売ってるよ! これ、焼くとおいしいんだよよね」


 だから僕たちは慌てて追っかけたんだけど、そしたらそこにはキャリーナ姉ちゃんが言った通りとうもろこしが売ってたんだよ。


「あら、本当。でもこれ、ぎっしり詰まってはいるけど普通の物より粒が小さいわね。それにちょっとオレンジ色っぽいわ」


「いらっしゃい。でもごめんね、お嬢ちゃん。これは焼いて食べるとうもろこしじゃないんだ」


「え~、そうなの?」


 露店のおじさんにそう言われて、キャリーナ姉ちゃんはがっかりしてる。


 でもさ、焼かないんだったらどうやって食べるんだろう? ゆでるのかなぁ?


「なるほど、これは粉にして食べるとうもろこしなのね」


 僕がそんな事を考えてたら、おじさんに向かってお母さんがそう言ったんだよね。


 そしたら、おじさんはそうなんですよって頷きながら笑ってた。


「これ、粉にして食べるの?」


「そうよ、ルディーン。この種類のとうもろこしは皮がとっても硬くてそのままでは食べられないの。だからよく乾燥させてから石臼で挽いて、その後あのオレンジ色の皮をふるいで取り除いたものを小麦粉の代わりにしたり、混ぜて使ったりするのよ」


 お母さんが言うには、とうもろこしの粉って小麦粉よりも甘いからお菓子に向くんだって。


 それを聞いたお姉ちゃんたちは大喜び。


「帰る時に絶対買っていかなきゃ!」


「そうだね。ルディーン、これでおいしいお菓子を作ってね」


 そう言いながら、お母さんに買って帰るのを忘れないでねって頼んでるんだけど、その横で僕は頭をこてんって倒してたんだ。


 なんでかって言うとね、皮が硬いとうもろこしだよって聞いた僕は頭の隅っこに何かが引っ掛かったからなんだ。


 確か皮が硬いとうもろこしって、何かのお菓子を作る材料だったよね?


 その事は思い出せたんだけど、僕はそれがどんなお菓子だったのかが思い出せなくて一人でう~んって唸ってたんだ。


「でもおじさん、これって粒が小さいよね。粉にするんだったら普通のを使えばいいのに。そしたらいっぱいできるでしょ?」


「お嬢ちゃん、いいところに気が付いたね。確かに普通のとうもろこしでも粉は作られてるよ。でもこれは粒が小さい分、普通のより甘い粉が作れるんだ」


 そんな僕の横でキャリーナ姉ちゃんは、なんで粒が小さいとうもろこしを使って粉を作るの? って聞いたんだ。


 そしたらおじさんが、これを使うと普通のより甘い粉ができるんだよって言ったもんだから大喜び。


「そっか。お菓子を作るなら甘い方がおいしいもんね。でもさ、甘いんだったら、焼いて食べられたらいいのに」


「お母さんもそう思うわよ。でもね、このとうもろこしを焼いてると皮が割れてしまって、中の甘いお汁が全部飛び出ちゃうのよ。だから残念だけど、焼いて食べるのは無理ね」


「おっ、そのことを知ってるって事は奥さん。試したことがあるね?」


「ええ。これとは違う、黒っぽい品種だったけど、それを若いころに一度ね」


 お母さんが昔やったって言う失敗を聞いて、みんなは大笑い。


 でもそんな中で僕だけは、まったく別の事を考えてたんだ。


「そうだ! これってあれが作れるやつだ!」


「どうしたの、ルディーン。いきなり大きな声出して」


 僕は頭に引っかかってた事がやっと思い出せてすっきり。


 そのせいでつい大きな声を出しちゃったんだけど、そしたらお母さんがびっくりして僕の方を見たんだ。


 だからね、僕はこのとうもろこしでおいしいお菓子が作れるんだよって教えてあげたんだ。


「何言ってるのよ、ルディーン。これの粉で甘いお菓子が作れるのよって、さっきおじさんが教えてくれたじゃない」


「違うよ、キャリーナ姉ちゃん。このとうもろこしの粒でお菓子が作れるんだ!」


 そしたらお姉ちゃんが粉でお菓子が作れるのは知ってるよって言ってきたから、僕は違うって教えてあげたんだよね。


「粒のまんま、お菓子が作れるの?」


「うん。粉にしないでも、おいしいお菓子が作れるんだよ」


「うそだぁ。おじさんは皮がかたいから、粉にしないとダメって言ったよ」


「うそじゃないもん!」


 でも、いくら言ってもキャリーナ姉ちゃんは信じてくれないんだよね。


 だから僕、お母さんに言ったんだ。


「お母さん、このとうもろこし一個買って。キャリーナ姉ちゃんに僕がうそつきじゃないって見せてあげなきゃいけないもん!」


「ルディーン。教えてあげるはいいけど、何処で調理するつもりなの? 宿屋さんでは無理よ」


「錬金術ギルドに行けばいいよ。バーリマンさんはいつ来てもいいよって言ってたし、ここからもそんなに遠くないもん。それにバーリマンさんがいなくっても、いつもいるペソラお姉さんはお菓子が大好きだから、作ってもいい? って聞いたらきっといいよって言ってくれるはずだからね」


 僕がそう言うと、お母さんは本当に大丈夫かしら? なんて言ってたんだよね。


 だけど、それでもその皮が硬いとうもろこしを一本だけ買ってくれて、


「でももし調理場を貸してもらえなかったら、素直にあきらめるのよ?」


 おじさんからそれを受け取りながら、お母さんは僕にそう言ったんだ。 



 読んで頂いてありがとうございます。


 ブックマークがとうとう念願の1000人を突破! その上、総合ポイントも4000を超えました! 本当にありがとうございます。


 もしこの話が気に入ってもらえたのなら、お気に入り登録や評価を入れていただけると嬉しいです。


 感想やレヴュー共々続きを書く原動力になるので、よろしくお願いします。


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