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238 僕、氷の魔石の魔道具ばっかり作ってないよ


 ルルモアさんとのお話がちょうど終わった頃、僕たちがいるお部屋にニールリンドさんが入ってきたんだ。


「あら、いいタイミングね。査定が終わったの?」


「ええ。これが内訳よ」


 ニールリンドさんからいろいろ書いてある薄い板を受け取ったルルモアさんは、


「あら。今回はいつもよりかなり多いのね」


 そう言ってから、その板をお父さんに渡してた。


 でね、お父さんがその板を見ている間に、お母さんはルルモアさんに何でいつもより多かったのかを教えてあげたんだ。


「ああ、それはいつもよりもブラックボアクラスの素材が多かったからですよ」


「そのクラスが多かったって、まさかグランリルの魔力溜まりまで活性化し始めたなんてことはないでしょうね?」


 そしたらルルモアさんがびっくりした顔してこう聞いてきたんだけど、お母さんはそれを聞いてクスクス。


「こんな近くの魔力溜まりが、同時に二か所も活性化するなんて事ある訳ないじゃないですか。この頃暑くなってきたでしょ? だからルディーンが冷たいお菓子を作ろうって考えたのが事の始まりなんですけど」


 僕が暑くなってきたから冷たいお菓子が食べたくなってかき氷を作ったんだけど、そしたらそれをみんなも食べたいって言うんだ。


 でね、それなら村で氷をいっぱい作らなきゃいけないねって話になったんだけど、でもそうなるとうちにある魔道冷凍庫だけじゃだめだよね?


 だからいっぱい魔道冷蔵庫を作るために、村の人たちでブラックボアやブラウンボアをいっぱい狩って魔石を集めたんだよって話したんだ。


「なるほど。だからいつもより素材が多いんですね」


「それがですね、この話にはまだ続きがあるんですよ。この乱獲のせいで一時的に森が安全になったでしょ? そのせいか、普段はボア系の魔物があまり来ない森の険しい場所で卵を産むクラウンコッコが、森周辺でまで巣を作り始めちゃいまして」


 お母さんはそのままにして置くとまだあまり狩りに慣れていない子たちが危ないからって、そのクラウンコッコまで狩った事を話したんだ。


「ブラックボアの乱獲の上にクラウンコッコの素材まで持ち込まれたんですか。それじゃあ、あの金額にも頷けますね」


 どうやらルルモアさんは金額を見ただけで、どんな素材が売りに出されたのかまでは見てなかったみたい。


 でも、それなら買取金額が多くなってもおかしくないねって納得したんだ。


「カールフェルトさん、内訳に問題はありませんか? でしたらこちらにサインをお願いしたいのですが」


「はい、大丈夫です」


 でね、お母さんたちがお話してる間にお父さんたちのご用事も終わったみたい。


 ニールリンドさんが羊皮紙を渡すと、お父さんはそれにサインをしたんだ。


「後、カールフェルトさんの個人的な取引品以外のお金は、いつも通りグランリルの村のギルド預金に入金でよろしかったですか?」


「はい。内訳が書かれた板を持ちかえれば村長がきちんと分配するので、それで大丈夫です」


 そしてその場でお父さんが二枚のカードを出してニールリンドさんに渡すと、それを持って部屋の隅っこに置いてある魔道具の元へ。


 それはギルドカードをかざすとギルド預金からお金の出し入れができる魔道具で、ニールリンドさんが二枚のギルドカードを順番にかざすと、その度に魔法陣が青く光ってそれぞれのギルド預金にお金が振り込まれたんだ。


「はい、これで決済は終わりました。カードはお返ししますね」


 これで冒険者ギルドでのご用事はおしまい。と言うわけで、僕たちは馬車の所に戻る事になったんだよね。



「ロングボウに関してはたぶん3日もあれば用意できると思うわ。だから4日後の朝、もう一度ギルドに来てくださいね」


 お外に出るまでにルルモアさんが教えてくれたんだけど、お母さんはイーノックカウの冒険者の人たちに比べてレベルが高いから普通に売ってるロングボウだと弦が切れたり弓そのものが折れちゃったりするんだって。


 だから領主様の騎士団が持ってる特別な弓を冒険者ギルドから頼んで貸してもらうんだけど、それに3日くらい時間がかかっちゃうんだってさ。


「ええ、解りました。では4日後に」


 と言うわけで、ルルモアさんにまた来るねってお約束をして、僕たちは今日泊まる宿屋さんへ向かったんだ。



「えっ? もう部屋が取られているんですか?」


「ええ。先ほど冒険者ギルドから使いの者が参りまして、4人部屋を2部屋、6泊分の料金を前払いで頂いております」


 僕たちの村の人がイーノックカウに来るといつも泊まってる『若葉の風亭』に行ってみたら、もうお部屋が取ってあってお父さんとお母さんはびっくり。


 どうやらお父さんがニールリンドさんと買取のお話をしてる間に、今日泊まるからお願いねって言いに来たみたいなんだ。


 でもね、お父さんたちはその事にびっくりしてたけど、僕はこの宿屋さんに入って別の事でびっくりしたんだよね。


「ここ、なんか涼しいって思ったら、クーラーがついてる」


 そう。この宿屋さんのロビーの端っこの天井からちょっと小さめの冷蔵庫くらいの箱がぶら下がってて、その横に空いた穴から冷たい風が出てたんだ。


 あれって、この間僕がロルフさんたちに教えてあげたクーラーだよね? でも、何でここにあるんだろう?


 そう思って僕が頭をこてんって倒してると、カウンターにいたお姉さんが、


「坊や、よく知ってるわね」


 にっこり笑いながら僕にそう言ってくれたんだ。


 だから僕、何でここにあるの? ってお姉さんに聞いてみたんだけど、そしたらあれは商業ギルドから貸し出されたものなのよって教えてくれたんだよ。


「あの魔道具は先日開発されたばかりでしょ? だから今度皇帝陛下に献上される予定らしいんだけど、でも献上した後に何か問題が発生しては困るという事で、いくつかの場所に実証実験として試作品を貸し出されたんですよ」


 なんでもそれを商業ギルドが発表したら、その試作品は5個しかなかったのにものすごくいっぱい応募が来たらしいんだ。


 でね、この若葉の風亭のオーナーもダメ元で応募したらしいんだけど、そしたらなんと当選したんだってさ。


「あの試作品は試用期間が終わった後も返却をしなくてもいいという話ですから、これからずっと夏の暑さの中でも涼しいままでいられます。だからくじ運のいいオーナーには従業員一同、皆感謝しているんですよ」


 あのクーラーはもう特許申請が通ってるんだけど、まったく新しい魔道具だから皇帝陛下に献上されるまでは売り出すことができないんだって。


 だから他の店や宿屋さんでは多分、今年の夏の内には買えないんじゃないかな? ってお姉さんは言うんだよね。


「それにあれには氷の魔石が使われているって言うもの。でも、廉価版の魔道冷蔵庫が売れてるおかげで氷の魔石自体が品薄になってるから、もし販売がこの夏中に間に合っても買おうと思ったらやっぱり抽選になってしまうでしょうね」


 これ、作ろうと思えば無属性の魔石でも作れない事ないけど、このロビーみたいにおっきなお部屋を冷やそうと思ったらそれこそブラウンボアとかの魔石がいるもん。


 だからお店や宿屋さんで使うとなると、氷の魔石じゃないと高くなりすぎてダメなんだろうね。



 でも、なぜ急に氷の魔石が必要な魔道具が多く開発され始めたんだろうね? って笑うお姉さん。


 あれ? 僕が作ってロルフさんたちに教えたのって、別に氷の魔石を使った魔道具ばっかりじゃないんだけどなぁ。


 だってクーラーには風の魔石の魔道具も使われてるし、雲のお菓子を作る魔道具には火の魔石が使われてるもん。


 だから僕、お姉さんにそう教えてあげようって思ったんだけど、


「ルディーン、行くぞ」


 そしたらお部屋の準備ができたからって、お父さんに呼ばれちゃった。


 だからカウンターのお姉さんにバイバイって手を振ってからお父さんについて行ったんだよね。


 そしたら連れてかれたとこにあったお部屋に入るドアが、前に泊まった時よりずっとおっきくてびっくり。


 でもね、すぐにきっと今回は4人でお泊りする部屋だからなんだろうなぁって思ったんだ。


 ところがそのドアを開けてお部屋に入ってみたら僕、もっとびっくりしたんだよね。


 だって4つのベッドが並んでるお部屋のほかに、もう1個お部屋があったんだもん。


「これはまた。冒険者ギルドも張り込んだなぁ」


 でも、そのお部屋を眺めたお父さんはニコニコ。


 どうやらこのお部屋、いつも泊まってるのよりもっと高い部屋なんだってさ。


「それだけポイズンフロッグが邪魔って事なんだろう。ここまでしてもらったんだから、ポイズンフロッグは全部狩らないとな。ルディーン、お前の探知魔法が頼りだぞ」


「うん! 僕、頑張るよ」


 お父さんに頭をなでられながら、僕はふんす! と気合を入れたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君が知らないところでいつの間にか増えている特許商品。


 それにこれ、試作品に応募が殺到した上に皇帝陛下への献上品にまでなるんですから、ルディーン君のギルド預金はまた大きく増える事になるでしょう。


 今、一体いくらくらいあるんだろうか? それは作者にもわからないw

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