237 狩りはね、安全なのが一番大事なんだよ
「どうしてですか?」
ルルモアさんは、お母さんがきっと受けてくれると思ってたんだと思う。
だからそう聞き返したんだけど、お母さんはほっぺたに手を当てて、困ったようにこう言ったんだ。
「だって装備がないもの」
これを聞いて、僕はそっか! って思ったんだ。
そう言えば僕たちがイーノックカウに来たのって、家族みんなで遊ぶためだもん。
だから当然、防具系の装備はほとんど何も持ってきてないんだよね。
「ポイズンフロッグは普通、ブルーフロッグの群れに紛れているんでしょ? それなら当然ポイズンフロッグを狙撃したらブルーフロッグがこちらに向かってくるじゃないですか。いくら弱いと言っても、流石に数で来られたら全部の攻撃をよける事なんてできないと思うのよ」
「確かに、それはその通りなんですが……」
お母さんが言うとおり、弱い魔物がちょっといるだけなら全部やっつけるのは簡単だよ。
でもね、もし20匹とかいたらやっつけるまでにかなり時間がかかっちゃうもん。
やっぱり防具がないと、僕も危ないと思うんだよね。
「それに持ってきている弓にも問題があるのよね」
「弓ですか?」
「ええ。移動中に何かあるといけないから弓は持ってきているわよ? でも、今回は持ち運びがしやすいようにミドルボウしか持ってきてないのよ。でも長距離狙撃となると、やっぱりロングボウが欲しいわ。それに矢だって、狩りができるほど持ってきてないし」
僕、弓は使ったことがないから知らなかったんだけど、お母さんは狩る相手によって弓を変えてるんだって。
例えば動きは早いけどそんなに強くない一角ウサギとかなら威力は弱いけど素早く動かせるショートボウをつかってるし、体が大きくて直線的な動きが多いブラックボアやブラウンボア相手にはそこそこ強くって森の中でも持ち運びやすいミドルボウを使ってるんだって。
でもね、今回みたいに遠くから一発で何かを狩ろうと思った時は、やっぱり威力が一番高くって遠くの的にも当てやすいロングボウが欲しいんだってさ。
「なるほど。ポイズンフロッグがそれほど強くない魔物だとは言え、一撃で確実に倒すとなるとそれなりの威力は必要ですよね」
「ええ。あとブルーフロッグの群れの規模によっては、こちらが想定している以上に離れた場所から撃たないといけなくなる可能性もあるわ。それに紛れているのが1匹だけならいいけど、もし3匹以上いたら同じく遠くから撃たないと倒しきる前に接近されてしまうもの」
お母さんの話を聞いて、とっても困った顔になるルルモアさん。
でも、安全に狩れる状況を作れない限り、ポイズンフロッグをやっつける依頼は受けられないって言われちゃうと納得するしかないみたいなんだよね。
「ロングボウにブルーフロッグの攻撃に耐えられる防具ですか」
「ああ、防具に関してはシーラのじゃなくてもいいぞ。代わりに俺の防具が用意できるなら、盾になって守ってやることくらいはできるから」
難しい顔になっちゃったルルモアさんに、お父さんがこんな声をかけたんだよね。
でも、それを聞いたお母さんが怒り出しちゃったんだ。
「何を言ってるの、ハンス。相手にはポイズンフロッグがいるのよ。いつもの狩りみたいにあなたが前に出たら、もっと遠くから狙撃しなくちゃいけなくなるじゃないの」
「あっ、いや、それは考えてなかった……」
毒が怖いから離れたとこから弓で射るのに前に出たらだめじゃないかってお母さんに怒られて、お父さんはしょんぼりしちゃった。
でもお母さんが言う通り、お父さんが前に出たらお母さんが遠くから弓を撃つ意味がなくなっちゃうもん。
だからお母さんの代わりにお父さんの防具をそろえてもらっても、あんまり意味がないよね。
「シーラさんの防具かぁ。剣で戦うハンスさんの防具ならともかく、シーラさんのとなると弓を射るのに支障とならないって言う条件が付くから、すぐにそろえるのは流石に難しいかも」
「やっぱりそうですよね」
でもそうなるとやっぱりお母さんの防具がいるって事になるんだけど、弓を射る人は固い胸当てや肘や肩の動きを邪魔する防具は使えないから、普通に出回ってる防具じゃダメなんだって。
そう言えばお母さんがいつもつけてる防具も、お父さんたちのと違って柔らかいのと硬いのの二種類のなめし皮を使って作られた動きやすいやつだもん。
あんなの着けてる人、イーノックカウでは見た事ないからお店では売ってないのかも。
「う~ん、ロングボウや矢だけなら何とかなると思うんだけどなぁ」
ルルモアさんも流石にどうしようもないって思ったのか、あきらめムード。
「えっと、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
そんな時、テオドル兄ちゃんがルルモアさんに聞きたい事があるって言いだしたんだ。
「何かな?」
「えっと、さっきから話に出てるブルーフロッグってどれくらい強い魔物なんですか?」
「魔物? ああ、ポイズンフロッグが魔物だから勘違いしちゃったかもしれないけど、ブルーフロッグは体は大きいけどあくまで動物よ。このブルーフロッグが魔力溜まりの影響で魔物に変質したのがポイズンフロッグって訳」
魔物って吸収した魔力の強さもあるけど、元になった動物の強さによってでも魔物になった後の強さが変わるんだって。
ブルーフロッグって動物なのにとっても強いから、最初の変異段階のポイズンフロッグでもDとかCランクの冒険者が相手する魔物になっちゃうらしいんだ。
「そうなのか。じゃあさ、ルディーン」
「なに? テオドル兄ちゃん」
「お前、一角ウサギくらいなら魔法で眠らせられるって言ってたよな? なら、動物のブルーフロッグならさっきの魔法で寝かせられるんじゃないか?」
「そっか! 流石テオドル兄ちゃん、頭いい!」
ブルーフロッグがいっぱいいるからお母さんの防具がいるんだよね? でもそれを僕が全部寝かせちゃえばお母さんは危なくないもん。
「なるほど。たとえ2~3匹寝なくても、それくらいなら俺が軽く倒せるから危険はなくなるな」
それにお父さんもこう言ってくれてるし、ルルモアさんもさっきロングボウなら用意できるって言ってたから狩りに行ってもきっと大丈夫だね。
「えっと、ルディーン君。本当にそんな事ができるの?」
「うん! さっきのおじさんたちとおんなじだもん。ブラックボアとかがいっぱいいたら無理だけど、それくらいなら大丈夫だよ」
そりゃあ弱くても魔物だったら、種類によっては強い魔法耐性を持ってるのもいるよ。
でも動物だったらそんなものを持ってるはずないし、さっき低いランクの冒険者さんたちがいつも狩ってるって言ってたからそんなに強くないはずだよね?
だったらスリープの範囲にさえ入ってれば、ちゃんと寝ちゃうはずなんだよね。
「さっきのおじさんたちってのが何の事か解らないけど、ルディーン君ができるって言うのならそれでいいわ」
ルルモアさんは僕にそう言うと、今度はお父さんを見てこう聞いたんだ。
「カールフェルトさん。イーノックカウにはどれくらい滞在する予定なんですか?」
「えっと、とりあえず三泊ほどするつもりなのですが」
「三泊か。それだとちょっと厳しいわね」
どうやらこんだけの時間だとちょっと難しかったみたい。
「事情が事情だし、多分イーノックカウに滞在中の宿泊費は全額冒険者ギルドで出せると思うから何とかその倍、六泊くらいに伸ばせないかな?」
だからもうちょっといて欲しいんだって。
それを聞いて今度はお父さんが難しい顔になっちゃった。
「宿代を払ってもらえるって言うのなら、三日分の宿代が無くなるから金銭面での問題はないです。でも、村長にそれくらいで帰ると話してあるのが……」
「解りました。グランリルにはギルドから人をやります。それならいいでしょ?」
「まぁ、それなら。シーラもいいか?」
「ええ。私は問題ないわよ」
こうして僕たちは最初に決めてたのより、もっと長い間イーノックカウで遊べる事になったんだ。
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