231 魔法使いの方が向いてるお仕事なんだって
「なんだ、ルディーン。車輪の軸は鉄で作るのか?」
「うん。その方が丈夫だもん。それに僕、まだ魔法で木を綺麗な丸い棒にできないから、そっちの方が簡単なんだ」
僕たちの村で使ってる馬車はみんな、車輪の軸には硬い木を丸い棒に削り出したものを使ってるんだよね。
でも僕、金属とか石はよくクリエイト魔法で他の形にしてるけど、木の加工はあんまりやった事がないから馬車に使えるほどきれいな丸い棒にできないんだ。
「なるほど、そんなもんなのか。でもルディーン、それだと硬すぎて馬車の軸受けが壊れやすくならないか?」
「馬車の方にベアリングってのをつけるから大丈夫だよ」
お尻が痛くならない馬車を作ろうって思った時ね、僕はそう言えば馬車がどうやってできてるんだろう? って気になったんだよね。
だから一度見てみようって村の馬車置き場に行ってみたんだけど、そこにあった馬車を見て僕はびっくりしたんだ。
だって馬車の輪っかの棒が通ってる穴、内側に鉄の板が張ってあるだけで、そこにそのまま真ん丸の木の棒が通ってるだけだったんだもん。
鉄の板はつるつるだったし油も塗ってあるみたいだったけど、でもあれだといくら硬いのを使ってても木の棒の方が削れちゃってすぐ壊れちゃうんじゃないかなぁ?
そう思った僕は、じゃあどうしたらいいんだろうって考えたんだ。
でね、そこで僕が思い出したのが前の世界でお勉強した内容。
前の世界では小学校ってとことか中学校ってとことかでお勉強してたらしいんだけど、その中学校ってとこに行ってた頃に自転車って道具についてる輪っかを外して、それがどうなってるのかをお勉強をした事なんだよね。
その時、輪っかのとこに使われてたのがベアリングってやつなんだ。
「べありんぐ? なんだそれは」
「あのねぇ、重いものを運ぶ時に下に丸い棒を何本か敷いてその上をころころと転がす事あるでしょ? あれとおんなじで、馬車の輪っかの棒とそれをつけるとこの間に鉄の球をいっぱい入れてコロコロとさせると輪っかが簡単にくるくる回るんだよ」
「なるほどなぁ、そんなのがあるのか。でも、この村にはそんな丸い玉なんかないだろ?」
「大丈夫だよ。僕、魔法で作れるもん」
僕はポーチの中から鉄串を作るためにいつも持ってる小さな鋼の塊を取り出すと、それを材料にしてクリエイト魔法で何個かのとっても小さな球を作り出した。
でね、次にそれとはまた別の鋼の塊を使ってその球を入れる内側が溝になってる輪っかと、内側にはめる外っ側が溝になってて、一か所だけ切れてるちっちゃな輪っかをクリエイト魔法で作ったんだ。
そして僕はそれらを組み合わせてから内っ側の輪っかを少し広げて中の球が外に出ちゃわないようにして、それからその切れてたとこをクリエイト魔法できちんとくっつけたら、このちっちゃなベアリングは完成。
「お父さん、見ててね」
僕はその出来上がったちっちゃなベアリングを一度手に乗っけてお父さんに見せた後、ベアリングの真ん中のちっちゃな輪っかのとこを親指と人差し指で持つと、外側の輪っかを指でくるくる回してみる。
うん。油を入れてないからちょっと引っかかる感じはするけどちゃんと回ってるし、これは実験のだからこんなんでも大丈夫だよね。
「ほら、くるくる回るでしょ」
「なるほどなぁ。でもこれ、こんな作りづらい形にするより軸受けに4~5本の丸棒をつけた方が楽なんじゃないか?」
「普通に作ったらそうかもしれないけど僕は魔法で作るんだから丸い棒でも球でもおんなじだし、それに鉄の棒よりこっちの方が材料も少なく済むよ」
真ん丸な球をいっぱい作るのって大変だから、鍛冶師さんが作るんならお父さんが言ってる方が簡単だと思うんだよね。
でも魔法で作るのなら関係ないし、鉄の球も鋼で作るから潰れたりひしゃけちゃったりする心配もないからこっちの方が絶対いいはずなんだよね。
「そうか。まぁ作る本人がそっちの方がいいと言うのなら、そっちの方がいいんだろうな」
「うん。木はいっぱいあるけど鉄はそんなにいっぱいあるわけじゃないもん。だからこっちで作るね」
「ああ、解った」
こうして僕は、馬車の車輪にくっつけるベアリングを作り始めたんだ。
「おお、もう作り始めているのですかな?」
「あっ、司祭様! おはようございます」
お父さんやお兄ちゃんたちが馬車の荷台んとこに使う木を出してる横で僕がベアリングを作ってると、お爺さん司祭様がやってきたんだ。
だから元気よく朝のご挨拶をしたんだけど、そしたらそんな僕が隅っこで何かやってるのが気になったのか、お爺さん司祭様はお父さんたちにおはようって言ってからこっちに近づいてきたんだよね。
「ルディーン君はこんな隅の方で、一体何を作ってるのかな?」
「あのねぇ、馬車と車輪をくっつけるところを作ってるんだよ」
僕はそう言って、作りかけのベアリングをお爺さん司祭様に見せてあげたんだ。
そしたらね、
「ほう、これは驚いた。ルディーン君は転がし型軸受けを知っておったか」
びっくりしながら、こんな事を言い出したんだよね。
でね、その声が気になったのか、お父さんたちも僕のとこに集まってきちゃったんだ。
「転がし型軸受け、ですか?」
「うむ。何年か前から帝都にある一部の鍛冶工房で小さな鉄の球を作り出す方法が編み出されてのぉ、それに伴って生み出されたのがこの転がし型軸受けなのだ」
お爺さん司祭様が言うには小さな鉄の球を綺麗に作るのってとっても技術がいるから、帝都でもこの軸受けを作れる工房はあんまり無いんだって。
だからお貴族様でもみんな、これを使った馬車を作ってもらうのに順番待ちをしてるんだってさ。
でね、お爺さん司祭様は僕の横にある作業テーブルの上に置いてあった、さっきお父さんに見せてあげたちっちゃなベアリングを見つけると、それを持ってよぉ~く見てからこう言ったんだよね。
「しかし、わしが前に見たものとは少し形状が違うのぉ。だが理にかなっておる。なるほど、クリエイト魔法で作ったのか。これは鍛冶師の技術ではなく、魔法で成形しているからこその形なのだな」
鍛冶師さんたちが作ってるベアリングって、僕が作ったみたいに溝の中に球を入れるんじゃなくって、板にいっぱい開けた丸い穴で鉄の球を動かないようにして、それに板で作った輪っかや蓋をつけて作ってるんだってさ。
「鍛冶師が作るものはロウ付けて成形しておるから少々壊れやすいし球止め用の穴あき板のせいで中の球の摩耗も早いが、このように溝で中の球が外に出ないようにすればその心配もあるまいて。ふむ、これは案外鍛冶師よりも魔導士に向く仕事なのかもしれぬのぉ」
お爺さん司祭様は、そんな風に感心しながら僕の頭をなでてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
画期的な発明に見えて、実はこの世界にもベアリングはあったというお話でしたw
ルディーン君の前世の知識ですが、基本的には普通の高校生よりやや劣る設定になっています。
と言うのも、高校受験には通っているので中学までの知識はしっかりとあるのですが、病弱で入退院を繰り返していたために高校に入ってから覚える事はあまり知らないからです。
さて、それを踏まえての今回の話なんですが、ベアリングって私は中学で習ったんですよね。
その時はクラスの何人かがその日だけ自転車登校して、素人でも簡単に外せる前輪を使ってベアリングの授業を受けたんですよ。
なので、ベアリングに関してはルディーン君が知っていてもおかしくないだろうという事で馬車に採用する事にしました。
ところで、ここ最近の自転車って前輪の車軸の所にライトをつける発電機が付いているものが多いですよね。
後輪はチェーンが付いてるから外しにくいし、今ではこんな授業、やってないのかなぁ?




