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227 大変な事ってちょっとの間でも何個か起こることがあるんだよ


 今回もお爺さん司祭様視点です。



「魔法陣……」


 わしはこの時、ルディーン君がそのような経緯でピュリファイの魔法陣を作ろうと考えたのかを聞こうとしたのが、しかしそれよりもはるかに大事なことがあるのではないかと思い直し、こう問うてみる事にした。


「いや、それよりもだ。ルディーン君、君はなぜピュリファイが死の魔力によってアンデッドが沸くようになった土地だけでなく、水の浄化までできることを知っていたんだい?」


 すると彼は、私の顔を見て不思議そうにこう言ったのだ。


「アンデッド? ピュリファイってお掃除の魔法だよね?」


 これにはさすがに驚かされた。まさか、一部とは言え世の中に知られているはずの効果の方を知らぬと答えたのだからな。


 それによりにもよって浄化すると言う魔法の効果を、掃除するための物と言い切るとは。


 どうやらルディーン君はこの魔法を、ただ単に何かによって汚れたり腐りかけてしまったものを光の浄化によって元の状態に戻す魔法だと考えているようなのだ。


 しかし掃除のための魔法か。ピュリファイはこれでも低位の神官では使えぬ、そこそこ難易度の高い魔法なのだがなぁ。



 このピュリファイという魔法には女神からもたらされた魔法文字の中でも、特に発音が難しいと言われるピュとファの二文字が使われておる。


 この二文字が含まれているために、治癒魔力がこの魔法を発動させるのに足りるほど高くとも使えぬと言うものも意外とも多いのだ。


 そして実際に発動させられない者では、たとえ魔法文字を刻んだ魔法陣を用意してそれを魔石に刻んだとて魔法は発動しない。


 その上魔法というものは魔石に刻む時にその魔力がどうしても減衰してしまうから、それでもなお水の浄化をしっかりと行えるほどの治癒魔力を持つ者となるとどうしても中位以上の神官になってしまうのだ。


 そんな魔法であるピュリファイをこの子はいともたやすく操り、なおかつ掃除のための魔法だと思って気軽に魔道具として使っておる。


 まったく、とんでもない子供がいたものだ。



 わしがそんな事を考えておると、ルディーン君が急に変な事を聞いて来おった。


「司祭様、もしかしてイーノックカウだとお水を水の魔石から作ってるの?」


 魔石から水を作る?


 はて、ピュリファイは先ほどわしからアンデッドの浄化にも使われていると聞いて何やら考えておったようだが、それの何処をどうしたらこのような質問に至ったのやら。


「水? いや、大きな商隊では運ぶ荷物を減らすために魔石を使っておる者もいるが、街では川や地下水などから水が豊富にとれるからのぉ、わざわざ水の魔石から水を生み出す者はおらぬと思うぞ」


 それでも子供の疑問だ。わしが知る内容ならば答えてやるべきだろう。


 そう思ってわしの知る街での事情や魔石によって生み出される水の使われ方を答えたのだが、それを聞いたルディーン君が何やら聞き覚えのない、だが何やら引っ掛かりを覚える言葉を口にした。


「そっかぁ。僕が知らなかっただけで、イーノックカウとかだとヒルダ姉ちゃんちの魔法の水がめみたいに魔法使いに魔力を入れてもらった魔石の乾電池を使ってお水を作ってるのかって思っちゃった」


 かんでんち?


 はて、聞いた事がない単語だが、魔法使いに魔力を入れてもらうという事は魔道具の魔石の事をルディーン君はそう呼んでいるのだろうか?


 それにヒルダ姉ちゃんちだと? という事はもしかして、ここ以外にもこの魔法の水がめを設置してあるというのだろうか。


 もしやわしが村を留守にしている間に、かなりまずい事になってしまっておるのではないだろうなぁ。


 水を浄化する魔道具がもしこの村の多くの家に設置されておった場合、その情報を口止めするのが難しくなってしまう。


 だが、これが中央神殿に知られるのは流石にまずい。


 そう思ったわしは、慌ててルディーン君に確認を取ろうとしたのだが、


「ルディーン君?」


 声をかけるも、何やら考え込んでいるようでまったくこちらの呼びかけに気付かないようなのだ。


「ふふふっ、司祭様。そうなったルディーンには何を言っても無駄ですよ。この子ったら、気になったことを考え出すと、周りの音が全く聞こえなくなるみたいですから」


 なんと。こんな小さな子なのに、もうそんなに深い思考ができるというのか。


 同じような思考ができるヴァルトは、一時期とはいえイーノックカウの領主を務めたにもかかわらず錬金術の分野でもかなり名が知られるほどの業績を残しておる。


 だが、なるほど。この深い思考ができるからこそ、この子はわしらの常識から外れた事をいともたやすくなして来おったのだな。


「しかし困ったのぉ。ちと聞きたい事ができたのだが」


「そうなのですか? ならば肩でもゆすってあげてください。声をかけたくらいでは気付きませんが、そうすれば流石に返事をしますから」


「いや、それには及ばぬよ」


 わしが知りたいのは魔法の水がめがこの村でどこまで広がっているかという事だ。


 それに、かんでんちと言う単語も少々気になる。


 多分魔石の事を言っておるのだろうが、ルディーン君の口から出た言葉である以上、わしの思いもよらぬものである可能性もあるからな。


 なに、学生時代のヴァルトもそうであったが、この状態はそうは長く続きはしまい。


 カールフェルト夫人から魔法の水がめの事を聞いておる内に、考えがまとまって元に戻るだろうて。


「ルディーン君にしか解らぬであろう事は後程聞くとして、それ以外の事を聞いておきたいのだが、よろしいか?」


「はい、私に答えられるような事でしたら」


 そう思ったわしは、とりあえず魔法の水がめが今どの家に設置してあるのかを聞いてみることにした。


 これがまだ二軒だけならばよい。その時はこれ以上広がらぬよう、釘を刺せばよいだけだからな。


 だがもしこの近所の家すべてに設置してあるとしたら、すぐに村長宅まで行って村人の口からよそへ伝わらぬようにせねばならぬだろう。


 そして聞いた結果はと言うと、


「ああそれでしたら、うちと嫁入りした長女の家だけですわ」


 幸いな事にこの魔道具はまだ広まってはおらぬようだ。


 夫人が言うにはルディーン君の仕事量が多すぎるという事で、ご主人がこれ以上新たな魔道具を作ることに難色を示しておるようだ。


 それに先日村長が魔道リキッドの使用量が増えていることにも苦言を呈したのも、この魔法の水がめがよそに広がるのを防ぐ要因になったそうな。


「だから最初はヒルダの家にこの水がめを設置することも、ハンスは反対したんですよ」


 そう言って笑うカールフェルト夫人。


 うむ、この様子ならばこの魔法の水がめがこれ以上広がることはなかろう。


 そう思い胸を撫でおろしはしたのだが、さりとてこのままにして置くのも流石にまずい。


 だからこそわしは、この魔道具が神殿により秘匿されている物であり、それをルディーン君が作れる事をあまり広めるべきではないと話そうとしたのだ。


 ところが、次に飛び出した言葉でそんな考えはすべて吹き飛んでしまった。


「そうしたらですね、ルディーンたら魔道リキッドを使わなくても使えればいいんだよねって、魔石を使ったかんでんちってのを作ってしまったんですよ」


 カールフェルト夫人が言うには、そのかんでんちという物は魔法使いの魔力をためておく事ができる物だそうで、それを複数用意しておけば取り付けてあったかんでんちに魔力がなくなったとしても、それをまた別の魔力が入っているものと入れ替えるだけで魔道具が動かせるというのだ。


 そしてルディーン君が言うには、その魔力も夜寝る前に注いでおけば使った魔力は朝起きたらすべて回復しておるから注ぐ者にとっても何の負担にもならぬという。


 なんという事だ。もしそんなものが世の中に広まれば、とんでもない騒ぎになるぞ。


 魔道具が広く使われている以上、魔道リキッドの市場も当然それに比例して大きくなっておる。


 しかしだ。もしこのかんでんちとやらが広まればどうなるか?


 小さな村ならばともかく、街や都市ならば結構な数の魔法使いがいるし、ただ魔力を注ぐだけでよいというのであれば神官だって数多くいる。


 その者たちが入れ替えるだけで魔道具を動かせると言う、このかんでんちとやらに魔力を注ぎ始めればどうなるか?


 簡単な事だ。魔道リキッドの市場は大きく減少する事になってしまうであろう。


「なんと! わしが帰ってくるまでにその様な事が起こっておったのか。うむ、ルディーン君が魔法陣を使ってフロートボードの馬車を完成させてはおらぬかと危惧しておったが……4日だぞ。わしが村を空けておったのはたったの4日だ。だと言うのに、まさかこのような事になっておるとは」


 馬車どころではない。世の中がひっくり返るほどの事が、わしが村を留守にしておるわずかな間に起こってしまっておったとは。


 その事に愕然としておったわしは、次の瞬間、さらに追い打ちを受けることとなる。


「ありがとう、司祭様。僕、フロートボードの魔法が放出系の魔法陣で使える事に全然気が付いてなかったもん。やっぱり司祭様が帰ってきてくれて、ほんとによかった!」


 いつの間にか深い思考から戻ってきておったルディーン君が、にこにこしながらわしにお礼を言ってきたのだ。


 なんという事だ。わし自身の口から、魔道リキッドで動く魔法の馬車の作り方を語ってしまう事になるとは。


 ……椅子に座っていて、本当によかったと思う。


 もしそうでなければきっと、わしはその場で崩れ落ちておったであろうから。


 読んで頂いてありがとうございます。



 この後司祭様はアイスクリームをふるまわれて、こんな魔道具まで作っていたのかとさらにショックを受けます。まだほかにも新たな魔道具が作られていたのかと。


 前に感想欄でご指摘頂いたのですが、実を言うと魔道具をかなりのペースで作っていたのはわざとでした。


 なにせ司祭様が村を留守にしているのは4日間だけですからね。その間にとにかくいっぱい作ってしまおうと思ったわけです。その方がショックが大きくて面白いと思ったので。


 こんな子供を隠さなきゃいけないなんて、司祭様もロルフさんたちもホント大変だなぁ。


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