221 この頃は暑いから、冷たいお酒がいいんだってさ
「へぇ、そんなのができたんだ。じゃあうちにも外にあるのと同じ魔法の水がめが作れるようになったってことよね?」
僕は出来上がった魔石の乾電池とそれで動く風車を持って、台所にいるお母さんたちに見せにいったんだ。
そしたら、それを見たヒルダ姉ちゃんがこんな事を言ったんだよね。
だからすぐにいいよって言おうとしたんだけど、そしたら僕、さっきお父さんが作っちゃダメって言われちゃったのを思い出して、まずお母さんに聞いてみる事にしたんだ。
「ねぇ、お母さん。お父さん、作ってもいいって言うかなぁ?」
「そうねぇ。魔道リキッドを使わなくてもいいって言うのなら大丈夫かもしれないけど、魔石の魔力が切れたらルディーンが入れなおさないといけないんでしょ?」
「うん。後ね、キャリーナ姉ちゃんも魔法が使えるからできるよ」
「そっか、キャリーナでもできるのね? なら大丈夫だと思うけど、一応聞いてからにしなさいよ」
魔道リキッドの事もそうだけど、お父さんは僕のお仕事がこれ以上増えるのもダメって言ってたんだよね。
だからもしかすると、僕が魔力を注がないといけないから作っちゃダメって言われちゃうかもしれないんだって。
「お父さんの許可かぁ。そう言えばルディーンが水がめを作る事自体に反対してたっぽいもんなぁ。魔力の問題もそうだけど、水がめを作ってもらうのも言ってしまえばルディーンの仕事を増やすって事だし……」
そっか。そう言えば魔法の水がめは魔道具だから、それを作るのも僕のやってる村のお仕事の一つって事になっちゃうんだね。
だったら、やっぱりダメって言われちゃうかも。
「そこはハンスの機嫌次第ってところでしょうね」
「お父さんの機嫌ねぇ。とりあえずお酒でも飲ませてから、頼んでみる?」
そう言えばお父さん、お酒を飲んでる時はいつもニコニコしてるんだよね。
ヒルダ姉ちゃんの言う通り、晩御飯の時にお母さんにお酒を出してもらえば、いい気持ちになってヒルダ姉ちゃんのお家にも魔法の水がめを作ってもいいよって言ってくれるかも。
そう思った僕とヒルダ姉ちゃんはお母さんの方を見たんだけど、
「それがねぇ、今は蒸留酒を切らしてて、うちにはエールしかないのよ。あれ、この時期だと生温かくて美味しく無いでしょ? 出してもいいけど、そこまで機嫌がよくなるかしら?」
「そうなの? う~ん、それじゃあ難しいかもしれないわねぇ」
お母さんの話を聞いてがっかりするヒルダ姉ちゃん。
そう言えばお水や果実水で割って飲むお酒、お父さんがみんな氷を入れて飲んじゃったから、来週イーノックカウに行くんなら買って来なきゃって言ってたっけ。
僕んちにあるお酒って、樽に入れたのを買ってきてるもんだから冷蔵庫に入んないんだよね。
でも何かで割るお酒だったら細長い壷に入れて冷蔵庫で冷やしたお水を入れたり、氷を入れて冷やしたりもできるから暑くなってくるとそっちばっかり飲むようにになっちゃうんだってさ。
「エールを壷に入れて冷やしてもいいんだけど、移す時だけじゃなく栓の無い壷じゃあ、冷蔵庫に入れておくだけでも炭酸が抜けて行ってしまうのよねぇ」
「それじゃあ、冷やしても更に美味しくなくなっちゃうじゃないの。そんなの飲ましたら、お父さんの機嫌がよくなるどころか、逆に悪くなっちゃうじゃない」
僕は飲んだ事が無いから解んないけど、エールって言うお酒はシュワシュワってするから美味しいんだって。
だから壷に移して冷やすよりは、そのまま樽から出した方がいいんだってさ。
「でも、そうなると困ったなぁ。うちは誰も飲まないから、お酒なんて無いし……そうだ! ルディーン、魔道具で何とかならない?」
「魔道具で?」
エールって言うお酒が美味しくないのは、あったかくなってるからだよね? だったら魔道具で冷やせないかなぁってヒルダ姉ちゃんは言うんだ。
「ほら、アイスクリームってお菓子は筒型の魔道具でいれた材料を冷やしながら作るんでしょ? だったら、中に入れたものが冷える魔道具も作れるんじゃないの?」
「なるほど。エールを注ぐジョッキ自体を冷やそうって言うのね。それにルディーンがハンスの為に作ってくれたのよって言ったらあの人の事だもの、きっと大喜びするわよ」
そっか。お父さんがお酒を飲む時って、いっつもおっきなジョッキに注いで飲んでるもんね。
ちっちゃなカップだと冷える前に飲んで無くなっちゃうかもしれないけど、あんなにおっきなジョッキだったら大丈夫かも。
「あっ、でも魔道具ならそのジョッキの魔道具を動かすにも魔道リキッドがいるんじゃないかしら?」
「そこはさっきルディーンが作った、かん何とかってやつで何とかなるんじゃない? どう、ルディーン?」
「うん、大丈夫だよ。さっき作ったのだと太すぎるけど、中に入ってる魔石を小さくすればもっと細い魔石の乾電池も作れるもん。それをジョッキの持つとこに入れられるようにすれば、魔道リキッド無しでも中のものを冷たくするお酒のジョッキができると思うよ」
氷の魔石を使った回路図型の魔道具だと魔力を多く使っちゃうけど、冷蔵庫なんかと違って冷やさないといけない時間が短いから小豆くらいの大きさの魔石でも十分持つと思うんだよね。
それに前の世界にあった乾電池も太かったりとか細かったりとか、いろんな種類があったし、中には平ぺったいやつまであったもん。
魔道具はいろんな大きさや形のものがあるから、この魔石の乾電池もいろんな大きさのがあった方がきっと便利だと思うんだよね。
後ね、今回作る魔法のジョッキは中に入れたお酒を冷たくするだけで凍らせるわけじゃないから、氷の魔石も米粒くらいの小さな魔石でいいと思うんだ。
だったら使う魔力はもっと小さくなるもん。そんなのに使う乾電池にまでおっきな魔石を使ってたらもったいないから、やっぱり細い魔石の乾電池も作ったほうが絶対いいって僕、思うんだよね。
「そう、良かったわ。それじゃあルディーン、早速そのエールを冷やせるジョッキ、作ってもらえる?」
「うん! 解ったよ、ヒルダ姉ちゃん」
「あっ、ルディーン。どうせ作るなら私の分もお願い。ハンスの分だけ作ったりしたら、怪しまれるかもしれないもの」
「は~い」
こうして僕は、また魔道具を作るお部屋に戻ってお酒を冷やす魔法のジョッキを作る事にしたんだ。
でもなぁ、まさか魔石の乾電池を使って最初に作るのがお酒を冷やす魔法のジョッキになるなんて全然思わなかったよね。
「ほんとはこれ、魔法の水がめのために作ったんだけどなぁ」
これだったらお母さんでも簡単に取り替えられるから僕やキャリーナ姉ちゃんが大きくなって何かのご用事でどっか遠くに出かけなきゃいけない時があっても、替えの乾電池を何個か作っとけば魔道リキッドを使わなくっても魔法の水がめが使えなくなる事は無いもん。
だからもしお父さんがヒルダ姉ちゃんちの水がめを作っちゃダメって言っても、最初にうちの魔法の水がめにつければいいやって思ってたのになぁ。
僕はさっきのより細い魔石の乾電池を作りながら、そんな事を考えてたんだ。
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