217 出来上がった魔法の水がめと、がっくりするヒルダ姉ちゃん
「何よ、これ?」
水道もどきを作った次の日、僕たちは朝ご飯を食べてのんびりしてたんだけど、そしたらお外から急にこんな声が聞こえたんだ。
だからなんだろう? って思ってたんだけど、
「おばあちゃん、スティナきたよ!」
そしたら台所横の扉を開けて、スティナちゃんが飛び込んできたんだ。
って事はさっきの声はスティナちゃん? な訳ないよね、だって子供の声じゃなかったもん。
だけど、次に入ってきた人を見て、それが誰の声だったのか解ったんだ。
「お母さん。外のあれ、一体何よ? 多分ルディーンが作った新しい魔道具かなんかなんだろうけど」
スティナちゃんに続いて入ってきたのはヒルダ姉ちゃん。
って事はさっきの声はヒルダ姉ちゃんだったんだね。
「いらっしゃい。あれはね、ルディーンが私のために作ってくれた水がめよ」
「水がめ? 土台やそこに登る為の階段付きの水がめなんて聞いたことも無いわよ。それにお母さん、あんな大きな水がめだと、中の水を使い切る前に腐っちゃうんじゃないの? この頃は暑くなってきてるんだし」
「それがそうでもないのよ」
大きすぎる水がめを見て、ヒルダ姉ちゃんも中のお水が悪くなっちゃうんじゃ無いかって心配したみたいなんだよね。
でもお母さんが、あの水がめにはお水をきれいにする魔道具が付いてるから大丈夫だよって教えてあげるとお姉ちゃんはびっくり。
「なにそれ! そんな便利な魔道具があるの?」
「ええ。その魔道具を起動すると水がめの内側が数秒間光って、中の水がきれいになるらしいわ。なんなら一度見てみる? 今朝はもう一度起動しちゃったけど、別にもう一回起動してはだめって事も無いでしょうし」
「そうねぇ。ちょっと気になるから、一度見てみようかしら」
「なになに? スティナも! スティナもみる!」
何か話を聞いたヒルダ姉ちゃんがピュリファイの魔道具に興味を持ったみたいで、みんなで見ようって事になったんだ。
だから僕たちは、みんなでぞろそろとお庭に移動。
「水が入れやすいように足場は大きめに作って貰ったから、そこに上がれば見られるわよ」
この一言で、僕とお母さん、それにヒルダ姉ちゃんとスティナちゃんがお水を入れる足場に上ったんだ。
「へぇ、上は半分以上が石で塞がれてるのね」
「ええ。そうしないと上にかぶせる木の蓋が大きくなって、水を入れる時に大変でしょ? だからこういう風になっているのよ」
お母さんはそう言うと、手前にかぶせてあった木の蓋を取ったんだ。
でね、
「ほら、魔道具を起動するからよく見てなさい」
お母さんはそう言うと、水がめについてる魔道具を起動したんだよね。
「わぁ。おかあさん、なかがぴかぁ~ってしてるよ」
「本当、光ってるわねぇ」
そしたら水がめの中がぺかぁ~って光って、中のお水がきれいになったんだ。
「それでお母さん。この魔道具を使うと、どうして水が腐らないの?」
「さぁ? それは私にも解らないわ。それに関しては、ルディーンに聞いて頂戴」
お母さんの返事を聞いて、こっちを見るヒルダ姉ちゃん。
だから僕は、これはピュリファイって言う魔法が使える魔道具で、その魔法を使うと浄化の光によって中の物がきれいになるんだよって教えてあげたんだ。
「へぇ、魔法が使える魔道具なんて物があったのね」
「あるに決まってるじゃないか! だって、みんなが使ってる重さが軽くなる魔道具だって、魔法を使って発動してるんだもん」
「そうなの? 私、てっきりそう言う効果のある魔石なんだとばかり思っていたわ」
僕の話を聞いたヒルダ姉ちゃんは、うんうんって頷きながら感心してたんだよね。
でもそう言えば、魔道具の勉強をしてなかったらそれが魔石の力か魔法を封じ込めた魔法陣で動いてるのかなんて解るはず無いよね。
だってそのどっちなのかなんて知らなくっても、魔道具を使うことはできるもん。
作る時は大きな違いだけど、それ以外ではどっちでもいいんだから知ってたってしょうがないんだから。
「うん、解ったわ。ありがとうルディーン。ところで一つ聞きたいんだけど」
「なに? ヒルダ姉ちゃん」
「この魔法の水がめって、作るのは大変なの?」
「ううん。おんなじ物なら簡単に作れるよ」
この魔法の水がめ、最初のを作るのには結構苦労したんだけど、一度作っちゃえば魔法陣を魔石に刻むのは前に書いたやつを見ながらやればすぐだし、クリエイト魔法の方も作り方が解ってるから簡単に出来ちゃうんだよね。
だから僕は簡単だよ、って教えてあげたんだけど、
「そうなの? だったらさぁ、私の家にもこれと同じ物を作ってくれない?」
そしたらヒルダ姉ちゃんが自分の家にも作ってって言い出したんだ。
「だめだよ。ヒルダ姉ちゃんちには僕やキャリーナ姉ちゃんみたいに魔法が使える人、いないでしょ? だったら、魔石に魔力を入れられないもん」
「あれ、この魔道具は魔道リキッドじゃ動かないの?」
「魔道リキッドでも動くようにできるよ。でも……」
僕はそう言うと、お庭からこっちを見上げてるお父さんの方を見たんだ。
「ルディーン、作っちゃダメだぞ」
「ほら、お父さんがダメって」
お父さん、これを作るときも最初はダメって言ってたもんね。
だからヒルダ姉ちゃんに作ってって言われても僕、すぐにうんって言えなかったんだ。
「なんでよ。こんな便利なものなのに」
「あのなぁ、ヒルダ。お前の所にも村長からお達しが行ってるだろう? この村での魔道リキッドの消費量が増えすぎてるから、これ以上安易に魔道具を増やすべきじゃないって」
「それは私も聞いてるけど……」
僕が冷蔵庫とか冷凍庫とかをいっぱい作っちゃったのに、それを動かす魔道リキッドはイーノックカウまで行かないと手に入んないから、村の大人の人たちで話し合って魔道リキッドで動く魔道具はこれ以上は作っちゃだめって事になってるんだよね。
だからヒルダ姉ちゃんが作ってっていってもダメなんだよって、お父さんは言うんだ。
「それならルディーン、私に魔法を教えてよ。自分で魔力をいれられるようになればいいんでしょ?」
「え~、無理だよ。ちっちゃい頃から練習してたキャリーナ姉ちゃんでも3年近くかかってるんだよ。大人のヒルダ姉ちゃんじゃ今から魔法の練習を始めても、魔石に魔力を注げるほど魔力操作がうまくなるには多分4年以上かかっちゃうもん」
「そんなにかかるものなの?」
「うん。最低でも一番簡単な魔法が普通に使えるくらい、魔力操作ができないとダメだからね」
ヒルダ姉ちゃんは僕よりもレベルキャップが上の天才だからもしかしたらもっと短い時間で魔法が使えるようになるかもしれない。
けど、魔法って小さいころの方が身に付きやすいって言ってたから、そんな天才のヒルダ姉ちゃんだって魔法を覚えようって思ったら小さいころから僕と一緒に練習してたキャリーナ姉ちゃんよりも、もっと時間が掛かっちゃうと思うんだよね。
だから、この魔法の水がめを使うために魔法を覚えようって言うのは流石に大変だって僕、思うんだ。
「そっか。じゃあさ、ルディーンかキャリーナが、うちの魔道具にも魔力を注いでよ。そしたら使えるんでしょ」
「おいおい、ダメに決まってるだろ。ヒルダ、さっきも言ったが村長からお達しが来てるだろ? ルディーンの仕事をこれ以上増やすなって」
「そうだけど……こんなに便利な物が目の前にあるのに、うちじゃ使えないなんて」
お父さんに怒られて、とっても残念そうなヒルダ姉ちゃん。
「あ~あ、魔石を新しいのに取り替えるだけで魔道具が動けばいいのに。そしたら、狩りに行くだけで魔道具が使い放題なんだけどなぁ」
「おいおい、流石にそれは無理だろう。魔石は一個一個大きさや形が違うんだから、魔道リキッドみたいに入れ物に入れればすむって訳じゃないからな」
「そうよねぇ」
そう言いながら肩を落とし、両手をだらりと下げて解りやすくがっかりするヒルダ姉ちゃん。
そんなお姉ちゃんを見て、僕たちはみんなしてあははって笑ったんだ。
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