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204 お姉ちゃんたちのおねだりと、お尻が痛くならない魔法


「そしたらストールさんがね」


 その日の晩御飯の時、僕はイーノックカウで何をしてきたのかを家族のみんなに教えてあげたんだ。


「そうなの。よかったわね」


 そしたらお母さんはニコニコしながらそう言ってくれたんだけど、


「ルディーンばっかりずるい!」


 キャリーナ姉ちゃんは、僕がひとりで遊びに行ったって聞いて、怒っちゃったんだよね。


 でもさぁ、僕は魔法で行けるからいいけど、お姉ちゃんがイーノックカウまで行こうと思ったら、お父さんに馬車で連れて行ってもらわないといけないんだよね。


 だからずるいって言われても困っちゃうんだ。


「私もイーノックカウ、行きたい。ねぇお父さん、私たちも連れてってよ」


 でね、僕がそんな風に思ってたら、何と今度はレーア姉ちゃんまでイーノックカウに行きたいって言い出したんだよね。


 これにはお父さんも、ちょっと困っちゃったみたい。


「そうは言うが、イーノックカウへ行っても、そんなに楽しい事なんて無いぞ」


「でもでも、ルディーンがこんなに何度も行ってるってことは、楽しいことがあるからでしょ? だったら私も行きたい!」


「そうよね。私だって冒険者ギルドの登録の時にしか行った事無いから街の中を見て回った事なんて無いもん。ルディーンが行っていいなら、私たちも連れてってよ」


 でも、お姉ちゃんたちは連れてっての大合唱をやめなかったんだよね。


「ハンス、キャリーナやレーアもここまで行きたがってるんだし……」


「しかたない。連れて行ってやるか」


「「やったぁ!」」


 おかげで最後にはお父さんが負けちゃって、今度家族みんなでイーノックカウへとお出かけする事になったんだ。


 でもお父さんやお母さんは村のお仕事があるし、お兄ちゃんやお姉ちゃんたちはお友達と森へ狩りに行く約束があるから、僕みたいに何時でも行けるって訳じゃないんだよね。


 だから、僕たち家族そろってのイーノックカウ行きは来週ねって事になったんだ。



 そして次の日。


 いつものお手伝いを終わらせて朝ごはんを食べた後、僕は村の図書館でお勉強する事にしたんだ。


「イーノックカウまでみんなでお出かけするんだもん。だったら、お尻が痛くなくなる方法を考えないといけないもんね」


 前にお父さんにクッションはダメって言われちゃったから、何か別の方法は無いかなぁ? って考えたんだよね。


 でさ、その時にあることを思い出したから図書館にある魔法の本を見に来たんだ。


「確か、バーリマンさんが物をちょっとだけ浮かせて運ぶ魔法があるって言ってたよね」


 お尻が痛くなるのは石を踏んだり道に穴があったりして馬車ががたんがたんって揺れるからなんだけど、でもさ、もし僕たちが座ってるとこが浮いてたらそんなのへっちゃらになるんじゃ無いかなぁ?


 そう思った僕は、バーリマンさんが言ってた物を浮かす魔法で何とかできるんじゃないかって考えたって訳。



「あっ、これかな?」


 図書館のいつもの机で魔法の本をペラペラってめくってたら、それっぽい魔法を見つけたんだ。


 それはフロートボードって言う魔法。


 でね、その魔法の説明によると、これって物にかけて浮かすって言うよりちょっとだけ浮いてる魔法の板を作って、その上に物を乗っけて運ぶと重いものでも簡単に運べるって魔法みたいなんだよね。


「これじゃあ座るとこの板を浮かせる事なんて、できないのかな?」


 でも、とりあえず一度使ってみないと解んないよね? って思った僕は、図書館を出ていつもの資材置き場へと移動したんだ。



 資材置き場で何をするのかって言うと、このフロートボードって魔法を使ったらどれくらいの大きさの板ができて、どれくらいの重さまで耐えられるかを調べるつもりなんだ。


 ここにならクリエイト魔法で僕が作った石もあるし、その石の下にこの魔法の板を作ればどれくらいの重さまで運べるか解るからね。


 と言う訳でまずは何も載せずに発動。


「あっ、これって大きさが変えられるんだ」


 そしたらこれ、自分の意思で板の大きさを変えられるって解ったんだよね。


 そりゃ限界はあるよ。でも、馬車の荷台よりも大きな板だって作る事ができたから、今の僕にとってはこれで十分なんだ。


 じゃ次はどれくらいの重さまで載るかって事なんだけど、


「この魔法って壁を作る時、石を運んだりするのに使うと便利って書いてあったんだよなぁ」


 って事は、イーノックカウの壁とかに使ってある大きな石くらいは運べるって事なのかな?


 そう思った僕は、失敗してもいいやってつもりで、初めてクリエイト魔法で作ったのとおんなじくらい大きな石の下にフロートボードの魔法で板を作り出してみたんだ。


「ホントに浮いちゃった……」


 この大きな石って、絶対僕の家族みんなより重いよね? って言うか、ブラウンボアなんかよりももっと重いんじゃないかななぁ。


 そんなのでも浮かべられたのを見た僕はびっくりしたんだけど、ためしにどれくらいの力で動かせるのかを調べてみようってその石をちょっと押してみたんだ。


 そしたら、すーっと動いたもんだから、僕はもっとびっくり。


 それにこの魔法で運ぶと、ちょっと浮いてるからか下に石とかでこぼこがあってもまったく関係ないんだよね。


「やった! これを使えば馬車に乗っててもお尻、痛くならないぞ」


 新しく覚えた魔法が思ってた以上に凄くって、それを見た僕はその場で飛び回りながら大喜びしたんだ。


 でもね、この魔法には一つ問題があったんだ。


「これ、一度に一枚しか出せないや」


 どうやらこのフロートボードって魔法は、魔法をかけなおすと前に作ってあった板が消えちゃうみたいなんだよね。


 こうなるとちょっと困っちゃうんだ。だって荷台でこの魔法を使ったら御者台には使えなくなっちゃうもん。


 でもこれを話したら、お父さんはきっと自分だけが御者台に座るからいいよって言うと思うんだ。


「でも、お父さんだけお尻痛いのは可哀想だよね」


 キャリーナ姉ちゃんもこの魔法が使えたらよかったんだけど、どうやらこれは魔法使い用の魔法だから、お姉ちゃんには使えないみたいなんだ。


 でね、その後も僕は一生懸命考えたんだよ。どうしたらいいのかなって。


 でもどうしても思いつかなかった僕は、がっかりしながらお家に帰ったんだ。



「なぁ、それって馬車ごと浮かせられないのか?」


 その日の晩御飯の時、みんながお尻痛くなくなる魔法があったんだけど、それだと御者台のお父さんは痛くなくならないんだって話したんだ。


 そしたら、お父さんがこんな事を言い出したんだよね。


「ダメだよ。魔法の板には何も付けられないから引っ張るのは無理でしょ? だから上に乗ってる馬車を引っ張る事になるけど、そしたら動いて板から落ちちゃうもん」


「そうか。あっ、だったらみんなでその魔法の上に板を置いて、それを馬に引かせるってのはどうだ?」


 僕が無理だよって言ったら、今度はこんな事を言い出したんだよね。


 でも、そんなお父さんにお母さんがこんな事を言ったんだよね。


「ルディーンが言ってる魔法、少ししか浮かないんでしょ? そんな板に乗って走ったら砂埃だらけになるわよ。それに馬は走りながらでも糞をするのよ?」


 それを聞いたお父さんは黙っちゃった。多分それ以上いい考えが浮かばなかったんだろうね。


 でも、ホントに何とかなら無いかなぁ?


 まぁイーノックカウに行くのは来週なんだし、毎日考えてたら、きっと何かいい考えが浮かぶよね。


 読んで頂いてありがとうございます。


 ブックマークが800を越えた上に総合ポイントも2900を超えました! 本当にありがとうございます。


 もしこの話が気に入ってもらえたのなら、お気に入り登録や評価を入れていただけると嬉しいです。


 感想共々続きを書く原動力になるので、よろしくお願いします。


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