202 無かった魔法と、僕の新たな決意
「ところで、ルディーン君の用はそれだけかな?」
トイレットペーパーのお話が終わったところでロルフさんがこんな事を聞いてきたんだよね。
だから僕、さっきの事を話したんだ。
「あのねぇ、今日僕がロルフさんちに行った時なんだけど、ジャンプで飛んだらそこに人がいてびっくりされちゃったんだよね」
「確かに、ルディーン君の転移は何の前触れも無いからのぉ」
「うん。だから僕、これから行くよってストールさんに教えられたらいいなって思ったんだけど、ロルフさんはそんな魔法、知らない?」
チャットが前世の言葉でどんな意味か解んないけど、多分遠くの人と話すって意味じゃないと思うんだよね。
だからチャットって名前の魔法は無いと思うんだけど、もしかしたら他にあるかも知れないって思ったからロルフさんに聞いてみたんだ。
「遠くにいる者へ来訪を伝える、いや、言葉を伝える魔法か。わしは聞いたことが無いのぉ。ギルマスはどうじゃ?」
「そうですねぇ。確かエルフが使う風の精霊魔法でそのような物があった気がしますが、人が使う魔法では私も聞いた事がありませんわ」
でもね、ロルフさんもバーリマンさんも知らないみたい。
そっかぁ。二人が知らないって事は、もしあったとしてもすっごくレベルが高くないと使えない魔法なんだろうなぁ。
じゃあ、もし解っても僕じゃ使えないかも知れないね。
「ロルフさんたちでも知らないんじゃ、これから行くよって教えるのは無理だね」
「うむ。じゃがその様な事があったとなると、この先ルディーン君がこの町に何か用事があったとしても、ちと来辛いと感じるのではないか?」
そうなんだよね。だって、ジャンプで飛んでくる時にまた僕を知らない人が居たらびっくりされちゃうもん。
だから何とか教える方法は無いかなぁ? って僕たちは考えてたんだけど、
「それでしたら、ルディーン様が屋敷にいらっしゃる時間をお決めになられてはどうでしょう?」
そしたらストールさんがこんな事を言い出したんだ。
「ライラよ。そなたはそう言うが、この街と違ってルディーン君の住む村では時を告げる鐘がないのじゃから、正確な時間など解らぬじゃろう?」
ロルフさんの言う通り、僕たちの村ではお日様の位置で大体の時間は解るんだけど、イーノックカウみたいに鐘が鳴って時間を教えてくれるわけじゃないから、この時間に来てって言われても困っちゃうんだよね。
それにね、ロルフさんがストールさんの意見にはもう一個問題があるって言うんだよ。
「それにもし解ったとしても、その時間以降にこちらに来なければならぬ用事ができた場合は、やはり困ってしまうではないか」
「でしたら逆にいらっしゃらない時間を設けては如何でしょう? 部屋の掃除などの作業は全てその時間に行うようにすれば、ルディーン様が何時いらっしゃっても問題はなくなりますわ」
「そっか、そうだよね。ストールさん、頭いい!」
「ふふふっ、ありがとうございます」
そう言えばそうだよね。
だって、この時に来てねって言われたら村じゃ時間が解んないから困っちゃうけど、この時に来ちゃダメだよって言うんなら、その時間近くには行かなきゃいいだけだもん。
それに僕が毎日必ずやらないといけない朝のお手伝いの時間には来る事ができないし、村のみんながお仕事をやめてお家に帰ってくる頃より後とかはお母さんに話しても絶対に行っちゃだめって言われるからやっぱり無理だよね。
「ならばその時間にはジャンプの魔法を使わぬと言うことでいいかな?」
それを話したらロルフさんが、じゃあ来ちゃいけない時間は夕方から僕が次の日の朝ごはんを食べる時間までにしようねって。
「うん! いいよ」
「畏まりました。それではわたくし共も、その時間の内に部屋を整えておくことにいたします」
「良し。これならばルディーン君も気兼ねなくイーノックカウを訪れる事ができるじゃろう」
「そうですわね。ルディーン君も何か用事がある時だけじゃなく、ただ遊びに来るだけでもいいからたまには顔を見せてくれると嬉しいわ」
ロルフさんやバーリマンさんもこう言ってくれてるし、何にもご用事が無い時に来てもいいんだね。
あっでも、
「じゃあさ、村に無い物がほしいなぁって思った時も来てもいいの?」
「当然じゃ。ライラよ、ルディーン君が我が屋敷を訪れた時は馬車を出してお供せよ。大人が一緒に行動するとわかれば、ルディーン君の親御さんも安心して送り出せるじゃろうからな」
「畏まりました、旦那様」
やったぁ! 村で何か足んないものができても、これからはすぐに買いに来れるね。
こうして僕は、本当に何時でもロルフさんちに来てもいい事になったんだ。
「ところでルディーン様、一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
「何? ストールさん」
みんなでよかったよかったって雰囲気だった所で、ストールさんが僕にこう聞いてきたんだよね。
さっきトイレットペーパーは別の物を作ろうとしてできちゃったって言ってたけど、それについてロルフさんに何か聞きたいことがあるんじゃないの? って。
「あっ! 忘れてた」
トイレットペーパーが使えるかどうかって話をしてたもんだから、紙に使える木を知らない? って聞くの、すっかり忘れちゃってたよ。
だから僕はロルフさんとバーリマンさんに聞いてみたんだけど、
「柔らかい木と言われてものぉ。硬い木と言うのであれば少々心当たりがあるのじゃが……」
「ええ。私も木にはそれほど詳しくない物で、心当たりはありませんわ」
どうやら二人とも知らないらしい。
「そもそも街に持ち込まれる木は家を建てたりカップや皿のような日用品に加工する為の物ばかりじゃから、硬くて丈夫なものが殆どなのじゃ。それだけにこの街で探したとしても、そのような物は多分見つからぬじゃろうて」
「そっかぁ。柔らかい木でお家を建てたら、すぐに壊れちゃうもんね」
それにお皿とかだって柔らかい木を使って作ったら、もし落っことしちゃった時にへこんだり欠けちゃったりするかもしれないもん。
木工職人さんは柔らかい方が硬いのより作りやすいかも知れないけど、買う人は硬くて丈夫な方がいいって言うだろうから、柔らかい木なんて誰も仕入れないよね。
「旦那様、細かい細工をされる飾り職人ならばどうでしょうか? あの方たちならば細工のしやすい柔らかい木を知っているのではないですか?」
「いや、そのような者ほど皆硬い木を使うのじゃ。細かい物ほど脆いから、より丈夫な木で作らねばどこかに軽く当ててしまうだけでも簡単に欠けてしまうからのぉ」
「そう言えば確かにそうですわね」
そっか、細かいって事はそんだけ壊れやすいって事だもんね。
でね、その後もこんな職業の人だったら柔らかい木を持ってるんじゃないかなぁ? って話をしてたんだけど、結局これだ! って意見は最後まで出なかったんだ。
「わしとしてもルディーン君の言う、羊皮紙の代用品が木から作れたら便利じゃろうと思うのじゃがのぉ」
「そうですわね。しかし、もしかしたら他の町にはあるかもしれませんもの。私も興味がありますし、今度商業ギルドに相談してみますわ」
ちょっと残念だけど、紙の材料になる木は見つかりそうになかった。
でもバーリマンさんが言ってるみたいに、もしかしたら他の町にあるかも知れないもん。
「もし柔らかい木が見つかったら、今度こそちゃんとした紙を作るんだ!」
柔らかい木があったらきっとクリエイト魔法も成功するはずだよね?
そう思った僕は、両手を高く振り上げながら、やるぞぉー! って気合を入れ直したんだ。
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