201 これって作るのが大変だったんだね
今回もまたストールさんと一緒にロルフさんちの馬車に乗ってイーノックカウの町へ。
その中で僕は、やっぱりこの馬車って椅子がふかふかでお尻が痛くならないなぁって考えてたんだ。
だって僕たちの村で使ってる馬車だと板に座るんだもん。
近くに行くだけならそれでも大丈夫だけど、遠くまで行こうと思ったらどうしてもお尻が痛くなっちゃうんだよね。
グランリルの村の馬車も、絶対クッション置いた方がいいと思うんだけどなぁ。
そう思った僕はお父さんにセリアナの実の繊維で作ったクッション、置いちゃだめなの? って前に聞いた事があるんだけど、そしたら、
「そんなのを敷いたら馬車が揺れた時に滑って危ないだろ。それにイーノックカウにつくまでに雨が降ったらどうするんだ?」
って言われちゃった。
そう言えばロルフさんたちの馬車も、外の御者台には僕たちが座ってるとこと違ってクッションが無いんだよね。
それは多分、この椅子みたいにしてると雨が降った時にぐしょぐしょになって気持ち悪いからだと思うんだ。
「もし濡れちゃったら困っちゃうもんなぁ」
「何のお話でしょう?」
そんな事考えてたらつい口に出ちゃったみたいで、ストールさんにどうしたの? って聞かれたんだよね。
だから僕、御者台に座ってるとお尻が痛くなるからクッションを付けられないかなぁ? って考えてるんだよって教えてあげたんだけど、そしたら多分無理なんじゃ無いかなぁ? って言われちゃった。
「難しいでしょうね。もし御者台にそのような加工をした場合、もし雨に降られる様な事になればそれが乾くまで使用できなくなりますもの。それに長期間濡れたままの状態が続くと、下板が腐りやすくなりますし」
「そっか。そう言えばそうだね」
雨でぐしょぐしょになったとこに座るのも気持ち悪いけど、それより御者台の板が腐っちゃうかも知れないって方が大変だ。
う~ん、やっぱり無理なのかなぁ?
結局いい案が浮かばないまま、僕たちを乗せた馬車は錬金術ギルドに到着したんだ。
中に入るといつものカウンターにはペソラさんが座ってたんだ。
だからストールさんが今日もロルフさん、来てるよね? って聞いたんだけど、そしたら奥の部屋に篭ってバーリマンさんと二人で何か研究してるんだって。
「お二人なら通しても問題ないと思いますから、そのまま奥へどうぞ」
でね、多分呼んでも来ないだろうからって僕たちはペソラさんに言われてギルドの奥へと入って行ったんだ。
そしたら中にいたロルフさんたちが僕の顔を見てびっくり。
そりゃそうだよね。僕、昨日来たばっかりなんだもん。
「ルディーン君。どうしたのじゃ、一体? 何か忘れ物でもしたのかのぉ」
「ううん、違うよ。あのね、欲しいものがあったからクリエイト魔法で作ろうとしたんだ。でも、僕の村にあったのだと違うもんができちゃったから来たんだよ」
だから何で来たの? って聞かれたもんだから、こう教えてあげたんだ。
「違う物とな? それは一体、何ができたのじゃ?」
「あのね、羊皮紙の代わりを作ろうと思ったんだけど、そしたらこんなのができちゃったんだ」
そしたら今度はそれは何なの? って聞いてきたもんだから、僕は持ってきた小さく折りたたまれてるトイレットペーパーをポシェットから出して、ロルフさんにこれだよって見せてあげたんだよ。
そしたらね、それを広げたロルフさんは不思議そうな顔をされちゃった。
「これはなんじゃ? 布とも違うようじゃし何かの皮でも無い。とても柔らかく、それに軽い。うむ、一体何でできておるのか、ちと解らぬな」
「そうですわね。それにとても破れやすそうで、私にはその用途すら思いつきませんわ」
それに横で持てたバーリマンさんも、ロルフさんが持ってるトイレットペーパーを見てそんな事を言ってるんだよね。
だから僕は、村ではどう使ってるかを教えてあげる事にしたんだ。
「僕はお尻拭きに使おうと思ったんだけど、近所のおばさんたちは小さな子の口を拭いたりするのにもいいって言ってたよ」
「なるほど。確かにこの柔らかさなら、そのような使い方に向いているでしょうね」
「うむ。じゃがこれはどのようにして作られておるのじゃ? 先ほどはクリエイト魔法でと申しておったが、その材料がわしには皆目見当もつかぬのじゃが」
そしたらバーリマンさんは納得したんだけど、今度はロルフさんがどうやって作ったの? って聞いて来たんだよね。
だから僕は、作り方を教えてあげたんだけど、
「何と、そのような物をトイレで使ったと申すのか?」
そしたらロルフさんに物凄くびっくりされちゃった。
でもなんで? セリアナの実の繊維は元々使い道があんまりなくて捨てるつもりだったし、もう一個の材料の草も村に普通に生えてた奴だよ?
そう思った僕はロルフさんに聞いてみたんだけど、そしたら材料じゃなくって作り方に問題があるんだよって言われちゃった。
「前にも語って聞かせたと思うが、錬金術の中でも解析と抽出は難しい部類に入る技術なんじゃ。君はセリアナの繊維を捨てる物だと言ったが、もしそれを実から取り出そうと考えた場合、その技術は必須ではないのかな?」
「それにその後の行程、クリエイト魔法もそうです。単一の材料を加工するのならばともかく、複数の材料を使って一つのものを作り出すのはかなりの熟練と魔力を必要としますわ。ですから、ただ魔法が使えるというだけの者ではこれを作り出すことなど出来はしないでしょうね」
このトイレットペーパーって材料は安いけど作るのはとっても大変だから、ロルフさんたちはそれをお尻拭きに使ってるって聞いてびっくりしたんだって。
「そっか。これ、葉っぱより柔らかいからお尻痛く無いし、スライムもちゃんと食べてくれるからいいと思ったんだけどなぁ。じゃあ、これは使えないの?」
「いや、そうでは無い。ただ村で使っていると聞いて、少々驚いただけじゃよ」
「そうですわね。ルディーン君が自分で作って使う分には何の問題もありませんわ」
ダメなの? って聞いたら、びっくりしただけで使ってるのは別に悪い事じゃないんだって。
ただ、普通の人では値段が高すぎてお尻拭きになんて使えないってだけなんだってさ。
「これを作るとなると、ある程度の腕をもった錬金術士とクリエイト魔法に長けた魔法使いが必要となるからのぉ」
「ええ。それにこのセリアナの実から作った布? は現物を前にしても中々イメージしづらい物ですから、クリエイト魔法で同じ物を作れるようになるには少々練習が必要となるでしょうね」
「そうなの?」
「ええ。私もロルフさんも二つ以上の材料を使ったクリエイト魔法が使えます。でも、これを作るとなると、同じ材料を使ったとしてもやはり一度では成功しないでしょうね」
そっか。僕の場合、紙とかトイレットペーパーを前世で使ってた記憶があるからイメージしやすいけど、初めて触った人じゃうまくできないかも。
僕だって砂から石を作ったときは一度じゃ成功しなかったもん。
これは二つのものを一つにするんだから、絶対それより難しいよね。
僕、これをロルフさんたちに見せたあげたら喜ぶと思ってたけど、そうじゃなかったのか。
「そっか。じゃあこれ、村でしか使えないね」
「いや、そうでも無い」
そう思って、トイレットペーパーを見せても意味なかったなぁ思ったんだけど、どうやら違うみたい。
「そうですわね。普通の村で使われていると聞けば驚かれるでしょうけど、裕福層や貴族ならば欲しがる人も多いでしょう」
「うむ。それにこの柔らかさじゃ。ルディーン君の近所に住む方々が言う通り、色々な使い方ができるようじゃろうからな。使い捨てにするには少々値が張る品ではあるが、欲しがる者も多いじゃろうて」
そっか。トイレットペーパーじゃなくってティッシュペーパーだって考えたら色々使えるもんね。
これをどう使ったらいいかをニコニコしながら話してるロルフさんたちを見ながら、僕は持ってきてほんとに良かったって思ったんだ。
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