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198 まさか、こんなのができちゃうなんて


 前回の最後にルディーン君がイーノックカウを訪れていますが、それはほんの少し先のお話。


 と言う訳で、時は少しだけ巻き戻ります。



 イーノックカウから帰った次の日。


 お手伝いが終わって朝ご飯をみんなで食べた後、僕はお部屋に帰って魔法陣のお勉強をしてたんだ。


 でも別に難しい事をやってるわけじゃないよ。だってバーリマンさんから、あんまり早くおぼえようってしちゃダメって言われてるもん。


 だから今やってるのは、昨日貰ってきた魔法陣に書いてある記号を教科書を見ながら復習してたんだ。


 でもさ、ちょっと困った事があるんだよね。


「木の板だと、ちょっと書きにくいなぁ」


 記号のお勉強なんだから、当然うまく書けるようになるまで何度も書かないといけないんだよね。


 でも羊皮紙はとっても高いから、そんなので練習なんて出来るはず無いし、なによりこの村では手に入らないんだ。


 だから僕は村のみんなが何かを書いて残しとく時にやってるみたいに、薄い木の板にインクとペンで記号の練習をしてたんだよね。


 でもさ、木の板ってでこぼこしてるからペンが引っかかっちゃってうまく線が書けないんだ。


 だから僕はクリエイトマジックで表面を削ってつるつるにしてみたんだけど、それでも木が柔らかいからなのか、ペンが引っかかっちゃう。


 じゃあ他の物で書けばいいんじゃ無いかって話になるんだけど、それはそれで問題があるんだ。


「みんなが使ってる木炭だと引っかからないけど、ちっちゃく書けないしなぁ」


 村のみんなが木の板に何かを書くときは普通、木炭を使ってるんだけど、でもあれだと線がとっても太くなっちゃうから、魔法陣に使うような記号を書こうと思ったら凄く大きくなっちゃうんだよね。


「鉄とか銅だったら引っかからないけど、インクじゃ書けないしなぁ」


 あとね、金属だったら硬いから引っかからないけど、インクを弾くからやっぱり細い線は書けないんだよね。


 だからこれも魔法陣を書く練習には使えないんだ。


「う~ん、鉛筆とかがあれば金属の板にでも書けるんだけどなぁ」


 でもさ、鉛筆の作り方なんて知らないもん。


 芯が何でできてるのかを知ってたらクリエイトマジックで作れたかもしれないけど、知らない物は作りようが無いんだよね。


「やっぱり羊皮紙じゃないとダメなのかなぁ?」


 そう思いながら、僕は昨日勉強をしてたロルフさんちのお部屋を思い出す。


 そこにあった机の上には羊皮紙がいっぱい置いてあったし、バーリマンさんが魔法陣の説明に使ってたのもやっぱり羊皮紙なんだよね。


 って事は、バーリマンさんたちは魔法陣のお勉強には羊皮紙がいっぱいいるって思ってたって事だよね?


 ならやっぱり木の板じゃダメって事なんだろうなぁ。


「でも羊皮紙ってとっても高いよね?」


 羊皮紙って動物の皮の中でも薄くて平らなとこを選んでなめした物を使って作るもんだから、1匹からそんなに多くは作れ無くて普通の革製品なんかよりももっと高いんだ。


 そんなの、お金持ちのロルフさんやえらいギルドマスターをやってるバーリマンさんたちと違って、僕なんかがお勉強の為になんて使えるわけ無い。


「あ~あ、安い紙があればいいのに」


 前世では木から作った紙ってのを使ってたから、とっても安かったんだよね。


 あれがあったら、魔法陣のお勉強だってもっと簡単に出来るのになぁ。


 と、そこまで考えたところで、僕が気が付いたんだ。


「そっか、紙を作ればいいんだ」


 鉛筆と違って紙は木から作ってるんだって僕、知ってるもん。なら、ちゃんとイメージできればクリエイト魔法で紙が作れるはずだよね。


 そう思った僕は早速やってみることに。


 材料の木は、さっきまで魔法陣の練習に使ってたもんがあるから大丈夫。


 そう思った僕は、早速頭に紙のイメージを浮かべてクリエイトマジックを発動してみたんだ。


 ところが、


「あれ? 魔法が発動しないや」


 何でかクリエイト魔法自体が発動しなかったんだよね。


 じゃあ何で発動しなかったんだろう? って事になるんだけど、ここで考えられるのは二つ。


 一つは僕のレベルが紙を作れるほど高くないって場合なんだけど、実は僕、もう結構複雑な物までクリエイト魔法で作れるようになってるんだよね。


 実際、もう炭と鉄を使って鋼まで作れるようになってるくらいだから、お家とかみたいな大きな物ならともかく、何かを作る材料でしか無い紙を作れないなんて、ちょっと考えられないんだ。


 って事は、紙ができなかったのはもう一つの方が原因って事なんだと思う。


 で、その原因が何かって言うと、


「材料が違うか、材料が足らないって事だよね」


 紙が木からできてるってのは多分あってると思うんだ。だって前世の小学校ってところでそう習ったもん。


 なら、木だけで作ってるわけじゃないって事だよね?


 そう思った僕は、何がいるんだろう? っていっぱい考えたんだけど、そしたら不意に、ある事が頭に浮かんだんだ。


「そうだ! きっとくっつける物がいるんだ」


 僕の頭に浮かんだのは、前世で見てたオヒルナンデスヨって番組で芸人さんたちが旅行をしていたとこ。


 そこでは3人の女の芸人さんがお爺さんに習いながら紙すきってのをやってたんだけど、確かその時、今はのりを使ってるけど昔は植物から取れるネバネバしたのを水に溶かして作ってたんだよって言ってたのを僕は思い出したんだ。


「ネバネバしたのなら、確か村の近くにも生えてた!」


 そう思った僕は早速その草が生えてる所まで行って摘むと、持って行った木の板とその草を使ってもういっぺんクリエイト魔法を使ってみたんだ。


 そしたらちゃんと発動したもんだから、僕は大喜び! ところが、それは一瞬の事だったんだ。


「これじゃあ使えないや」


 出来上がったのは確かに紙っぽいものなんだけど……何と言うかなぁ、硬い繊維がくっついてできた薄い板みたいなものだったんだ。


「う~ん。魔法が発動したって事は、木とこの草のネバネバで紙が出来るって事だよね? でも、出来上がったのがこれって事は、材料の木がこれじゃダメって事なのかな?」


 曲げるとささくれ立ってとても使えなさそうな紙もどきを見ながら僕は、じゃあどんなのがいいんだろう? って考えてみた。


 曲げるとパキパキっていいながら剥がれちゃうって事は、この木の繊維が硬いってことだよね? ならもっと柔らかいのを使えばいいってことなのかなぁ?


 そこまで考えてはみたんだけど、僕はどの木繊維が柔らかいなんて全然知らないんだよね。


 じゃあ誰なら知ってるのかなぁ? って考えたんだけど、


「木工職人さんなんて、うちの村にはいないからなぁ」


 どう考えても、グランリルの村の中にそんなのを知ってる人がいるとは思えなかったんだよね。



 普通ならこれであきらめちゃうか、イーノックカウへ行ってロルフさんに誰か知ってる人いない? って聞くところなんだけど、


「う~ん。でも、どっかで柔らかい繊維ってのを見た気がするんだよなぁ」


 何となく、その柔らかい植物の繊維ってのを、僕はこの村で見た事がある気がするんだよね。それも、かなりいっぱい。 


 でも、いくら考えても解んなかった僕は、一度お家に帰ってみんなに聞いてみたんだ。こんなの知らない? って。


 そしたら、お母さんからこんな事を言われたんだ。


「それって、ルディーンがセリアナの実から肌や髪の毛のポーションの材料を取り出した時に出る、あの透明のふわふわしたやつの事なんじゃないの?」


「そっか! あれならとっても柔らかいし、ちょっと引っ張るとプチプチと千切れちゃうもん。ありがとうお母さん!」


 お肌つるつるポーションや髪の毛つやつやポーションは今でもいっぱい作ってるもんだから、あのふわふわしたのもその時にかなりいっぱい出るんだよね。


 でも、あれってかなり軽いし、袋にぎゅうぎゅうって詰めると柔らかくって枕やクッションになるから捨てずに取ってあるんだ。


 だから僕はそれが入れてあるおっきな箱んとこまで行って蓋を開けると、早速さっきのネバネバ草と一緒にクリエイト魔法を使ってみたんだ。


 そしたら、とっても柔らかくて透明感のある真っ白な紙ができちゃったんだよね。


 そう、とっても柔らかくて、簡単に破れちゃう紙が。


「まぁ。きれいなのができたわね。ルディーン、これは何に使うものなの?」


 それでね、いつの間にか僕の後ろにいたお母さんが、僕が持ってるその紙を見てこう聞いてきたんだよね。


 だから僕、そのまま答えたんだ。その紙の手触りから頭に浮かんだのを。


「えっと……お尻ふき、かな?」


 そう。僕がセリアナの実の繊維から作り出したその紙は、簡単に裂けてしまうその柔らかさといい、肌触りといい、どう考えても前世で使っていたトイレットペーパーとしか思えないものだったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 セリアナの実の繊維の伏線、やっと回収! 無事トイレットペーパーができました。


 これって22話で水洗トイレを出してからずっと考えていた話なんですが、まさか回収するのにこれほどかかるとはw


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