175 便利な魔法で美味しいお昼ご飯
「さて、そろそろお昼だし、クラウンコッコを狩るのは午後からにしてご飯を食べよっか」
「さんせぇ~」
散々僕のほっぺたをいじくって満足したのか、レーア姉ちゃんたちはお昼ご飯を食べる事にしたみたい。
まぁ僕もお腹が空いてきてるから文句は無いんだけどね。
「レーアたちは何を持ってきたの?」
「えっとね、パンとチーズよ。後ちょっとした調味料」
「え~、午後からも狩りをするのに、そんなんで足りるの?」
マリアさんにお弁当は何? って聞かれたレーア姉ちゃんがお家から持ってきたものを教えてあげると、みんなに物凄くびっくりされたんだよね。
でもそれは当たり前なんだ。だって、狩りをする日のお昼にしては少なすぎるんだもん。
僕たちの村ではお昼ご飯はその日の仕事によって食べない日もよくあるんだよね。
これは畑とかに行ってるとお昼ご飯を食べに戻って来るのが面倒だし、その時は飲み水や農具とかを持って行くから耕す時みたいに凄く体を動かす時以外は荷物になるお弁当を持って行かないからなんだ。
だからそんな日は朝たくさん食べて、夜まで我慢するんだよね。
でもこれが森での狩りとなるとそうもいかない。
だって村の中や草原と違って森の中は歩くだけでも体力を使うから、しっかり食べておかないと途中でへばっちゃうからね。
それだけにお弁当はみんなしっかり持っていくし、その中身もお肉とかチーズみたいに栄養があるものを入れるのが普通なんだ。
なのにレーア姉ちゃんがパンとチーズくらいしか持ってきて無いって言ったら、そりゃあマリアさんだってびっくりするよ。
でもね、これにはちゃんと理由があるんだ。
「足りるわけ無いわよ。でもね、今日はルディーンがいるから、これだけでいいってお兄ちゃんたちに言われたんだ」
「えっ、ルディーン君がいるから?」
突然訳の解らない事を言われて、マリアさんはびっくり。そりゃそうだよね。僕もそれだけじゃ解んないって思うもん。
「ええ。ルディーンがいれば絶対すぐに何匹か獲物が獲れるから、わざわざ重いおかずを持っていかなくてもいいって言われたの。だから調味料を持ってきてるのよ」
「なるほど。獲った魔物をお昼ご飯にするつもりなのか」
そうなんだよね。
これはお兄ちゃんたちとの狩りから帰るときに馬車の中で話してた事なんだけど、お弁当ってお肉とか持ってくと結構重たいんだ。
でも無いとお腹減っちゃうし、普通は午前中に獲物が取れるとは限らないからいくら重くても我慢して持っていかなくちゃいけないよね。
けど僕が魔法を使えば簡単に獲物を見つけられるって事が解ったから、次からは調味料だけ持って行けばいいんじゃない? って話になったんだ。
でね、昨日の晩御飯の時にレーア姉ちゃんが今日のお弁当の話をした時にお兄ちゃんたちからその話が出て、それじゃあ今日の狩りにはおかずを持たずに調味料だけ持って行こうって事になったんだよね。
「でもさ、どうやって焼くつもりなの? ここってかまども何も無いわよ」
「ふっふっふっ、実はね、それもルディーンがいればなんとかなるのよ」
実は僕、前にかまどを作ってから何度か石の加工をしてって頼まれたんだよね。
何でかって言うと、あの時作ったかまどが思ったより使いやすかったからって、うちにも作ってってご近所の人たちに頼まれたから。
でね、そのおかげで土から石を作る魔法の熟練度が上がったらしくって、いつの間にかある程度思った通りの大きさや形の石を作れるようになってたんだ。
「それじゃあルディーン、おねがい」
レーア姉ちゃんは説明するより見せた方が早いって思ったのか、マリアさんを放っといて僕にやってって言って来た。
「うん、じゃあ作るね」
だから僕はクリエイト魔法で近くの土を使って、高さ30センチくらいの四角い石のブロックを二つ作って並べたんだ。
でね、次に取り出したのは鋼でできた、何個かの大豆よりちょっとだけ大きい玉。
これを同じようにクリエイト魔法で長さ30センチくらいの先が尖ってる、凄く細いサーベルみたいな棒に作り変えたんだ。
クリエイト魔法ってそこにあるものを材料に別の物を作り出す魔法だよね。
でも僕、なんでか一度作っちゃったら、それを使って別の物を作れないって思い込んでたんだ。
ところがお父さんが、
「お前、この間かまどを作る時に、一度作った石にもう一度クリエイト魔法ってやつをかけて小さな二つの石にしてなかったか?」
って言ったもんだから、僕はそれが間違いだったって気がついたんだよね。
でね、じゃあこの魔法でどんな事ができるかなぁってみんなで考えて出した答えが、この普段は玉の形で持ち運べる串なんだ。
「ほら。ルディーンは魔法でこんな風に串が作れるし、使い終わったらまた小さな玉にして持って帰れるのよ。便利でしょ」
「ホント、魔法ってちょっと便利すぎるくらい便利ねぇ」
そんな事を言ってるレーア姉ちゃんとマリアさんの横で、僕は最後の仕上げに石で出来たつるつるの板を作り出した。
これはまな板の代わりね。だってこれが無いと、折角串を作っても丁度いい大きさにお肉を切るのが大変だもん。
そして僕はそのまな板代わりの石とさっき作った鉄の串を、クリーンの魔法できれいに洗ってからレーア姉ちゃんに声をかけたんだ。
「お姉ちゃん。まな板作ったから、おしゃべりして無いでお肉切って」
「いいわよ。ところで何を切るの? さっき獲ってきた一角ウサギ?」
「あっ私、シェルクゥイルがいい! あれ、おいしいのよね」
そんな風に話してたら、急にミラさんが横から声をかけてきたんだ。
どうやらいつの間にかエイラさんと一緒に僕たちの近くに来てたみたい。
「あれ? ミラも食べるの?」
「そりゃそうよ。目の前でお肉焼いてるのに、私たちだけ冷たいお弁当なんて嫌じゃない。みんなも食べるよね?」
そう聞かれたマリアさんとエイラさんは、二人ともうんうんって頷いてた。
「そっか。ならこれだけじゃあ串が足らないわね。ルディーン、鉄の玉ってまだある?」
「うん。あるよ」
「ならもうちょっと串を作って」
みんなも食べるなら今あるだけじゃ足んないからって言われたから、僕は鋼の玉をポシェットからもうちょっと取り出した。
そしたら、
「じゃあ私たちは森に入って、枯れ枝を探して来るわ。火を熾すのならいるでしょ?」
ってそれを見てたマリアさんが言い出して、エイラさんたちと一緒に森の中に入って行こうとしたんだよね。
でもさ、実はわざわざ森の中を探さなくてもいいんだ。
「ああ、わざわざ森の中に行かなくても、すぐそこの木の枝を掃って持ってきてくれればいいわよ。それを薪代わりにするから」
その事を知ってるレーア姉ちゃんは、3人を呼び止めてそう言ったんだ。
でも声をかけられたマリアさんたちはと言うと、それを聞いてちょっと呆れ顔。
「あのねぇ、レーア。そんな掃ったばかりの枝じゃ、火は点かないわよ」
「そうよね。それにもし点いたとしても、煙が凄くて肉なんか焼けないでしょ」
森の落ちてる枯れ枝と違って、木から切り落としたばっかりの枝は水分が多すぎて中々火が点かない。
それにもし点いたとしても、乾燥した枝と違ってしっかりと火が回らないから煙ばっかりでお肉を焼くのには向かないんだ。
「まぁまぁ。とにかく騙されたと思って枝を掃ってきてよ。私とルディーンはその間にシェルクゥイルを1匹解体して、串打ちしておくから」
「そこまで言うのなら掃って来るけど……使えないと思うわよ」
だから本当ならマリアさんやエイラさんが言ってる事が正しいんだよね。
だけど、お姉ちゃんはそれでもいいからって枝を掃って持ってきてって言うもんだから、3人はぶつぶつ言いながらも採りに行ってくれた。
でね、僕とお姉ちゃんはその間に串を作って洗ったり、シェルクゥイルを解体したり。
そしてお姉ちゃんが一口大にきったそのお肉を、僕が串に刺してお塩と胡椒を振っていったんだ。
因みにこの国は結構大きいからとっても暑い地方もあって、そこで胡椒が作られてるから値段はちょっと高いけど結構簡単に手に入るんだよね。
だからみんなの分のお肉にはちゃんとお塩と一緒にいっぱい振ったんだけど、こんな風にいっぱいかけると辛いから僕の分だけこっそり少なめにしといたのは秘密。
そしてその作業がある程度終わった頃。
「採ってきたわよ」
「ありがとう。じゃあそのルディーンが作った石の近くに置いて。で、ルディーン。もう串打ちはいいから薪の準備をして」
「うん、解った」
マリアさんたちが持ってきた木の枝は、切り口から水が出てくるくらい湿っていた。
うん、これならしっかり魔力を込めてもカラカラになりすぎてぽきぽき折れちゃう心配は無さそうだね。
それを見た僕はその枝の周りを指定して、ドライの魔法を唱えたんだ。
そしたらさっきまでは瑞々しかった枝がみんなカラカラになっちゃって、枯れ枝みたいになっちゃった。
「レーア姉ちゃん、薪できたよ」
「ありがとう。じゃあ火を熾して。こっちはもうすぐ終わるから」
でね、お姉ちゃんに聞いたらもう火を熾していいよって言われたから、枝をちょっとだけとってブロックとブロックの間に置いていく。
そしてその枝にイグナイトって魔法を使ったら、ボッという音がして火がついたんだ。
でね、その火が消えないように注意しながら枝をちょっとずつ足して行くと、ちょっとした焚き火みたいになったんだよね。
「お姉ちゃん。火、熾ったよ」
「じゃあ、焼き始めるかな……って、みんな、何時まで呆けてるのよ!」
ちゃんと準備ができたからこっちはもういいよってレーア姉ちゃんに言ったんだけど、そしたらお姉ちゃんが急にこんな事を言い出したもん。
だから僕は何が起こったんだろうって思って周りを見たんだけど、そしたらマリアさんたち3人がびっくりした顔してこっちを見てたんだ。
「これ、一般魔法って言うそうよ。切ったばかりの木から薪も作れるし、火もすぐに起こせる。凄いでしょ」
「……ホント、魔法って便利なのねぇ」
うちじゃあもう誰も驚いてくれないけど、そう言えば村では僕とキャリーナ姉ちゃん、それに司祭様くらいしか魔法が使えないから、知らないとびっくりするかもね。
でも魔法だと普通にやるよりちょっとだけ早くできるってだけだから、そんなに凄い事じゃないと僕は思うんだ。
「えっ!? このお肉、レーアじゃなくてルディーン君が焼くの?」
「……ルディーンの方が、私より美味しく焼けるのよ。だから味付けの塩胡椒もルディーンに任せたわ」
「ええっ!? じゃあ、味付けもルディーン君なの? あっ、でも村の人たちが食べてるパンケーキもルディーン君が焼いてるんだっけ」
「何これ、これ美味しい!」
「まだ小さいのに料理までこんなに上手なんて……ねぇ、ルディーン君。うちの子にならない?」
だってその証拠にお肉を食べ始めたらみんな、もう僕の魔法の話なんか誰もしなくなったんだもん。
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