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163 大金とお父さんの困惑


「先ほどお話した魔道具大全に付いてのお金ですが、此方はルディーン君が死去するまで支給される物で、その遺族には引き継がれません」


 ギルドマスターが言うには、この支払われる金額には上限が無い代わりにその発案者が死んだら終わりらしい。


 だから普通は10年から長くても20年で貰えなくなるものなんだけど、ルディーンの場合は8歳と言う普通では考えられない低年齢での発見と言う事で、今までに類を見ないほど長い間支払われるだろうとのことだった。


「流石にこの発見者の年齢を報告したときは間違いでは無いか、実は少年が発見したと言う事自体が虚偽で、親や祖父などの功績をその子に渡したのではないかと言う問い合わせや調査が行われました。ですが、その際冒険者ギルドでの功績や出身の村には魔法使いがいないと言う事実、そしてここにおられるロルフさんがルディーン君から直接説明を受けたと証言したおかげで、その疑惑は解消しております」


 でも流石にそんな幼い子が魔道具についての新しい発見をしたと言うのには疑問をもたれたらしい。


 だがそれも全て調査済みと言う事で、この金はルディーンが死ぬまでもらえるそうなんだ。


「とまあ、此方に関してはこの様な状況なのですが、次にお話するお金に関しては年数が決まっている代わりに、もしルディーン君が何かの事故でお亡くなりになった時は遺族に引き継がれますから、受取人を誰にするか決めておいて貰えるとありがたいです。まぁ、これに関しては後日変更できますけどね」


 で、次にギルドマスターが話したのは、ルディーンが考えた魔道冷蔵庫の特許についてだった。


「こちらは現在商業ギルドで製造販売されているのですが、これは期間限定のため短い期間で終了します。そしてその後はその商品が売れると判断した商会が特許料を支払って販売を引き継ぐことになります。ここまでは宜しいですか?」


「ああ」


 正直あんまり宜しくないが、どこか疑問があるかって聞かれても解らないからここは頷いておく。


「では続けます。この商業ギルドでの試験販売に関しては利益の一部がルディーン君に支払われるのですが、それ以降の商会による販売は年間単位での特許使用料としてルディーン君に支払われる形になります。因みに、この特許使用料は試験販売中の売り上げによって上下する為に今現在ではまだ確定してはいませんが、現在の売れ行きからするとかなりの金額になると考えられます」


「かなりの金額? と言うとどれくらいなんでしょう?」


「そうですねぇ、私は商人ではないので確実な事は言えませんが、一つの商会につき年間に500万セント前後くらいでしょうか」


 年に金貨500枚!? これまたとんでもない数字が出てきたな、おい。


 いやまぁさっきのに比べたらこれは年間での数字だからたいした事は無いとも言えるし、物が魔道具だからな。それくらいの利益が出るということだろう。


 俺はとりあえずそう思って心を落ち着かせようとしたんだが、


「ただ、そうですねぇ、帝国の各都市で最低でも一つの商会がこの契約をするでしょうから、合計がいくらになるかまでは私では解りかねます」


 その後にとんでもない爆弾を落とされた。


「ちょっと待ってください。商会ってそんなにあるのですか?」


「それはそうですよ。各都市に最低一つ、帝都などは魔道具専門の商会だけで複数ありますよ」


 お金に関してはギルドカードによって管理されているから大丈夫だけど、物資の移動はどうしても馬車に頼ることになる。


 確かに帝国は兵士が街道の巡回をしているおかげで比較的安全ではあるが、野盗の類がまったくいないわけでは無いのだから、その道中の安全を考えると複数の都市にまたがって商会を展開するような所は殆どいないらしいんだ。


 それはそうだろう。旅商人と言うものがいるのだから、街で商会を開いている者が危険を冒して馬車をしつらえるより、多少高くともその旅商人たちが運んできた物を買うほうが損をするリスクが少ないのだから。


 そんな話を聞かされて納得はしたんだけど……おいこれ、じゃあ一体いくらくらいになるんだ?


「これに関してはすぐに全ての商会が取り扱いを始める訳ではないでしょうから、最初の内はそれ程多くは無いと思いますよ」


 ただ、ギルドマスターが言ったこの一言だけが、唯一の心の救いにはなったんだがな。



「さて、次に」


「なんだ、まだあるのか?」


「ええ。当然これだけではありませんよ。カールフェルトさんもご存知とは思いますが、冒険者ギルドでの発見の褒賞金もありますから」


 そう言えばそんなのもあったなぁ。


 もう入って来ると言う金額が大きすぎて頭がついって行ってないけど、流石にルディーンの事だからここで逃げるわけにもいかない。


 と言う訳で、あきらめてギルドマスターの話の続きを聞く事にした。


「まぁ、此方に関してはこれまでに比べると金額が少ないですし、一度しか支払われないですからそれ程身構える必要は無いですよ」


「そうなのですか? よかった」


 どうやらギルドマスターは、最初に大きな数字を言う事で後の話を楽に聞けるように配慮してくれていたらしい。


 その話を聞いた俺は、なんとか気を落ち着かせて次の話を聞く体勢を作る事ができたんだ。


「それでは次に冒険者ギルドでの魔力回復方法の発見報告と、イーノックカウ冒険者ギルドの危機に対する助力に対する中央冒険者ギルドからのお礼です」


「お礼? でも、あの時にもうルディーンの使った魔法の代金は支払われたぞ?」


「ええ、それは聞いています。ですが、あの場でルディーン君が行動しなかった場合、イーノックカウの冒険者ギルドは壊滅的な被害を受けたという判断から、中央の冒険者ギルドより特別にお金が出たそうなのです」


 なるほど。そういう事なら解らなくも無いな。


 もしあの場にルディーンがいなくて、多くの冒険者が死ぬ様な事になったらイーノックカウでの冒険者ギルドは立ち行かなくなっていたかもしれない。


 だけどあそこはイーノックカウ近くの森の魔物や動物を減らすと言う役割も担っているんだから、もしそんな事になっていたら大変な事になっていただろうからなぁ。


 それを防いだルディーンに少しばかりの金を出そうと言う気になったとしても、べつに驚く事じゃないのかもしれん。


「で、そのお礼と言うのは、いくらくらいなんだ?」


「はい。これはあくまで冒険者ギルドからのお礼ですから、50万セントですね」


 金貨50枚か。今までのに比べるとかなり少ないから安心するな。


 まぁそれでも普通に冒険者として生活してるやつらからすると大金ではあるんだから、ギルドとしても張り込んだって所なんだろう。


「そして、魔力の回復方法ですが、こちらは冒険者ギルドではなく帝国府からの褒賞金ですから少し上がって500万セントです」


「いやいや、少しって金額じゃないでしょう、それ」


 流石に俺も麻痺してきてるなぁとは思っているけど、こうして見るとギルドマスターも十分に麻痺しているんだろうなぁ。


 でなければ金貨500枚を少し上がってなんて表現できないだろ。


「確かにそうですが、これは今回ルディーン君の口座に振り込まれた金額からすると、本当にほんの一部ですから」


「ほんの一部?」


 おいおい、おかしな事を言うなぁ。


 確かに魔道具大全の金は一千万セントとか言ってたし、その他にも商業ギルドが売ってる魔道冷蔵庫の売り上げから金が入るとも言っていたけど、それでも500万セントと言うのは大金だ。


 それをほんの一部と表現するのは流石にどうかと思うぞ。


 ところが、ギルドマスターの次の言葉で俺は黙り込むことになってしまったんだ。


「はい。先ほど魔道具大全の褒賞金は月に一千万セントと申し上げましたが、これはその年に発行される本に掲載される料金なのです。そしてルディーン君が齎してくれた情報はすでに発売された最新号に記載されている為、本来は年に4回に別けて支払われるうちの2回分をすでに先渡しで他の掲載者にお支払いしていたと言う事で今回はその3回分9千万セントが一度に振り込まれております」


「なっ、きゅっ」


「それに、先ほど申しました商業ギルドでの魔道冷蔵庫販売ですが、材料となる氷の魔石が足りなくなるほどの売り上げだそうですから、近いうちに結構な金額が振り込まれると思いますよ」


 さっき500万セントをほんの一部って言ったよな? って事は、その商業ギルドからの振込みはそれ以上ってことか?


「この様な事情ですので、今回振り込まれる金額はそこそこの金額。そうですねぇ、役職持ちの子爵家くらいになるのではないでしょうか」


 そう言って笑うギルドマスターの声が、なんだか遠くに聞こえるような気がする。


 俺、正気を保ったまま、家に帰れるかなぁ?


 読んで頂いてありがとうございます。


 ブックマークが450を越えた上に総合ポイントも1700を超えました! 本当にありがとうございます。


 次の目標は日間ファンタジーの100位以内! まぁ流石に一日で100ポイント近くは難しいかもしれませんが、もし応援していただけるのでしたら、下にある評価を入れて頂けると本当にありがたいです。


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