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146 あっためるのは意外と大変だったみたい


「私たちが行っても邪魔になるだけでしょうし、冷めちゃったら美味しくなくなるだろうからとりあえずこれ、食べちゃいましょうよ」


 僕は飛び出して行っちゃったロルフさんとバーリマンさんを見て、すぐに追っかけなきゃって思ったんだけど、それをペソラさんが止めたんだ。


 あの二人の事だから僕の話を聞いて頭に浮かんだことを色々試そうとするだろうし、それなら僕たちなんか居ない方が捗るだろうからってね。


 言われて見れば確かに僕たちが付いて行っても何かお手伝いが出来るわけじゃないし、それどころかうろちょろしてたら逆に邪魔になっちゃうかもしれないなぁ。


「そうだね。お仕事の邪魔しちゃダメだし、このパンケーキも折角作ったんだから食べちゃおっか」


「では、わたくしはお茶のお代わりを入れますね」


 と言う訳で、僕たちはパンケーキを食べたりお茶を飲んだりしながらのんびりと過ごしたんだ。



 で、それからしばらくした頃。


「ルディーン様、そろそろ旦那様の様子を確かめに参りませんか?」


「うん、そうだね。こんだけ時間があったんだからロルフさんとバーリマンさんなら、きっともう髪の毛つやつやポーションを使いやすくできてるだろうからね」


 ストールさんが見に行かない? って言ったから、僕たちは部屋を出てお店の方に行ったんだ。


 ところがそこに居たのは、どんよりとした雰囲気のロルフさんとバーリマンさんの二人。


「どうなされたのですか、旦那様」


 僕がその光景に驚いていると、ストールさんがロルフさんに声をかけたんだよね。


 そしたらうつむいてたロルフさんがゆっくりとこっちを向いて、


「中々うまくいかんのじゃよ」


 って落ち込んだ声で言ったんだ。


「何故です? ルディーン様のお話で暖めればポーションが液化するのは解ったのですよね」


「うむ。確かにそうなのじゃが、その方法が見つからぬのじゃよ」



 ロルフさんが言うにはあっためれば液体になるのが解ったから、二人は早速ポーションを火にかけてみたんだって。


 そしたらすぐに液化し始めたんだけど、器に入れた全部が液体になる前に始めに溶けた分が凄く熱くなっちゃったらしいんだ。


「ポーション化しているとは言え、あまりに高温になればその成分はどうしても変質してしまうのじゃ。実際ルディーン君に鑑定解析をかけてもらうまでもなく、わしの解析でも成分が壊れておる事が解った。すなわちこの方法は失敗と言う訳じゃな」


 と言う訳で火にかけるのはダメ。でもだからと言ってこれで二人はあきらめた訳じゃないよ。


 次にやったのはお湯であっためるって方法なんだけど、どうやらこれも失敗しちゃったみたいなんだよね。


「このポーションは確かに低温でも溶ける様じゃが、肌用ポーションと違いセリアナの実の油だけではなく他の物を混ぜて作っておる為に思ったより熱のつたわりが悪いようなんじゃよ」


「金属の器にポーションを入れてお湯の中で暖める実験をした結果、つけるお湯の温度が低いと中のポーションが溶ける前にお湯の温度が下がりすぎてまた固まり始めてしまったのよ。でもだからと言って、お湯を火にかけたままだと温度が上がりすぎてしまうのよね」


 二人が言うには何度か実験を繰り返せば、変質しないけどポーションが溶けきるまでは冷めないって言う丁度いい温度を見つけることはできるらしいんだ。


 でもそれが解るだけで、その丁度いい温度にするには温度を測る道具が必要になるんだって。


「温度を測る魔道具は必要とする者があまりおらんから、持っておるのは錬金術師でもわしらのように常に実験を繰り返しておるような研究に情熱を燃やしておるごく一部の者だけなのじゃ。じゃからのぉ、そのような貴重な魔道具がなければできない様なら、それは失敗と変わらんよ」


「それに取り合えず冷めないように大量のお湯を用意してその中で溶かすのは可能でしょうけど、そうなると今度はポーションを使うそれだけの為にお湯を用意しなければならないって問題も出て来るでしょ? そう考えると、この方法はちょっと非効率的過ぎるのよね」


 そっか、お湯を沸かすのって大変だもんね。



 ちょっとの量ならろうそくの火でも水を暖めるくらいの事はできるだろうけど、お湯をある程度沸かそうと思ったら結構お金が掛かるんだよね。


 魔道コンロを持ってる人なら簡単にお湯を沸かせるだろうけど、とっても高いから貴族だって個人で持ってる人はそんなに居ないらしいんだ。


 と言う訳で普通は薪で沸かすんだけど、でも2~3本をかまどに入れて火を着けたってお鍋の所まで火がとどかないでしょ?


 だからお湯を沸かそうと思うと、どうしても結構な量の薪が必要になっちゃっうからポーションを暖める為だけに火なんか起こせるわけ無いんだよね。


 じゃあご飯を作る時に沸かせばいいって思うかもしれないけど、そのご飯だって毎日あったかい物を食べるのは暖炉に火をつける冬だけなんだよね。


 だから他の季節だと、結局ポーションを溶かすためだけに火を起さないといけないってわけ。


 因みにグランリルの村は、みんなが共同で使うお風呂に魔道ボイラーが付いてるからよくお風呂に入ってるけど、街の人たちは高いお金を払ってお風呂屋さんに行かないといけないから、よっぽどのお金持ち以外は殆どお風呂に入らないらしい。


 だから普段は濡らした布で体を拭くらしいんだけど、そんな時でもお湯を使うと高いから水を使うんだってさ。


 夏や暖炉の火がある冬はいいけど、春とか秋は大変だろうなぁ。



 火にかけるのもダメ、お湯で溶かすのもダメとなると、他に物を暖める方法があるとしたら魔道具を使ったり魔法を使ったりするくらいしか思いつかなかったみたいなんだ。


 でもそんなのを使えるんだったら、お湯を沸かした方がはるかに簡単だしお金もかかんないよね? と言う訳で、どうしたらいいのか解んなくなった二人は、あんなどんよりとした雰囲気になってたんだってさ。


「でもギルドマスター。さっき部屋を出て行く前にフランセン様が仰っていたことがホントなら体温でも解けるんですよね? それなら手の平に乗せればいいだけなんじゃないんですか?」


「あのねぇ、ペソラ。人の手の平は体の中より温度が低いのよ。そんな所に乗せても溶けるはず無いでしょ」


 体の表面は空気に触れてるから当然体の中よりも温度が低い。だから、バーリマンさんが言ってる通り手の平に乗っけても髪の毛つやつやポーションは溶ける事は無いと思うんだ。


 でも、だったら体の中の温度と同じところで暖めればいいと思うんだけどなぁ。


 僕はそう思ったんだけど、ペソラさんたちはそれじゃあ無理ですねぇなんて言ってるんだよね。


 えっと、もしかして脇の温度が体の温度と同じ位だって知らないとか?


 そう思った僕は、あることに気が付いたんだ。そう言えば脇で測れば体温が解るってのは前世の知識だったって事を。



 さっきロルフさんは温度を測れる道具を持ってる人はあんまり居ないって言ってたよね? なら病気になった時に体温を測るなんて事も無いんじゃないかなぁ。


 もしそうならそんな事、ロルフさんたちが知ってるはずないよね。なら教えてあげなきゃ!


 そう思った僕はロルフさんのとこまで行って、袖を引っ張ったんだ。


「ロルフさん。この脇んとこに挟むと、34度以上になるよ」


「ん? どういう事じゃ、ルディーン君」


 で、自分の脇を指差してそう教えてあげたんだけど、そしたらロルフさんに変な顔されちゃったんだ。


 もう! 何で解んないかなぁ?


 僕はそう思ったんだけど、知らないから仕方ないよねって思い直して自分の脇に手を挟んだんだ。


「ほら、こうするとおててが暖かくなるでしょ。だからこうやってあっためればいいんだよ」


「ふむ。なるほどのぉ。確かにそこならば体温に近い温度になっておるやもしれん」


 近い温度じゃなくって、体温と同じなんだけどなぁ。


 でも取り合えずロルフさんは脇の下であっためてみる事にしたみたいだから、これを言ったら邪魔になっちゃうって思った僕は、そっとお口を閉じたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 とうとう話のストックが尽きてしまいました。


 なんとか150話までは毎日更新しますが、それ以降はとても今のペースでアップする事ができません。


 ですから、すみませんが151話以降は週に3~4回更新になります。


 内訳としては月水金は毎週必ずアップして、出張などで余裕が無い週以外は土曜も更新するつもりです。


 更新速度が少し遅くなってしまいますが、これからもお付き合いいただけたら幸いです。

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