山間に陽が…
山間に陽が近づいた。ルシェとシャーノは魔女の家に帰る途中に、教えてもらった霊標を観察していくことに決めた。丁度、魔女の家と村の間にそれはあり、道を差す小さな立て札があるという。シャーノはお使いの道中にそれを見たことがあるというので、迷うことはなさそうだった。
村を横断し、並木道へと入る。木々は小奇麗に並び、木漏れ日をまばらに落としている。ルシェは、日が暮れる前に立て札を見つけられるかを心配していたが、それはすぐに見つかった。立て札は膝くらいの高さで、大木の根元にあった。吹き込んだ風が落ち葉を貯めて、少し埋もれている。ルシェの両手を目一杯広げたくらいの板に、薄汚れた矢印が描いてあった。おそらく、目印も要らないほどに周知のことなのか、こうなるほど誰も来なくなったかのどちらかだろう。
幸い立て札はしっかり刺さっていたので、矢印の方向で間違いなさそうだった。小さな尾根沿いに道が続き、木の根で転ばないよう注意しながら歩く。背が高くなった木の合間を塗って、シャーノの後を付いていった。
そうして尾根をなだらかに下ると、急に視界が開けた。大きな黒い岩が幾つかの切り株に囲まれ、その小さな広場を陣取っていた。
「たぶん、あれかな」と、シャーノが呟いた。「あんまり師匠とは来ない方向だよね」
「うん、確か、造林だから良い野草が生えないって」
ルシェは岩に近づいて、それを観察した。シャーノもそれに続き、裏側へ回る。岩の一部が磨かれていて、そこに名前がたくさん彫ってあった。順に眺めていくと、村人と同じ苗字をいくつか見つけることができた。
「これ、蓋になってるみたいだね」
岩の向こうから、シャーノの声が聞こえた。ルシェも裏側へ回る。
裏側は大きくえぐれていて、こちらから見ると、横長の椅子のようにも見えた。上面は平らに均されていて、黒々とした岩に落ち葉が色を付けている。縁にぐるりと段差があった。
「棺桶…だったりするのかな?」ルシェは恐る恐る言った。
「うーん」シャーノは首を傾げる。「遺品を入れてあるのかも」少し気を使った返事だった。
ルシェは、帰ったら師匠に聞いてみようと思った。二人で表側へ戻り、シャーノが名前をたどっている間に、周囲を見渡してみる。特に変わった野草もなく、切り株には苔が蒸しているだけだった。
二人は最後に霊標を一周りしてから、来た道を辿った。ちょうど陽が落ち切る前で、影が深みを増していた。足早に進み、立て札や並木道が見えた時、互いに顔を見合わせた。道にちゃんと戻れて、少し安心したのだろう。




