【外伝】南部戦線構築
1942年(昭和17年)9月18日
Side:山口 多聞 (海軍中将 第二機動艦隊司令長官)、淵田美津雄(海軍大佐 同 参謀長)
於:黒海西部 コンスタンツァ港湾沖 ルーマニア 空母「長門」艦橋
黒海艦隊を撃滅したあと、我が第二機動艦隊は黒海の奥深くまで進出し、黒海艦隊の根拠地であったセヴァストポリ軍港の完全破壊に成功して、現地に貯蔵していた燃料などの物資を奪取した。
これによって長期間の活動が可能となったのは喜ばしい事だ。
そして肝心の陸軍兵力の上陸だが、ルーマニアの黒海に面した良港、コンスタンツァ港を利用して無事に上陸作戦は完了し、我が第二機動艦隊は内陸部への攻勢支援を継続中で、上陸部隊は順調にウクライナへ向けて進撃中だ。
一方で空軍はルーマニアの首都ブカレスト近郊に建設した飛行場を拠点に、戦略爆撃機「朱雀」と、護衛任務を行う夜間戦闘機「月光」の進出が始まった。
今後は陸軍と共同歩調を取って南からモスクワを目指すことになるだろうから、こちらは南部戦線と呼ばれる事になるらしい。
「参謀長。そういえば東部戦線の状況はどうなっている?」
「はい。変わらず順調に進撃しており、イルティシュ川沿いのオムスクを確保しました。さらに約600キロ西に位置するチュメニも押さえたとのことです。
驚くべきことに、チュメニ近郊には豊富な油田があったようで、現在は精製設備を建設して、前線部隊への燃料供給を行う準備を進めている模様です」
「何?それは僥倖だな。しかし油田が見つかったのはいつの話だ?
ソ連側はまったく把握していなかったのか?」
「どうも占領直後にロシアの首相閣下の命令で探索したところ、偶然にも油田が見つかったそうですから、当然ソビエトはこの事実を知らなかったと思われます」
なんだそれは?
共産党の連中ですら知らない事を、なぜ近衛首相は知っていたのだ?
いやもしかしたら…
「そうか!あの人はこれまでも様々な地下資源を発見し続けてきたのだったな?
それがロシアと我が国の発展に繋がったのは紛れも無い事実だ。
きっと周囲に優秀な探索チームを抱えているに違いない!そう考えれば筋が通っている」
「恐らくその通りだと思われます。
これで燃料不足の心配は、かなり和らぐでしょう」
それが一番の成果と言っていいだろう。
燃料を現地調達できれば補給線への圧迫が減るからな。
だが、そんな東部戦線と違って、こちらはシベリア鉄道のような有力な補給線が無い。
黒海に面したウクライナの港湾都市オデーサを確保して、補給の拠点としたとしても、そこからモスクワまでの距離は約1100km。
東部戦線に比べれば冬期における困難さも少ないとはいえ、補給線に対しての手当てが無ければ厳しいものになるかも知れない。
それでも東部のみでなく、南部からも圧迫する事によって敵の戦力を分散させられる効果は大きい。
東部戦線担当部隊の現在位置であるチュメニから、モスクワまでは1700kmか…
あちらはシベリア鉄道という、立派な補給線のお陰で進撃速度が速いから、モスクワ到達は東部と南部は同時になるかも知れんなあ。
「南部からも圧迫していけば、案外早くソビエトを倒せるのではないかな?
上陸後の陸軍部隊の進撃は順調だろうか?」
「はい。重要拠点の一つとしていたプロイェシュティ油田を制することが出来ましたから、ウクライナ方面を経由したのちに、モスクワを目指すべく北上していくでしょう」
そうか。
200万人の兵力でウクライナ方面から一路モスクワを目指して北上すれば、東部戦線への良い援護となりそうだな。
しかし、我が第二機動艦隊もそうだが、第一機動艦隊も地中海方面へ転戦したから、イギリス近海におけるドイツ海軍の行動に対しての押さえが弱くなってしまったが大丈夫だろうか?
1942年(昭和17年)9月23日
Side:今村 均 (陸軍大将 同盟側 南部方面軍 総司令官)
於:ルーマニア ブカレスト近郊
特に大きな問題も無く、無事に上陸出来たのは良かったな。
ソコトラ島を発して以降は緊張の連続だった。
なんと言っても我らが船上に有る状況では何も出来ないわけで、海軍と空軍の協力が無ければ成し得なかった。
そういう意味では今回の作戦行動は順調だ。
統合作戦本部の統一した方針のもと、陸海・空軍と海兵隊が有機的な連携を取って行動できている。
これが昔のように陸軍と海軍が、バラバラに作戦行動を取ったのでは成功しなかったかもしれん。
なんと言っても陸軍から見た海軍は「敵より憎い身内」といった趣すら有ったからな。
まあそれも懐かしい話だが。
私は現時点で一番気になっていることを副官に尋ねた。
「空軍は順調に進出できているか?」
「はっ!既に飛行場の整備も終わり、新型の一式戦略爆撃機『朱雀』隊の配備が始まり、同時に二式夜間戦闘機『月光』が2個中隊配備されています。
今後も順調に配備計画が進捗していくものと思われます」
空軍の配備状況は予定通りか。
「よし!それでは改めて今後の方針を確認しよう。
栗林中将と牛島中将を呼んでくれ」
すぐに二人がやって来たので打ち合わせを行う。
「なんとか大きなトラブルも無く、ここまで進軍できた事は非常に喜ばしい事だ。
ルーマニア政府、国民共に大歓迎してくれているし、トルコも援軍を派遣してくれるそうだ。
ここからの進軍予定を決めておきたいが、私はまず、東部戦線と呼吸を合わせて進軍する事がとても重要だと思う。
これについて意見はあるかね?」
栗林中将が発言した。
「東部戦線の状況に合わせて、こちらも進軍する点に異論はありません。
逆に言えば呼吸を合わせないと各個撃破の対象となりかねません」
そうだな。それは何としても避けたい事態だ。
「ルーマニアの防衛にも一定の兵力を残さねばなりませんが、幸いなことに西隣のユーゴにおいては、チトー率いるパルチザンが頑強にナチスに対して抵抗していますから、彼らへの支援を行うことによって強力な防波堤とすることは可能でしょう」
そうだな。それであればルーマニアの安全は担保できるだろう。
牛島中将からも意見があった。
「これから進軍する予定のウクライナは、とても広大な国土面積を誇ります。
そこは西欧諸国と大きく違う点で、面積ではフランスを凌ぎますし、またベラルーシもウクライナには遠く及ばないものの、決して狭い国ではありません。
よってこの両国の完全制圧を確実に実行すべきで、時間的経過で言えば、この二カ国を制圧したあたりで東部戦線の進軍と呼吸を合わせたものとなれば理想的でしょう」
なるほどな。
「戦線を構築する各国の兵力はどうなっている?」
栗林中将が答えた。
「それにつきましては東部戦線ほど多国籍軍ではありません。
こちらはその殆どが日本陸軍で構成されています。
援軍としてはルーマニアとトルコが加わるでしょう。
それと一部ですがロシア軍もこれに加わっています」
「うん。そうらしいが、東部戦線で手一杯だと思ったのに、よくこちらに回す兵力を融通してくれたものだな?」
「わが軍としてもウクライナはともかく、ソビエト領内における地理は不案内でありますから、その点はとても頼りになる存在となるでしょう。
現時点でロシア軍の構成比は高くありませんが、それでも10個師団12万人が派遣されて来ています。
実はこの10個師団の戦意が極めて高い状態です」
そうなのか?低いよりはもちろん喜ばしいが。
「それは何故かね?
やはりソ連に対する復讐という意味合いが大きいのかね?」
「それもあるかも知れませんが、それよりもおそらく、私の部下に近衛中尉が在籍している為だと思います」
そうそう。そんな話を聞いたことがあったな。
「そうか。そう言えば我が軍には首相閣下の長男が従軍しておるらしいな?
しかも統合作戦本部長閣下の甥に当たるからな。
だが、それとロシア軍の戦意に何が関係するのだ?」
これが日本軍の話なら分からないでもないが。
栗林中将があきれたような表情をして言った。
「…彼はロシア皇帝アレクセイ陛下の甥でもありますから」
そうだった…忘れていた。
第一皇女殿下の息子でもあるのだった。
そしてあの四名の皇女殿下たちが、揃ってチュメニの最前線にある野戦病院を慰問していると聞いた。
どうも現地の兵士たちは異様な盛り上がりを見せているそうだが。
「そう言えばそうだったな。
さすがに皇位継承権は持っていないだろうが、ロシア兵から見たらアレクセイ陛下の代理人に見えたとしても不思議では無いのかな?」
「まさにそのように受け止めておるらしく、『我々がソ連にとどめを刺すのだ!』と意気込んでおるみたいです」
そうか。まあ何にしても頑張って戦ってくれるのであれば言うことは無いな。
着実に準備を行って進軍するとしよう。
1942年(昭和17年)9月25日
Side:アナスタシア・ニコラエヴァナ
於:チュメニ市内 野戦病院にて
今回私たち四姉妹は、オリガお姉様の呼びかけによって、最前線にあるこの町の野戦病院にて看護の手伝いをしています。
私の娘たちも同行していますが、相変わらず野戦病院という場所は、どんな時代であっても悲惨な場所です。
私たち姉妹はお母さまと共に、先の戦争においても同じような仕事をしたので、ある程度は慣れていますが、娘たちは大変みたいですね。
オリガ姉様が私たちを集めて話し掛けてこられました。
「ターニャ、マーシャ、そしてナスチャ。
三人ともご苦労さま。
私がみんなに声を掛けて集まってもらったのは、最前線を慰問する為でもあるのだけれど、もっと大切なお話があるからです」
いつもより改まった感じでお話を始められましたね。
ここは私も真面目に聞かないと、叱られてしまいますわ。
タチアナお姉様もマリアお姉様も神妙な態度ですからね。
「三人とも最前線を慰問して、改めてよく分かったでしょう?
戦争というものの悲惨さを。
前の戦争でもその辺りは変わらないでしょうが、今回の戦争で私たちは、同胞同士で戦わねばならない宿命を背負わされているのです…」
そうなのよね!
「敵」も同じスラブ民族が大多数なのよ…
兄弟で敵味方に別れて戦っている人すらいるでしょう。私たちが勝ち進んでいるからといっても手放しで喜べないわ。
オリガ姉様が続けました。
「その事実は忘れてはなりません。
もっと大切なことは戦後です…世界では未だに多くの人々が苦しんでいるのです。
特に植民地というものは、一刻も早く無くさねばなりません。
人間が人間を支配する世界は終わらせるべきです。我が夫は恒久平和を世界にもたらすべく、必死に働いていますが、私もそれに微力ながら協力したいと考えています。
可能ならば、あなたたちにも手伝って欲しいのです」
マリア姉さまがこれに対して言いました。
「お姉様。25年ぶりに『OTMA』チームの復活ですね!?
ぜひ私たちにも協力させてください!
なんと言っても植民地の数は英仏の二カ国が突出していますものね!
私の夫を通じてイギリス本国にも伝えますわ。
チャーチル首相は頑固な方なので、少し難しいかも知れませんけれど…」
タチアナ姉様がオリガ姉様に聞きました。
「それでお姉様。具体的にはどのようにお考えですの?」
オリガ姉様はそれに対して、具体的な時期と目標をお持ちみたいですね。
「この戦争の見通しが立った時、主だった国々の首脳が一堂に会して、戦後秩序の話し合いを行う機会があると予想します。
それまでに、私たちの考えを広めておきたいと考えています」
ここでオリガ姉様は言葉を区切り、私たちを見渡して言いました。
「私たちには政治的な権限など、当然ながら有りません。
ですが、特にヨーロッパ諸国の王室に対しての影響力はあります。
ここを上手に使って、政治家の皆さんの協力が得られるようにしたいものです」
そうね。ヨーロッパ各国の王室はどこも親戚なのよね!
これを利用しない手はないわ!
ここでタチアナ姉様が声を上げられました。
「オリガ姉様、それでしたら私がヨーロッパ各国の王室を訪問して、オリガ姉様のお考えを伝え、協力していただくようお願いしてみますわ。
私の夫は政治家ではありませんから自由に動けますし、私が適任だと思うのですけれど?」
「ターニャ…ありがとう。ではあなたにお任せするわ。
私は天皇陛下にお力添えをお願いしてみます」
また四人で一つの目標に向かって活動できるなんて思っていなかったけれど、とても嬉しい。
もちろん私も手伝いますわ。
ヒコマロはもちろん、アレクセイにも話を通しておきましょう。
反対するとは思えないし、言う事を聞いてもらうわ!




